「本題の進行」
お待たせしました
「やれやれ酷い目に遭ったで」
そうぼやくのは和香様、けれどもそんな和香様のことをぎろりと雨子さんが睨む。
「何を言うて居るのじゃ、それを言うならこちらじゃ、知らぬで居ったらそれこそ地獄の様な目に遭う所じゃった」
「いやいや、そやかて実際に逢うた訳やあらへんやん?そやのにいきなりハリセンって、雨子ちゃんちょっとうちに対する扱い酷う無い?」
そう言うと大いに口元を尖らす和香様。
「まあ確かに少しばかりはそう思わんでも無いの、許せ」
そう言ってほんの僅か、申し訳ばかりに頭を下げる雨子さん。
だがそのとってつけた様な謝罪の仕草に、和香様は目を見開く様にして大いなるショックを受けている、様に見える?
「うわわわわ、それはいくら何でも酷いんちゃうの?わ~~ん、慰めて~な祐二君~」
そんなことを言いながら祐二君の身体にしがみつく和香様のことを、目を釣り上げながら必死に成って引き剥がそうとする雨子さん。
はて、私は一体此処で何を見ているのかしらん?
確か此処は日本の神様方の中でも、最も尊き方が御座します社なのでは無かったのかしらん?
私が目を点にしながら事の顛末を見守っていると、その傍らで小和香さんが必死に成って頭を下げて来る。
「すいません令子さん、見なかったことにして下さいませ。この様に恥ずかしい為体、世間様に知られたら…」
そんな小和香さんに私は、苦笑しながらほとんど抑揚の無い言葉で思いを返す。
「見るも何も、こんな事誰にも話しませんよ。いや、話しても誰も信じてくれませんから~」
実際そうだよね。そもそもこういう風に目の前に神様が存在すると言うことだけでももう信じられないのに、剰えその神々が関西の漫才宜しくの掛け合いをやっているなど、もう誰だって、それがお釈迦様でも信じられないだろう。
しかしね、ふかふかの座布団の上にちょこんと居座っているうさぎの縫いぐるみに、必死に成って頭を下げている小和香さんの姿も、何ともシュールだよねえ…。
「あの、小和香さん、もう頭下げないで、お願い! そうで無くとも私は今うさぎなのよ?うさぎの縫いぐるみ!なんかもう居たたまれないから!」
言われた小和香さんもその光景がなんとなく頭の中に浮かんだらしい。
一瞬きょとんとしていたかと思うと、ぷっと吹き出し始めるのだった。
そして今だ祐二君を真ん中にあーだこーだと騒いでいる二柱の神様方を尻目に、私達二人は本当に心から可笑しそうに、声に出して笑うのだった。
結局その笑い声こそがもっとも有効な薬となったらしい。
疲れ切っている祐二君の傍らから、二柱の神々が私達に向けて、じとっとした視線を送ってくる。
「のう和香、我らは一体何をやって居るのじゃろうな?」
「ほんまやね、なんかそう思えてしまうわ、あの子らの笑い声聞いとったら」
「「はぁ~~~~」」
そうやって二柱揃って大きな溜息をついている所に、それまでもみくちゃにされていた祐二君が言う。
「でも和香様も雨子さんもとても楽しそうでしたよ?」
「まあ確かにの、我はともかく和香はの、普段は堅苦しいことばかりじゃろうから、たまにはこう言うガス抜きも無いことにはの?」
そう言うと雨子さんは茶目っ気たっぷりににっと歯を見せて笑うのだった。
和香様はそんな雨子さんのことをぎゅうっと抱きしめる。
そして耳元で小さな声で言う。多分誰にも聞こえない様に言ったのだと思うの。
でもごめんね和香様、私の耳はうさぎの耳だから…。
「ありがとう雨子ちゃん、やっぱりうちの友達や…」
その言葉を聞いた雨子さんは、顔を赤らめながらそっと和香様の肩を叩いてみせるのだった。
そして今一度しっかりと和香様の身体を抱きしめると、その身を離しながら言う。
「さて祐二よ、では本題に入るかや?」
そんな二柱のことを、にこにこしながら見守っていた祐二君にバトンが渡された。
さて、目には見えないけれどもそんなバトンをしっかりと受け取った?祐二君は、部屋の真ん中に置かれた箱の中をごそごそと漁ってみるのだった。
そして箱の中から全部で十ほどのCPUを引っ張り出してみせる。
「この辺りで良いのじゃ無いのかなあ?」
そんな祐二君の台詞を聞きつけて雨子さんが問う。
「む?祐二よ、一体何を基準にそれらの物を選んだのじゃ?」
雨子さんの横では和香様もうんうんと頷いている。
対して祐二君は、それらの物のうちの一つをとって丁寧に説明し始める。
「この表面に印字されている文字のお陰で、この製品のシリーズや世代、型番や品種が分かるのですが、此処に上げた物は皆、本来かなり高価で高性能な物ばかり何ですよ」
すると雨子さんが小首を傾げながら言う。
「しかし祐二、店の者は買われていったのは安価な物ばかりじゃと言っておらなんだか?」
「そうですね、実際此処に在るのは安価な物ばかりですね」
「はて?しかしそなた今さっき、高価で高性能と言わなんだかや?」
「はい、言いましたね?」
「何故にその様に矛盾し居るのじゃ?」
「それはですね、今此処に在るのは本来高価で高性能な物ではあるのですが…」
そう言いながら祐二君は部品の一つを持ち上げ、その裏側を見せてくれた。
私も目を凝らして見たのだが、信じられないほど無数の金属の足が生えている。少し気持ち悪いと思ってしまったのはここだけの話。
「本来はそれだけの価値がある物なのですが、此処に在るのは裏側の足が複数本折れたり欠けたりしていますでしょう?そう言うものは使えない、つまり本当の意味でジャンクに成って安くなるんですよ」
「成るほどの、電気的に接続出来ぬのであれば部品としての価値も無かろうからの。最も我においてはこの様な足など不要故、何ら問題は無いのじゃがな」
そう言いながら雨子さんは、一つ一つの部品を手にとって、その状況にじっくりと目を通すのだった。
「ふむ、いずれも機能的には問題無さそうじゃ。和香、これらの物を貰っていっても良いのかの?」
「うんうん、全くかまへんで、なんやったらもっと持って行ってくれてもええんやけどな?そやけど…、一つだけ条件付けよか?」
その言葉を聞いてくいっと眉を上げる雨子さん。
「嫌別にそないにややこしいことを言うつもりは無いんよ。雨子ちゃんの作業するとこ未だあんまり見てへんもんやから、もちっと勉強する為にも見せて貰えたらなと」
「何じゃ、その様なことか?なら帰り次第、節子に許可を貰うておくとするの。どのみち泊まり込みの作業になるはずじゃからの」
ここに来て小和香さんがそっと手を挙げる。
「あのう…私も参加して宜しいでしょうか?」
「勿論構わんが?」
「前回、私自身が施して頂いた内容の、一部なりとも理解が出来たらなと思うのです」
そう言う小和香さんの言葉に雨子さんが目を細める。
「小和香は実に向学心旺盛じゃの?和香も見習わんとの?」
そう言いながら雨子さんは小和香さんのおつむを優しく撫で付ける。
すると小和香さんは実に嬉しそうに照れ笑いをしている。
一方和香様はと言うと…。
「あ~~~、それはいくら何でも無いんとちゃう?勉強させてと言うたんはうちの方が先やんか?」
「はて?そうじゃったかの?」
雨子さんは分かっていて惚けて見せる。
こうやってじゃれ合う神様方を見ていて、この御二柱の神様がどれだけ仲が良く、どれだけ相手に信を置いているのかを、今更の様に知ることが出来た。
そして今の自身の境遇を思いつつ、そう言う相手が居るのを心より羨ましく思ってしまうのだった。
だがふと横を向くと、その様に感じていたのは私だけでは無かった様だ。
小和香さんもまた優しく、憧れる様な視線で二柱の神様方を見守っている。
私達はふと互いに目を見合わせ、思わず私は心に湧いた思いを口にした。
「ああいう関係って良いですね」
すると小和香さんもうんうんと頷きながら言う。
「本当にそう思います…」
そしてどちらとも無く言う。
「「あのう…」」
偶然にも同じ言葉を同時に二人で口にしていた。
そこで私は彼女に先に言葉を紡ぐことを勧める。
「宜しかったらお先にどうぞ…」
すると小和香さんは、顔を桜色に染めながら嬉しそうに言うのだった。
「私達もあの様に仲良くなれたら良いですね?」
私は嬉しさの余り天にも昇る心地で、大きく頭を振るのだった。
腹心の友とはこのことを言うのかなあ^^




