「デートのお邪魔虫:中編 」
今日は少し短いです
散々笑い尽くしてげっそりした状態になった祐二君は、大きく深く息を吐いた。
「なんだか僕は、もう一日分動いた感じがする、疲れちゃったよ」
「酷い祐二君…」
ぼそりと私が言うと、一生懸命に謝ってくれるから許しちゃうのだけれど、だけどまあ考えたら自分でも可笑しいのだから仕方ないだろう。
「祐二よ、いくら何でも笑いすぎじゃ。少しは令子の気持ちも考えるが良い」
そうやって祐二君のことを諫めてくれる雨子さん。そう言う所本当に優しい、大好きになってしまう。
なんだかんだと些か騒々しい出立になりはしたのだけれど、その後私達は順調に駅に向かった。
乗車券売り場では私の為の乗車券を買い、改札を通過していくと、(二人はタッチで乗れるカードを持っていた)他の電車に乗る人たちに混じってホームに上がっていく。
電車に乗るのは幽霊の時以来なんだけれど、今はちゃんと身体があるからちょっと嬉しいかも。もう少ししたら完全にとは行かないのだけれども、少なくとも人と同じように出来る身体を貰えるかと思うと、待ち遠しかった。
電車がやって来て乗り込むと、幸い余り混んでいない。だから祐二君達二人は並んで椅子に腰掛けている。
私はと言うと祐二君に抱えられてリュックごと彼の膝の上に居る。
リュックの口から頭だけ出して、(リュックの蓋を帽子にしながら)車内の様子を見ているのだけれども、これで案外誰にも気づかれないものだ。
先程の教訓を胸に、十分に注意しながらそっと鼻の感度を上げると、色々な匂いがしてくるなあ。整髪剤の匂いやら、オーデコロンに汗の臭い、だぁーれ、朝からニンニクのきいた料理を食べてきているのは?
そうやって見たり聞いたり嗅いだりとかやっていたら、ふと前の座席に座っている小さな男の子と目が合った。
訝しそうに私のことを見ているんだけれども、人形だとでも思って居るのかしらん?
悪戯心だったのだけれども、ふとお鼻を動かしてみたら、あら?ちゃんと気がついた。
隣のお母さんに話しかけている、そして指差して二人で見つめている。
だから大サービスでまたお鼻を動かして上げたら、二人揃って目を丸くしている。
そうしたら二人の口元から微かに「おおっ」って言う声が聞こえてくるのよね。こうやって誰かにきちんと認識して貰えるのって、やっぱり嬉しいなって思って居たら、横から雨子さんに小さな声で窘められちゃった。
「令子よ、そなた一体何をして居るのじゃ?」
仕方が無いので私は正直に話すことにした。
「前の男の子と目が合ったものだから、そしてお人形さんだと思われていたみたいだから、ついつい鼻を動かして見せっちゃった」
雨子さんがしようのない奴と言った感じで溜息をつく。
そして私の頭を軽く撫でると言うのだった。
「自分でしでかしたことは自分で責任をとるのじゃぞ?」
え?何?どう言うこと?
雨子さんはそんな私の思いを余所に、質問を受け付ける前に行動に出ていた。
前の座席に座って、相変わらず興味深げに私のことを見守っている男の子に向けて、おいでおいでと手招きをする。
すると男の子は母親に向かって何やら問いかけている。多分行って良いとかなんとか尋ねているのだろう?
そんな母親に対して雨子様はにっこりと笑みを送り、そして頷いて見せる。
すると母親はゆっくりと頭を下げ、その後子供の背をそっと押し出してやる。
揺れる電車の中、転ばない様にと注意しながらとことことやって来た男の子が、祐二君の前に立った。すると雨子さんが立ち上がって席を譲って上げるのだった。
そして雨子さんは男の子の視線に合わせてしゃがみ込むと、リュックの蓋をそっと除け、私の頭が全部見える様にして上げた。
「うさぎは弱い生き物じゃから、優しくな?」
するとひょっこり立った耳を見ながら嬉しそうに言う男の子。
「うん、優しくするね?でも噛まない?」
何ですって?私が噛むですって?絶対に噛むもんですか。
「ふむ、そうじゃな、このうさぎさんは優しいから噛まないぞ?じゃがだからと言って虐めたりはせぬ様にの?どんな動物も怒らせたら危険なのは同じじゃからの」
そう言い終えると雨子さんはくすりと笑った。
「うん、分かった」
そう言うと男の子は恐る恐るといった感じで、そっと私の頭の上に手を伸ばしてきた。
軽く耳に手が触れたので、ぴょこりと動かしてみせると。
「動いたよ?」
とか言いながら喜んでいる。なんだかめっちゃ可愛いんだけれども?
やがてにその小さくて柔らかな手が私の頭へと触れる。
そして優しく静かに撫でられる。とっても丁寧で心地よくって、思わず自然に目が閉じてしまうのだった。
一頻り撫でると満足したのか、男の子は撫でるのを止めた。
「どうじゃった?」
とは雨子さん。
「うん、とっても柔らかくってほわほわで、そして暖かだった!」
そう言う男の子の台詞に雨子さんは目を細めながら言う。
「そうかそうか、満足したかや?」
そう言うと男の子はぺこんとお辞儀をする。
「ありがとう御座いましたお姉さんお兄さん」
そしてにこにこしながら母親の所へ戻っていくのだった。
それを迎えた彼女は、子供を再び席に座らせると、私達の方に向けて丁寧に頭を下げるのだった。
自分もまた席に座ると雨子様が言う。
「子供は本当に可愛いの?しかもあの様にちゃんとお礼が言える所を見ると、要に躾けられて居る」
そうやって子供のことを見つめる雨子さんの視線が蕩ける様に優しい。
私は雨子さん達だけに聞こえる様な小さな声で言う。
「雨子さんは本当に子供がお好きなんですね?」
すると彼女はうんうんと頷きながら言う。
「うむ、大好きじゃ。早う欲しいと思うてしまうの」
え?何々それって?思わず頭をぐるりと回してみると、私を抱えた祐二君が俯きながら顔を真っ赤にしている。そっ、そう言うことなの?
そんなことを思いながら、再び確認する様に雨子様のことを見ると、此処にもまた顔を真っ赤にした人物が居た。
「な、何を見て居るのじゃ令子?一般論、一般論の話しじゃぞ?」
そう言うと雨子さんはぷいっと顔をあらぬ方向へと向けてしまった。
むぅ、確かに未だ早すぎるかも知れないけれど、この二人ならお似合い?そんな風に私は思ってしまうのだった。
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