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天露の神  作者: ライトさん
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雨子様の条件

お待たせ致しました


「ごめんなさい…」


 暫く経って何とか涙を抑えた令子さんはまずそうやって謝った。


「節子さんにあんな風に優しくされたら、急に母のことが思い出されてしまって。厳しいところはあったのだけれども、ここぞという時にはいつも私のことを助けてくれた母のことが…」


 その言葉を聞いた僕と母は急にしんみりと黙りこくってしまった。

小雨はまだこう言った事はあまり良く理解が出来て居ないのだろう。だがそれでもいくらかのことは分かっているのか、どこからかとっておき?の飴玉を取り出してきて令子さんに食べさせようとするのだった。


「私、母一人子一人の母子家庭だったんです。だから一人残された母のことが心配になってしまって…」


 令子さんのその話を聞いた雨子様は悲しげな、それでいて苦しそうな表情をしていた。


「令子よ」


「何でしょうか雨子さん」


 物凄く辛そうにしている雨子様のことを見て、何か思うことがあったのだろう。令子さんは、出来るだけ感情を抑える様にしながらそう聞いていた。


「我らは何と言うか本当に偶然に出会い、ある意味本当に思いつきでそなたに身体を与えようかということになったのじゃが、じゃがそれには条件があるのじゃ」


 そう話しながらきっと下唇を噛む雨子様。

僕はそんな雨子様を見ていて堪らなくなり、傍らに行くとその手を優しく握りしめることにした。


「…?」


 驚いた様に雨子様の顔が僕に向けられ、無言のまま頭を下げて謝意を示してくれた。

そんな僕達の様子を見ながら令子さんが静かに口を開いた。


「それで…、雨子さんの仰る条件とは一体何なんでしょう?」


「それはの…」


 そうやって語り始める雨子様の手が一瞬僕の手を強く握りしめた。


「そなたが自由になる身体を与えられ、実体を持って人に関わることが出来る様になってからも、かつてそなたと関わりのあった者達と接触を図っては成らぬと言う事じゃ」


 震える唇を噛みしめて黙り込む令子さん。


 そんな令子さんに代わって母さんが質問を口にした。


「ねえ雨子ちゃん、それはどう言う意図を持ってしてなの?」


 母さんがそう冷静に聞いてくれたことが、ある意味雨子様には助けになったのかも知れない。

ふうっと溜息をつくと雨子様が語り始めた。


「令子の死が一体いつ起こったことなのか、まだ今は知ることが出来ない。じゃが思うにおそらくそれなりの時間が経過していることと思う。普通、人は誰かを亡くした時、一体どのように変化していき居る?」


 そう話しながら僕のことを見る雨子様。おそらく彼女は一般論としての答えを僕に求めているのだろう。僕は躊躇いながらも僕自身の考えを口にした。


「多分そんな時、人は悲しみで一杯で何とも成らないと思います。けれども人はそれでもその先、生きていかなくては成らない。だから少しずつ悲しみを癒やしながら、心を平常に引き戻し、やがては思い出と共に生きていく…。そんな感じなのかな?」


「まあ大方そんなところじゃろうな…」


 そう言うと雨子様は僕の頭を撫でようとする。だが僕が嫌がって避けたものだから膨れっ面をしつつ話を続けるのだった。


「今祐二が言うた通り、人は例えどんな物を失ったとしても、それを乗り越えて生きていかなくては成らぬ。それで必死になって乗り越えたところに、失ってしまったと思うて居ったものが再び現れたら、一体どうなってしまうと思う?どんな混乱がそこに待ち受けておると思うのじゃ?本来人の世には在らざる出来事により、もしかするとその者の心が壊れてしまうかも知れぬ。それだけで無く、もしそのことを周りの者が知ったらどうなる?皆が揃って自分もその奇跡を求めようとしたりはせぬか?残念ながら我にそのリスクを冒すことは出来ぬ。誠に申し訳ないがそうで有るが故に諦めてくれ」


 そう言うと雨子様は令子さんに静かに頭を下げた。

何とも言えない静けさが辺りを支配する。


 そんな中、令子さんがゆっくりと口を開いた。


「あの、雨子さんが母さんのことを考えてくれているのも、万が一の混乱を心配されているのも、良く分かりました」


 令子さんのその言葉を聞いた雨子様はほっと胸を撫で下ろす。


「ただ…」


「ただなんじゃ?」


 雨子様は令子さんの言葉に優しくそう問いかけた。


「遠くから、遠くから一度だけで良い、その姿を見ることを許しては頂けないでしょうか?」


「見るだけじゃぞ?」


「はい、それで構いません」


 令子さんはそう毅然として言うのだった。


「良かろう、我もそこまで鬼では無いからの」


 雨子様に許可を貰えた令子さんは、嬉しそうに微笑むと頭を下げた。


「ありがとうございます、何だかとっても心が軽くなりました、でも…」


「でも何なのじゃ?」


 なんだか怖々とした感じで雨子様がそう聞く。


「いえ、何と言うか記憶の混濁している部分が沢山あって、自分が一体どこに住んでいたとか、そう言う肝心なことすら思い出せないんです」


「むぅ?そうなのかえ?」


「はい…」


 そう肯定する令子さんはとても寂しそうだった。

だがそれに対する雨子様の言葉が、そんな彼女の思いを一気に好転させることとなる。


「おそらくなのじゃが、それについてなら我の方でなんとかしてやることが出来ると思うぞ?」


「本当ですか?」


 凄い勢いでそう返す令子さん、大きく目を見開き、それこそ雨子様に掴みかからんばかりだった。


「うむ、ニーに頼めばおそらくはの」


 それを聞いた僕は合点がいった。昨今の人工知能ブームの中、無限大に増殖していくあらゆるプロセッサーの中から、ある意味自然発生的に生まれ出でた情報の申し子ニー。


 確かにニーならあらゆる情報を走査して、その上で目的の物を引っ張り出してくることが可能だろう。


 僕が一人そう思い起こしながらうんうんと頷いていると、突然顔の真ん前に令子さんの顔が現れた。


「うわわっ!」


「もしかして祐二君も知っているの?ニー?ニーって何なの?」


 そこで僕はあらゆる電子情報媒体に精通している、超情報知性体?で有るニーのことを掻い摘まんで話して上げた。


 このデジタル情報が全ての社会に於いて、確かにニーなら令子さんの情報を引っ張り出してくることは十分に可能だろう。可能どころか余裕であるに違いない。


「しかしいずれにしてもそなたが…」


 そう言うと雨子様が令子さんの鼻先に指を突きつけた。


「擬似的ではあるがちゃんとした人の体を手に入れてからの事じゃ。良いな、分かったな?」


「はい!」


 そう答える令子さんは実に嬉しそうだった。多分実体のある身体を持っていたなら、雨子様に飛びついていたことだろう。


「良かったわね令子さん」


 そう僕に言うのは母さんだった。


「この流れで行くと令子さんもうちで預かることにするんだよね?」


 僕がそう聞くと眉を顰める母さん。


「あら?祐ちゃんには何か問題があるの?」


「いや問題と言うほどの問題じゃあ無いのだけれども…」


「それは聞き捨てならんの?」


 あっちゃあ、雨子様まで参戦してきた。


「祐二しゃん大丈夫なのでしゅか?」


 小雨には、多分僕のことが不安そうに見えていたのかも知れない、そう言って慰めてくれるのだった。


「もしかしてご迷惑でした?」


 当の令子さんが物凄く不安そうな表情をする、と言うか耳が耳が完全に萎れている。


 そこで僕は、滅茶苦茶大きな溜息をつきながら説明した。


「ごめんなさい令子さん、これは令子さんがどうのこうのって言う話じゃ無いんです…」


「なら何じゃと言うのじゃ?」


 お願いだから雨子様、そんなに心配そうな顔をしないでくれません?


「あのですね、僕が憂いた、って言うか、憂うほどのことじゃあ無いのですが、家族にまた女性が増えるんだなあって思って…」


 それを聞いた母さんが吹き出していた。


「あなたそんなことを考えていたの?」


「いや別に、他意は無いんだよ?でもふと考えたらさ…」


 そんな僕のことを見ていた雨子様がふと言葉を零す。


「なら令子、男の身体にするかえ?」


 ぶるると身体を震わせながら雨子様のことを見る令子さん。


「いや~~~、やめて~~~!」


 その叫ぶ様が余りにも必死だったので、その場に居たものが皆大笑いしたのは言うまでも無かった。



昨日彗星なる物を見に行ったのですが、残念ながら見ることが出来ませんでした。

何とか見てみたいものだなあ

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