だいさんわ!
恩寵と名を改められた幸福薬の流通は、医薬品である以上誰にでも大規模にというわけにはいかないと制限していたはずだった。しかし求められるがままに処方するどころか、一部では金銭での取引が行われていたらしい。
さて、ここで簡単な問題を出そう。為政者にとって、自分の治める地域で怪しげな新興宗教が起こり、更には薬物の販売を始めればどのように思い、どのような対応をとるのが正解だろうか。カルト教団に麻薬など、どう考えても撲滅一択に違いない。
私としては別段、宗教団体と化したこの組織が解散となることは問題が無かった。むしろ胃痛の種ともなっているこの存在をどうにか穏便に解散させることが出来るならそれに越したことは無かった。だが自分の命がかかっているとなれば話は別だった。
地方領主は私を呼びつけることも、会談を設けることもしなかった。ただ騎士を派兵しただけ。連行される先はおそらく処刑場だろう。裁判などは無く、領主が法なのだからむしろ正当性は向こうにある。それはわかるがなぜ私が死ななければならないのだろうか。
逃げようにも逃げ場などは無く、諦めの一言が頭を過った時の事だった。
「一言、神敵を滅せよと」
傅く彼らはもちろん騎士などとは違いそれまでの生涯を訓練に費やしたわけではない。好戦的な教義などもなく、どうしてそのような結論に至ったのか私でなくとも困惑するだろう。だが、現実として私が生き残る道はそれしか残されていなかった。
一方的な結果に終わるはずだった。たかだか医者崩れの男一人の為に騎士団が一つ、地方とはいえ16人の鍛え上げた男が来たのだから、抵抗したところで無駄に終わりそのまま連れていかれるはずだった。宗教団体とはいえ、武装勢力でもない故に簡単な任務のはずだったのだ。
「なんだ! なんなんだこいつらは!」
「斬っても刺しても止まりやがらねぇ! くそっ!」
「どうなって!? うわっ離せ! やめろ、やめろぉぉぉ!」
彼らに恐怖心は無い。痛みや殺人への忌避感はすべて薬が消していく。死を恐れるものもいない。彼らの神が脅かされ、彼らの神が望み給うたのだから。むしろその先兵となり死ぬことは、殉教は何にも耐えがたい幸福感をもたらした。
積み重なる死体は碌な武器も持たず、あるいは素手のまま掴み掛ろうと走り寄るものもいた。異常な光景。異常な状況。優勢であるはずだった騎士たちが、人の波という質量に押し潰されていく。いくら鍛えた人間とて埋もれるほどに押さえつけられれば当然のように動けなくなる。
「ぐぎゃぁぁぁ」
「やべろ、やべでぐ」
「糞が! 離せよ! うわぁぁぁ」
あるものは自身の剣で貫かれた。あるものは首をへし折られた。だが彼らはまだましな方だろう。体中の関節を逆にされた男や質の悪いナイフで滅多刺しにされたもの、血が噴き出さなくなるまで棒で打ちつけられたもの。
壮絶な死に様の彼らは神に祈る間すら与えられなかった。だが、それでよかったのかもしれない。己の神を害さんとする者が神に祈る姿など、彼らにとってどれだけ不快であるか。もしそれを見せれば、決して楽には死ねなかっただろうから。




