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第八章 それぞれの半日、そして成果 その2

 エグザックスは一人乗りなので、ノブヲはタクシーで俺の後に付いてくる。

 俺の移動手段の選択肢にはタクシーなんてもちろん無いが、これは彼にとっては普通のことだ。


 ノブヲの家は超が付く金持ちなので、小学校まで専用車で送り迎えされていたらしい。

 しかし、目立つことが嫌いで少しシャイな彼は、公立の小学校で自分だけ専用車で送り迎えされることがとても嫌だったようだ。


 中学受験に失敗してからは、親からもあまりうるさく言わなくなり、一応安全のためにタクシーを使うという交換条件で、専用車をやめたそうだ。


 そのタクシーも指定のタクシー会社と契約しているみたいで、いつもノブヲは携帯でタクシーを呼んでいる。

 もちろん、俺も何度も一緒に乗せてもらっている。


 俺はタクシーを振り切ろうとしてスピードを出し、ノブヲもタクシーで追っかけてくる。


 近未来電動バイクとタクシーの戦いだ。

 無駄に金がかかっている。


 ガレージに入ると、俺もノブヲも驚いて一瞬言葉を失った。


 ガレージにあったノブヲの親父さんの滅多に乗らない愛車たちはどこかに片付けられ、ガレージにはたくさんの荷物が置かれていた。


 しかも、中央にはガラス張りの部屋まで作られている。

 まるで無菌室のようなその部屋でヒデヨが何かを作っている。


「な、なんか凄いことになってんな、ノブヲ」


「ああっ……。なんか凄いな。空調設備とか、変なパイプとか増えてるし……」


 いったい俺たちが学校に言っている半日の間に何があったのだろうか。

 ガレージは一変して最先端の研究室のようになっている。


 そして、メクリー&マクリーこと大魔王のオッサンは、俺の予想通り、ソファーに横になって寝てやがる……。

 まったく呑気なオッサンだ。


 俺たちの姿を発見して、ヒデヨはガラス張りの部屋から出てきた。


「先輩たち、おかえりなさい。見て下さい、この設備を」


 ヒデヨは自慢げにあたりを見回し、自分のラボにうっとりしているようだ。


「簡易設備ですが、クリーンルームを設置してもらいました。精密機器をいじるので必要ですよね。後は最新のサーバや演算ソフトも提供してもらったので、シュミレーションの精度が上がりましたよ」


「……。あっ、そ、そう。よ、よかったね……」


 俺にとっては寛ぎの秘密基地のほうがよかったし、ノブヲにとっては、彼の家のガレージであるはずが、すっかりヒデヨのモノになっているのだ。

 複雑な思いである。


 俺たちはいくつもの画面が置かれ、サーバがウンウンと唸っているテーブルの複雑な配線を慎重に越えて、空いているソファーに腰を下ろした。


 ヒデヨはこの半日の出来事を俺たちに話したくてウズウズしているようで、俺たちのそばに寄ってきた。


「いやあ、ノブヲ先輩。商社って本当に凄いですねぇ。何でも揃うんですよ。バッテリー開発にはあまり関係のないものまで、言えば何でも持って来てくれるので、こんな荷物の山になっちゃいました。それにしても、やっぱりあのエネルギー効率化プログラムは企業には魅力的なんでしょうね。製品化できれば数百億円の利益になりますから」


「す、数百億? マジで?」


 あんな紙切れが数百億円を生むというのか?

 やっぱりノブヲが言っていた通り、これからの世の中はサイエンスだな。

 一獲千金でモテモテだ……。

 でもな、やっぱりヒデヨくらい頭が良くなきゃいけないんだろうな……。


 じゃ、俺は結局ダメじゃん。

 凹むわぁ~。


「まあ、製品化できればっ! の話ですけどね。この手のモノは常に技術革新されてますからね。コストもあるし、なかなか思うように製品化は無理なんですよ」


「えっ? でも製品化できるからこれだけの金を出してくれてるんだろ?」


「いやあ、そう言ったり、そう思わせたりしないと十分な研究費は出ませんからね。もともと今回の目的は念力大魔界と人間界の救済ですよ? バッテリーの研究は後回しですよ」


「あっ、そうだった! 大魔王はずっと寝てんのかよ? 自分のことなのによぉ」


「ああ、違いますよ。さっきまで念力の実験をしていたんで、疲れたんでしょう。何か今日は調子が悪いみたいで、スカートが全然めくれなかったんですよね……」


 ヒデヨはそう言うと、奥のテーブルから何やら金属っぽい布のようなものを持ってきた。


「何それ?」


「これはエネルギー回収スカートです」


 金属のような繊維が織り込まれているスカートをヒデヨは自ら着用すると、スカートの裾をひらひらさせながら、


「大魔王さんがスカートをめくり上げるときに発生するエネルギーを、このスカートで回収するんですよ。見て下さい。僕も噂では聞いていたんですが、この金属の繊維のようなモノが超小型のフライホイールなんです。軍事用に研究が進んでいたのを今回特別に用意して貰いました」


「フライホール? 車のやつ?」


「確かに車にも使われていますね。レース用にフライホイールを軽量化したりしますよね。これはもともと、円盤を回転させてエネルギーを蓄えたりするんですよ。今回はこの超小型フライホイールを数多く使うことで、大魔王さんのエネルギーを最大限回収しようと思っています。ただ、この無数のフライホイールを制御するプログラムができていないようだったので、そのあたりは僕が改良を加えてあります。あとは、NASAで開発されているマイクロ波を応用して、個々のフライホイールに貯めたエネルギーを離れたバッテリーに蓄える仕組みです。実は、このフライホイールからエネルギーを出すところが一番難しいんですよ。でも、これに関しては僕のエネルギー効率化プログラムが役に立ちましたから、問題ありません」


「……。全然わからん。分かるか? ノブヲ?」


「要は凄いってことだろ?」


「革新的な技術ではありますよね。まさか僕もスカートめくりからこの仕組みを生み出すとは思っていませんでしたけど」


 ヒデヨは満足そうだ。

 しかし、問題はこのオッサンである。


「でもさ、大魔王はスカートめくれなかったんでしょ? じゃあまだ実験もできてないの?」


「そうなんですよ。この金属のスカートには反応しないんですかね?」


「面倒くせえ念力だなぁ~。どうするよ? ヒデヨ」


「まずは大魔王さんのスカートめくりの能力を分析しないといけませんね。いざというとき、エネルギーが生み出せなかったら、大変ですから」


「あっ、そうそう、ヒデヨさ、そのエネルギーってどうやって使うの?」


 ノブヲがそう聞くと、ヒデヨはニヤリと笑みを浮かべ、


「ちょっと特殊な武器を作ります。材料は用意してもらいました」


 ヒデヨが指を指したほうには、軍用と思われるカーキ色のコンテナが置いてある。


「あっ、あれ何?」


「ちょっと危険なモノがたくさん入っているので、絶対に! 開けたりしないで下さいね」


 き、危険なモノか……。

 聞かないでおこう。

 聞いたら、ここに居たくなくなるかもしれない。

 でもまあ、ヒデヨを信用するしかない。


「ま、いっかぁ。じゃ、そろそろメクリー&マクリーに働いてもらいますかぁ~」


「へっ? メクリー&マクリーって何ですか?」


 ノブヲが突然そう言ったので、ヒデヨは不思議そうな表情を浮かべた。

 そして、俺とノブヲは顔を合わせてニヤリとする。


 何しろ、この半日でヒデヨは様々なモノを生み出したが、俺とノブヲが生み出したモノは、このオッサンの呼び名だけである。


 これだけは自信を持って発表したいのだ、よね?

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