第八章 それぞれの半日、そして成果 その1
まだ通勤通学ピーク前の空いた幹線道路を、俺は近未来電動バイク『エグザックス』に乗ってぶっ飛ばしている。
車体に目立たない文字でEXAXと書いてあるので、おそらくエグザックスと読むのだろう。
二個のモーターの加速感は最高で、シームレスにグイーンと加速していく。
どこまでも、どこまでも加速していきそうで怖いくらいだ。
最初は少しカーブや曲がり角など、いまいち感覚がつかめなかったが、最新技術で制御されている車体は、多少の不慣れやミスなどは全て吸収してくれる。
そして、慣れると抜群の安定感だ!
新興住宅地にある俺の家の前に停めても、電動で音がしないから、バイクで帰ってきたとは誰も思わない。
母ちゃんに見つかったら、昨日の件もあるので、怒られてしまうだろうし。
俺はそっとバイクを家から見えない位置に停めると、鍵を開けて家に入り、シャワーを浴びてシャツを着替えた。
さっきまで着てた制服には、シュッシュッと消臭剤を散布してまた家を出た。
母ちゃんとは少しだけ話したけど、俺がショックでノブヲのところに泊まったと思っており、心配そうにしていたので、俺はノブヲとヒデヨと三人で新しい科学の実験をやっているんだと言い、今日も泊まるということを伝えた。
学校の隣の隣にあるガソリンスタンドに着くと、経営者の若い社長とバイトの兄ちゃん数人が集まってきた。
社長には昨日の事故の後に連絡していたため、俺のことを心配してくれていた。
俺は事故の経緯やスカブの入院の話をして、落ち込んだ俺のために、友達が父親のテスト用電動バイクを貸してくれたことを説明した。
この最先端の電動バイクに、みんなの目は釘付けだった。
まあ、明らかに俺の身体よりは、このエグザックスのほうに興味はいくけどね。
俺のバイクじゃないけど、俺は何だか鼻高々な感じだった、かな。
俺は四月から三週間ほどであるが、真面目にバイトをしていたためか、みんなが優しくしてくれた。
スタンドの隅にエグザックスを置かせてもらい、バイトのシフトはゴールデンウィーク明けまで入れてないが、学校の日はバイクを置いてもいいと言ってくれた。
もともと連休は大学生のバイトで人手が足りているので、シフトには入ってなかったが、社長は俺の体が大丈夫だったことに安心してくれた様子で、連休明けからはまた頑張って働いてくれな! と言ってくれた。
ツイてないことが続いていたが、俺の周りにはいい人ばかりだなぁ~と思いながら、俺は学校に向かった。
教室に着くと、一時間目が自習になったため、俺とノブヲは早速科学部の部室に向かった。
ヒデヨと大魔王はガレージにいる。
ヒデヨは念力の解明に集中していたので、学校に行かないのかと聞いたところ、
「僕はすでに中学生の頃にスタンフォード大学の学士を取得していますから、緑高からも別に授業に出る必要はないと言われているんです。制度上、日本の高校を卒業しなければ日本の大学には行けませんからね」
と言うのだ。
何でもヒデヨは中学時代に論文だけでスタンフォード大学の学士を取得したらしい。
スタンフォードの教授がヒデヨの研究に目をつけ、ヒデヨに留学を勧めたが、彼は日本の大学に行きたいらしく、MIT同様にその申し出を断ったそうだ。
ヒデヨはネットを通じてスタンフォードの教授と研究を進め、非可換幾何学によるエネルギーの効率化に関する新しいアプローチ手法を発見したのだ。
その成果で学士を授与されたらしい。
う~む、凡人には全く理解しがたいものである。
そんなわけで、今ごろヒデヨは自らのゾーンの中で超集中しており、おそらく大魔王はまた寝ているのではないだろうか。
部室に着いたときにノブヲの親父さんから電話があり、早速朝イチで研究者にヒデヨの書いたメモを見せたところ、とんでもない大発見であり、すぐにでも実証実験をして欲しいとのことだった。
ガレージにリチウムイオンバッテリーの他にヒデヨが必要だと言うモノを全て早急に揃えてくれることを約束してくれた。
ヒデヨがそれらをどう使うのかは分からないが、まあ、何か念力大魔界を救うほどの新兵器でも作ってくれるのであろう。
俺とノブヲは安心して、部室で寛ぐことにした。
「なあ、マコトぉ。名前考えない?」
「ん? なんの名前?」
「大魔王だよ。なんかさ、大魔王、大魔王って呼びにくいし、他の人が聞いたら頭おかしいと思われるもん」
「う~ん、確かにそうだなぁ~。じゃあオッサンでよくない?」
俺とノブヲはどうでもいいことで盛り上がることが出来るので、そのまま大魔王のニックネーム考案大会となった。
「確かにオッサンだけどなぁ~。なんかさ、こう格好いいやつがよくない?」
「格好いいやつねぇ~。だって、あのオッサン格好悪いんだもんなぁ~」
「スカートメクラーってどうよ?」
ノブヲの思考回路は俺と同じだ。
昨晩、俺が大魔王のことをスカートメクラーと心の中で呼んでいたのを知っているのかな?
「それってさ、何とかメトラーみたいな漫画、あったでしょ?」
「あっ、かぶるねぇ~、それ」
俺もノッてきた。
「じゃあさ、メクラーレンってどうよ? 速そうじゃねえ?」
「それ、訴えられる! ぜってぇ~」
ノブヲもノリノリだ。
こういうどうでもいい話は本当に楽しい。
ノブヲは新しいアイディアを次々に出してくる。
どうもパクリっぽいんだけど……。
「めくりって言葉をベースにしたいよなぁ~。あっ、メクリマクリスティは?」
「それも昔いただろう? ビジュアル系でさ」
「え~っ、そうだっけ? う~ん……、じゃあさ、メクリマクルーは?」
「あっ、それいいじゃん。でも、やっぱ昔いたよ。そんな感じの何とかクルーって」
「モトリークルー?」
「おお! それそれ。古き良き八十年代LAメタルってな!」
「マコトぉ、それ古いわぁ~。俺ら生まれてねぇし」
そういえば、中三の頃に昔のロックを聴くのが流行ったっけ。
俺たちの部活の中でだけだけど。
しかし大魔王の名前はなかなか決まらない。
そして俺たちの話は必ず脱線するのだ。
「スカートめくりってさ、めくりなの? まくりとも言わない?」
またどうしようもないことを気にするノブヲである。
「あ? めくりだろ? ふつうは」
「じゃあさ、めくりまくることは何て言うの?」
「めくりまくりだろう?」
「まくりじゃん、それ」
「さっきのまくりと、このまくりは違うだろ?」
「じゃあ、メクリマクルーよりも、メクリマクリーのほうがいいかな?」
ノブヲはどうでもいいことによく頭を使う。
そして、俺もどうでもいいことが大好きだ。
「ノブヲさ、じゃあ韻を踏もうぜ。メクリーマクリー、どう?」
「マコトぉ、それイイっ! マジいいっ!」
「マジ? マジでイイ? じゃあさ、もうひと捻りで、メクリー&マクリーは?」
「あっ~! それヤバイ。マジいいよぉ~。ハリウッドっぽい!」
「念力大魔王! メクリー&マクリー参上っ!」
「マコト最高ぉ! それでキメじゃん!」
という部室での完全な暇つぶしで大魔王の名前が決まった。
俺たちは部室でメクリー&マクリーのロゴを描いたりして、結局三時間目の終わりまで部室にいた。
また授業をサボってしまった。
学校の中にいるのに……。
そして、授業を終えると、俺とノブヲは急いでガレージに向かった。




