第六章 念力大魔界の危機は人間界の危機? その1
結構遅い時間になってしまったが、ノブヲもヒデヨも大魔王に対する興味が大きくなってしまったため、そのままガレージで大魔王の話を聞くことにした。
しかし、ヒデヨが理論的な質問を投げかけるため、話を聞くというよりも、何だが尋問のような感じになった。
はじめのうちは、俺が大魔王から歩きながら聞いたような基本的なことが中心だった。
そこにヒデヨがツッコミを入れていく。
「念力大魔界には、普通の人間は入れないのですか?」
「いや、入り方が特殊なだけで、入ろうと思えば入れるはずじゃ」
「入り方が特殊とは、どういうことですか?」
「空の高いところ、つまり成層圏あたりで強力な磁場を発生させなければならないのじゃ。だから事実上は普通の人間には無理なんじゃよ」
こんなやり取りが続いた。
それによると、念力大魔界は異次元にあるため、高高度で磁力を使い、異次元への入り口を開けなくてはならないということだ。
この条件だと、今の大魔王のスカートめくりという能力だけでは、念力大魔界に帰ることは絶望的に思える。
異次元にある念力大魔界は、ほぼ地球と同じような作りになっていて、数百万人の念力使いたちが暮らしているらしい。
人間の世界との行き来は厳しく制限されており、通常は念力使いが人間の世界に行くことはない。
ただ、調査目的で訓練された少数の念力使いが常に人間界には存在し、人間たちの行動や文化を念力大魔界にフィードバックしているということだ。
「なぜ念力大魔界は人間界の情報を収集するのですか?」
「それは、我々の世界が常に人間界のコピーである必要があるためじゃ」
「その目的は?」
「我々は特殊な能力のせいで、普通の人間として人間界では生きることができなかった。しかし、それは仕方のないことで、人間が悪いわけではないのじゃ。念力使いたちが、その特殊能力で独自の世界を作ったとしたら、やがて、人間界を自分たちで統治したいと思ってしまうじゃろう」
「ということは、人間界をコピーすることで、生活や文化におけるお互いの違いを無くそうとしているわけですね? 確かに、価値観が同じであれば争いは起こりにくくなりますね。でも……、それを強制し続けることは難しいことなのでは?」
ヒデヨはどんな分野でも吸収力が早い。
すっかり大魔王と同じレベルで話ができている。
俺とノブヲは、ほぉ~、そうかぁ~! なるほどねぇ~とただ頷いて聞いているだけだ。
しかし話が難しくなってきた。
スカートめくりの話はどこに行っちゃったの?
ヒデヨの理解によると、大魔王の話は理論的にも整合性がとれており、信憑性が高いということだ。
遥か昔から、念力界を統治する者が力で抑えつけてきた人間界との関係性が、大魔王を追放したことにより変化する可能性がある。
つまり、人間界の真似をしてきた念力使いたちが、自分たちの独自の文化を作り、それがやがて勢力となって人間界に攻め入る可能性があるということみたいだ。
「でもさぁ、大魔王さんよぉ、アンタを罠にはめた奴って何者なの? そいつが悪者ならさ、俺たちの世界に念力使いが攻めてくるってのも分かるよなぁ」
ノブヲが参戦だ。
俺もかなり頭を使っているが、ノブヲはもっと頭をフル回転されているはずだ。
論理的思考は、ノブヲがもっとも不得意とするものだからだ。
「ワシに伝説の饅頭の話をしたのは、側近のシュミドラという男じゃ。まだ念力界と呼ばれていた頃のキングである念力大王の側近だった者じゃ。政に詳しいから、ワシにも仕えさせていたのじゃ」
「ってことは、そいつ怪しいじゃん? だって前の王に仕えてたんだろ? それが大魔王みたいなフザけたオッサンに権力を握られたら、誰でもムカつくだろ?」
俺もミーティングに参加しないとな、と思って誰にでも分かることを言ってみる。
「いや、シュミドラは頭はキレれるが念力が弱いのじゃ。だから、とてもワシがいなくなった念力大魔界を統治することはできんはずじゃ」
「ということは、裏でシュミドラを操っている者がいますね」
う~ん、ヒデヨは推理小説も好きだっけ? 何だか楽しんでいるようにも見える。
しかし、この大魔王の話が本当だとすると、マジでヤバイなぁ。
相手は龍も出せる、かもしれない念力使いたち大勢。
対してこっちはスカートめくりしかできないオッサンひとり。
勝ち目ないじゃん?
「ん? そういえば……」
大魔王は何かを思い出したように、
「シュミドラは年甲斐もなく変な女に入れ込んでおってな、ワシはやめておけと言ってたんじゃが、シュミドラは女にはモテなくてのぉ、一目惚れだと言って、ワシの忠告を無視して女にのめり込んでおったのよ」
「……。間違いなく、その女は今回の件に関係がありますね。その女が何者なのかは分かっていますか? どんな特徴のある女ですか?」
ヒデヨは完全に刑事さんっぽくなってる。
まあ、これも話を引き出す技なのかもしれないな。
大魔王も色々思い出しているみたいだし。
「う~ん、分からんのぉ。特徴はのぉ、うーん……、どんな念力を使う者なのかも分からんのぉ。ただ……。」
「ただぁ?」
三人で声が揃った。
「ただ、その女の格好はいつもレースクィーンみたいな感じじゃった」
《ズコゥ~》
俺とノブヲは新喜劇ばりにずっこけた。
「ってーか、格好とかどうでもいいわっ!」
俺が叫ぶと、ノブヲも、
「そっち系かよ! で、スタイルはいいの? ってノリ突っ込みじゃぁ!」
と俺に合わせる。
そんな中、ひとりヒデヨは冷静な目をして、
「もしその女が関係あるとすると、念力使いの能力を制限する力があるのかもしれませんね。まともに闘ったら大魔王さんには勝てない。だから饅頭にその力を封印して食べさせた。とすると……」
ヒデヨは目を瞑ると、なにかを考え始めた。
俺とノブヲ、そして大魔王も黙ってヒデヨの思考結果を待つ。
「能力……、能力の置換か……。なぜ? なぜスカートめくりなんだ?」
ヒデヨはぶつぶつと独り言を言いながら考えている。すると、
「そうか! 大魔王さん、その女の格好がレースクィーン風だと言いましたね?」
「あ、ああ、そうじゃ。念力大魔界にもレースがあり、レースクィーンがおるからのぉ。ワシもレースは好きじゃし」
「それはどうでもいいです!」
大魔王だろうが、誰だろうが、ヒデヨは厳しい。
「つまり、こうです。その女の念力は、能力の置換です。つまり念力を何か他の種類の念力と置き換えることができる能力です。だから、大魔王さんの念力を無くすこと、ゼロにすることはできない。ゼロにしない限り大魔王さんはその念力を使いこなしてしまう。そこで女は、スカートめくりという能力に置き換えることで、大魔王さんがその能力を最大限に活用しても大丈夫なようにしたのではないでしょうか」
「な、なんで大丈夫なんだよ? そいつだって女だろ?」
ノブヲが怪訝そうな顔でそう言う。
「ノブヲ先輩、よく考えて下さい。レースクィーンの格好って、別にスカートみたいな形状になっていても、下には水着とかを履いていたりするでしょう? つまり、その女はスカートがめくれても実害がないわけですよ」
俺とノブヲは顔を見合わせた。
今回のヒデヨのロジックはまるで理解不能だ。
現代科学で証明できること以外では、ヒデヨの思考能力も発揮できないのではないだろうか。
しかし、ヒデヨの顔は本気である。
困った。
頼りのヒデヨがこんなだと、一体どうすればいいのだろうか? やっぱり、これは悪い夢なのかなぁ~と思っていたら、大魔王がいきなり、
「あっ、そうじゃ!」
とデカい声を上げた。
「ちょっとぉ、大魔王、ビックリするじゃないかぁ~」
俺が不機嫌に言ったのだが、大魔王は俺を無視するように、
「そういえば、シュミドラの念力は風を操るものだと聞いたことがあるぞ。あやつはあまり自分の能力について話したがらなくての。ワシがしつこく聞いたときに、そう言ったことがあるんじゃ」
ヒデヨは目を丸くして、
「そうか! スカートめくりの能力はシュミドラのモノなんですよ! それを恥ずかしいと思って大魔王さんにも言えなかった。女の能力はやはり念力の置き換えだと思いますが、おそらく何にでも置き換えられるわけではなくて、入れ替えという表現のほうが正しいでしょう」
「と、ということは、シュミドラにワシの能力が?」
「そういうことになりますね。ただ、これは厄介です。だからその女は、わざとレースクィーンの格好をして、スカートをめくっても無駄だというメッセージを大魔王に送っていたんですね」
「な、なんということじゃぁ~」
大魔王は頭を抱えてうずくまってしまった。
しかしまあ、ヒデヨの馬鹿らしい推理が現実的な展開になるとは、ヒデヨの頭の良さは恐ろしいなぁ。
少し落ち着いた大魔王に再びヒデヨの尋問が始まった。




