赤の鳥は
愛しい鳥よ。
愛しい我が子よ
我の代わりに見てきておくれ。
そして教えておくれ。
この世界は―――――
◇
目を覚ました時にはもう日は上がっていた。
日が上がれば出る予定にしていたから、寝過ごしたのは確定。
しまったなと思いつつもすぐに行動に移せない。
肌につく寝汗が気持ち悪い。
夢見が悪かったのは熱さと疲労のせいだ。
そう思っているものの、あの声がこびりついて離れない。
重く深いため息をつくとドアをノックする音がした。
「起きてるか?」
知っている声だったため、思い体を立ち上がらせドアをあけた。
ドアの前には予想通りの人物が立っていた。
「今起きた」
「…何度も言うが慎みをもて」
今の格好は薄手のシャツと短パンのため足は丸出しである。
確かに慎みはない。
「何度も言うが今更だ。入れよ」
一緒に行動をするようになってそろそろ1ヶ月は経とうとしている。
同じ部屋で寝起きをしたこともあるから本当にもう今更なのだが。
それでもまだ納得いかないような顔をしている。
「悪い。寝過ごしたな。すぐに準備するから」
部屋の中へと戻りながら声をかける。
「めずらしいな。君が寝過ごすなんて」
「たまにはそんな日もある」
準備のために来ているシャツを勢いよく脱ぐ。
慌てた足音がしたからおそらく背を向けたのだろう。
「だから!慎みをもて!!」
「今のはいたずらだ」
「悪趣味な冗談はやめろ!」
「悪趣味とはひどいなぁ」
くすりと笑う。
お堅い此奴にはこれぐらいがちょうど良いのだというのは最近の発見である。
「傷はどうだ?塞がったとはいえまだ痛むんじゃないのか?」
「いや、もう大丈夫だ。ありがとう。君がいなければ助かっていなかった」
「私が全て白ならばもっと早く完治できたんだけどね」
「自分の髪色を卑下するものではない。綺麗な2色じゃないか」
「キレイ…ねぇ」
服を着ながらちらりと後ろを見れば黒に近い濃紺の髪が映る。
此奴との付き合いは1ヶ月前に川べりで深手を負い倒れているのを助けたのが始まりだ。
いつもなら騎士服を着て川べりに倒れている人間など、厄介ごとしか持っていないに決まっているのだから助けることなんてしない。
黒髪に騎士服の組み合わせが、どうしても見捨てられなかった。
「そういうお前も2色だろ」
「私のはただの混ざりものだ。力も青しか使えない。2色でも両の力が使えるのは稀だ」
「まあねぇ。よし、準備完了!飯食って行くか」
服を着終えて男の肩を軽く叩く。
律儀にずっと背を向けていた男の先を歩き食堂へと向かった。
宿の食堂は飯はそれなりに賑わっていた。
適当に空いている席に座り、ウェイトレスに食事を頼む。
朝から酒を飲んでいる無骨な男が二人、大きな声で話をしていた。
「おう、聞いたかあの話」
「なんの事だ」
「あれだよ、赤狂いの国の話さ」
「ああ、噂じゃ国内に赤い髪を持つ者は減っているそうじゃないか。反乱軍に押されてるしそろそろ終わりか?」
「いいや。終りはまだだな。どうやら政権が変わったらしい。今度の王様は前より過激でな、反乱軍との戦いも激化しているそうだ」
「はぁん。それが本当ならそのうち戦争もありえるな。一稼ぎしにいくか」
「あのあたりはそれがなくとも傭兵にゃ稼ぎ場所だがね」
「違いない」
耳につく声に不快感を覚えつつも黙々と出された食事を口にする。
一緒に食事をしている男が何か言いたそうにしていたが、私は何も言わなかった。
宿を出て目的の方向へ歩こうとすれば男は立ち止まり、気まずそうに声をかけてきた。
「やはり、移動手段を変えるべきではないか」
「その話は終わった事だろう。私は、お前に雇われてここにいる。そしてお前の目的にはこの道が一番早い」
「確かに出来る限り早く目的を果たしたい。だが、わざわざ危険に飛び込まなくとも」
「別に火の国に入る訳じゃない。近くの港を使うだけだ」
「その港街から赤を持つ者が忽然と消えているんだろう?」
「お前は私の危険と目的の完遂とどちらをとる」
「…目的の、完遂」
「なら、余計なことは考えるな。私はその目的のために金を貰っているんだ。報酬分はキッチリと働く」
「……わかった」
どこか納得いかない顔をしつつも再び歩き出した男をみて私も足を動かす。
かの国は、破滅の道を歩んでいる。
私が手を下さずとも終りはもう見えている。
私が出来るのは最後まで生きて、還るだけだ。
「覚えてないかもしれないがな、私はこれでも強いんだ」
まだ不満そうな顔をしている男にそう言うと男は嫌そうな顔をした。
「…知っている」
不満げに口にした言葉ににやりと笑い、足取り軽く進んでゆく。
この男は私に何を見せてくれるだろうか。
このお話はこれにて終了です。お付き合いありがとうございました。
さらに長編になる続編は用意してありますが、掲載予定は未定です。
ブックマークしていただいた皆様、ありがとうございました。