前
「今度の土曜、ちょっと出かけてくる」
夕飯を食べながら、湊がそう言った。
「うん」
由奈は味噌汁の椀を手にしたまま、特に深く考えずに頷いた。
付き合っているからといって、休日を全部一緒に過ごす必要はない。まして二人は同棲している。平日の朝も夜も顔を合わせるし、休日まで常に行動を共にしなければ恋人らしくない、などとは由奈も思っていなかった。自分だって、一人で買い物に行きたい日もあれば、家で何もせず過ごしたい日もある。湊には湊の付き合いがある。それも、かなり多い。
学生時代の友人。高校の部活仲間。大学の同期。以前の職場で知り合った相手。趣味を通じて仲良くなった人。由奈が名前を聞いても、一度では誰が誰なのか覚えられないくらい、湊の交友関係は広かった。
由奈とは正反対だった。
由奈が友達と呼べる人間は、片手で数えても指が余る。別に人付き合いが嫌いなわけではない。職場では普通に雑談もするし、誘われれば何人かで食事に行くこともある。ただ、そこから個人的に連絡を取る関係まで進む人が少ない。環境が変われば疎遠になる相手も多かったし、それを寂しいとも思わなかった。
必要な人と、無理のない距離で付き合えればそれでいい。
由奈にとって人間関係とは、そういうものだった。
だから湊のスマートフォンが一日に何度も鳴ることも、休日に友人との予定が入ることも、付き合い始めた頃こそ珍しく感じたものの、今ではすっかり慣れている。
「誰と?」
なんとなく尋ねる。
湊は唐揚げを口に運びながら、ごく当たり前のことのように答えた。
「美咲」
その名前を聞いた瞬間、由奈の手がわずかに止まった。
ほんの一瞬だったので、向かいに座る湊は気づいていない。
「……また?」
「ん?」
「この前も会ってなかった?」
「ああ。先週な」
湊は何も気にしていない様子で頷いた。
言われてみれば、先週の日曜日も美咲だった。その前は平日の仕事終わりだった気がする。さらにその少し前にも、その名前を聞いた覚えがある。
頭の中で数えてみる。
ここ一か月で三回か、四回。
――私より会ってない?
そんな言葉が浮かび、由奈は自分でそれを打ち消した。
同棲しているのだから、会っている時間だけなら自分の方が圧倒的に長い。比べること自体がおかしい。
「何するの?」
「映画見て、そのあと飯かな。あいつが見たいって言ってるやつがあってさ」
「二人で?」
今度は湊が顔を上げた。
「うん」
返事はあまりにも自然だった。
隠す様子もなければ、問い返されると思っていた様子もない。そこにやましいところなど一つも存在しないと、その態度だけで伝わってくる。
だからこそ、由奈は困った。
映画を観て、食事をして、休日の何時間かを二人きりで過ごす。
それを男女二人でやることに、湊は本当に何も感じていない。
由奈には、その感覚がよく分からなかった。
「美咲さんって、彼氏いないんだっけ」
「今はいないと思う」
「そう」
「なんで?」
「いや、別に」
答えながら、由奈は自分でも嫌になるほど、その「別に」が嘘だと分かっていた。
気になっている。
だから聞いた。
けれど、そこから先をどう言えばいいのか分からない。
女友達と遊ばないでほしい。
そう言ってしまえば簡単なのかもしれない。でも、それは随分乱暴な要求に思えた。
湊が友達と飲みに行くことを咎めたことはない。女友達がいることも、付き合う前から知っていた。彼が男女関係なく人付き合いをするタイプなのも知っている。
それでも。
映画を見て。
二人でご飯を食べて。
それを何度も繰り返す。
そこまで親しくする必要が、本当にあるのだろうか。
由奈は冷め始めた味噌汁を口に運んだ。
いつもと同じ味のはずなのに、その夜は妙に薄く感じた。
湊とは、大学生の頃に働いていた居酒屋で知り合った。
由奈はホール、湊は厨房だった。
最初から湊は目立つ人だった。声が大きいわけでも、必要以上にはしゃぐわけでもないのに、気づけば人の輪の中にいる。新人が入れば真っ先に話しかけ、気難しい店長とも冗談を言い合い、面倒な客に絡まれたときでさえ、不思議と最後には相手を笑わせていた。
由奈とはまるで違う。
由奈だって、別に無口ではない。仕事に必要な会話はするし、休憩中に同僚と雑談することもある。けれど、そこから先へ踏み込むのがあまり得意ではなかった。
連絡先を交換しても、用事がなければ連絡しない。
仕事を辞めれば、それきりになることも多い。
そういうものだと思っていた。
だから、バイトを辞めて半年ほど経った頃、突然湊から連絡が来たときは驚いた。
『久しぶり。元気?』
何か用事でもあるのだと思った。
けれど、特別な用事などなかった。
ただ久しぶりに話したかったから。
後からそう聞かされたとき、由奈は少し驚いた。そんな理由だけで、半年も会っていなかった相手に連絡をする感覚が、当時の由奈にはよく分からなかった。
それでも返事をして、何度か食事に行って、付き合うことになった。
付き合って二年。
同棲して半年。
不満らしい不満は、ほとんどなかった。
湊は優しい。
家事もする。
記念日も覚えている。
由奈が体調を崩せば仕事帰りにゼリーやスポーツドリンクを買って帰るし、由奈が嫌がることを無理に押しつけることもない。
浮気を疑ったこともなかった。
少なくとも、美咲という名前を頻繁に聞くようになるまでは。
「それ、普通に嫌じゃない?」
翌日の昼休み。
こういう話をできる数少ない友人、真帆に電話をかけると、事情を聞き終えた彼女はすぐにそう言った。
『月に何回も二人で会ってんでしょ?』
「うん」
『しかも映画?』
「うん」
『デートじゃん』
その言葉に、胸の奥が小さく痛んだ。
「本人たちは友達って言ってる」
『友達でも、彼女いる男とそんな頻繁に二人で会わなくない?』
「やっぱり?」
思わずそう返したあと、少しだけ安心した自分がいた。
自分だけがおかしいわけではない。
そう思いたかったのかもしれない。
けれど真帆は、すぐに続けた。
『まあ、でもさ。湊くんって元々友達多いんでしょ』
「多い」
『女友達も』
「いる」
『じゃあ本人、本当に何も思ってない可能性もあるよ』
「それは分かってる」
即座に答えた。
分かっている。
むしろ、その可能性が一番高いと思っている。
湊はたぶん、美咲に恋愛感情など持っていない。
だからこそ難しい。
「浮気してるとは思ってないんだよ」
『うん』
「美咲さんを好きだとも思ってない」
『じゃあ何が嫌なの?』
真帆に聞かれ、由奈はしばらく答えられなかった。
そこなのだ。
自分でも、うまく説明できない。
「……男女の友情って、あると思う?」
『急にでかいテーマ来たな』
「真面目に」
電話の向こうで真帆が少し笑った。
『人によるんじゃない?』
由奈にとっては、一番困る答えだった。
「私は、ないと思う」
『完全に?』
「完全にっていうか……」
由奈は言葉を探した。
男女が話すこと自体を否定したいわけではない。
職場や学校で異性と親しくなることはあるだろう。グループで遊ぶことだってある。昔からの知り合いを、恋人ができたからという理由で全部切れと言いたいわけでもない。
けれど。
「どっちかに恋愛感情が生まれたら、それで終わりじゃん」
『まあね』
「自分にはなくても、相手にはあるかもしれないし」
『それはそう』
「だったら、本当に友情だけで成立してるかどうかなんて、自分一人じゃ分からなくない?」
口に出してみると、思った以上に自分の中でしっくりきた。
自分が相手を友達だと思っていることは分かる。
でも相手が自分をどう思っているかまで、本当の意味で確かめることなんてできない。
相手が「友達だよ」と言ったところで、それが本心かどうかは分からない。
長く付き合っているからといって、途中から気持ちが変わらない保証もない。
『あんたさ』
「なに」
『美咲さんに取られると思ってる?』
由奈はすぐに答えられなかった。
取られる。
その表現は、何か違う。
湊は物ではない。
自分が所有しているわけでもない。
けれど、怖くないかと聞かれれば、それも違う。
「……分かんない」
『じゃあ、それ湊くんに言った方がいいよ』
「でも、会わないでって言うの?」
『そこまでは知らん。二人で決めなよ』
正論だった。
正論すぎて、通話を切ったあと、由奈はかえって憂鬱になった。
その日の夜。
リビングのテレビでは、由奈がほとんど内容を追えていないバラエティ番組が流れていた。
湊はソファの隣でスマートフォンを見ている。
由奈は何度か口を開こうとして、そのたびにやめた。
言いたい。
でも言いたくない。
面倒くさいと思われたらどうしよう。
束縛だと思われたらどうしよう。
それ以上に。
「分かった。じゃあ美咲とはもう会わない」
そう言われるのが、少し怖かった。
嫌なのに。
やめてほしいと思っている部分も確かにあるのに。
自分が言ったせいで、湊が十年以上続いてきた友人関係を切る。
それを想像すると、それはそれで息苦しい。
自分でも矛盾している。
「ねえ」
結局、由奈から声をかけた。
「ん?」
湊がスマートフォンから目を上げる。
「土曜日さ」
「うん」
「美咲さんと会うんだよね」
「そうだけど」
「……二人で会うの、やめてほしいって言ったらどうする?」
湊の表情が止まった。
ほんの一瞬だった。
けれど、その一瞬だけで由奈の心臓は大きく鳴った。
「急にどうした?」
「急じゃない」
思っていたより強い声が出た。
「最近ずっと気になってた」
「美咲のこと?」
「うん」
湊はスマートフォンを伏せ、ローテーブルの上に置いた。
それまで軽くこちらを向いていただけだった身体を、きちんと由奈の方へ向ける。
話を聞こうとしている。
そういうところは、湊はいつも真面目だった。
「何が気になる?」
「頻繁に二人で会ってること」
「……ああ」
「ああって」
「いや、ごめん。そういう意味じゃなくて」
湊は困ったように眉を寄せた。
「でも、美咲とは昔からあんな感じなんだよ」
来ると思っていた。
昔から。
ただの友達。
そういう関係じゃない。
たぶん、全部本当なのだろう。
「いつから友達なの?」
「高校から」
「長いね」
「十年以上かな」
「今まで付き合ったことは?」
「ないよ」
「キスしたことは?」
「ない」
迷いのない返事だった。
「好きになったことは?」
「ないって」
今度は少し笑った。
その笑い方が、由奈にはなぜか引っかかった。
「何が面白いの?」
「いや、面白いわけじゃないけど。本当にそういう相手じゃないんだって」
「湊はそうかもしれないけど」
言ってから、由奈自身が気づいた。
そこだった。
自分がずっと引っかかっていたもの。
「美咲さんは?」
湊の笑みが消えた。
「美咲?」
「湊のこと好きじゃないって、どうして分かるの?」
「いや……分かるだろ。十年以上友達なんだから」
「それ、答えになってないよ」
「じゃあ逆に、どうやったら証明できるの?」
その通りだった。
由奈は言葉に詰まった。
証明なんてできない。
美咲本人を連れてきて、「湊には恋愛感情がありません」と宣誓してもらえばいいのか。そんなことをしても、本当の意味で証明になどならないだろう。
「ほら」
「ほらって何」
「いや……」
湊が少し息を吐いた。
「由奈が不安なのは分かった。でも俺、美咲と何かあるわけじゃないし」
「分かってるよ」
「じゃあ」
「それでも嫌なの」
言葉が自分の中から落ちた。
思ったより、はっきり言えた。
湊が黙る。
由奈はその沈黙が怖くて、けれど今さら引き返したくなくて、続けた。
「浮気してるって言ってるんじゃない。湊が美咲さんを好きだとも思ってない。でも、彼女がいるのに他の女の人と二人で何度も遊びに行くのが、私は嫌」
「でも友達だよ」
「女友達でしょ」
「男でも女でも友達は友達だろ」
「私はそう思えない」
そこまで口にして、由奈はようやく、二人の間にあるものの形が少し見えた気がした。
疑っているか、信じているか。
そういう話ではない。
もっと根本的なところで、自分と湊は違う。
湊にとって、美咲は「友達」という箱に入っている。
だから男友達と同じなのだ。
由奈には、その箱の中で性別を完全に無視することができない。
男と女が二人きりで頻繁に会い、親密に過ごすなら、そこに恋愛が入り込む可能性はゼロではない。
少なくとも由奈は、そう思っている。
「じゃあ」
湊がゆっくり聞いた。
「俺が女友達と二人で会うのは、全部嫌ってこと?」
由奈は迷った。
けれど、ここで誤魔化しても仕方がない。
「……たぶん」
「連絡取るのも?」
「そこまでは言ってない」
「飯は?」
「二人なら嫌」
「仕事帰りに飲むのも?」
「嫌」
「映画は?」
「嫌」
「相談に乗るのは?」
「電話じゃ駄目なの?」
湊が口を閉じた。
困っている。
その顔を見て、胸が痛くなった。
自分は面倒くさい女なのだろうか。
そういう考えが浮かぶ。
けれど、ならば何も言わず、嫌なものを嫌ではないふりをしていればいいのか。それが「理解のある彼女」なのか。
それも違う気がした。
「由奈」
「うん」
「俺は、男女の友情って普通にあると思ってる」
「……うん」
「美咲だけじゃない。俺、女友達何人かいるし。そいつらと付き合いたいとか、そういうの一回も思ったことない」
「うん」
「だから正直、友達なのに女だから二人で会っちゃ駄目って言われるのは……ちょっと納得できない」
胸の奥が冷えるような感覚がした。
予想していた言葉だった。
それでも、実際に聞けば痛い。
けれど湊は、そのまま言葉を切らなかった。
「ただ」
由奈が顔を上げる。
「由奈が嫌がってるのに、俺が『友達だから問題ない』って言えば終わりとも思ってない」
思っていた答えと少し違った。
「俺には普通でも、由奈には普通じゃないんだろ?」
「……うん」
「じゃあ、その辺は考えたい」
胸の奥に、ほんの少しだけ張っていたものが緩んだ。
「美咲さんと会うのやめるってこと?」
「それは今すぐそうするとは言えない」
また少し痛んだ。
けれど同時に、由奈はどこかで安心もした。
簡単に切らなかったからだ。
十年以上の友達を、恋人に言われたという理由だけであっさり手放す人ではなかった。
それは、湊の人付き合いの仕方を知っている由奈には、むしろ納得できることだった。
「でも、何で最近そんな頻繁に会ってるのかは話す」
「え?」
湊は少し迷うような顔をした。
「これ、美咲に口止めされてたんだけど」
その瞬間、嫌な想像が頭の中を埋めた。
湊はそれに気づいたのか、慌てて手を振る。
「違う違う。そういうのじゃない」
「じゃあ何」
「美咲、結婚するかもしれないんだよ」
「……え?」
「正確にはプロポーズされてる」
由奈の思考が止まった。
「彼氏いないって言ってなかった?」
「だから、あいつがまだ周りに言うなって」
「え、じゃあさっき……」
「ごめん。それは嘘ついた」
そこで由奈は眉をひそめた。
「それはそれで嫌なんだけど」
「それは本当にごめん」
湊が素直に頭を下げる。
「相手が海外転勤になる可能性があって、ついていくかどうかでずっと悩んでる。仕事辞めることになるし、親のこともあるし。それで最近相談されてた」
「……映画は?」
「あれは普通に映画」
「そこは普通なんだ」
思わず言うと、湊が少し笑った。
由奈も、ほんの少しだけ笑った。
張り詰めていた空気が、その瞬間だけ緩む。
けれど、問題が消えたわけではなかった。
美咲には恋人がいた。
結婚するかもしれない。
だから安心。
それだけで済むなら簡単だった。
仮に美咲がずっと独身だったとして、自分が抱いた不安は間違いだったのだろうか。
逆に、美咲に恋人がいたからといって、男女の友情が成立することを認めなければならないのだろうか。
たぶん、どちらも違う。
「ねえ、湊」
「うん」
「私、たぶん美咲さんだけが嫌なんじゃない」
「うん」
「だから、これで解決したことにしないで」
湊は少し驚いた顔をした。
けれど、すぐに真面目な表情になって、ゆっくり頷いた。
「分かった」
その夜は、それ以上話さなかった。
結論も出なかった。
土曜日に湊が美咲と会うのかどうかも、まだ決めなかった。
ただ一つだけ、由奈には分かったことがあった。
二年間付き合ってきた。
半年一緒に暮らしてきた。
相手が好きだということも、自分が好きだということも、疑ったことはない。
けれど。
何を浮気だと思うのか。
何をただの友情だと思うのか。
恋人ができたら、他の異性との距離をどうするのか。
相手を大切にするということを、どんな行動で示すのか。
そんなことを、二人は一度も話したことがなかった。
---
その夜、由奈が眠ったあとも、湊はなかなか寝つけなかった。
部屋の灯りは消えている。
カーテンの隙間から入る街灯の薄い光が、寝室の壁をぼんやり照らしていた。
隣を見る。
由奈は背中を向けて眠っている。
怒っているのかと思ったが、聞こえてくる寝息は穏やかだった。
湊には、どうしても分からない部分が残っていた。
美咲は友達だ。
高校一年の頃から知っている。
湊が失恋したときには笑われたし、美咲が初めて彼氏を作ったときには相談に乗った。大学が別になってからも、何か月かに一度は会った。
恋愛が入り込んだことは一度もない。
もちろん、これからもない。
少なくとも湊は、そう思っている。
だから由奈に嫌がられるなんて、今まで本当に考えたことがなかった。
――私はそう思えない。
由奈の言葉が残っていた。
湊はそこで初めて、同じ出来事を見ていても、由奈は自分とは全く違う意味を受け取るのだということを意識した。
当たり前のことだった。
考えてみれば、由奈は自分と同じ人間ではない。
好きなものも違う。
人付き合いの仕方も違う。
それなのに、二年間付き合っているうちに、どこかで大事な部分まで同じ感覚でいるような気になっていたのかもしれない。
スマートフォンを手に取る。
美咲からメッセージが届いていた。
『土曜どうする? 映画、十一時の回でいい?』
湊は返信欄を開いた。
これまでなら、何も考えずに「いいよ」と返していた。
友達と映画に行く。
ただそれだけのことだったからだ。
今は違う。
由奈が嫌がっている。
けれど。
ここで美咲との約束を断れば、それが正しいのだろうか。
これから先、女友達とは二人で会わない。
それを恋人への配慮と呼ぶのか。
それとも、長く続いてきた友人関係を性別だけで制限することになるのか。
湊には、まだ答えが出せなかった。
画面を見たまま、しばらく指が動かない。
やがてスマートフォンを伏せ、枕元に置いた。
そして初めて思った。
男女の友情があるかどうかなんて、今まで一度も、本気で考えたことがなかった。
あるに決まっていると思っていたからだ。
けれど由奈もきっと……ないに決まっている、とまでは言わなくても、少なくとも自分と同じ形では考えていなかったのだろう。
どちらが正しいか。
そんなふうに決められる話ではないのかもしれない。
問題なのは、たぶん……自分たちが違うということ。
そして、その違いを抱えたままでも、これから先、二人が納得の行ける形で付き合っていけるのかどうかだった。




