5-1 春の帰り道
バンクーバーに戻った初日、まだ数ヶ月しか過ごしていなかったはずのこの町が、なぜだかなつかしく感じられた。
空気の匂いや街の静けさ、海沿いのSea Wallや見慣れたカフェ――そのすべてが律子を優しく迎えてくれるようだった。
とはいえ、東京での賑やかで温かな日々を思い出すと、胸の奥が少しだけきゅっとなる。
義両親や親戚、ご近所さんたちが毎日のように声をかけてくれて、気づけば笑ってばかりいた。
あの暮らしがもう少しだけ続けばよかったのに、と思わなくもない。
でも、ここは春のバンクーバー。
4月の光は優しく、街路樹の根元には水仙やチューリップが咲き始めていて、道端のガーデニングも絵のように美しい。
季節が確かに動いていることを、肌で感じられる。
律子はふと、ここで子どもを育てられることに喜びを覚えた。
この静かで自然豊かな街で、これから始まる家族の日々を大切に紡いでいこうと。
そんな折、圭祐の会社の千賀子から「帰国祝いも兼ねてパーティでもどう?」と声がかかる。
懐かしい面々との再会に、律子の心が弾む。
じゃあ、うちでやりましょう――そうして、久しぶりのホームパーティを企画することにした。




