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導入7

 モトは中段に剣を構え、対峙する悪魔騎士は大剣を上段に振りかぶる。


 互いにジリジリと間合いを詰めながら――敵も覚悟を決めて、必殺を狙ってきていることがハッキリと分かった。


 ――正中線を奪い合う剣撃を交えない攻防を交わす中で、悪魔騎士の剣気が圧となって襲い掛かってくる。


 素直に振り下ろしてくるか、一つフェイントを入れて剣撃の軌道を変えてくるか…。


 自分より長いリーチを持つ相手より先手を取る事は不可能である以上、それに合わせて動くしかない。


 いや、相手に合わせて受けるのは俺の剣じゃない、前に出ろ、先の先を取れ。


 己の中の正中線を乱さず構え、敵の中心線を奪うように剣を構えながら、自分よりも単純なステータス的には強大である筈の敵を威圧するように、すり足で前へとグッ、グッと詰めていく。


 やるか、やられるか、その緊張感に心が歓喜に、恐怖に震える。


 ………必ず倒す、そのために前へ。

 

 敵の一足の間合いに入り、そこから更にその内側へと大きく一歩を踏み出す。


 半歩前に出ながら大剣を振り下ろすだけで、自分を真っ二つできる、必殺に限りなく近いギリギリの間合いに入り、それでも動かず自分を誘い込んでくる。


 そんに応じるようにモトは、中段の構えのまま正中線を完璧に奪っていた剣先を敢えて僅かに下げた。


 その瞬間、悪魔騎士が動いた。


 ―――獲った。


 敵の動きを支配することを狙い、わざと作った隙に誘われた悪魔騎士の動きに、モトの体は狙い済ましたように自然と呼応した。


 悪魔騎士の踏み込みに合わせて前に踏み込み、大剣を振り下ろしてくる手首を狙って切り上げて、悪魔騎士の手から大剣を弾き飛ばし。


 そこから流れるように上段突きの形へと変わり、こちらに向かってくる悪魔騎士の勢いも利用した平突きの一撃が、吸い込まれるように首元を貫いた。


 顔の輪郭くらいしか分からない、黒い靄状の怪物が何かを訴えるように、此方を見据えながら黒い霧となって霧散していく。


 「っぅ、はぁ、はぁ、はぁ」


 極限状態だった集中力が途切れた瞬間、いっきに体が重くなるような疲労ステータスが襲ってくるのを感じながらも、初見でボス敵を倒せたことへの達成感に拳を握りしめて、「シャァァァー」と勝鬨を上げてしまう。


 「よくやったぞ、坊主」


 「もう大丈夫だ。無線で連絡が入った、応援が来てくれるぞ」


 「やった、俺達の勝ちだ」


 「おっしゃぁぁぁぁあああー」


 目の前の魔物と相対しながらも、警官らを中心に勝鬨が上がる声を聞きながら、応援が駆け付けた証明となるサイレンの音が、どんどんと近づいてくるのが分かった。


 直ぐに警察等が応援に駆けつけてくれるだろう。


 ……本当に切り抜けちまった。


 負けイベだと思っていた戦闘に勝ってしまったことに驚きながら、ドロップアイテムだろう、目の前に転がっている悪魔騎士の使っていた大剣を拾い上げる。


 「重っ……くない?」


 最初持った瞬間は、まともに持ち上がらないほどの重さだったのが、大剣が自分のサイズに合わせるように縮んで、黒い靄状の形態から一振りの刀に実体化するのに驚きながら持ち上げる。


 自分で言うのも何だが、全世界で1億人近いプレイヤーがいる『武士道』の様々な条件をクリアした本当に一握りの人間にだけ与えられる「剣聖」の称号を持っている。白兵戦のプロフェッショナルである自分だからこそ勝てたような相手だ。


 ゲームセンスの塊のようなシャロはFPS系寄りの適正が強いため装備が整わなかったら苦戦するだろうし、アオのようなスキルが出揃ってからのプレイが上手いゲーマータイプでは、打倒するのは厳しいだろう。


 そんな、強敵を倒して得たドロップアイテムだ、きっと能力には期待して良いだろう。


 序盤から自分の得意とする獲物が手に入るなんて、幸先が良いとほくほく顔をしながら、こいつの試し切りも兼ねて雑魚狩りに協力しようかと考えた。


 ――そんな時だった。


 「【まずい、皆さん、逃げてください】」


 背後から女性の悲痛な声が聞こえたと思った瞬間、ズンと地面の底から浮かび上がるような衝撃が走って、グラグラと地面が揺れ始めた。

 

 「気を付けろ、デカいぞ、落下物や崩落に注意しろ」

 

 「……落ち着いて、姿勢を低く、敵も碌に動けてないから大丈夫だ」


 警官らが、グラグラと揺れる大地に手を付きながら警戒を呼び掛ける。


 電柱が揺れているのがハッキリと目に見えて確認できるほどの大揺れに、まともに立っている事もできず、言われた通り姿勢を低くして耐え忍ぶ。


 ――経験したこともないような激しい揺れに、何か不吉な予兆を感じながら先ほど、この地震を予期したようなことを言っていた女性の姿を確認しようと後ろを振り向く。


 そこには顔や体格などを全て覆い隠すような白色のローブを目深に被った人物が、定まらない足元の中、必死にこちらに近づいて来てくれているのが見えた。


 その意味深なキャラクターの登場に理解する。


 ――まだ、終わっていないのだ、この導入は。


 「まずい、逃げろ、大穴から離れるんだ、崩落するぞ」


 そんな、もう数十秒ほど続いているのではないかと思える大地震の影響で、大穴が淵から崩落が広がっていくのに、誰かの悲鳴のような声が上がる。


 「ぐっ」


 まともに立ち上がる事もできない中で、必死に四つん這いの姿勢で穴から離れようとするが、瞬く間に広がる崩落から逃れる事ができず、成す術もなく巻き込まれてしまう。


 「うぐっぅ」


 妙なモンスターが出てくる、底がまるで見えない、奈落の底に落ちていくか恐怖と、内臓が浮き上がるような落下感に肝が冷えて、悲鳴にも成らない妙な声が喉の奥から漏れ出す。


 ――くそっ、そりゃ、そうだ……あのまま勝って終わりじゃ話が進まねぇーもんな


 悪態を漏らしながら、少しでも状況を打破できる方法やヒントはないかと穴の底に目を凝らすと、穴の奥底で何かが蠢くのが見えた。


 ゴォォォォー


 底なしの闇と同化するような黒色の何かは、まるで戦闘機が此方に向かって飛翔してくるかのような轟音を立てながら遠方から近づいてくる。


 「おいおいおいおい」


 遠目には正確な形は分からないが、ともかく、とてつもなく巨大な何かが凄い勢いで此方に向かってくる威圧感に思わず悲鳴にも似た声を出してしまう。


 ともかく、それの侵攻経路から逸れようと空中を何とか滑空しようとして、本当に侵攻経路から逸れられているのかも分からぬまま足掻いていると――誰かに後ろから抱き留められた。


 そのお陰で、何とか侵攻経路から逸れることができた自分と、すれ違うように黒い巨大な何かが勢いよく地上へと飛び上がっていく。


 「うぉぉぉおおおおー」


 そのすれ違った時の風圧だけで体が錐揉みするように吹き飛ばされる。


 「大丈夫です。私にしっかり捕まって」


 グルグルと回転する体を必死に抱き支えてくれる、誰かにしがみ付くようにして、体勢を整え直す。


 そして改めて目の前の誰かを確認すると、そこには何処か超然とした雰囲気を身に纏った、とんでもなく綺麗な顔立ちした少女がいた。


 金糸のような髪がキラキラと流れるように輝き、翡翠のような美しい瞳に見惚れなら、抱き着いた彼女の服装が、先ほど最後に見た青と白色のローブであることに気付く。


 「……ああ、そんな」


 そんな少女が地上を見上げて絶望の入り混じった声を上げるのに、首を捻って地上を見上げると、空へと飛び上がっていく〝何か〟の姿をようやく確認することができた。

 

 それは、まるで、竜のようだった。


 数十秒近く落下し続けていて、遠目に姿を見ることとなってもハッキリと、その威容が確認できる。


 どこまでも恐ろしい、心をへし折られそうなほどの威圧感を持った巨大な西洋風の竜。


 その竜が、竜の代名詞でもあるブレスを吐こうと、口の中に黒い力を溜めて吐き出す。


 ボガァァァッァアアアアーン


 その衝撃による閃光と轟音が響き、地上を吹き飛ばしているだろう事が、穴の底に落下しながらでもハッキリと伝わってきた。


 ………ああ、ありゃ無理だ。

 

 何とか地上に残れていたとしても刀一本では、どう足掻いても、どうしようもない絶対的な負けイベントに、絶望感よりも先に諦観の念が先に立つ。


 「せめて、この呪いだけは……」


 少女が何かに耐えるように目を瞑ると、少女の身体から後光のような光が溢れ出てくる。


 自分が抱き締めた少女の身体から放たれた白い光が、黒い闇の中に広がっていく光景を最後に、モトの意識は暗い闇の中に包まれて消えていった。


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