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子役もかなり、大変です。  作者: ほっかいろ
第一章~子役、始めました!~
45/46

38、オファー

 2000pt分です!

 加賀雪美は、テレビの前で注いできたコーヒーを飲みながらオープニングを眺めていた。




 まずは前回のあらすじが流れて来た。

 どうやら、夫が前妻との子を連れてきて、面倒を見てみることになったらしい。だがその子には虐待の跡があって…。特に昔と変わらないようだ。


 「これは…」


 画面には虐待されていた前妻の子供役の子役が映っていた。


 「いや、あり得ない。あの子は六年前に死んだのよ。」


 子役の子の演技を見ていると、六年前に死んだ教え子の事が鮮明に蘇ってきた。

 まず、五歳でこんなに上手い演技が出来るのがあり得ない。なによりこの目の使い方、しゃっくりのあげかたはあの子そのもの。

 それに気づいてしまうと、驚きより先に恐怖がのしかかった。


 「あり得ない。ああ、でも見れば見るほどあの子にしか見えなくなってくる。」


 ふと、涙が一粒頬をつたる。

 もし本当にあの子なら。あってみたい。いや、会って確かめなければ。

 

 そう決意をすると、電話を手に取った。

 そうよね。あの子じゃないとおかしいわ。だってあの麻友が負けた相手だもの。

 そう心に念じながら、旧友親友に電話をかける。


 「もしもし?突然申し訳ないんだけど、あなたが紹介してくれた、馬美緒凜々について、お願いがあるの。…あの子に会わせてくれないかしら?」なんだけど








 『ねえ、私の教え子にならない?』


 あの子にこう言ったのはいつだったか。十年、十五年ほど前かもしれない。それだけ昔なのに、その瞬間を今も鮮明に覚えている。


 『あのね、学芸会で主役をやることになったの!』

 『そうなの?どんな感じ?おばさんに見せて。』

 『うん!』


 それは、ある秋の日だった。オレンジ色の夕焼けに照らされたあの子が、少し照れながら見せてくれた演技。それは年に相応しないほどの上手さだった。後半になって慣れてくると、その演技は更に素晴らしくなった。

 自力でそこまで演技が出来たのは、彼女の才能だったんだろう。

 

 演技が終わった後、彼女に訊いた。


 『演技は好きなの?』

 『うん!』

 『…ねえ、私の教え子にならない?』


 ただそれだけの会話を、その時の彼女の笑顔を、声のトーンまで私は覚えてる。


 その日を境に、彼女は私の教え子になった。

 あの子は確かに才能の塊だった。でも、その才能を開花させるのが難しかった。こんな大物を育て上げられるのかという不安と期待が詰まった私の一番弟子。あの子はいつも泣きながら頑張っていた。根気が強かったわけでは無い。何度もくじけて、その度にまた這い上がってくる。そんな子だった。


 「そうね、来週辺りでどう?…分かったわ。よろしくね。」


 そういうと電話を切った。


 「そうよね、あなたみたいな子が事故死で終わるわけがないもの。」


 ふと頬に暖かいものを感じた。


 「私ったら。大人げないわね。」


 さっと涙を拭くと、そっと電気のスイッチを切った。








 「え、加賀雪美!?」


 思わずスープを口に運んでいた手が止まる。スプーンがコトっとお皿のふちに落ちた。


 「でも、なんで?」

 「ドラマを見たんだって!多分自分が昔やった役だからじゃないかしら?感動的ね!」

 

 加賀先生が、遂に私を見つけてくれた。6年間、ずっと待ってた瞬間…。私の恩師にやっと会えるんだ。


 「凜々花?なんで泣いてるの?」


 気づいたら大粒の涙が頬をつたっていた。


 「だってぇ、感動的じゃん、加賀さんに認めてもらえた、って事だと思うと。」


 適当に理由を付けると、両親も納得したような顔をした。


 「来週の日曜日、午前十時に事務所の休憩所で、ですって。」

 「来週…分かった。」


 加賀先生と一週間後には会えるんだ…。








 その日は、弾んだ気持ちでレッスンに向かった。


 「何?そんなに雪美に会えるのが嬉しいの?」

 「はい!楽しみ過ぎて夜もぐっすり眠れます!」

 「ちゃんと昼寝もしんさいよ。まあ、やる気で満ち溢れてるのは良い事だけど…。」

 「なんか演技の出来が悪かったら、会って早々グチグチ言われそうなので…、っていうか先生、なんでドラマの撮影終わったのにまた個人レッスン始まったんですか?」

 「あぁ、そう、今日はそのことについて話そうと思っていたんだけど…。」


 先生がそう言って沢山の紙を机(教室の端にある先生用のデスク)に広げた。


 「実は、あなたが出たドラマの影響か、役の依頼が沢山きてるから、そのことについて話し合おうと思ったのよ。」

 「えぇ~、いっぱいある!嬉しい!」


 と言いつつ広げられた紙を読んでいった。


1.映画の子供役

2.ローカル番組の(地方限定の番組)のドラマの主役

3.ドラマの幼稚園児役(重要人物)

4.世にも不可解な物語の第102話に登場する主人公の子供役

 

 4つだけ?というように見えるが、オーディション無しの、依頼だと考えると、凄く多い方だ。


 「どうする?他のオーディションの案件はあんまりパッとしないものが多いから、この中から選んだ方が良いと思うわよ。」

 「はい…、うーん、一番面白そうなのは、この幼稚園児役なんですけど…。」

 「でも、世にも不可解な物語に莉緒さんがいるから出たい、っていうこと?」

 「はい、そうです。莉緒さんとまた共演したいな~、と思って。」


 そう言いながらもう1度2つの紙を読み直す。


 「…え!?先生、このドラマに出るんですか!?」


 幼稚園児役のドラマの案件をよく見ると、先生の名前がキャストの欄に入っていた。何でそんなこと思ったのか分からないけど、先生はもう芸能界を引退したものだと思っていたから少し驚いた。

 

 「えぇ、まぁね。」

 「へぇ、そうなんですかぁ…。あ~、じゃあ、っていうか、やっぱり莉緒さんいた方が親近感湧くし、えーっと、世にも不可解な物語にしようかな?」

 「そう?じゃあそういう事にしておくわね。」

 「はい。」

 「もう一つくらい選んでもいいのよ。あなたは人気子役なんだから。」

 「えっと、じゃあ…幼稚園のやつやりたいんですけどね、えっと心代わりというか…。」

 「分かったっわ。じゃあ、この二つのドラマで良いわね。」


 そう言って先生は3番目と4番目の紙を取った。


 「え、先生と共演ですか?」


 そういうと、先生は少し真剣な面持ちになった。


 「凜々花、撮影現場では、私はあなたの先生では無いわ。一人の役者よ。一人の共演者よ。だから動揺したら駄目よ。演技に専念して。」

 「あ、はい。」


 なんとなく真剣な雰囲気になった。うん、確かにそれは正論なんだけどさ、私には羞恥心というものがあって…、とぐだぐだ言い訳を作っていると、先生が話し始めた。


 「あなたの役に付いてだけど、まず、世にも不可解な物語、ね。そこには主人公の娘子供役って書いてあるけど、簡単に言うと幽霊役ね。交通事故で死んだあなたは幽霊になって鬱気味な母親の前に現れるの。そして母親が回復すると消える。みたいな。怖い話というより感動する話よ。」

 「幽霊役…『僕たちの夏』でもあったな。梨花さんが演じてたな。」


 っていうか、交通事故経験者だから色々と共通点あるなこれ。考えてみれば私は幽霊に近いのかも知れない。魂だけが別の体に乗り移ってるし。まあいいや。


 「とりあえず面白そうですね。」

 「うん。じゃあ次、『5月に咲いた花』ね。」


 題名は一体何なんだろう。


 「まず、このドラマは貧乏な家庭の親子が、セレブ幼稚園に入園して、色々な差別を乗り越えていくっていう王道のドラマなんだけど、あなたがやるのは、私の娘役。」


 凄いありがちな内容については一旦おいといて、


 「え!?先生の娘役!?あの、やっぱりさっきの…」

 「まだ説明終わってないわよ。それで、その役は、エリートな家系の娘。でも本当は家庭関係は荒れていて、両親は喧嘩三昧だし、母親はヒステリックになっていつも怒鳴るようになった。みたいな役。」

 「ええぇえ~。」


 不満の声を漏らした。


 「だってこの前もそんな感じの役だったじゃないですか?嫌ですよ。また同じような役をやるとか。」

 「でも、このドラマが一番知名度とか、キャリアを積んでくれるのよ?」

 「えー…。」


 一時の羞恥心でチャンスを逃すわけにはいけないのかも知れない…。でもなぁ、先生は嫌だよ。だってこれからもずっと先生と生徒として付き合っていく仲なのになんか共演者として見れないしなぁ…。あぁ、でも、駄目だよね。今が一番のチャンスなんだから、このドラマがヒットしたら知名度も上がって、もっとやりたい役の案件がくるよね!そうだ!未来に保険をかけよう!


 「…じゃあ、やってみます。」

 「本当にやるのね?」

 「はい!」

 「うん、わかった。じゃあ今日はこれだけだから、レッスンが終わる時間まで、私が貰った『5月に咲いた花』の台本でも読んでて。」

 「はーい。」


 そう言って台本を受け取り、台本を読み始めた。


 2100pt分も残ってるんですよね。。。

 あの、期末テストの勉強が…。あの、旅行に行ってたんですよ…。

 …

 ごめんなさい。嘘です。アニメ見て怠けました。

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