4、見学と体験
いよいよ見学です!
「緊張するなあ。」
今日は子役事務所の見学に来ている。
大きい建物に入ると、受付があった。
子役事務所に受付?と思うかもしれないが、元々ここは劇場だったそうで、その社長さんが役者さんで、まだ技術が足りない子供たちに指導をしていたのがきっかけで創立されたらしい。劇場が大きかったうえに、教室を増量していった結果、こんなに大きくなったらしい。
ということで、受付の人に見学の話をすると、第二休憩所でお待ちください、と言われた。
第二休憩所は、すぐ近くにあった。
そのベンチには、私のほかにも、年上の子達が、ざっと二十人程、緊張した面持ちで座っているのが見えた。
いやー初々しいね。
一人だけ呑気な気分でおやじみたいに飲み物を買って飲んだりしてると、いかにも「案内係のお姉さん」って感じの人が来た。
その人は自己紹介を終えると、建物の案内をはじめた。
これでもれっきとした先生だそうだ。
建物の案内が続くにつれ、教室が見えてきた。
「ここは、未就学のお子様のクラスですよ。」
早速自分の年のクラスだと知り、ワクワクする。
「よろしければ、中に入ってみますか?」
お姉さんがそういって、扉を開けた。
その教室には、バレエ教室の様に、鏡が右側の壁に貼ってあった。左の壁には、荷物用のかごと、低い棚みたいなものがある。生徒は二十人程だった。
「ここは一組で、二組と三組もありますが、とりあえず一組を見学してみてください。」
先生は軽く会釈して授業に戻ったのだが、子供たちはひそひそチラチラこっちを見てる。
その雰囲気に、案内のお姉さんがきづいたのか、この教室の先生と目で会話してる。
すると、納得したというような顔になり、最終的に頷きあった。
「いきなりですが、ここのクラスに入る予定のお子様たちは体験をしてみませんか?子供達も興味津々ですし。」
振り返ったお姉さんが笑顔で言う。
「はい!」
喜んで!
すると、お姉さんは、
「あなたはどうする?」
と、後ろに目を向けた。
え?誰に言ってるの?
と、後ろをみると、ショートカットの女の子が、恥ずかしそうにうなずいてるのが見えた。
え、こんな子いたんだ。
じっくりとその子をみる。
髪はショートカットの、つやつやの黒髪で、目は、夜空を連想させるような真っ黒い瞳に、光がともっていて、なんともきれいだ。鼻筋は通っているし、肌は真っ白で、口元は小さくて、一言でいうと、日本人形って感じだ。
まあまあ可愛いからと自分の顔に酔っていた自分が恥ずかしくなる。
その子と一緒に教室に入ると、比べられそうで恥ずかしくなった。
「こんにちは~!先生の美川です。二人は先に自己紹介していてね。」
そういうと先生はお母さんたちのところに行って、なにだか話してる。
保護者は見学禁止だそうだ。その代わりにモニターでなんとか…
と、聞き耳をたてていると、隣の日本人形ちゃんが、恥ずかしそうに私の方をみたり前を見たりしてた。
私からしたほうがいいのかな?
「えっと、私の名前は馬美緒 凜々花です。りりって呼んでください!あ、年は四歳です。よろしくお願いします!」
私が自己紹介をすると、日本人形ちゃんも自己紹介を始めた。
「私の名前は、 霧島 小雪です。四歳です。よろしくお願いします。」
小雪ちゃんか。イメージにピッタリの名前でかわいいな。同じ年なら友達になろっかな。前世は演技三昧でボッチだったしな。あ、黒歴史が……。
なんて考えながら指定された位置に体育座りした。
まもなく、先生が保護者を追い払ってきた。
「はい!じゃあ、みんなも自己紹介してください!」
まだ二、三十代の、綺麗な女の先生が、よく響く声で私達を見回した。
「はい!私の名前は、小野 美香 です。年は五歳です!得意な演技は、泣く演技です。よろしくお願いします。」
スムーズに自己紹介を始めたのは、何回も聞いたことのある名前だった。
ハーフっぽい顔つきに、ゆったりとカーブのかかった髪が合っていて、絶妙のオーラを醸し出している。小野 美香。名前はごく一般的だけど、今、ドラマやCM、映画にバラエティーと、テレビで張りだこな、天才子役と呼ばれる、想定年収1億円以上の子役だ。一億と言えば、サラリーマンの平均年収の二十倍だ。恐るべし。っと、はずれたが、、ここは、凄いとこだったんだ、と、改めて実感した。
その後もスムーズに自己紹介が進められていく。
当然のように、私と小雪ちゃんの番が飛ばされてるし、凄い理解力とか判断力とかあるんだよねえ……。私がこのぐらいの時は、実家の鶏と泥だらけになりながら遊んでた気がするんだけど。
実家の鶏の事を考えていると、なんか周りがざわめきだした。
何事かと顔を上げると、一人の女の子が言葉に詰まってる。
その子は…はっきり言おう。太っている。そのうえ内気なのか…。小さいながらに苦労してきたんだな。
後ろから、笑い声が聞こえる。なんとかフォローしてあげたいけど、逆にプライドを傷つけちゃうかもしれないしなあ。
「佳苗さん、早くしてください。」
そんなことを考えていると、先生がせかしだし、佳苗ちゃんは、泣きそうになってきた。
「佳苗ちゃんっていうんだ!」
心苦しくなってきた私は、勢いに任せて立ち上がった。そのまま佳苗ちゃんの方に行く。
「苗字はなんていうの?」
いかにも、「親しくしたい」感を出しながら近づく。
佳苗ちゃんは戸惑いながらも、
「えっと、あの、牧野です。」
と言ってくれた。最近の子供はこんな小さいうちから敬語が使えるのか……。凄いな。
「そうなんだ!よろしくね!佳苗ちゃんって、得意な演技とかある?私は、うーん、笑う演技かな!佳苗ちゃんは?」
「えっと、私も笑う演技、かな。」
「そうなんだ!いき合うね!よろしく。」
「こちらこそ、よろしく。」
おおまかな事を終わらせ、自然な流れでその場に座った。
さっきまで笑ってた子たちは、決まりが悪いかのように顔をしかめていた。
一応言っとくけど、幼稚園児だからね。
まあ、幼稚園の時もいじめとかはあるものなのかな?田舎うまれ田舎育ちの私には、数少ない幼馴染しかいなかったけど。
「ありがとう。」
隣で、佳苗ちゃんが声をかけてくれた。
「ううん。それより、これからよろしくね。」
幼稚園児、怖いですねえ、、、。