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子役もかなり、大変です。  作者: ほっかいろ
第一章~子役、始めました!~
39/46

33、結崎 実さん

 1700pt分です!

 「え、オファー!?でもまだドラマも公開されてないのにですか?」


 羽田さんの車の中で、つい大声を出してしまった。


 「そうなのよ。実はね、。」


 羽田さんはにっこりと微笑みながら、


 「それがね、そのオファーは、大竹監督からなの。」

 「あ、そういう事か。」


 大竹監督とは、「この手をいつまでも」の監督だ。


 「良かったわね、あなたの演技がこんなに早く評価されて。」

 「はい。それで、どういう内容のオファーなんですか?」

 「それが、大竹監督も最新作とは言っていたんだけど、まだ具体的には話せない、って。映画だったのは確かだけど。」

 「え、じゃあそれって撮影いつから始まるかも分からないんですか?」

 「うーん、一年後くらいね。」


 うわ、そんなオファーがあるんだ。


 「じゃあそろそろ着くから、着いたら監督にきっちりお礼言っておくのよ。」

 「はーい。羽田さん今日もずっと見ててくれるんですか?」

 「うん。まあそれが私の仕事だからね。…あ、そうだ、大事な事を言い忘れてたわ。今日撮影早く終わるから、帰ったらロケ撮影の準備しておくのよ。出発明後日だから。」

 「もうそんな直ぐか、楽しみだな~。」

 「うん、じゃあいってらっしゃい。」

 「行ってきまーす!」


 今は三話目までの撮影が順調に終わり、セットも新しいのに変わった。一週間位前から始まった新しいセットは、TODテレビ局付近にあるスタジオに作られた、汚いアパートのセットだ。セットの説明の前に、TODテレビとは、ドラマが多く放送されるテレビ局だ。さあ、次にセットだが、何となく分かるかも知れないけど、美穂の前の家、というかお母さんと住んでいた家だ。ほとんどは回想シーンなので、とにかくカットが多いが、とにかく早く終わる。


 さて、まあ予想はつくだろうけど、虐待シーンが多い。特に今日と昨日は、1話での回想シーンではない、美穂の現状を描いた撮影だったため、虐待シーンが更に多かった。昨日はもう叩くふり、の演技を上手く合わせることが出来ず最悪だった。


 因みに虐待シーンの撮影は、色々とカットして作られている。

 例えば、虐待してる時に、蹴られている様子を私に近いカメラで撮影し、それに合わせて女優さんが人形を蹴ったりする、なぜなら、蹴るときは軽く蹴らなければいけないが、それだと虐待に見えないからだ。よく見るビンタのシーンは、流石に合成技術が追いつかないので、出来るだけ影になるように撮影したりと配慮されている。


 「おはようございます。」


 スタジオに入ると、早速スタッフさんや役者さんと挨拶を交わし、台本を読みながら水を飲んだ。


 「あそうだ、監督、あの映画の件、ありがとうございます!」

 

 丁度スタッフさん達との話を終えた監督にお礼を言いに行く。


 「いやいや、結構後の話になると思うけど、凜々ちゃんの為だけに作るから、そのつもりでね。」

 「え、そんな大袈裟にしなくても…。」

 「いや、私が個人的にやりたい事だから。まあ、凜々ちゃんもそれまでにもっと腕をつけてね。」

 「はい!頑張ります!」

 

 ここら辺で、照明さんが監督に何か言いかけたので、私は座りなおした。


 「凜々ちゃん、おはよう。」

 

 台本から目を上げると、そこには結崎 実さんがいた。結崎さんは、実母役の女優さんで、こういう悪役系の役を多く務めている女優さんだ。


 「おはようございます。昨日は迷惑かけちゃってすみません。」

 「いやいや、気にしてないよ。こういう撮影初めてなんでしょ?」


 こういう撮影?ドラマっていう事?大きい役っていう事?映画の撮影は、『こういう撮影』にはいるのおぉぉぉ?!えっと、そういえば先生が、間違っててもいいから迷わずに答えろって…、


 「あ、はい!」


 はい、オッケーオッケー、ギリギリセーフ!(多分)


 「じゃあまあ仕方ないわよ。…あ、そうだ!これ、凜々ちゃんにって思って持ってきたの。」


 そういうと結崎さんはかばんからクッキーの箱を取り出した。しかも結構高級なやつだ。


 「うわぁ、美味しそう!…あ、でも大丈夫です。私舌肥えてないので、こんな高級なものいただけません。」

 

 ちょっと言い方が微妙になったけど、まあいいや。

 

 「凜々ちゃんよくそんな言葉知ってるね~。っていうか子供なのに謙遜とか可愛くないわよ。ほら、そういうときは笑顔で受け取って?」

 「結崎さん、」

 「笑顔で?」

 「…分かりましたよ。」


 にこっと営業用スマイルを作ると、

 

 「ありがとうございます!」


 と、元気よく受け取った。

 

 「どうでした、今の笑顔。」

 「いや、ここまで忠実に再現してくれるなんて流石だね。」

 「ありがとうございます!あ、じゃあ後でこのクッキー、一緒に食べません?休憩の時に。」

 「おお、良いね、そうしよう!」


 という風に、結崎さんとは毎回こんな良い感じの会話が多い。だからなおさら撮影時に気まずくなる。

 というのも、こういうアクションシーン、というか、動く系の演技ではスイッチが入りにくい。その動作やアクションをするのに頭がいっぱいだからだ。これも改善しなきゃな。


 「じゃあそろそろ第1シーンリハーサル始まります。」


 監督の掛け声と共に、その場の人たちがざわざわと動き出す。第1シーンは、美穂が帰ってくると、テーブルの上に賞味期限の過ぎた食べ物が置いてあり、それを食べていると母親が帰ってきて殴られる、って感じで、結構長いシーンだ。


 「はいじゃあ3、2…」

 

 1、という合図で、扉をがらがら、と開ける。


 イメージは、寂しさを隠しながら明るく振る舞う、だ。よし、リハーサルだしね、スイッチ入れていこう~。という感じで、まあリハーサルではいつもスイッチ入れてるんだけど、例えば食べるシーンとか、必死に食べる、っていうシーンだから、見苦しくなったりするので、リハーサルでやってみて、本番では程度を考えてスイッチを入れている。よし、スイッチ入れ!!


 「…ただいま~。」


 美穂がテーブルの上に置いてあるパンを見つけて必死に食べ始める。


 ガチャ


 瑠璃子(前妻)が帰ってくる。美穂の動きが止まり、パンを置いて、部屋に入る。


 「はぁ~。ん?なにこれ…?賞味期限切れてるじゃん…。」


 瑠璃子がコップの水を飲み干して椅子に座る。そこで食べかけのパンを見つけて美穂を探す。


 部屋のドアを開けて美穂を見つける。


 「何よ?何で隠れてるのよ!?」


 美穂に怒鳴る。台本だと美穂が立ち上がって謝りだすけど、いつまでも凜々花が動かないので結崎さん戸惑う。


 「…。」


 実さんアドリブ苦手なので考えてる。そこで、美穂が過呼吸気味になる。


 「ぇ…。」


 結崎さん小声で戸惑いつつも演技だと信じて続ける。


 「美穂、出てきなさい!なんでそんなところにいるのよ!?美穂!!」


 実さんが、台本では次に謝ってる美穂を蹴る、という設定なので、引っ張り出す感じの後に蹴る流れでいっか、と決めた。

 

 「美穂!」


 うずくまりつつ過呼吸な凜々花に蹴る真似を続ける。


 「ごめんなさい、ごめんなさい…。」


 美穂が泣きながら繰り返す。『どこで終わらせればいいのおぉぉぉ!!』と心の中で泣きつつ演技を続ける結崎さん。


 「カット。」


 その声で目が覚めたっていうか、凜々花に戻った。


 「ふうぅぅぅぅ。」

 

 大きく息を吐いた。思ったよりも、深く入り込んでたみたいで、なんか、凄い疲れた。


 「はあぁぁ。」


 結崎さんが息を吐いた。


 「すいません、ちょっとアドリブっぽくなっちゃって。」

 「いや、大丈夫だよ。でも私アドリブ苦手だから焦ったわ~。あはは、こういう技も付けとかないとね。」


 「次のシーン入りまーす!」


 そんな話をしているうちに、監督からの指示が出て、私達はまたスタンバイした。

 

 虐待って怖いですよね。虐待された子達は、美穂の場合は幸運にも新しい場所が出来たけど、殆どの子たちは自立できるまで待つか、施設送りか、それしかないのかと思うと心が痛いです。毎日痛い思いして恐怖に怯えながら暮らすって、どれだけ辛いんだろう…。今の両親に感謝ですね。

 あ、でも、最近怒鳴っただけで精神的虐待だ、と騒がれるらしいですね。躾と虐待の区別ってつきにくいけど、あまりにも些細な事で虐待と決めつけるのは違う気がします。

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