29、マネージャー
1300pt分です!
「え、マネージャー?」
撮影初日一日前にいきなり出てきた話に、私は思わず訊き返した。
「そうなの。ほら、お母さんも忙しいし、いつも出来る訳じゃないし。で、事務所の方に相談したらね、忙しい期間だけでもマネージャーを付けてもらえることになったの!」
その話には、一緒に朝食を取っていたお父さんも驚いていた。
「凜々花にマネージャーだなんて、凄いじゃないか。」
「期間限定なんだけどね。」
そんな仕組みもあるのか。期間限定だとしても、お母さん的にはかなり助かるんだろうな。
「で、その人と会ってもらおうと思うんだけど。」
「お母さんはもう会ったの?」
「いや、私もまだよ。」
にしても、マネージャーだなんてやっぱり私の事務所凄いな。
「あ、もうこんな時間じゃない。早く支度して。」
「え、今日なんかあったっけ?」
「何かって、九時からマネージャーさんと会う予定だけど。」
「え、今日!?」
それからはもう急いでご飯をかきこみ、身支度をしてなるべく綺麗に髪をセットして、家を出た。
車に乗り、10分ぐらい経つと、マネージャーさん(予定)の家に着いた。めっちゃ近かった。
「ピンポーンパーンポーン ピンポーンパーンポーン」
マネージャーさん(仮)の家のベルは、こういう音楽的なのが流れるやつだった。
「は~い。」
ドアが開いた。マネージャーさn(仮)さんは、20代後半のような綺麗なお姉さんだった。
「あら、もしかして場緒さん?」
「はい。羽田さんですよね?」
「そうです。じゃあこちらが凛々ちゃん?」
「はい。そうですよ。」
「こんにちは。よろしくお願いします。」
まあ(仮)だけど、一応かなり話が進んでいるので、そこまで子供ぶった態度はとらない。ずっと一緒にいるかも知れない人だから、この後もずっと猫かぶらなきゃいけなくなるかもしれないからだ。マジで疲れるんだよね、そういうの。
「じゃあ、あがって」
「ありがとうございます。」
そう言って玄関に入った。清潔感と清楚感の塊のような部屋に通され、ソファーに座らせてもらった。
「ちょっと待ってて下さいね。お菓子でも持ってきますから。」
なんか凄い。このフワフワした雰囲気の中に潜んでいる、きびきびした感じが凄い。仕事もはやいんだろうな。
「あ、ありがとうございます。」
少しすると、羽田さんがお茶を入れて来てくれた。
「はい、どうぞ。凛々ちゃんでしったっけ?」
私の前にティーカップを置きながら羽田さんが言った。
「はい。」
「よろしくね。」
「よろしくお願いします。」
「あ、そうそう、美味しいチョコレートがあるんだった。ちょっと待っててね。」
そう言って羽田さんが棚の中から、丸い缶を出して蓋を開け机の真ん中に置いた。輝くチョコレートはなんか食べれる気がしないぐらい綺麗だった。
その後は、お母さんと羽田さんが小一時間お喋りをしだして、私はなんか高級なんだろうけど風味が強すぎて正直苦手だったお茶を頑張って飲んでた。
「じゃあ、そういうことでお願いします。」
「はい。分かりました。明日から送り迎えとスケジュールを立てる、ということでよろしいでしょうか?」
「はい。あと、これがスケジュール表です。」
「ありがとうございます。」
という事で、早速明日から始まることになった。スケジュールを立てる、というのは、大きなドラマなので、バライティーの仕事とかも来るから、そういうのを管理するっていう事らしい。
「凜々花!起きて!今日は羽田さんが来るから遅刻できないわよ!」
その声で目を覚ますと、昨日の話を思い出した。
「はい、着替え!歯ブラシ!朝ご飯!」
お母さんはよほど遅刻したくないのか、かなり急いでた。
「今日8時30分に羽田さんが来るのよね…。」
ご飯食べてる間にぽつりとお母さんがつぶやいた言葉に驚いた。レッスンが始まるのは10時だし、家から事務所までは車で20分もかからない。どうりで急いでたわけだ。
「え?何でそんなに早く行くの?」
「途中でお買い物に行きたいって言ってね…。」
え?そんなことになってたのか…。昨日聞いてれば良かったな。と思いつつ時計を見ると、8時15分を指していた。焦りつつトーストをかき込むと、チャイムが鳴った。いちごジャムを塗るのをあきらめて、食パンを急いで食べて、牛乳を飲み干した。
「凜々花?今来れる?」
玄関からお母さんの声が聞こえた。
「うん!」
そう言って小走りで玄関まで向かった。
「よし、じゃあ靴はいて。」
急かされつつ靴を履くと、
「じゃあ、羽田さんよろしくお願いします。行ってらっしゃい。凜々花。」
という感じで、流されるように家を出た。
「行きましょうか。」
車で少し走ると、なんか子供服専門店?みたいなところに着いた。
「うわ…。」
感嘆の声などではない、ドン引きの声だ。店にはざっと1~3万円ほどする子供服がズラリと並び、セレブっぽい家族が優雅な雰囲気で買い物を楽しんでいた。そして、子供が、ジェスチャーしか見えないが、「これが良い!」と服を指差すと、ポイっと買い物カゴの中に入れ、サラッと会計を済ませる。5万もする服をいとも簡単に買っていたのを見た時には、流石にドン引きして思わず声が漏れた。
「あら?これなんて良いじゃない?」
「え?」
「やっぱり、服装って大切だからね。イメージも変わるし、自信も上がったりするわね。芸能界では意外と、周りの人たちとの人間付き合いが大切だったりするからね。だから、お仕事用の服を買おうと思って。」
「え?ここでですか?」
「そうよ。」
「え、いやいや、いいです。服なら持ってますし。」
「それは私服でしょ?仕事用の服も必要なのよ。もうお母さんからお金を預かってるから。」
「え、でも大半衣装用意されてますし…。」
「バラエティーとかロケの時は用意されてないこともあるから、備えないといけないのよ。」
え…?もったいない!絶対にもったいない!!子供服に数万円はありえないでしょ!
「う~ん、とりあえず、これ着てみて。」
残念なことに、私の心の声は届かず、というか、反論する暇も無く、着せ替え人形にさせられた。
「よし!これね!」
結局、3組の服を決めるまでに1時間かかった。最終的に、疲れていたしこんなに頑張って決めたのに今やめても、また同じことが起こるかもしれない、という恐怖で、結局、その3組みを買うために7万円を支払っている羽田さんを止めることはなかった。
「あ~、楽しかった。」
羽田さんはこういうショッピグが趣味なのかストレス発散なのか、事務所に送ってくれるまで、ずっと生き生きとしていた。一方、私は疲れただけなので、テンション低く、レッスンへと向かった。
「ああ、凜々、今日はちょっとやりたいことがあるんだけど。」
レッスン室に入ると、先生が話しかけて来た。
「なんですか?」
「ほら、やっぱり、あなたの役がかなり濃いから、バラエティーのお仕事とかも、沢山入ると思うのよね?」
「そうですね。」
「でも、バラエティーのレッスンあんまり上手く行ってないそうじゃない?」
「ま、まあ。」
バラエティーのレッスンって言うのは、礼儀作法のレッスンで、月2ぐらいでやるやつ。
「だから、今日は、演技のレッスンの代わりに、バラエティーのレッスン受けてもらおうかと思って。」
「え…?」
「っていうことで、礼儀作法のクラスに行ってね。」
「えー!!!!」
「もうヤダ。疲れてるのに。こんな日に限って…。っていうかまだ子供なんだから、そこまでトーク力無くても良くない?別に合わせて笑えばいいし、スベっつちゃったところはカットすればよくない!?っていうか台本あるんじゃないの!!?」
ということで、疲れてるのに、今日はバラエティーのレッスンに代わったことにイライラして、廊下で愚痴った。まだ5歳だよ!?
「あなたはただの子供じゃなくて、子役ですからね?そんな責任感で大きな役が務まるのですか?」
気づけば礼儀作法の先生が目の前で仁王立ちしていた。
子役とて一人の立派なこどもじゃないか!私に人権は無いのか!!!
「はい、気を付けまーす。」
心の中で文句を叫びながら、結局は先生に促されるまま教室の中に入っていった。
最近、ちょっと遅れてるけど、じゃがありご、流行ってますよね。作ってみたいな。




