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遠神の帝国Ⅰ  作者: ペコ
22/60

22 夢のうちそと

 火焔(かえん)に騎乗し、舞い上がる

黒煙と火の塵を我が(ころも)とする


 眼下は一面、(くれない)の大海

劫火こそこの(ただ)れた(その)にふさわしい


 我と淫楽を喰らいあいし百余の眷属(ものども)よ、

(おのれ)の身も灰燼(かいじん)と帰せ


 我と因業(いんごう)をともにせし(ししゃ)

再会を期せ


 そして高く舞い上がる

雲中に高く舞い上がる


 雷鳴は我が叫び

雷電は我が(むち)

大き雨雹(うひょう)は我が血涙(けつるい)


 さらば、罪業(ざいごう)の楽園よ、汝は我を失った

我を揺籃(ようらん)せし煉獄に未練なぞあるものか


 ゆくは、白き明けの空のまだこぬ、彼方(かなた)、闇の夜に沈む都

我を()めし、元凶(げんきょう)どもぞ巣くう

その(けが)れた(とこ)にいざ礼に報いに参ろうぞ


 いく淫の嵐こそ我が騎行(きこう)と知れ



 狂おしい、真昼のまぶしい光が乱舞の空には

溶け込んで、眠ろう


 橙色が融けて沈む黄昏(たそがれ)に目覚めよう


 雲を()かせ

黒雲を起こし

回し高く巻き上げる

我の時間が始まる


 そうして夜五の嵐に騎行して

すべての始まりの都は

今、眼下にあり


 頂きは遙か

(こご)える天空


 月と星を独り占めして

下界は広がる暗黒の雲のスカートの下


 雷鳴を(とどろ)かせ

雷電を落とし

城を神殿を撃とう

絶え間なく

真黒い燃えかすにして

蹴飛(けと)ばしてやろう


 いでよ、我と堕ちし百余の淫魔、眷属よ

角笛(つのぶえ)を昂ぶらせ鳴らせ

淫風をとくと吐け

貴人、神官どもを、淫業(いんごう)の狂気に(おとし)めよ

そして喰らえ、喰らい尽くせ

さすれば、我は

この罪の都にこそふさわしい

強欲の悔いの大涙(たいるい)を高き空から叩きつけてやろう



 ひとり、(あだ)(とど)めること(あた)わず(あや)めた

またひとり、またひとりと

仇に止めること能わず誤めた。


 仇に止めること能わざれば

際限が失せ

容赦が失せ

ひと夜のうちに

万五十の(たみびと)()していた。


 老いも若きも泣く赤子も

ひとしく生気を(たぎ)ららせ

ひとしく生気を(くび)り、喰らっていた。


 なんという非道、(しこう)してなんという度し難く不快極まる快楽と、その積層





 私には決して放してくれない胸の悪くなるひどい夢がある。


 誰にもあかせない私だけの秘密の怖ろしい夢・・・私の寝顔はさぞや怖い狂った笑みを浮かべていることだろう


 最悪の私の、最低の悪夢は終わったというのに初めて、地獄の記憶を子細まで初めて、初めて忘れないでいた


 私はきれい事が好きに違いない


 この世の醜悪すべてが焼き尽くされて白く、色を喪った清らかな灰と舞い散るなら、穢れた私の穢れた身魂もきっとそうなれる


 そのための浄火、浄火。それを求めた罰が、この卵生の有尾の体に転生と、今宵(こよい)の夢で思い出した。今になって心底の最遠より、思い出した


 きっと天の彼方で約束の火が起こり、その印しの先ぶれで忌まわしい秘密を封印の因果の重鎖がゆるんだか


 そうであるなら、もはや事態が決定的になったからこそだろう。共和の私のあわれな領民も逃れるすべはない


 中立でいるのを許した無力なものも、それ以外の味方も敵も何もかもすべて焼き尽くされて、何もかもすべて道連れに、私の灰も大地が溶けて沸騰する灼熱のガラスの大海に沈むだろう


 今の静寂(しじま)はその前に許されたつかの間の安寧


 人を不信の自分には、天を不信の涙降る細雨の未明(みみょう)(ねや)の衣が相応(ふさわ)しい


 そんな私であると知らずとも、添い寝のものは私の眠りの姿を知る身なれば、きれい事の裏の最遠に隠された気配に触れておかしくない




『・・・タrアしゃま、だいじょうぶ?・・・』


 ああ、この声は抱き(ベッドメイド)のお務めのrウ。名前を許す幸いなる少数のひとり、幼き雛子。これはまだ私はまどろみのうちに半ばあるのか。


 足早く遠く去り、ぼろげとなる恐怖、その残渣なら振り(はら)うことができよう、よし覚醒しよう。


 夢のそとには実体がある。逆らいがたい(ぬく)い匂いがする。


 幼さの残る小さな娘への(いと)しみの気持ちに駆られ、横向きに胸元に抱き寄せて(まなこ)を開く。



「・・・、起こしてしまったのね、rウ」


「うなされていたの、タrアしゃま」


「それはすまなかったわ」


 上目のrウのつぶらな二つの宝石の玉の中を居場所に映る自分の実在が返事する。それを夜明けと常夜灯の薄暗がりの中でも私の魔眼は見逃さない。



 起きがけの私は頭がうまく回らない。まどろみがいらぬ尾を引くうちは、あれこれと善し無き事を考えてしまう。


 この夜は特別にひどく非情、怖ろしくも重大な、忘れることを許されざる夢見があった確信がしきりにしてならないのに、現実は鮮烈、現実の光景は常に圧倒的で、容赦なく意識から落とされて遠く消える闇の夢の欠片(かけら)



 つのる不安、不安だけが置き去りにされて、後ろの座を譲らない長年の難の難儀な続きをたぐりよせた。


 私の尾の共有感覚がまともであったなら、名で呼ばずとも人との交わり、心のやりとりになんの支障もない。まともであったら、仮名も口にするは特別な仲に限るというのに。


 私の尾は見かけだけの飾り物。くねくねと或いは伸ばし或いは丸く或いは巻き付けて、動きには全く不自由はないが、それだけだ。


 不感応尾の障害者、それが私。


 機微はおろか人の区別からして容易なく、世わたりの身の置き所にも不自由するはずなのだが、何故か私には物心ついた頃には、それを補ってもなお有り余るものがあった。


 魔眼もその一つの特異な体質、そして強力で特異な魔法。それに任せて生きていた、育っていた。


 そんなふうの変わった雛子にも大人になりかける歳のころがきた。尾の官能の欠如の不都合に面と向かわざるをえないときが来た。


 いっこうに吹いてこない恋い尾の嵐。季節ごとの冷たい無精の卵がただただ虚しかった。


 年月に虚しさは重なりつもるばかりで、次第に耐えられないものとなった。さりとて顔を広く知られている立場であれば、盛り場を漁り、変態に屈辱の精を請うわけにもいかなかった。


 とある洞に落盤事故で閉じ込められ、それを機会に尾のできが問題とはならない異民の牡相手に身をまかせる機会を得るまでは。


 そうしてやっとの思いで孕み、股腹を痛めた卵には特別なはからいをした。


 秘密裏に共和の孵化の巣で保護に保護を重ねて、特別に特別な雛子、遺伝の半分と残りと体の形質すべては母なる私の続きと、我がままの娘であれと思いを重ねて、雛子のこの歳まで育て上げた。


 


 勿論、私が産み親と、素性を(つまび)らかに告げるなど、世間体も悪い非常識なことはしていない。


 だが、もう片親が何処で知ったか、理不尽にもほどがあろうに、親であることの認知の公表と引き渡しをこの私に要求してきた。


 あの犠牲者が出た落盤が事故にあらず穴竜をけしかけたものがいるとほのめかしさえしてきた。


 そんな醜聞(スキャンダル)の公表を許すわけにはいかない。それより何より、我が娘rウを失うのも、rウとの仲に傷をつけられるのも絶対にごめん。なんとしてでも、なんとしてでもだ、絶対にごめんだわ。


 理解されがたい異常な執着なのはわかっている、否定はしない。わかっているがどうしようもできない。それが私の(カルマ)というものであるものならば、さぞやいかんともし難いほど遠くよりあり、深いということだろう。


 思わず強く、ぎゅっと抱きしめすぎていた。


「く、くるしいでしゅ、タrアしゃま、くるしい」


「す、すまない」


 この子には容易(たやす)く謝まることができる。それが心地良くさえある。なぜそうなのだろう、なぜこうにも愛くるしいのだろう。そのどこに負い目を感じるのだろう。この子と別れずにいられるなら・・・






 夜の分限がいっせいに退出する日の出の刻、大尉はひとり軍用飛竜を駆り、塔の屋上天蓋から隣の領都に向けて出立した。


 なぜか夜半すぎまでの澄み渡る晴天とはまるきりに変一して、見通しは全くきかなく危険な状況になっていた。すぐに高度をさげたが、視程は霧雨を孕んだ、濃い灰色のぬれ(もや)のおぼろの底、およそm60直下の鉛色に凪いだ湖面まで。ほかに陸標(ランドマーク)たるものも全く見えず、翔6の羽ばたきと合成の向かい風の音だけを供とする飛翔は里五霧中の今の置かれた状況を象徴しているようだった。


 泥のような短い眠りを間に挟んで未明からの黙考を続けていた。


 着任早々に所轄の警察権と司法権を直接口頭で通達、委嘱された。いくら最遠の辺境の地とはいえ、なり立て大尉の身には異例にして過分。


 当地の軍事的な緊張の高ぶりは旅程中から耳にしてはいたが、偶然の機会に乗じて急ぎ手配する必要があるほどの脅威にまで情勢が切迫していようとは予想だにしなかった。


 そこに徴用兵の直訴。それに関連の本省外部局辺域監察軍(MFM)が掴んでいるはずの情報は、必要というにも足りなさ過ぎるどころか、肝心の部分もなにもまるで閲覧できなかった。


『足る情報には尉官の自分の秘密権限では届かないということだろう。この地域紛争より上位の脅威の背景があるのかもしれない。甘かった。きな臭さに関心が及ばず、近辺の状況を確かめずに灰の魔法の塔領に直行するとは、自分はとんだ火中に飛び込む虫だな』


 裁量権限の委嘱の唐突さは迅速な対応を求めていた。状況の把握を急ぎ、強権の発動で、関係者間の利害を不平等であろうが調整を強要し、仮初めであろうが当座の安定を政治的に達成すること、それが期待されていると思われた。


『仮に不首尾な結果に終われば(任官時、自分の脳裏にすり込まれた)世界帝国の覇権統治(ヘゲモニー)の平和の大義は、後顧の憂いを断つための示威にする、苛烈な鎮圧を強制してくるだろう。


 そして軍務で戦闘思想(Bドクトリン)が寡兵(かへい)による圧倒的な戦略魔法に立脚する暴力装置を発動し、戦術無用の恐るべきる無慈悲で罰一戒百の広大な蹂躙を実行することになる。


 それが自分の初戦でも、さぞや怨嗟の恨みの的にされるな』


 騎上の大尉はその理解に沈思のうちに到達した。


 大上段で襲いかかってくる難題はそれひとつではなかった。


 他にも、重篤な状態が心配の思い人、かぜよみのこと。それにとわかに現れて去った匠師に申し置かれた詳細が不明のふたつ。赤火星の天の厄災と、白と黒の対の雛子の件。


 それらのどのひとつをとっても容易からほど遠く思えて、詰まないであたれる自信からも遠かった。




 直下(ました)に限られるぼうっとした景観はやがて湖岸線を越えた。

 緩やかな上りがしばらく続く実りの畑作地に至り、飛竜の翔6はその勾配にあわせ力強さを増していった。


 だが峠に至る交易の本一道を狭い視界のうちに捕らえた頃には濡れ靄は灰色の濃さをいっそうつのらせ視程はm40を切ろうとしていた。


 空にも使える航法の魔法はあるが地形複雑の山岳地で使うには精度が荒かった。現在位置の見当識を失えば、崖壁の狭間を抜けていく峠に達するのは至難のわざ。それどころかその前に視界不良の空間失調で魔に導かれるか、急峻な山肌へ接触、いや激突に終わりかねなかった。


 都合良く領境の尾根に向かって吹き上がる気流もこの危うい天候でなくてもそうあるものではなかった。


 それで灌木の低い茂みの間を縫って登る道に沿い飛ぶ、最悪だけは避ける選択になった。


 不意に視野に立ちはだかる岩塊に衝突を避けるべく、這うような速度に落として飛び、慎重に高度を稼いでいくのは準閉所からの離陸を繰り返すにひとしく、飛竜にとり大変に消耗する労役だった。


 その面倒な低速上昇をしながら、峠道のつづら折りの転進のたびにぐるりときわどい限界旋回を強いる困難な制御の繰り返しで、騎手の大尉の方も思考を推進する余裕がなくなっていった。


 汎耐候の軍衣、飛翔服(fスーツ)の(おもて)は霧の雨滴をはじいても、そのうちでからだは緊張の()やい汗で濡れていた。


 向かう風の音より、飛竜の息と翔6の羽ばたきと大尉の息とが荒さを競って、困難な状況に追い詰められていた。


 軍務であれば生死を確率の天秤に預け任務を遂行することは稀ではないと、決して怯まぬ教導を受けた帝国軍人の魔法者にも、共和の隣領との区界の(たお)は容易でない要害(ハードル)と化していた。






 空に高く高く雲を湧かせる魔法をちょっとばかし手直したら、ほらこんなふうに、地に朝の靄を仕立ておろすことは朝飯まえ、なーんてね。峠の休石に腰を据えて集中、集中。


 先んじて不自然を繰り返し演出しておけば、特別に靄濃くするいざという日、監視の目をいかにも自然にあやしげなしにふさいで干渉してくる初動を遅らせる助けになるし、魔でも呼べれば始末にこまる農奴gーレムや有象無象の使役虫(dローン)の牽制にも役ひとつ買えるでしょう。


 最もそこそこの効きめしか期待出来ないかな、いけ好かない横やりが入るのを遅らせることができたならそれで良いのだけどね。



 あれっ?、あらっ?、やだ


 朝早くからはりきりすぎた、どうしよう。やってしまった結果がこれです、な感じ。水分じゅくじゅくの密雲に育ってしまって、なかなか散ってくれない。ここ峠どころかきっと尾根を越して領内の方にまで溢れているに違いないわ。


 魔法者のタrアなら、上出来と評して笑みをくれるかしら。

それとも共和の議長領主様として、まゆをひそめお小言をくれるかしら。


 後者でもそれはそれで自業自得と覚悟を決めましょう。


 さてと、待っていても無害に終わりにする魔法は知らないし、放置の出番、逃げ・・・撤収する頃合いだわ。濡れた薄着(ブラウス)が張り付いて透けてやばいことになってるし、往来の人目につかないうちに戻るとしましょう。



 kミエが峠の道端の休石を後に、馬竜(ばりゅう)に騎乗して下り初めてほどなくのことだった。にわかに後ろから重奏のはばたきの音がしたと思うと、頭上すぐ上を大きな影が追い越していった。その飛竜はすぐに灰色の中にとけて見えなくなったが、その前に瞬一振り返った乗り手と視線が交錯した。



 あっ、若い男。あの顔はちら見だけどどこかで会った気がする、なんかそんな懐かしい気がしてそそられる、飛竜に跨がるすらりとした脚も素敵。尾の交わりはさぞやでしょうって、そんなことを考えている場合じゃない。


 あれは飛翔軍衣、暗い青地に光る魔銀線の煌めきは帝国空軍の将校魔法者。こんな中を飛んでいるということはけっこうな手練れだわ。それも峠を越えて何かと秘密の多い駐屯地の灰の魔法の塔の方向から。行く手は領都トMワ・・・・・・まずい。なにがしか情報が漏れたようだわ。


 なにのよう、なにのようをお急ぎかしらって、朝のうち低圧沸点のタrアが裏隠し黒さ隠しのかぶりものしてひとりで白を切りとおせるかしら。


 寝起きで仕度いるからとねばればその謁見までに刻一はかせげる。いや、ぜひとも遅滞をかせいで欲しい。探り合いが魔法者合戦にならないうちに急いでもどらなきゃ。力任せの調伏は帝国の軍略魔法が相手では分が悪すぎる。


 でも私、たぶん顔を見られてるし、密雲招聘が帝国軍の公務飛行を妨害しちゃってる。今ばれたら現行犯だよね。ばれてるかしら・・・いっちゃったようだし(ちょく)ばれはしていないよね。






 翔6のはばたきの重奏がせわしさを減じて響く重い低音に変わった。上昇が終わっていた。下には左右から迫る濡れて黒い岩肌の間にまっすぐ路が伸びて、低い四角い平らな岩のそばを通っていた。それが西の隣領との区界標で、流ていた湿りを孕む追い風に乗って飛び越えた。


 その先すぐの曲路に沿って右に廻ると道は下りはじめたが、そこも大尉が安堵できる状況から遠か

った。


 視界は狭く塞がれたまま、後ろからの風が続くぶん余計に行くも下がるも速度が容易く上がりすぎ

た。そして峠のこちら側では、堀下がる峡谷を下る道はなおも幾つもの崖を回り込み、それらの(かた)い岩壁がふいに現れてぶつけてこいやと誘っていた。

 

 飛ぶものにとってはぞっとする狭い峡谷の罠の中を飛んでいた。


 楽な滑空は速度が上がりすぎて問題外だった。翔6のはばたきの制御で、失速する大気速度より遅く、着陸寸前の速さを制した不安定な飛翔を続けて、道の回り込みに追従した。登りよりさらに危うく、飛ぶそのことだけに息を凝らして集中した。


 下を行く小型の陸竜には追い越す寸前に気がついた。それがすぐ後方の靄の中に消え去るまで、その騎乗者に瞬一目をやるのがやっとだった。




 ・・・そしておよそ分3?


 ほんのm10少し進み少し下がるうち、にわか唐突に視程がm40ほどから挙一に倍千、およそキロ40先までに劇変した


 光景はまさに変一、靄の先陣を追い抜いていた


 澄み切りつくして遠く向こう彼方までかたちのあるものは全て色黄の光を受け鮮烈に輝いていた

 そしてその手前、共和の領都はまだ山の影の世界に沈んでいた

 町のどの尖塔にも光が直に届いていなかった



「ハイヤー・ゴー」

 大きく息を吸って大きくかけ声をかけると飛竜は待ちあぐねていたのだろう、すぐさま翔6全力上昇で険呑な地形を下に追いやった


 振り返れば、境界峰の全稜線から濃密な灰色が頂きを朝日に溶かされながらも溢れていて、特に峠のところからは峡谷に沿いにゆっくりと滝のように絶え間なく流れ下っていた


 目を凝らすまでもなかった

 中に太い帯のような不詳の長物が横に捲いてのたりとうねり見え隠れしていた

 その横転する渦流の正体が龍魔であろうがなんであろうがしたをかいくぐるかたちで、運良く間一髪だろう、遭遇の災難、危難から遠くあれた


『・・・遠神恵賜・・・・・・ ??今自分は何をいおうと何を考えた?・・・それよりあのような大魔が湧いたとあればこそのひどい靄だろう。これも天の采配だろうか』


 そのすり替わりの納得で、ふと湧いた余念が疑念も跡形もなく溶けて遠くなった


 追い抜いた陸竜のことも意識の卓上のすみに小さく褪せたままで、関心の主座は、今、領都にあった




 情報の収集か行動か、どちらを優先するかの迷いは持たなかった、いや持てなかった


 両方、角兎二獲得を狙うしかない、強行偵察となることもじさない

 そして帝国の軍事力には大太刀(おおたち)はあってもそれ未満の細工に向きの小刀(こがたな)はない

 いざ強行となれば倍十ではすまない、倍百ですめば御の字、倍千か万返しも実際にあった事

 それを実行する覚悟をうちにして大尉は領主館の前広場に降り立った


 帝国の軍用飛竜の急な来訪に顔を引きつらして衛士の分隊が駆け寄ってきた

 先頭で率いる領軍の女軍曹に名告りをあげ、すぐさま領主との面会を要求した


 そのまま小隊を臥せる飛竜の上から睥睨して待つこと分10、息をからして女分隊長が戻ってきた



「大尉殿、領主は、たいへん、目覚めが悪・・遅う、ございまして・・・そのう身支度に刻二ほどかかるそうで」


「長すぎる、これなるは朝駆けをようする公務である、急ぐがよい」


「あっ、いえ、これは、お付きが申しますところで、あのそのう、領主は、女主人で、ありますので」


「承知している、急ぎ刻一未満を所望すると伝えよ」


「う、うけたまわりました、そのように、取り計らいますので、中でお待ち願えませんでしょうか」




 案内を受け招かれた屋敷の中には魔が伏していた


「あのね、わたしね、rウというの、おにいしゃんはNNsのとのしゃまなのでしゅか?」


『えっ?何をいっているんだ』


 気がつけば小さな白い膝を抱いたミニスカメイド服姿の幼い雛子がそばでしゃがんで見上げていた


『いったいいつのまに自分はなぜなんの相手をしているのだ』



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