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「……女性がこんな人気のない路地裏にいるのは不用心だと思いますよ」


声を発したが終わり。

歌手が天職である彼女にとっては、一度関わりを持った人間の声を見分けるのは容易いことなんだろう。彼女以外の歌手が天職な人間がそうだかは知らないが、少なくても彼女はそう。

実際に、彼女は驚いた顔をした後、今にも泣きそうな顔を……って、え? 彼女に恨まれて当然なことをしたのにどうして怒りではなく、涙を見せてくるのだろうか。……それではまるで、僕の帰りを待っていたんじゃないかと自惚れてしまうじゃないか。


「私が君の声を間違うはずがない、君は後輩くんだよね。……幸人くんなんだよね? 会いたかった、あの時のお礼が言えなかったこと後悔してたの。……それに、あの時躊躇って事情を聞けなかったことも、聞いていれば明日も会えていたんじゃないかって後悔してきた。

何も言わないで消えたこと、悲しかった。そうされるくらいのことをしてないとは言えないし、悲しくても、恨めなかった。自分勝手に恨めたらどんなに楽なんだろうって思ったりもした。……だけど、君のことを恨めなくて、忘れられなかった。何度も、忘れようとしたの。もう会えないんだって、言い聞かせたりもした。

だけど、君の声が忘れなかった。優しくて、包み込むような暖かいその声が。

そんな声の君だから、優しさから私の前から消えたんだろうなって気付いて。だから、幸人くんにバイト先のバーを教えていたのを思い出して、ふと思いだしてきてくれるかもしれない、そんな期待を込めてあのバーで歌い続けた。

待っていて良かった。また、君に会えたから、あのバーで歌い続けて良かったなって思ってる。今日、あのバーで歌っていなかったら、この路地裏に寄ることだってしなかったから、あの時この選択をしていて良かったなって自信を持って言える」


あの時は見えなかった、穏やかな笑顔を向けられてドキリとした瞬間……。


「……もう後悔はしたくないの。

私は天邪鬼だから、つれない態度をとってわかりづらいかも知れないけど、幸人くんが好きよ。初めて会った時から好きだった。

可笑しいよね、この歳になっても初恋を拗らせてまだ君のことが好きなの。君は、私のこと嫌いでも良いよ。片恋でも良いから、好きで居させて欲しい。……それ以上はなにも望まないから……」


……あの時から僕のことが好きだった?

そんな素振りを見せたことないから、と言うかむしろ嫌われていると思ってたから驚きのあまり言葉が出なかった。


……都合の良い夢なんじゃないか?

そうも思ったが、確かに役目を果たしたはずだから現実のはずだ。



……もし、現実なら……。

……片恋以上を望んでよ。





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