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会いに行くと決意した。……したんだけど、

長年ヘタレとして生きて来たから、決意はできても、忘れられているんじゃないか、今更会いに行っても彼女の幸せを壊すだけじゃないかとかネガティブな方向に考えてばかりいたら、会いに行くのは明日にしよう、明日にしようと先延ばしにしていたら、気がつけば二週間も過ぎていた。


「お前さ〜、決意するのに何年もかかって、会いに行くのも年単位くらいかかるのか? そしたらさ、あの人誰かに奪われちゃうぞ? 奪われてからじゃ遅いんだぞ、あの時ああしておけば良かったとか、こう行動しておけば良かったとかずるずると未練がましく後悔するくらいなら、行動してから後悔しろよ。役目柄な、この役目を聞いた時に拒絶されたりするのが怖いのはわかる。だがな、お前が愛した女性を信じないでどうするよ。お前が愛した女性は、お前の言葉を信じないような人だったか? 思い出してみろよ?

人見知りではないけど初見では誰にも心を開かず接するほど警戒心の強いお前が、初見で一目惚れした女性だぞ! 自分の感覚を信じろよ。この役目柄、色々な人間を見て来て、人間不信になりかけたことがあるくらいのお前が一目惚れした女性だ、受け入れるのは時間がかかるかもしれないが、きっと最終的にはお前の言葉を信じてくれる。

そんな人はなかなかいないぞ? だから、今だけは前向きに、彼女と未来のために行動しろ。……それに、あんなにも売れている彼女が小さなバーで歌い続けているのは、ただあの店にお世話になったからだとかの理由ではないと思うぞ。彼女が歌う曲は、一途で、切なくさせるような恋の歌ばかりだ。幸せになった恋の曲は、俺が聴いた中ではないと感じた。幸せになった彼女の歌はどんな歌なんだろうな……、今から楽しみだ」


そう言い残して、相棒は手をぴらぴらと振りながら去って行った。あの動作を見せた時は用事があるから別行動、と言ったところか。反論させずに、上手く言い逃げをされてしまったなと考えながら一度家に帰宅するために帰り道を歩いていれば、彼女が映った広告がまた一つ、また一つと増えていることに気がついた。

自然と彼女の写真を探してしまう行動が、どれだけ彼女のことを好いているのかまた自覚させられて、溢れるばかりのこの感情が少し嫌になる。


歳をとるたびに綺麗になっていく彼女。

……魅力的になっていく彼女を画面越しに見ていくたびに、あの時は触れられる距離にいたはずなのに、まるで遠い存在になってしまったかのようで、ますます自分と釣り合わなくなってると思うたびに何か寂しくなる。

あの距離を手離したのは自分だ。自業自得なんだと自分に今までは言い聞かせて来た。

……巻き込むわけにはいかないと、彼女と僕は住む世界が違うんだとそう言い訳して今までの時間を過ごして来た。


「……このままじゃ、初恋を拗らせたまま死ぬことになるんだよな……。初恋を拗らせたまま、この世界に生きていくことになるんだよな。ああしておけば良かったとか、たくさんの後悔をして、人より長く生きていくくらいなら、振られて、立ち直るまで落ち込んで役目を全うしたい」


……今日、会いに行こう。……彼女に。

あの時の続きを、また再開しようと決めたんだ。もう遅いかもしれない、だけどあの時大切だからあなたの側から離れたんだって、あなたが僕の初恋だったってことだけは伝えたい。

……例え、この恋が叶わなかったとしても、彼女が幸せなら、それで良い。もし、彼女が苦しいことがあったなら、僕は密かに支えよう。あの時、自ら手離したあの距離感を取り戻したいだなんてそんな我儘を言わないから、せめて彼女が幸せになってくれることを祈っても良いだろうか?


「せめて、それくらいは望んでも、望みすぎではないだろう?」


小声でそう呟いた瞬間、ある路地裏から冷たい気配と、暖かくほんわかとした気配を感じて、僕は慌ててその路地裏に飛び込めばそこには……。

明らかに視線があってなくて、見えていないはずなのに、歌で浄化する彼女の姿があった。


「……嘘だろ……」


彼女の歌が、どれだけ華があり、人を魅了するものであるのか再確認させられた光景であった。



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