第2話 夢と現実 後
(もう嫌だ。死にたい。)
あの惨状から疲れて寝て起きた次の日。少し冷静になっても嫌な気持ちは変わらなかった。窓からくる小鳥のさえずりも暖かい日の光もすべてがうっとおしく、憂鬱になってゆく。赤ん坊のはずなのになぜか鮮明に眼にうつる豪華な部屋がただのハリボテのような感じがしてさらに気が滅入ってしまう。
なにも感じたくなくて、それなのにネガティブな思考に落ちてしまって。だからせめて別のことを考えようと考え、改めて自分の記憶を少しずつ整理することにした。
(病院からでたときにはもう夜で、横断歩道の前までの間は特に何もなかった。強いて言うなら少し体が重かったような……そのあと変な女の子を見て、そしてトラックに......。トラックに?)
はて? ふと疑問を見つける。
(私、トラックに当たってなくね?)
私は確かにトラックに当たっているかもしれない、だがあのスピードで逃げるのは『時速300㎞で走るたかしくん』でない限り無理である。でも私の意識が途切れたのは直前であって当たる前なので、おそらくトラックとは別の問題だったのかも。流石に当たるかもというショックだけで死ぬような精神と肝は持ち合わせていない。それに、
(あの女の子、どっかで見覚えが......)
オレンジ色の髪で前髪は三角のように切られていて、目が青く、病人のように肌が青白いかった。極めつけには一般人は着ないような豪華なドレス。
(病人のように……病弱?かつ特徴的な前髪。そして二次元に出てきそうな豪華な服装……)
容姿のピースを合わせていくとだんだんある一人のキャラクターが浮かび上がってくる。
(クラン・リムクラーチェ......?)
そのキャラクターは今より少し元気だった日和と一緒にやったゲームの登場人物だった。
『魔法と君と』通称マホ君。貧乏貴族の女子が魔法の学園に入りそこで王子様やその他と恋愛する、どこにでもあるようなファンタジー学園ものの恋愛ゲーム。
その作品の登場人物。クラン・リムクラーチェは悪役令嬢......というわけでもなく、気の弱くて優しいただの主人公の友達Aである。クラン・リムクラーチェはもともと王子の許嫁だったが8つの時から不治の病にかかり、それがきっかけで許嫁が解消される。そのあと両親が死に、代わりに兄がリムクラーチェ家の当主となる、そんな兄とお互い支え合いながら病気や学業を頑張っており、作品では主人公に対して優しくいざという時は頼れる友人というキャラクター。
しかし彼女は2つのルート以外必ず病でなくなってしまう、そしてその2つのルートでは主人公が死ぬか王道ヒーローの王子が死ぬかの2択なためなかなか不憫なキャラクターでもある。そんな彼女はゲームのプレイヤーからかなりの人気があり、のちの追加コンテンツでも彼女のストーリーが少しだけ追加されたらしい。
日和もクラン・リムクラーチェが大好きだった。しかし、なぜ彼女が視界に映ったのか。幻覚を見たとしてもタイミングが良すぎるようなきがする……。
だけれども、
(この状況下でうだうだ考えてもなんも変わんないしなぁ。)
あくまでこれは現実逃避から始めたものであって。実際今なにか行動できるかと言われば否、何もできはしない。そもそも赤ん坊のこの体でたとえ何かに気付いたとしてどうしようもできはしないのだ。
(とりあえず今は、できるだけ情報をあつめないと。)
ここはどこなのか。私は今誰なのか。そしてこれは単なる悪夢なのか。
考えれば考えるほど指の傷の痛みが増すような気がした。




