エピローグ
バラノフ伯爵領の山頂付近に立つ石組の神殿の周囲は子供達の声で賑やかだった。
神殿自体はこぢんまりとした屋敷ぐらいの大きさで、その周囲には石の長椅子が無造作に置かれている。
「全員ここまで連れてくるのは大変でしたわね」
長椅子のひとつに腰掛けるリリアの膝上には幼子が眠っていて、その隣に座るデニスの膝上でも同じ年頃の子がうたた寝している。
「上の子達もしっかりしてきたとはいえまだ五つだからな……」
デニスの視線の先では顔がそっくりな三つ子の女児が地面に落ちている草花や石を拾っては付き添いの侍女ふたりに見せている。
結婚してから六年目になるが、結婚した翌年に三つ子、さらに二年後には双子が産まれあっという間に五人もの子に恵まれた。
三つ子を産んだ翌年にデニスの父が倒れ予後は良くなさそうだということで、デニスが爵位を継ぎ思っていたよりずいぶん早くに領地へ住まいを変えた。
「お母様、おじじさまへのお土産どっちの石がいい?」
三つ子のひとりが両手に石を持ってこちらに見せてくる。幸いデニスの父は回復し今も健在で孫を愛でるのに忙しい。
「おばばさまのお花はこれがいい!」
「わたしはお兄様の代わりにこれ!」
子供達にはデニスの先妻と長兄のことは話してある。まだはっきりと理解できているわけではないが、三つ子の娘達は生まれてすぐに地母神の元に戻った兄がいることはなんとなくわかっている。
最初に子供を産んだとき、この子達には兄がいたことを知っていて欲しいと思った。
そしてデニスと話し合って三つ子がみっつの時に誕生日であり命日である今日という日に神殿で祈ることを始めた。下の双子の息子達は今回が初めてで、よくはわかっておらず仲良く眠ってしまった。
「そろそろ帰らないと腹をすかせて騒ぎ出すな」
日は高くもうすぐ昼食時である。
「そうですわね。寝ている内に帰ったほうが楽ですしね」
起きたら一騒動だとリリアはデニスと共に子供を抱えて近くに止めてある二台の馬車へと向かう。三つ子と侍女が一台へ、もう一台へ双子を抱えたリリアとデニスが乗り込む。
「今日はお残りにならないのですわね」
「これではな……」
デニスがよく眠っている膝上の息子を愛おしげに見つめる。
彼は神殿に来ると時々少しだけひとりになる時間がある。過去に想いを馳せたい時はそうしているようだ。
日々積み重なっていく幸せも愛も、ありあまるほど感じている。
だからほんの少し寂しさを感じても、必ず自分の元へと帰ってきてくれるので気に止めることはしていない。
屋敷につくと執事がいそぎの書状をもってきて、デニスがその場で確認している間にリリアは義父母へ子供達を任せる。
「まあ、またあの方達喧嘩なさってるの」
手紙の内容を聞いたリリアは呆れかえる。近隣小領主同士仲良くしてくれればいいのに、相性の悪い者同士がささいな揉め事をよく起こす。
「……様子を見てくるから、リリアは家のことを頼む」
「ええ。もちろん。お屋敷にお招きになられます?」
「おそらくそうなると思う。すまないがそちらの準備もしておいてくれ」
なんだかんだと伯爵家への人の出入りは多く、最初は戸惑っていたものの義母に教わりながらなんとか慣れてきたところだ。
「分かりましたわ。いってらっしゃいませ」
リリアはデニスが馬車ではなく馬にまたがり出て行くのを笑顔で見送るのだった。




