46.頑張って稼ぐわー
獲物の解体の仕方とか習いたかったんだけど、あいにくこの時間帯では塩梅のいい獲物がないそうな。夕方に顔を出せば、今日のアガリが届くと思う、と言われた。
武器屋を紹介して欲しいと頼んだら、アギト・ナイフの件なら絶対にここだと案内される。なんでも、この短刀を打った鍛冶屋の弟子が経営しているらしい。多分、来るのを待っているだろうという話で。
みーよどうする? 一緒にいく?
つきあうよー
と言うことで、紹介された鍛冶屋に向かう。
隣に息子が経営する武器屋もあるらしいんで、後で覗いてみよう。
ちょっと奥まった所にあって、2回くらい迷いそうになる。
通りで遊んでいた子供たちに道を尋ねると、タダじゃイヤだという。
しっかりしてんね。小銀貨1枚でどう? ただし到着払いね?
いーけど、ちゃんとお駄賃くれるんだろーな?
聖女様はそういうケチなことしないよー
どーだか?
とか言いつつ、案内してくれた。
みーよが後ろで苦笑しているのが分かる。
ホント、あたしって子供好きだったんだねぇ。
「おっちゃーん! 客だよぉ!」
金梃に乗せた、熱せられた金属の剣かなぁ、を叩いている音に負けない位のデッカイ声で子供が叫ぶ。
小柄でものすごくがっしりした体格の男が、剣よ折れろとばかりにハンマーを打ち下ろしている。
上半身は裸。背中の筋肉が隆々としていて、その小山の上から汗がしたたり落ちている。
返事は無い。聞こえているのか、無視しているのか。
もう一度叫ぼうとする子供を抑えて、お駄賃を渡す。
やったーとかありがとーとか言って、駆け出していく少年。
あたしたちは暫く、鍛冶の様子を見守ることにした。
やがて、納得がいったのか、脇の石造りの水槽に熱せられた剣を突っ込んで、水を沸騰させた。
「で、お前らか。アギト・ナイフを人族の元に取り戻してくれたのは」
無愛想、でも失礼ではない。
自分のヤルことを順番にこなせる人。
あたし、こういう仕事に情熱を燃やしている人、キライじゃないのよねー
「そーだよ。研いで欲しいのと、握りをあたし好みにして欲しい」
ヘンな礼儀はいらなさそう。ズカズカと近づいていった。
「見せてみろ」
アギト・ナイフを鞘から抜いて、刃を自分に向けて、手渡す。
小柄な男の眼光が鋭くなった。
刃の先から根元までじっくりと見て、刃の腹や背もしっかり観察する。
「いいナイフだろう?」
「うん。気に入ってる」
素直な感想に、凄みのある顔でニヤリと笑った。
この人、あたしが女だからとか、ヒラヒラしてる恰好とか、そういうことを一切気にしない人だね。
「いい顔で笑うんだな。どれだけ殺してきた?」
あ、そっち?
「好きで殺してはいないよ? まあ、数えたことはないかな」
「そんな風には見えんがな」
見える見えないは、そっちの印象。
ん-殺らないと殺られるからねー
あたし、まだ死にたくないし。
「武人アグフは、オークでありながら、武器の手入れは丁寧だったと聞く。目撃した者が、微笑みながら手入れを行っている様子を語っている」
「あれが武人、ねえ?」
ま、武器のお手入れを丁寧にしてたのは、認めるけどね。
でも、ザコだったよ?
「聖女の付き人でありながら、武装の手入れに意識が向くとは、お前、相当なものだな」
そーなの? 普通でしょ?
「握りは、刃の表裏を簡単に回せるようにして欲しい。敵の攻撃を受ける時、刃の背中側を使いたいの。コイツ、切れ味が生命線だから、刃を傷めたくないのよ」
「手を見せてみろ」
あたしの手を広げて、閉じさせて。
アギト・ナイフを握らせて、手元の小さな黒板? みたいなものに、チョークでメモをしている。
それを左右別々の手で行った。言わなくても、当たり前のように。
出来るな、コヤツ。
「よし、分かった。2日後に取りに来い。金貨1枚で引き受けてやる」
高いのか、安いのか? 10万円だけどね。
ま、他に頼める人も知らないし。
それに、なんか、あたし、この男、気に入っちゃった。
頷くと、隣の店に聞こえるような大きな声で呼ばわる。
「おーい、客だぁ、面倒見てやれ!」
「父さん、そんなに大きな声出さなくても聞こえるよぉ」
入口から、30代位かな、ちゃんとした身なりの、濃い黒のくせ毛のラテン系が顔を出した。
ん-親子? 似てないねぇ。
隣の武器屋で、色々と相談した。
アギト・ナイフの鞘は、そのまま使って良さそう。
スリングは、種類があるので試してみていいと言われた。
ただ、手持ちの手作りのを見てもらうと、中々の出来らしい。特に改めて買う必要もないのでは、と言われる。
欲がないね。
ただ、専用の石は購入を勧められた。消耗品だけど、回収できれば節約は出来るし、命中率が全然違うのだそうな。
確かに滑らかに削ってあり、何個か握っても具合がいい。
一個、小銀貨1枚。1000円かー高っかいなー
ま、手間とか考えたらこんなもんかもね。とりあえず、5個買っておいた。
防具は別の店を紹介された。武器の鍛冶屋と防具の鍛冶屋は全く技術が違うらしい。
で、アギト・ナイフを預かっている間、ショートソードを貸してくれるんだそうで。
折ったり無くしたりするかもよ? と念押しすると。
信頼してますから、と優しい顔をされた。
くー、この商売人めっ。この店、気に入っちゃうじゃないですかー
あーもーあたしの負け負け。遠慮なく借りてくわー
紹介された防具屋は、あたしの格好をみて冷やかしだと感じたらしく、あいにくの不愛想。
そしてそれは正解に限りなく近いねぇ。
現代のしなやかで機能的な防具を知ってるあたしにとって、見て回るほどのものはなかったしね。
と、思った、んだけどねぇ。
店の奥に掛けられているマント。
これ、なに?
「お客様、お目が高い。魔除けのマントでございます」
店主の目が、キランと光る。
「魔法攻撃から持ち主を守ってくれる不思議なマント。元の主が亡くなってしまい、遺品が当店に流れ着いたのでございます」
へー。
でもそれって、マントが持ち主を護れなかったってことだよね?
ん-でも、これだけは、なんか本物っぽいだけどね。
「みーよ、こういうのって、鑑定できるの?」
「ん-ちょっと女神さまに聞いてみる」
みーよが杖を立てて、祈りの姿勢を取る。
興味深そうな店主と共に、あたしも様子を見守った。
「…ゴメン、今のわたしの力では、神託を得られなかった」
あーそうなんだ。女神ちゃん、ホントにケチだよねー
あ、また睨まれた。テヘ。
はいはい、なんか理由があるんでしょー分かったよー
「あたしたちには、まだ早いみたいね。ちなみにお値段は?」
「大金貨10枚。お安いと思いますよ?」
げ、1000万円かー。
手が届かないわけでもないけど、無理に買うものでもないねぇ。
「頑張って稼ぐわー」
「はい、またのお越しをお待ちしております」




