1章 湧き上がれ!衝動-3
デュアーロに着くとまず球場前に行きチケットを購入する。
一番安い自由席とはいえ毎度社長がポケットマネーで出してくれるのだ。
入場時間までの空いた時間で近くの定食屋で食事を済ませユニフォームに着替えてグッズショップに立ち寄る。
プライベートとはいえ、仕事をするには持って来いの環境だ。
社長は早速観戦に来ているカップル達に声をかけまくる。
そして徐におしゃれな銀フレームの眼鏡をかけてカップルから距離を測る。
この眼鏡、ただのおしゃれアイテムではなく『魔道写映機』といって魔力を込めることで
見えている映像を紙などに写すことができる魔道具だ。
イシュタール大陸ではほとんど使われていない。
というのもこのイシュタール大陸に住む人種の多くは先天性魔力量が少なく魔道具を上手に扱えないのだ。
こういう場面を見ると改めて社長は『外国人』なんだと実感し、ソリスは少しだけ寂しい気持ちになる。
それから道行くファンにインタビューやアンケートなど必要な情報が集まった頃、いよいよ開場時間が近づいてくる。
ソリス達は予めバッグの口を開いて荷物チェックの列に並ぶ。
チェックの係員は慣れた手つきで長蛇の列をさばいてゆく。
「はい大丈夫です。あ、そちらの魔道具はこの封魔袋に入れてくださいね。」
球場内では施設やメディアなど許可された場合を除いて魔力の使用を禁止されている。
魔力による肉体強化など違法行為を防ぐためだ。
こういったセキュリティ一つとってもきっちりしているからエンタメとして長く人気を維持し続けているのだろう。
荷物チェックを終えるとその列のままチケットチェックに並ぶ。
ここでチケットを切ってもらう際にパンフレットやささやかなグッズがもらえることがある。
今日は『プレイヤーズディ』イベントが行われていてクラーケンズの若い二塁手、スティアー選手がピックアップされている。
入り口やら球場内ショップやらそこら中にポスターが張られ、クラーケンズの守備練習ではスティアー選手に大きな声援が飛んでいる。
「今日はスティアーにとっても勝負の日だからな。活躍次第ではレギュラー定着もありえるんじゃないか。」
「僕もそう思います。足の速さだけじゃなくて持ち味の思い切りのいいスイングがハマれば大きな戦力になるはずですよ。」
長らく二塁手のレギュラーが固定できず守備に難ありと評されてきたクラーケンズ内野陣だが今年は違うというところを見せてほしい。
特に社長は昨シーズンからスティアー選手に注目していただけに今日の観戦には力が入る。
興奮しすぎてジッとしていられないのかソリスに場所取りを任せて社長はまたお酒を買いにいっている。
安く済ませるために交通費やチケット代を抑えたのに結局球場にお金を落としていく姿はまさにファンの鏡と言えよう。