2章 集えダイヤの戦士たち10
カコン!
アカダモのバットが乾いた音を立てボールを飛ばす。
この世界に野球が伝わった時、『平和の使者』とも呼ばれる田中健太氏が異世界のバットの素材と木の色にちなんで直々に名付けたのがこのアカダモの木だ。
田中氏はバットに適した素材を探すために世界中を飛び回ったと伝えられている。
今から約160年も前の話だ。
今ではバットや家具の材料として使用されており、平和の木として世界中で栽培されている。
なかでもハピスポ野球部で使用しているものはここイシュタールに一番適していると言われるホンアカダモで出来ていて軽さと反発力の強さが特徴的だ。
恐らく一本2~5万モネーは下らないだろう。
入社二年目のソリスやアストラの給料がひと月約16万モネーと考えるとかなりの高級品である。
バットだけではない。
グローブやキャッチャー用防具も本格的な競技用である。
これら全て会社のほうで提供している野球部はここビアンコでは他にないだろう。
そういう事情もあってか、新入社員はみるみるうちに集まり、各ポジションも埋まっている。
実家が貧しく働きながら野球を続けたかった17歳のロビンや夢を捨てきれず故郷を後にしたジャッカスなんかはその影響が大きいだろう。
一方、変わった理由で入社してきた者もいる。
「ソリス先輩!僕の球受けてくださいよ~。」
「えぇ、僕キャッチャーじゃないから・・・」
ぼやき王子ことソリスに憧れて入ってきたこの少年、名をルチア・エステティートといい年のころはまだ16歳。
なんとまだ学生であったのだが、ソリスの大ファンで求人募集を見るや否や急遽中退して応募してきたそうだ。
しかも地元民でないどころか出身は遠く隣国の『リズテニア』からはるばる魔道飛空艇に乗ってやってきた。
投手としての実力も申し分なく卒業後には1stランク球団からドラフト指名が来ると予想されていたほどだ。
実家も地方では名の知れた商人でお金持ち、性格も素直で誰からも愛されるまさに非の打ち所がない。
ハピスポに来てからは常にソリスにべったりだ。
「仕方ないなぁ、本職じゃないからあまり期待しないでよ。」
なんだかんだでソリスも甘やかしてしまうのだ。
練習の幅が広がるにつれ、各選手の課題も見えてきた。
「どうだソリス、本格的にキャッチャーにコンバートする気はないか?」
キャッチャー経験者としてアズリーという26歳の野球経験者を獲得したものの本職は外野。
俊足を活かしてセンター(中堅)を任せたいところだ。
一方のソリスは肩の強さはチーム随一だがいかんせん足が遅すぎる。
当初はレフト(左翼)かライト(左翼)を守るつもりだったが各選手能力を考えると捕手コンバートは妥当であった。
また、ソリス自身外野にこだわりがあるわけでなく、ただ捕手を勤める自信がなかった。
「はぁ・・・」
なんとも曖昧な返事になってしまう。
しかし、実際ここ最近ルチアの専属捕手として球を受けてみて以外といい感じになっていた。
ソリスの短所は足の遅さだが反対に長所はノーステップで投げても強い送球ができるリスト(手首)の強さや動体視力の良さである。
ボールをよく見れているので変化球でも巧く捕球できる。
社長の中では捕手コンバートが既定路線となっており、これ以上捕手候補をとるつもりはなかった。
「ソリス先輩、是非僕の旦那になってくださいよー!」
「普通キャッチャーは女房役でしょ。」
「え、じゃあ僕が旦那ですか。ソリス先輩、家事もできるんですか?あ、でも僕もちゃんと手伝いますから。」
「いや、実際に女房になるわけじゃないから。」
ルチアはすごく素直でいいやつだがちょっと変なところがある。
冗談だとは思うがあまりにも真顔で言うので一瞬本気なんじゃないかと疑ってしまう時もあるくらいだ。
「僕にどこまでできるかわかりませんがチームのためになるのなら・・・」
「やった!」
「よし、これでだいたいチームの形が出来てきたな。ふむ・・・」
なにやら思案しながらメモに書き込んでいく社長。
「そろそろ試合が見てみたいな。練習試合を申し込んでくるぞ。」
「え?マジっすか!試合できるっすか!」
「はは、久しぶりだから緊張するなぁ。」
皆、口には出さないでも期待していたのである。
結成して間もないチームではあるが経験者を中心にそれなりのレベルになっている。
社長はもちろん各選手も自分達がどれほどできるのか知りたかったし、また単純に試合が楽しみでもあったため、その日は一番のモチベーションで練習に取り組んだ。
「あれ、そういえばチーム名はどうするんですか?」
「ああ、もう考えてある。試合当日に発表するから楽しみにしておけ。」
社長はニヤリと笑みを作って言った。
次章へ続く
☆次回予告☆
いよいよチームとして動き出したハピスポ野球部。
だが社長の考えてきたチーム名が波紋を呼ぶ。
それはそれとして初めての練習試合に挑み各自課題も見つかった。
更に練習を重ね実力がついてくるとやっぱり公式戦に出たい!
なんと今年が3,4年に一度のチャンスであることは社長の計算のうちだったようだ。
次回、『実践!見せるは個の力』お楽しみに!




