3章 実戦!見せるは個の力1
「でもアストラくらい足が速ければ内野安打もあるからね。そうだ、もっとヒットを増やせるかもしれない方法があるよ。」
「お?マジか。どっか悪いとこあったらおしえてくれよ~。」
「いや、悪いとこってわけじゃないんだけどさ。『左打ち』に挑戦してみない?」
「左打ち?」
「うん、左だと右打席より一塁に近い分より内野安打になりやすいんだ。」
「なるほどな。でも左で当たるんかな?」
「ちょっとこれ、覗いてみて。」
ソリスはアストラの顔の前に親指と人差し指で作った輪っかを出す。
「ん?ああ。」
「それで向こうの木を見て。見えた?見えたら顔を動かさずに交互に片目瞑って。」
アストラが交互にぱちくりと目を瞑る。
「どっちの目で木が見えた?」
「ん~、右だな。」
「うん、右目が効き目だね。もしかすると今まで以上に左のほうがボールがよく見えるかもしれない。」
「お?なんでだ?」
アストラは興味を示している。
「左打席だと右目が前にくるよね。だから視野が広がりやすいって言われてるんだ。それに右投手には出どころが見えやすい左打者が有利だしね。」
「そっか~、うちには左打者は他にロビンしかいないもんな。」
「うん、僕はちょっと教えてあげられないけどロビンならアドバイスしてくれるかも。」
「よし、今度試してみるわ。」
最近野球の話題には事欠かない。
二人は終始盛り上がりながら定食のブホッチョへ入っていった。
「お、ソリスじゃん。今日は友達も一緒なんだね。」
「ああ、会社の同僚なんだ。」
「あ、俺アストラ。ソリスがおすすめするなんて珍しいから期待してるぜ嬢ちゃん。」
「任せてよ。作るのはわたしじゃないけどねっ。」
人見知りせず誰とでもすぐ仲良くなれるのはアストラの特殊能力といっていいだろう。
「ま~たきやがったのか小童め。何度来ても無駄だぞ。」
「なんだソリス、ご主人の機嫌を損ねるようなことしたのか?」
「いやぁ、常連なんで毎回冗談を言ってくれるんだ。」
「いや、お父さんはちょっと本気っぽいけどね・・・。」
ご主人がソリスに絡んでむるのはすっかりお馴染みとなっているのでアリーナ以外誰も気にしない。
「ところでここのメニューはなんか・・・独特だな。」
ご主人がフィーリングで名前を付けて説明もないもんだからどんな料理か全くわからない。
「無難にポキョレンボ定食とかでいいんじゃない?食べれないものあったっけ?」
「いや、ないけど・・・それはなんの定食なんだ?」
「ビズドラのダンジョンから直送の新鮮なゾンビのみを使用した焼きゾンビ定食だよ。」
「ゾンビが新鮮なわけないだろ。とても無難とは思えんぞ。俺はこの『アリーナ特性ハンバーグ』にするわ。」
「え?チャレンジャーだね。でもそれ頼んだらアリーナもきっと張り切って作ってくれるよ。」
「よっし、アリーナハンバーグだね、任せてよ!」
唯一アリーナが調理する料理だが『信者』と呼ばれるコアなファン以外滅多に頼む者はいない。
『天国に一番近い味』と評されるこのメニューをいきなり頼んだアストラを見てソリスは優しいとか気を使える男だと思った。
が、実際はハンバーグが一見無難そうに見えたから注文しただけだった。
それに気付いたのは食事中、苦行に耐える僧侶のような顔をしたアストラを見てからだった。
しかしアストラは会計時にはそんな素振りも見せず「美味かったぜ。」と笑顔を張り付けアリーナに無駄な自信をつけさせてしまった。
ちなみにソリスはポチョレンボ定食を綺麗に平らげた。
試合ができる・・・
試合が出来るんだ!




