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泥まみれのフィスト  作者: 色飴 遥火
プロローグ
3/7

チャンピオン 3

 回転かいてんきゃく……まわしげりの応用技のひとつ。

 左右どちらかの足を軸にして、コマのように全身を回転させながら蹴りをはなつ技。

 ではあるが、あまり実用的な技とは言えない。

 回転による視界のせばまり、動きまわる相手に対し狙ったところに当てるのがむずかしい。

 さらには回転をするための軸足を狙われれば簡単に攻略できてしまうという理由から、金剛こんごうミカゲが竜巻たつまきりと名付けて……必殺の技として昇華しょうかをするまではほとんど見向きもされていなかった。


 ミカゲが回転脚と出会ったのは、屈強な彼がまだ小学生だった頃。

 自分の家のちかくに武術家を名乗る男性がやってきていた。

 小学生だったミカゲはその武術家を名乗る男性が見せてくれたいくつかの技のひとつである回転脚のかっこよさに魅入みいられた。

 次の日には、小学生だったミカゲは空手の道場にかよいはじめることに。そして……しばらくして回転脚の技としての未完成さに絶望をしてしまう。

 かつてミカゲを武術の道にひきずりこむきっかけとなった、武術家を名乗る男性と再会したのは彼が小学校を卒業するぢか


「ずいぶんと強くなったようだな、空手坊主」

 武術家を名乗る男性が自分のことを覚えてくれていたことをうれしく感じつつも、そのきっかけでもあった回転脚の技としての未完成さについての怒りのような感情を当時のミカゲはすべてぶつけた。

「なるほど。たしかに空手坊主の言ったように試合などではつかいづらい技ではあるな」

「文句を言いたかったわけじゃないんだけどさ……でもおれが一番あこがれた? 技がこんなんだからなんかむしゃくしゃして」

「だったら話は簡単。つかいづらいと思われている回転脚を空手坊主がつかえるようにすればいい」


 当時のミカゲが困ったような顔をした。

「不満がありそうな顔だな」

「言っていることはわかるけど、そんなの」

「本当にできるかどうかわからない……か?」

 武術家を名乗る男性の言葉に当時のミカゲが首を縦に小さく動かす。

 にやりと武術家を名乗る男性が笑みを浮かべた。

えんとして見せるようなものではないのだが……しかたないか。将来おれをたのしませてくれる武術家になってくれるかもしれないしな」

「おじさん、なにを」

「よく見ていろよ。空手坊主」


 一般的には回転脚……と呼ばれている技を武術家を名乗る男性がくりだした。

 当時のミカゲは、また彼に心を奪われてしまう。

「今のも回転脚だ。今の空手坊主ならわかるはず、これでも実用的な技じゃないと言えるか?」

 興奮した様子の当時のミカゲが首を横にはげしく大きく動かしている。

「武術に限界はない……ということがわかったな」

「うん」

「また出会えたときには空手坊主だけにしかつかえない回転脚を見せてくれるな」

「もちろん!」

 そして金剛ミカゲは竜巻蹴りを完成させた。

 だが……武術家を名乗る男性との三度目の再会はまだだった。




 透明なドーム状のフィールド……その中央付近で金剛ミカゲはまぶたを閉じた。

 右足を軸に、一般的には回転脚と呼ばれている技を発動させる。

 超高速の回転によりミカゲの全身を包みこむほどの大きさの竜巻が発生し、透明なドーム状のフィールド内が吹き荒れていった。

 強烈な風でからが浮き上がり、ひきよせられないようにかタイヨウが腰をおとす。

 黒髪の彼はじっと動かずに、ミカゲの回転脚……竜巻蹴りがおさまるのを。

 身体がわずかにひきよせられたことを感じ取ってかタイヨウが眉毛をぴくつかせる。


「そのままでいいのか?」

 竜巻の中からミカゲの声がきこえたが、タイヨウは返事をしなかった。

「まぶたを閉じて姿が見えてない。だからこそ自分の居場所を知られないようにしているのか……徹底しているな」

 回転の速度が上がっていき……竜巻のひきよせる力が強まってきているのか、タイヨウが身体をさきほどよりもぐらつかせた。

「ようやくか」


 つくりだした竜巻の中にいるミカゲの屈強な肉体が空中に浮き……動きはじめた。

 ひきよせられないように注意しつつ、ちかづいてくる竜巻を避けながらタイヨウが移動する。

「逃げてばかりでは」

「よくしゃべりますね……金剛さん。エコーロケーションとかいう音の反響とかで、おれのいる位置をさぐっているんですか?」

 ミカゲが豪快に笑った。

 タイヨウが不思議そうな表情をする。


「そうか、そうだったな。公式の試合ではまだ本来の竜巻蹴りはつかえていなかったな」

「なにを言って」

「この竜巻はあくまでも準備段階であり、技を発動するまで耐えられた日永にちなが……お前の実力の証明でもある」

 ミカゲがつくりだしていた暴風ぼうふうが、少しずつおさまっていく。

 透明なドームの限界ぎりぎり。はるか上空にまで浮き上がっている屈強な彼がまぶたを開いて、現在タイヨウのいる位置を確認した。


「これが本当の竜巻蹴りだ!」

 竜巻を発生させるほどの遠心力を利用した強烈な蹴りの風圧が、レーザービームのようにタイヨウの顔面を。

「タイヨウ!」

 応援席から響くクモラの声とほとんど同時に黒髪の彼がなんとか避けるも、強烈な蹴りの風圧がほおをかすめたようで切り傷ができた。

「一撃必殺とは言ったことはあるかもしれないが、これだけの時間をかけたんだ。一撃でおわるわけがないだろう」

 無数のレーザービームのごとき強烈な蹴りの風圧がタイヨウに襲いかかる。


 二発。三発。

 ふりそそいでくる竜巻蹴りをかろうじて黒髪の彼は避け続けていたが。

 なんとかむりやりに竜巻蹴りを避け、体勢をくずしてしまったタイヨウが思わず舌打ちをする。

 鈍い音とともに黒髪の彼がとっさにガードをした右腕をだらりとれさせた。

「初見のはずなのに、ここまで避けられるとはな」

 着地したミカゲがタイヨウに拍手はくしゅを送っている。

「まだ試合はおわってないはずですが」

「試合が完全に終了してからでは、こちらの賞賛の言葉をきける状態ではないかもしれない。五分五分の状況とはいえ」


 ふたたびミカゲがまぶたを閉じ、身体を回転させはじめた。

 透明なドーム状のフィールド内が……屈強な彼のつくりだした風で吹き荒れていく。

「五分五分と言っておきながらまったく余裕がなさそうですね」

「お互いさまだろう。降参なら」

「金剛さんも男ならわかるでしょう。自分のことを応援してくれている女の子のまえで、かっこをつけたくなる気持ち」

 歯を食いしばり、竜巻蹴りが直撃した右腕をもちあげて……タイヨウが構えをとる。

「かっこ悪いところは見せられないんですよ」

「不器用なやつだな」

 ふんばるのをやめて、ミカゲのつくりだした竜巻の中へとタイヨウはひきずりこまれた。

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