この世で一番 1
燃えさかっている、天空にも届きそうなほど高いビルの前。ペンギンの男が魔術について……シノハに説明をしようとすると。
「よお……悪いな、ギペンテ。先にいく」
ペンギンの男の耳には、たしかに声がきこえた。
「あなたにしては仕事が甘いですね。まだ」
「月宮クモラのほうはすでに教育済みだろう。逆に教育をされたのかもしれないがな」
「お見通しですか」
「どれだけながい間、付き合っていると思っているんだよ」
ペンギンの男は声のきこえる方向にふりむこうとすらしない。
「じゃあな。またあとで」
「ええ……わたしもすぐにいきます」
「そうそう、ニワヒヨは解雇しておけよ。もう役目が終わって用済みだろうしな」
「あなたがそう言うのであれば」
ペンギンの男が声のきこえていた方向にゆっくりと身体全体を動かす。
半透明になっているスズメの男と目を合わせた。
「謝るなよ、バトルジャンキー」
「すべてお見通しですか」
とペンギンの男が笑う。
「では、ひとつだけ質問にこたえてくれませんか」
「なんだよ……気持ち悪い」
「たのしかったですか? この旅行は」
「まあまあだな」
「それはよかった」
スズメの男が大きく息を吐く。
「めんどうくさいやつだな……感謝の気持ちぐらいすなおに伝えられないものかね」
「心残りはありませんか?」
「昔のシンプルなお前を、もう一度だけ見たかったぐらいだな」
ペンギンの男がなにかを言いかけるも、スズメの男は消えてしまう。
「シンプルなわたし」
不思議そうにペンギンの男は首をかたむける。
しばらくすると、死んだものを思い出そうとしてかペンギンの男はまぶたを閉じた。
「どうかしましたか?」
シノハに後ろから声をかけられ、ペンギンの男がまぶたを開く。
火色の髪の彼女のほうへとふりむいている。
「季節外れのユーレイに出会っただけのことです」
「冗談はいいので、話の続きをしてください。魔術のルールがどうとかこうとか」
「口で説明をするよりも見てもらったほうがはやいかもしれませんね」
そう言いつつペンギンの男が燕尾服の腰の辺りにあるポケットからなにかをとりだそうと。
「一応の確認なのですが、スズツキさんから魔術の基本……真髄についてはきいてますか?」
「なんでもできると思いこむ、ですか」
「正解としておきましょう。ルールをつくらない、というのが模範解答となります」
シノハが腑に落ちないという感じの顔をした。
「さっきと言っていることが矛盾をしてないか? と言いたそうですね」
「ペンギンさんが、魔術のルールとか言ってましたから」
「ずいぶんと、かわいらしいニックネームで呼んでくださるんですね」
ポケットの中に手をつっこんだままペンギンの男がやわらかな口調で言う。
「細かいことは省かせてもらい、簡単に説明させてもらうと。土守シノハさんほどに魔術の才能のない方たちがつくりだした技術……のようなものを」
ペンギンの男がポケットから、なにかを。
とりだしたと同時に……吹いた強烈な風とともにこなごなにくだけてしまい。
シノハとペンギンの男が目を丸くする。
こなごなにくだけた、いくつもの破片がきらきらとかがやき。
「やっと出会えたな……黒幕ペンギン」
金剛ミカゲの蹴りをまともに食らい、ペンギンの男の身体がくの字に折れ。
まっすぐに勢いよく、はるか遠くのほうへとふきとばされていく。
シノハが無事なことを確認し、ミカゲはペンギンの男を蹴りとばした方向に一般人の目には見えないスピードで移動した。
ぽつんと取り残された……火色の髪の彼女が燃えさかっているビルを見上げる。
「思ったよりもはやかったけど。どうせだったら、日永くんに見つけてほしかったな」
「呼んだか?」
聞き覚えのある男の声にシノハが反応する。
「無事だったみたいでなにより」
もうひとりの聞き覚えのある女の声をきいてか、火色の髪の彼女が表情をくもらせた。
横に並んで立っているタイヨウとヒオリのほうにシノハがふりむく……黒髪の彼の身体、ふだんとはどことなくちがう動きが気になっていてか火色の髪の彼女が目を細める。
「怪我したの?」
「委員長のせいじゃない。ちょっとした」
タイヨウが隣に立つヒオリを横目で見る。余計なことを言わないでくださいよ……とでも伝えているかのように。
「ねえねえ、しーちゃん。わたしと殺し合わない」
黒髪の彼の視線に気づかないほど、うれしそうに顔をくずしたヒオリがシノハのことをニックネームで呼んだ。
「なにを、言っているんですか?」
「タイヨウくんもしーちゃんの激変ぶりに気づいているでしょう。例の魔術の育成とかで、小型犬からケルベロスに大変身したことにさ」
短い言葉で肯定をしているタイヨウ。
「どう?」
ヒオリが目をかがやかせ、シノハに確認をした。
「願い下げ」
火色の髪の彼女が、べぇーと舌を見せる。
「残念。わたしはどっちでもいけるのに……むしろ女の子のほうが」
「わたしがたたかいたいのは日永くんだけだから」
不意にシノハに自分のことを呼ばれてかタイヨウがおどろいたような反応をする。黒髪の彼がヒオリと顔を合わせた。
「ご指名されちゃったよ……タイヨウくん」
「委員長なりの冗談とかだと」
「本気だから」
そんなつぶやきとともに、シノハの全身から熱が勢いよく放出される。殺気にも似た火色の髪の彼女の攻撃的な視線を向けられて……タイヨウが表情をかたくする。
「あやつられていたりするのか? 魔術とかで」
「ううん、わたしの本音」
「今じゃないと駄目なのか。金剛さんが黒幕っぽいペンギンとたたかってくれているとはいえ」
「今のわたしを見て……本当にそんな理屈が通じると思っているのなら日永くんの頭の中は、かなりのお花畑じゃないかな」
ヒオリが大声で笑う。
真剣な顔つきになっているタイヨウを確認してかセミロングの黒髪の彼女が笑うのをやめ。
「女の子にあんなこと言われて怒らないの? タイヨウくん」
わかりやすく煽っている。
「委員長は相手を傷つけるためだけに、悪口を言わないタイプですから」
「友達歴がながいだけはあるね」
返事も反応もせずに、タイヨウが構えをとった。
「円堂さん、今度は邪魔しないでくださいよ」
「さすがに今回はやらないよ。わたしとしーちゃんとタイヨウくんのさんぴーはたのしそうだけどさ」
「さんぴー?」
「三つ巴!」
顔全体を赤くしながら、漫才のつっこみのように吠えたシノハをタイヨウが不思議そうに見つめる。
「しーちゃんも過保護だな。そのうちタイヨウくんもわかるんだからさ、ちゃんと教えてあげればいいのに」
「まだそのときじゃ」
一瞬……シノハがヒオリのほうに視線を動かしたのと同時に目にもとまらぬ速度でタイヨウが火色の髪の彼女の背後をとり。
チョークスリーパーをかけようと。




