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泥まみれのフィスト  作者: 色飴 遥火
異界からの案内人
14/23

ルールのない世界 7

「少女だから、というのもあるか。精神的な年齢や経験値が平均よりも不足してそうな印象も」

「なんか……失礼なことを言ってませんか?」

「分析しているだけだ。不足をしていると自分でも感じたなら、これから経験すればいいだけのこと。なにも気にする必要はない」

 それこそ日永にちながくんとやらに、自分の気持ちを伝えたらいいんじゃないか?

 そうスズメの男に言われてかシノハが咳きこむ。

「簡単に言ってくれますね」

「自分の気持ちを伝えるだけだろう? むずかしい技術はいらないように思えるが」


 じろりとにらみつけるようなシノハの視線に……スズメの男がなにかを察したような表情をする。

「行為自体はそれほどむずかしくないが、その結果が失敗に終わってしまう可能性に恐怖を感じているわけか……邪魔な存在が少なくともふたりいるのであればなおさら」

「邪魔な存在ではないかと」

「心当たりはあるんだな」

 シノハが口をつぐむ。

「言いかたが悪かったな。こいがたきがふたりもいるんだから失敗する可能性は高いよな」


 円堂えんどうヒオリのああいう感情を世間一般的な恋愛とやらに分類していいのかはわからないが。

 イメージでつくりだした、具のない豚汁のようなものをスズメの男がすする。息を軽く吐いた。

「そちらの世界ではどう思われるのかは知らないが個人的には競争相手を邪魔だと思うのは……正常な生きものとしての感情の範囲内だろう」

「こちらの世界でも正常だとは思いますよ。こう、正直にというか……おおっぴらに言えないだけで」

「ここはきみの夢の中のはずだが?」

「わたしがつくりだした覚えのない、不思議な生きものが相手でもそうそう言えないかと」

「真面目というか……優等生な返事だな」


 お互いにだまってしまい、しんとする。

「真面目で優等生なペンギンの友人がいてな」

「ずいぶんと、とうとつですね」

「とうとつに……きみとよく似ている友人のことを語りたくなったんだ。きいてくれるか?」

「説教とかでないのであれば」

「説教ではないのだが教訓にはなるかもしれない。そのペンギンの友人とちがって、きみのほうが性格がすなおだから参考にならない可能性もあるが」

「時間もたっぷりありますし……わたしもいっばい話をきいてもらったので、きかせてください」


 シノハが座りなおす。

 どこまでも真面目だなとでも言いたそうにスズメの男が唇をかすかにゆがめていた。

「そのペンギンの友人はきみと同じようなタイプでかなりとくしゅな環境で育てられた」

「とくしゅな環境?」

「よくある話だ。そちらの世界だと貴族などと呼ばれるいい血筋の存在だったのに転落したような感じだと思ってもらえればいい」

「いろいろと大変だったのでは?」

「だろうな……当の本人はけろっとしているがね。たまーに思い出したように当時のえぐい過去をきかされるほうの身にもなってほしいものだ」


 愚痴ぐちって悪かったな……とスズメの男が軽く謝罪の言葉を口にしている。

「話がややこしくなるので、友人ということにしているがそのペンギンとはあまり仲はよくない」

「ビジネスパートナー的な存在ですか」

 スズメの男が指ぱっちんをした。

「そのとおり。互いに利害が一致しているわけではないが、ところどころでメリットがあるから友人のような関係をたもてている」

 シノハが苦笑いを浮かべる。


「今回の件にしても、そのペンギンのゆがんだ欲望に巻きこまれているようなものだし」

「性格が悪いんですね……そのペンギンさんは」

「表面的な性格はふつう。むしろ善人と呼べるものだろう、会話の最中に嫌味をねじこむていどだ」

「充分に性格が悪いのでは?」

「そのペンギンなりのジョークのつもりなんだよ。こちらがいいやつだと思われるのを嫌っているのを知ってくれているからこそのな」

「スズメさんがですか。いいやつなのでは?」

「いいやつというのは損をするやつのことだと……個人的には思っているから嫌いなんだ。だからつぎからは悪いやつにしておいてくれ」


 世の中には変わったスズメがいるものだと思っているような顔をしつつ、シノハがうなずく。

「話を戻そう。とくしゅな環境で育った影響もありそのペンギンは不自由そうな生きかたをしている」

「でも、それはスズメさんの主観なのでは? ペンギンさん自体がどう思っているかどうかが重要なんですから」

「かしこく……優等生な考えかただな。その理屈は正しいが、あくまでも一般的」

 そのペンギンは到底まともで常識的な幸せと呼ばれるものを求めていない、とスズメの男が続ける。


「とくしゅな環境で育ったからですか?」

「いいや……そのペンギンのそもそもの考えかたがゆがんでいただけのこと。むしろ、とくしゅな環境のおかげでまともな思考回路にきょうせいをされていたとさえ言える」

 結局……そのまともな思考回路もかくみののように無自覚に利用をしているから、そいつの本質というものは変えられないのかもしれないがな。

 スズメの男が視線を上空のほうに動かす。

「ペンギンさんの目的はなんなんですか?」

 声をかけられ、スズメの男がシノハの顔を見る。


「表向きには、一族の復興」

「一族の復興? わざわざ別の世界にくる必要は」

「まったくない。こちらの世界でもそのペンギンは指折りの実力者だ。細かいルールはあるんだが……序列じょれつによる恩恵おんけいですぐにでも達成をできるレベルの目的だ」

「だったら、どうして?」

「一族の復興、という表向きの目的をかかげておけばまともなやつに見えるとでも思っているんじゃないか」

 じっさいは強い人材かどうか確かめるという建前たてまえでバトルジャンキーな欲望を満たしているんだ……めんどうくさいやつだろう?

 スズメの男に同意を求められ、シノハが肯定とも否定とも言えない……あいまいな返事をする。


「めんどうくさいやつかどうかはさておき、こちらの世界にくる必要はないのでは? 旅行気分で別の世界に移動できるわけでもないはずですし」

「こちらの世界では序列がきっちりと決まっているからこそ、めったに闘争とうそうが起きないんだ」

「下剋上……みたいなこともないんですか?」

「ペンギンがすでにやった。やりつくして、あいつよりも序列が上だった連中はすべて、ひとり残らずあの世に旅立っている」

「一族の復興が目的だったのでは?」

「建前なんだよ。いて、その目的と一致しているところがあるとすれば……自分よりも強いかどうか確かめたいぐらいか」

 結果はさっき言ったとおり、あのペンギンと友人になりたければ興味をもたれないぐらい弱いことが前提条件だ。

 スズメの男が笑うとシノハもぎこちなく笑った。

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