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泥まみれのフィスト  作者: 色飴 遥火
異界からの案内人
13/25

ルールのない世界 6

 魔術により、つちもりシノハに変身をしていた存在がタイヨウとヒオリに接触するよりも数時間前。

 本物の土守シノハは眠り、夢を見ていた。

 どこまでもひろがっているように見える真っ白な空間。

 学校から指定をされたとおりに黒のセーラー服を着たシノハがぽつんと立っている。

 いつも見る夢とちがうような。


 火色の髪の彼女が歩くたびに足音が響く。

「わたしのイメージどおりになるのは同じか」

 あてもなく移動をしつつシノハは桜の木がふってくるイメージをした。

 タイムラグがあるも、火色の髪の彼女のイメージどおりにいくつもの桜の木がふりそそぐ。

 音もなく、真っ白な地面に突き刺さっていき辺りいちめんを桃色に染める。


「素質だけでなく力のつかいかたもあくしてくれているのか。仕事がはかどるな」

 声のした方向にシノハが顔を動かす。

 火色の髪の彼女の知らない存在が立っていた。

 くたびれた社会人のようにびろを着た、スズメのかぶりものをした人間であろう生きものをシノハは観察する。

 夢の中は不思議だな。

 こんな変な生きもの、想像したことないのに。


「はじめまして……土守シノハと申します」

 にこやかな表情をつくり声をかけてきたシノハにスズメの男が頭をさげて、あいさつを返す。

「こんな変な生きものを見てあいさつをできるわけないだろうし。夢の中のバグの一種だとでも思っているのか?」

「変な生きものの自覚はあるんですね」

「そちらの世界ではな。こちらの世界では、まともな見た目という基準に」


 スズメの男が口を閉じ、だまってしまう。

「下手に誤解をといて仕事ができなくなるよりマシか、気づいてから説明しても手間は変わらない」

 などとぶつくさ言うスズメの男を、じっと見つめながらシノハが首をかしげる。


「どうかされましたか? スズメさん」

「なんでもない。いきなりでわけがわからないとは思うが、お嬢ちゃんは強さに興味はあるか?」

「強さですか」

「暴力や精神的……なんでもいいぞ」

 困惑をしてそうなシノハをフォローするように、スズメの男が似たような質問をくりかえす。


 火色の髪の彼女の頭の中ににちながタイヨウの姿が。

「友達が暴力的な強さを求めている傾向があるので人並みていどにはあるかと」

「自覚なしのパターンか」

「自覚なし?」

「詳しい説明はなしだ。わざわざ教えなくてもきみ自身がすぐに理解できる……魔術をつかうためには必要なことだからな」


 いぶかしげな表情をしたシノハの目の前に、白い木製であろう高級そうなデザインのテーブルとがぱっと現れた。

 白い椅子にスズメの男が座り。

 シノハにも腰かけるように伝えているかのような動作を見せた。


「失礼します」

「律儀で真面目。お嬢ちゃん……じつは優等生か」

「じつはもなにも現実で優等生をやっています」

「疲れないか?」

「小さい頃からなので変えるほうが疲れるような」

すじがねりの優等生で、いいやつか」


 飲みものも用意してないのに悪かったな。

 スズメの男が謝る。

 いいやつなんじゃないかな、スズメさんも。

「飲みたいものはあるか? 食べものやスイーツと呼ぶ甘いものでもかまわないが」

「オレンジジュースをもらえますか」

「本音は?」


 スズメの男の一言にシノハが表情を変えた。

「できれば……ショートケーキやモンブランもほしかったりします」

「夢の中なんだ。カロリーを気にする必要はない、遠慮もするな。注文せずに自分で用意してくれてもオッケーだ」


 白いテーブル上にオレンジジュースのそそがれたストロー付きの淡い色合いのサワーグラス。

 マンションを借りる住人のように小さなショートケーキやモンブラン……ほかにもさまざまな種類のスイーツがのっている。

 かんらんしゃのようなかたちのケーキスタンドが、テーブル上にとつぜん出現した。


「口に合うはずだ」

「意外と甘いものが好きなんですね」

「糖分は頭の働きをよくする効果もあると言われるからな」

 シノハが小さなショートケーキを丸ごと口の中に運び。なんとも言えない、うれしそうな声を出す。


「いつもの夢とちがって、味がしっかりとしているような」

「イメージが明確だからだな」

 シノハが短いあいづちを打つ。

「しばらくは飲んだり食べたり、おしゃべりをたのしんでくれ」

「おしゃべり……スズメさんとですか?」

「親や友達、わけのわからない生きものにしか話したくないこともあるだろう?」


 きみの夢の中だ、自分以外の目や考えを気にしなくていい……自由に語ってくれ。

 スズメの男がやわらかな口調で言う。

「スズメさんは人間なんですか?」

「そちらの世界の言葉で表現するなら宇宙人や未知の生命体とやらがしっくりとくるイメージだろう」

 それからもスズメの男はシノハの質問にていねいにこたえていった。




「でね、日永くんが」

 顔つきがやわらかくなり、たのしそうに話をしてくれているように見えるシノハを見てかスズメの男がわずかに唇を動かす。

「ちゃんときいてますか?」

 スズメの男が短い言葉で肯定をする。

「日永くんもいいやつのようだな。そこまでできる人間は数少ないだろう」


 シノハが表情をさらに明るくする。

「鈍感なところがたまきずですけどね」

「日永くんをいているのか?」

 露骨に目をそらし、シノハはストローでオレンジジュースを飲む。

 空になるとメロンソーダを自分のイメージで用意して、さらに飲み続けていった。


「ノーコメントで」

だったな。つついて悪かった」

 シノハが否定をするように両手を動かし。

「たぶん正解だと思います。日永くんのことが好きなんだと」

 奥底に隠していた気持ちをした。


「気持ちを伝えたりはしないのか。人間の見てくれに関してはわからないが……まったくの不釣り合いというわけでもないんだろう?」

「見てくれどうこうで付き合ったりしませんよ」

 男の子はどうなのかわかりませんけど。

 シノハがつぶやく。


 スズメの男が不思議そうな顔をつくり白い椅子の背もたれに上半身をあずける。

「見てくれがいい。その言葉自体はいいもののはずだが、どうして隠そうとする?」

「言葉自体に悪意はありません。見てくれで判断をして好きになる行為が人間の感覚的に悪く感じるんだと思います」

「打算的だからか?」


 シノハが首を小さく縦にゆらす。

「損得勘定にちかいので」

「ほかの部分でメリットがあるからこそデメリットを受け入れ……シンプルな思考自体が恋愛感情ではマイナスな印象を与えると思いこむわけか」

 スズメの男が観察するように向かいに座るシノハの姿を見つめた。

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