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泥まみれのフィスト  作者: 色飴 遥火
異界からの案内人
12/23

ルールのない世界 5

「どうして、そんなことを言う」

「可能性のひとつを言っただけだよ。ミカゲくんも考えなかったわけじゃないでしょう。タイヨウくんに気をつかいすぎだって……怒ってくれていたほうが強くて、面白いし」

 期待するような目でヒオリがタイヨウを見た。

 黒髪の彼は平然としている様子。

「さっさと連中を見つけて、たすけだせればなんの問題もない話ですからね」

「はやいね。もう怒りのコントロールもできるようになっちゃったか」

円堂えんどうさんのおかげです。ありがとうございます」


 あぁー、うん。どういたしまして……とヒオリがぎこちなく返事をしていた。

日永にちなが。この件が終わってからでもおれにイカれた女のいなしかたを教えてくれ」

「感謝の言葉を伝えただけで、技術とかはつかってないつもりだったんですけど」

 返事をしているタイヨウが身体をふらつかせた。

「連中を見つける方法はあとで考えるとして、とりあえず治療が必要そうだな」

 ミカゲの視線に気づいてかヒオリが反応する。


「日永に協力するつもりはあるのか? あるのなら知り合いの医者のところに連れていってやるが」

「どうしようかな。お医者さんは嫌いなんだよね、注射してきたり……すぐに説教してくるし」

 ちらりとヒオリがタイヨウを。

 黒髪の彼が心配そうな表情をしているからかセミロングの黒髪の彼女は困ったような顔を見せる。

「ミカゲくんがそのお医者さんのところまで、お姫さま抱っこをしてくれるんだったら……いってあげてもいいよ」

「ずいぶんと素直だな。日永がいるからか?」

「うっさい……さっさと運んで」


 ミカゲにお姫さま抱っこをされ、しばらくするとヒオリはゆるやかにまぶたを閉じて……寝息をたてはじめた。

 折れた細い左腕をだらりと垂らしている。

「悪いな、日永。お前もかなりの重傷なのに」

「気にしないでください。肋骨ろっこつが何本か折れているだけなので動けますし」

「どおりでこいつが気に入るわけだな」

「なにか言いました?」

「なんでもない。それこそ気にするな」




 廃ビルから離れていき、ミカゲの知り合いの医者のいるところへ向かっている途中。

「本人が眠っているのに、きいてもいいのかわかりませんけど……円堂さんは影水心えいすいしんに参加したことがあるんですか?」

 建物の屋根の上を移動しているミカゲと並走しながらタイヨウがそんな質問を口にした。

「影水心どころか、そもそも水心大会にすら出場をしてないな」

「あんなに強いのに」

「日永のほうがよくわかっているだろう。こいつのイカれ具合についていける武術の使い手が数少ないことは」


 急所攻撃と武器の使用をゆるされた影水心に出場できるレベルの武術の使い手でもな……とミカゲが補足をするように言う。

「金剛さんもからまれたんですか?」

「おれはこいつがほかの影水心に出場をしたことのある選手との殺し合いの仲裁……中断をさせているうちに顔見知りになっただけだ」

 いつもはもっと暴れまわったりするんだが、今日は満足をしたらしい。

 いつぞやのヒオリとの出来事を話しているミカゲが……目を覚ましたばかりでぼーっとした顔つきのセミロングの黒髪の彼女のほうに視線を動かす。


「着いた?」

「まだだな、もう少しだけ眠っていろ」

「あいかわらず……つまんないね。襲いかかろうとする気持ちがみじんも感じられないしさ。そう思わない? タイヨウくん」

 とっさに声をかけられたのもあってかタイヨウは返事に困っている様子。

「あーっと、タイヨウくんはべつだよ。あのニセの委員長とちがって嘘をつくのが上手だから」

「嘘をついている自覚がないんですが」

「だからこそ上手なんだろうね。自分が嘘をついている自覚がないってことは……それが自分の心底の本音だと信じきっている状態」


 本当はどろどろのどす黒い欲望のかたまりをもちあわせていても……その存在を自覚してなかったり知らなければ、いくらでも嘘をつけてしまう。

 タイヨウくんはそこがたまらなくかわいくて……面白いんだけどね、と言いつつヒオリがにやつく。

「日永……あまりこのイカれた女の言うことを気にするな。お前はお前だ」

「どろどろのどす黒い欲望のかたまりみたいなものをもちあわせているのはニセの委員長のほうだよ。タイヨウくんのはもっとどろどろしているね」

「なおさら悪いじゃないか。もうだまっていろ……落とされたくはないだろう」


 ふふっと軽く笑い、ヒオリはまぶたを閉じる。

「円堂さん、質問してもいいですか?」

「デートだったらいつでもオッケーだよ」

「あのニセの委員長が嘘をついていると判断をしたのは直感なんですか」

 ヒオリが口も閉じたまま返事をしようとしない。

「この件が完璧かんぺきに終わったらまた円堂さんとデートをしてもらおうと思っていたりします」

 セミロングの黒髪の彼女が左のまぶただけを開けタイヨウの横顔を見つめた。

「タイヨウくんがそのデートで負けちゃったら……おさななじみの月宮つきみやクモラちゃんを殺してもいいのならよろこんでやってあげるけど」

「すみません。うそをついてしまって」

「べつにいいよー。タイヨウくんだから特別にゆるしてあげる」


 いじわるそうな笑みをつくり……上機嫌であろう様子のヒオリに。

「本当に落とすぞ」

 ミカゲが声を低くしつつ、おどした。

「わかったわかった。もうやんないから、そんなに怒らないでよ……ミカゲくん」

 ニセの委員長が嘘をついていると判断をした理由だったっけ? タイヨウくんの言ったとおり直感で合っているよ。

 とヒオリがこたえている。


「育成とかなんとか、えらそうなことを言っていたけど。あのニセの委員長はそんなの本当はどうでもいいと思っているんだから……もっとスカっと生きればたのしいだろうにね」

「円堂さんの直感なんですよね、あくまでも」

「直感だよ……でも、あんな鋭い目つきでわたしとタイヨウくんの殺し合いデートを見ていたし。当たらずとも遠からずじゃないかな」

 ミカゲにお姫さま抱っこされたヒオリが見ている方向にタイヨウも視線を。

 はるか遠くから届いてきたのであろう、かすかな爆音と熱風の原因だと思われる巨大な火柱が立っていた。




「なんとなくですが、スズツキさんとニワヒヨさんは鳥葬ちょうそうであの世にいかれると思っていたんですが」

 目の前にそびえたつ……天空に届きそうなほどの高さのビルを丸ごと燃やしてしまった制服姿の彼女のほうをペンギンの男が見る。

「罪悪感などはありませんか?」

「相手が人間じゃなかったから平気みたい」

「それはよかった。こちらの世界での初心者はその罪悪感とやらでとてつもない才能を発揮させられずに腐ってしまうという話も」

「日永くんはどこ? はやくたたかってみたいんだけど」


 本物の土守つちもりシノハがそう口にしている。

「どうしても日永タイヨウさんとのたたかいをあきらめてもらうわけにはいきませんか」

「やらせてくれないなら、あなたも燃やすだけ」

「わかりました。それでは、殺すのは禁止。半殺していどならオッケーということでどうでしょう?」

「それじゃあ、あの女に勝てないから駄目だめ

「しかたありませんね。こちらの条件をのんでくれれば魔術によるルールで、日永タイヨウさんを自由にできるのですが」

「どういうこと?」

 シノハの反応が想像どおりのものだったからか、ペンギンの男はにやりと笑った。

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