第四十七話
キメラを射殺して警察に簡単な事情を説明して直ぐにお役目御免となったクアトロ・セブンとジェーン・ザ・リッパーは後からやって来たジェシカと通訳に興奮した様子のパトリックを押し付ける。
通訳はパトリックの言葉を聞き2人にまるで忍者の様で可憐な動きだった。ワイヤーアクションの様で驚いたと告げている。相手にするのが面倒なクアトロ・セブンはアレぐらい日本の魔法少女は誰でも出来ますと告げると、パトリックはまさかと笑う。
此処で本当だと言ってあーだこーだと言い合っても良いのだが、目の前の“一般人”相手に魔法少女の講義をするのも馬鹿らしいので取り敢えず、場所を移動しようと告げる。2人は此処に仁のGT-Rで来た。カリカリに改造したGT仕様。
一応4人乗りである。駐車場に移動して、GT-Rを見たパトリックはやはり興奮した様子だった。通訳の乗る場所がないと告げると、仁は柳葉を見た。柳葉は何時もどおりダッヂで来ているのでそれに乗って後から付いて行くとのことだ。
これからの予定は?と尋ねると取り敢えず、ホテルにチェックインしたいと告げる。ホテルはマリオットアソシアホテルとの事。マリオットアソシアホテルは名古屋駅に有るホテルで最上階からなら名古屋市を一望出来るだろう。
仁は了解と頷き、柳葉に名駅で会おうと不敵な笑みを浮かべると猛スピードで駆け出した。昇はもう馴れたといわんばかりの涼しい顔で助手席側の手すりに捕まり、パトリックとジェシカは絶叫を上げた。
セントレアからマリオットアソシアホテルまで大体45分程掛かる。途中、有料道路を通り、わずか20分で付いてしまったが、ジェシカは怒り心頭だし、パトリックは青ざめた顔をしていた。仁は若干ジェーン・ザ・リッパーの時と同じように嗜虐趣味満面の笑みを浮かべて2人を眺めており、昇は何時も通りの無表情だった。
ホテルの駐車場に付いてから10分ほど2人は動けずに居たが同様に柳葉たちの到着も待たねばならなかったので調度良いと仁は大音量でPublic EnemyのWelcome To The Terrordomeを流し始めた。最近やってるFPSで車両に乗ると流れている音楽の1つだ。
どうにも脳内にこびり付いてしまい結局探しだしてダウンロードしたのである。
「何言ってるのか分からんけど、どうも頭に残るのよね」
「ああ、分かる。
サウンド・オブ・ダ・ポリスとかヤバイな」
二人して中々コアな音楽の話をしていると昇の携帯が鳴る。昇が携帯を取り出すと掛けて来たのは真であった。真はもう外出禁止令が解除され、現在は慶太郎とデートしたり外に買い物に出る事が許されている。ただし、門限が付いて平日は午後7時まで、土日は午後6時までには帰って来いという物でそれを超えるようなら昇か仁と一緒に行けと言う命令なのだ。
何故2人なのか?と言う疑問に真の母親は誰にも言っていないが、この2人の正体を知っているからである。
「もしもし」
「あれ?
桜ちゃん、だっけ?」
「違う。色々と事情があって変身してるんだ。
要件は?」
「ダブルデートしない?」
真の言葉に昇は暫く考えてから、今少々面倒くさい仕事をしており、返答を少し待ってくれと告げる。真はよく分からんが、返事は早めにしてねと告げて電話を切ってしまった。
「どうしたの?」
「真がダブルデートをしようと言って来た」
「あら、良いじゃ無い。
この2人ホテルに置いたら2人を向かいに行きましょうよ」
「柳葉さんに連絡を入れてからな」
それから2人は柳葉が来るのを待って、ダブルデートの事を話す。すると、柳葉が呆れた顔でお前等は俺の話を聞いていたのか?と告げる。この1週間はお互いの交友を深めつつその様子をビデオに収めるのが仕事であり、今日はまだその仕事が残っているだろうが、と。
「二人共疲れて休みたそうだよ?」
「時速180kmであの交通量が多い場所をすり抜けていけば誰だってああなる!」
仁の言葉に柳葉がバカヤローと声を荒げると、仁はヒッヒッヒと悪どい笑いを浮かべる。それから、今日は撮影は無理そうですからねと告げて2人を見やる。昇は暫く考えてから2人に対して「Get out here」と告げる。その発音だけは実に流暢だった。
仁が驚いた様に昇に何言ってるのよ?と尋ねると、昇は出ろと言う英語はGet out hereだろう?と告げる。仁はその回答にそうだけどどっちかというとそれは「出て行け」に近いと告げると、昇はフムと腕を組み眉を顰め、英語は難しいと漏らす。
通訳がフォローのために英語でなにかべらべらと2人に告げ、パトリックはI seeと頷いている。ジェシカはもう部屋に帰って休むわと告げ黒人のボディーガード、トニーに告げる。トニーは2人の荷物を持ってホテルの方にパトリックは何処かに行くなら一緒に行こうとカメラを上げてみせる。
柳葉はそう言う事だと告げると俺はジェシカの方に行くから騒ぎは起こすなよと去って行った。そして、柳葉の後に続くように通訳も行ってしまう。その場には昇と仁、パトリックの3人に成った。
「取り敢えず、行こうか」
パトリックはそう告げると仁はパトリックの言葉を訳して告げ、真に電話を掛けた。
「僕だ」
「うん、で、どう?」
「あー……
1人余分なのが居るがそれでも良ければ」
昇の言葉に真が意味分かんないけど良いなら家に来てと告げ電話を切ってしまった。昇は仁に真の家まで一旦行こうと告げる。そして、車に乗り、今度は安全運転で駐車場から外に出た。
名駅周辺をカリカリに改造したGT-Rが走っていくので否が応でも人目を引く。幸いスモークで三方を囲っているために中に誰が乗っているのかまでは特定されていないが、代わりに警察がやって来る。直ぐに1台のパトカーがやって来るが、警官に対して昇が魔法少女であり、現在は防衛省と魔法少女協会公認のビデオ撮影中である事。更に後ろには海外セレブのパトリック・フレドリックが乗っている事を告げて、更には柳葉の名刺を渡して確認を取らせた。
警官達は昇がクアトロ・セブンと知った時点で開放しようとしたのだが、行く先々で警察に捕まるのも面倒臭いの出来れば市位の警察には情報を流しておいて貰えると助かると告げる。警官は2人に対して敬礼をして何事も無く送り出してくれたのだ。
「日本の警官は君達にとても敬意を払っているんだね」
パトリックが関心した様子でそう告げると、仁は持ちつ持たれつよと告げた。昇はパトリックが何と言ったのか?と尋ね、仁が先ほどのやり取りでお互いに敬意を持っているのに関心していると告げる。
「アメリカじゃ違うのか?」
「アメリカだと基本的にキメラが出ると警察や保安官、消防署に所属する魔法少女が出るからね。魔法少女に成れば、警察官や消防署、軍隊に簡単に入れて更には色々と税金が免除されたり手当が出る。更には名誉ある地位にも付けるしね。まぁ、命の危険もあるから全員が全員キメラと戦うと言う事はないよ」
僕やジェシカみたいにねとパトリックは笑う。
アメリカでは魔法少女と言う物には余り社会的価値はない。どちらかと言えば性別や血液型、性格に近い個性として捉えられており、それを隠すことも無ければ差別するような事もしない。無論、その力を使って犯罪を起こせばそれ相応の処罰があるし、大抵が重犯罪として終身刑、死刑が有る州なら死刑に成る。
そして、それに関しては合衆国大統領の名の下に『魔法少女の能力は一般人に行使するには余りに強大過ぎる力であることは合衆国国民の誰の目から見ても、例えば6歳の子供であってそれは分かることであり、それを一般人を助ける事以外に使用することは、合衆国国民の引いては世界中の人間に対する裏切りである』として合衆国議会で宣言され、また議会でも全会一致でこの法律は可決された。
故に、アメリカにおける魔法少女とは即ち、警官がその職務の中で仕事をした、と捉えられ別段誰に褒められるでもない。勿論、勲章を貰ったりメディアに出たりはするが、同僚からはそれが当然の仕事であると言う態度を取られる場合が多い。
パトリックの説明を仁が訳し、昇が成る程と頷いた。そして、仁は愈々通訳が大変だということに気が付き、些か後悔をし始めたのであるが、時既に遅し。仁は一旦家に帰って自動車を変えると告げた。
「何だい此処は!?
まるでトニー・スタークの地下駐車場じゃないか!」
そして、仁の家マンションの地下にあるほぼ仁が専有している駐車スペースにズラリと並ぶ高級車を前にパトリックが興奮気味にそう叫んだ。カメラを舐めるようにしてその高級車達に向けてスーパーカー達を目の前に興奮冷めやまぬと言う感じで仁これは全部君の物なのかい?と聞いていた。
仁はそうだと答え簡単な説明をし始めた。それを脇で見ている昇は面白く無い。パトリックに悪気はないのだろうが仁との間が近いのだ。アレは何だ?これのエンジンを見せてくれと言うように仁の肩に手を置いたり、狭いエンジンを一緒に覗いたりしている。
「それぐらいで良いだろう。
真達が待ってるんだぞ。後にしろ」
気が付いたら昇は二人の間に割り込んでそう言っていた。仁とパトリックはそうだったそうだったと完全修理をしてつい先日戻って来たアヴェンタドールのエンジンルームを閉め、駐車場の奥に停めてある2台のG63AMG6x6の内、荷台を縮小し更に人が乗れるようにした独自改造モデルに乗り込んだ。
G63AMG6x6は日本国内で10台販売しているかどうかと言う物で1台あたり8千万程する。ゲレンデワーゲンの車体を延長して6輪式にしたモデルでゲレンデワーゲンは軍にも卸しているのでその頑強な作りをそのまま受け継いだなんちゃって6輪装甲車と言ってもいいだろう。
因みに、これは防弾板と防弾ガラスに防弾タイヤを備えており、エンジンも通常の8気筒エンジンから12気筒エンジンに換装してあり、その外見に似合わないスピードで走ることが可能である。
「こんな装甲車で行くのか?」
「だって、これしか5人以上乗れる車ないだもの」
仁に言われて昇が改めて駐車場を見ると、確かにどんなにが多くても4人乗りの車しかなかった。普通の車も買えよと昇は嘆息し、まぁ、良いと助手席に乗り込む。
仁は運転席に入り、パトリックは後部に乗る。エンジンを掛けるとドルンと最早戦車のそれに近いエンジン振動音をさせて駐車場を後にした。仁の家から真の家まで自動車で30分ほど掛かる。そうこうしている内に昇の携帯に真から電話が掛かって来た。
「僕だ」
「何処に居るのよ?」
「あと30分ほどで着く。
もうちょっと待っててくれ」
「もー早くしてよね!」
呼び出しておいてこの態度、昇は文句を言おうと思ったが言う前に電話が切れてしまった。仁がすまんこと眉間に皺を寄せ始めた昇に謝っておく。仁はそれからオーディオを弄ってアニソンを流し始めた。北斗の拳に始まり、最新の物までが入っている。
結局、真の家に着くまで昇の機嫌は治らず、出迎えに出た真も思わず「うわっ」と声を上げるほどに昇の機嫌は悪かった。真の家には彼女の母親と慶太郎も居り、慶太郎は真の母親に気に入られたらしい。
「深見先輩滅茶苦茶機嫌悪いじゃないですか、どうしたんですか?」
そして、近くのコインパーキングにG63AMG6x6を停めてやって来た仁に慶太郎がこっそりと尋ねてみる。
「わ、わかんない。
多分、此処に来る前に、駐車所でパトリックと車について話してて、来るの遅れちゃったんだよね~」
「あぁ、それで真の電話で……」
「多分」
慶太郎と仁は成る程と頷き、早々にパトリックを取り囲み日本語で質問攻めにしている山口親子のもとに向かう。昇は英語が出来ないので知らん顔で出された飲み物を飲んでいる。
「あ、えっと、お母さん。此方はえ~っと……
そう!昇の従姉妹のお姉さん!で、そっちは仁さんの従姉妹さん!」
そして、真は初対面であると思っている昇と仁を母親に紹介するが、母親は何を言っとるんだコイツは?という顔で真を見た後に二人の正体は知っていると告げる。そして、お前を探す為に態々魔法少女の力を使ってまで探してくれた友達思いの良い人達だ、と藪蛇の説教が始まった。
真はその説教をそれは後で聞くから!と押し切り、無理やり話題をパトリックに向ける。
「この外人さんは誰?」
「パトリック・フレドリックだ。
ジェシカの憂鬱ってアメリカのドラマで、ヒロインの彼氏をやってる男だ。一応、コイツも魔法少女だな」
魔法少女と言う言葉に真も慶太郎も少し反応をする。
「まぁ、変身出来るだけでキメラを殺したことが無いそうだ」
昇の説明に2人はよろしくと挨拶をし、仁を通じて自己紹介が行われた。