第四十六話
昇達にオファーが来てから1週間後、昇と仁はクアトロ・セブンとジェーン・ザ・リッパーの格好で愛知県常滑市伊勢湾沖に建てられた中部国際空港に来ていた。二人共私服で、クアトロ・セブンはダメージジーンズにヘソの出たタンクトップ、上に薄いジャケットを羽織っている。目元を隠すために薄いサングラスをしている。
ジェーン・ザ・リッパーはチューブトップの上に袖を切ったパーカーを羽織り、下はホットパンツだ。此方はパーカーを目深に被って居た。
ジェーン・ザ・リッパーはヘッドフォンで音楽を聞いており、クアトロ・セブンはイアフォンで音楽を聞いている。二人共空港ラウンジにてソファーに座り、二人共PSPをモンハン持ちでプレイしている。
「糞、三死した」
「ドンマイ」
クアトロ・セブン、いや昇は舌打ちすると背凭れに倒れてからPSPを脇に置く。
2人はミラボレアスを裸で狩ろうと言うよくある縛りプレイをしているのである。
「無理だろう、これは。
ブランクがあり過ぎる。僕が小学校の頃に大流行したゲームだぞ」
「行けると思ったんだけどなぁ」
「せめて3だろう。
あれは正直、村装備で上級まで行けるヌルゲーだ」
昇の言葉にジェーン・ザ・リッパー、仁は頭を掻いて同じ様にソファーに凭れ掛かる。それから2人は立ち上がってラウンジに置かれた飲み物を取りに向かう。要人用のラウンジで軽食も取れる様になっている。そして、其処では空港の職員が立っており世話を焼いてくれるのである。
今回は海外でも有名なセレブが来ると言う事でこちらに通されたのだ。
「コーラ」
「自分はファンタ」
昇の仁の言葉に係りの女は申し訳ございませんが、ファンタは置いておりません。コーラで宜しでしょうか?と返すので仁は已む無しと頷いた。また、サンドイッチが有るというのでそれを注文する。係りは直ぐにご用意しますと一礼してから2人にコーラを渡して奥に引っ込んだ。
2人がソファーに座ると、初老の老夫婦が入って来た。一応、共有スペースでもあり、一般人も使う。身なりの良い上品な夫婦で昇と仁に一礼してから近くのソファーに座った。
「しかし、同じ空港で金持ちと貧乏人は此処まで差別されるのか」
コーラに差さるストローからコーラを飲む昇が何時もどおりの無表情で告げる。仁は世の中金よと身も蓋も無い返事をして同じ様にコーラを飲む。
因みに、このコーラも今作られているであろうサンドイッチも全て無料。と、言うのも此処はクレジットカード会社が運営しており、此処に入れるのはプラチナカード会員の者しか入れない場所である。仁は此処のブラックカードを保有しているが、昇は年齢の関係上保有しておらず、特別に此処に通されたのである。
「失礼ですが、日本語がお上手ですね」
そして、脇に居た先ほどの老夫婦の内婦人が昇に話し掛けて来た。
クアトロ・セブンは黒髪の北欧美人にしか見えないので訛り無くスラスラと日本語を話す昇を外国人と思っていたのだろう。
「ええ、まぁ、はい」
「どちらのお国ですか?」
「ああ、そうか。
失礼。僕は日本人です。クアトロ・セブンという魔法少女をご存知で?」
昇の言葉に婦人はクアトロ?と首を傾げていた。
「貴女は魔法少女なので?」
「ええ、そうです。
ちょっと事情があってこの格好で海外からくる外人を待っているんです」
何時もはこういう格好をしていますと昇は携帯からメイド服にBARを持ったクアトロ・セブンの画像を引っ張りだして婦人に見せた。婦人は携帯を見てから、ああ、見たこと有るわと夫であろう男に携帯を見せる。夫も老眼鏡を掛けて携帯を見るとああ、知っている知っていると頷いた。
隣にいるのがジェーン・ザ・リッパーですと一応紹介しておくと、2人はそっちは知っているようでまぁまぁと驚いた顔をしている。
そして、2人はこれからフランスに向かうのと話し始めた。何でも向こうに娘夫婦が暮らしており夏のバカンス序に行くらしい。昇はこの時期のフランスは滅茶苦茶気温が高く悲惨では無いのだろうか?と思ったが口には出さず、そうなんですかと殊勝に頷いていた。
しばらくするとサンドイッチを持った係の者が現れてお待たせしましたと二人の前においた。老夫婦は別の時計を見てそろそろ搭乗手続きなのと告げ去って行く。そして、彼等と入れ違うようにラウンジには余りに不釣合いの無精髭を生やした草臥れたスーツの柳葉が入ってくる。後ろにはガタイのようにラフな格好をした黒人が続き、その後ろにはアメリカンギャルな格好のジェシカ・チェンバレンと思しき女とパトリック・フレドリックと思しき清潔感有るジャケットの男が入って来た。
昇と仁は一応立ち上がってから柳葉を見る。柳葉は2人の隣に立ち、ジェシカ・チェンバレンとパトリック・フレドリックを紹介する。
「女の方がジェシカ・チェンバレン。そっちの男がパトリック・フレドリックだ。
で、此方がクアトロ・セブン。向こうがジェーン・ザ・リッパー」
柳葉の言葉を通訳が2人に訳す。まず最初に挨拶をしたのがパトリック・フレドリックだった。
「初めまして、パトリック・フレドリック。親しい人達は皆パックと呼ぶんだ。
君達もパックと呼んでくれると嬉しいな」
パトリックが右手を差し出すので昇はそれを握り、次いで仁も握った。
「ジェシカ・チェンバレンよ。
ジェシカで良いわ」
ジェシカはサングラスを外すことすらせず椅子に座り告げた。そんな態度のジェシカにパトリックが注意してからジェシカの非礼を謝る。
「別に気にしていない。アンタ達の性格はある程度把握している」
昇がそう告げてからソファーに座り、出されたサンドイッチを頬張った。仁同様に座り、サンドイッチを口に運ぶ。
「それで?」
昇はサンドイッチを食べながら柳葉を見る。柳葉は昇の意図にああと頷き説明を始める。
このドラマの主役はジェシカとパトリックである。そして、特別ゲストとして日本側からは昇と仁、つまりはクアトロ・セブンとジェーン・ザ・リッパーが出る。取り敢えず、撮影が始まるまで主役達で仲良くしておこうと言う話であり、提案者はパトリックであると柳葉が告げる。
柳葉の説明を聞いたパトリックはそう言う訳だよとイケメンスマイルを浮かべた。
「成る程。
意図は分かりました。それで何故、僕等は態々変身しているので?」
「特典映像で付けるんじゃない?
2人は中の人公にしてるけど、私達はしてないじゃん」
仁の言葉に柳葉はそういう訳だと告げると、昇は成る程と頷いた。そして、脇にいる黒人を見る。黒人は昇を見返すだけで一言も喋らない。
パトリックは彼は護衛のトニーだと告げる。
「魔法少女なのに護衛を付けるのか?」
「あ、それ私も思った」
昇と仁は2人で声を潜めて話すとジェシカが何だ?と尋ねて来る。
「何故、護衛なんて雇ってるんだ?」
「何でって、襲われたらどうするのよ」
通訳から返って来たジェシカの言葉に昇も仁も何を言っとるんだコイツは?という顔でジェシカを見た。2人の勘違いに気が付いた柳葉は2人は戦闘訓練は積んでないし、キメラを殺したことすら無いぞと告げる。柳葉の発言に昇と仁は思わずは?と口に出して言ってしまった。
ジェシカの憂鬱では本物のキメラを使用して撮影している。しかし、最終的に殺害しているのはジェシカやパトリックではなく彼等の代役である別の魔法少女が彼女達が銃で撃つタイミングに合わせてキメラを殺しているのだ。
「ま、まぁ、コイツ等みたいな存在は日本にも居るしアメリカにいてもおかしくはないか」
「そ、そうね」
2人はそう納得してから愈々茶番だと溜め息を吐く。
そして、ジェシカが昇のサンドイッチに手を伸ばして勝手に食べ始めるので、昇は若干イラッとした様子でサンドイッチをもう一つ手に取って食べ始める。仁はパトリックに食べたきゃどーぞと勧めるとパトリックはありがとうとやっぱり人の良さそうな笑みを浮かべてそれを受け取った。
昇はパトリックを見遣ってアンタは人間が出来てるんだなと関心した様子で頷く。パトリックはありがとうと告げた。
「君達は本当にキメラを殺しているのかい?」
そして、パトリックが尋ねると二人共そうだと答える。
「人を殺す気分はどうなの?」
ジェシカの問いにパトリックが英語で何かを叱責し、それから通訳に何か言う。しかし、ジェシカは更に通訳になにかいうと、通訳は一瞬戸惑ってからそのまま訳した。その問いに柳葉が文句を言おうとして昇も仁も別に気にしていないと告げる。
「お前はキメラを人間だと思っている様だが、我々はあれを人間だとは思っていない。
キメラが人間なら、犬だって人間だ。人を襲い食い殺す犬だ。逆に聞くが、そんな殺人犬を殺すのに何故悲しんだり、躊躇ったりする必要がある?」
「しかも、アレを駆除すれば出動だけで20万。殺せば100万貰える。
真面目に働くのがアホらしくなるわよ?」
昇は極めて冷徹に、仁は極めて愉快そうに告げた。
柳葉は日本のキメラを狩る魔法少女達は全員、キメラを狩る事を殺人だと思っていない。例え、殺人だと思っている者が居たとしても、キメラに殺される人間の代わりにキメラを殺しているのだと告げた。キメラに10人殺されるぐらいならキメラを1人殺した方が道理があう。
そう告げると、ジェシカはでもそれは殺人じゃないと告げる。
「柳葉さん、これはもうダメだ。
こんな奴が出るドラマを取ってみろ、日本の魔法少女のイメージアップどころか反対派に燃料を与える口実に成る」
昇の言葉に柳葉もそうだなと頷き立ち上がろうとした所で、パトリックが慌てて2人に待ってくれと声を掛けた。どうやら、通訳が昇の言葉をパトリックに訳したようだった。昇は余計な事を言わんばかりに通訳を無表情に見詰めると、通訳はスッと視線をズラした。
それから、パトリックがジェシカが申し訳ない事を言ったとしきりに謝り倒し、どうかこのまま撮影を続けさせて欲しいと告げる。柳葉は困った様子で昇を見る。判断はお前に任せるということだった。
昇は頼むと言わんばかりに説得するパトリックの顔を立ててこの場は僕が折れると告げる。しかし、僕は反対したということを忘れないで欲しいと告げる。昇の言葉にパトリックは心底安心した様子で昇に礼を告げ手を固く握りしめた。
仁はお優しいことでと1人傍観者を決め込んで笑っていた。昇はそんな仁を軽くド突き、ソファーに座るとコーラを飲んだ。
ジェシカも私にもコーラが欲しいと脇に居た通訳に告げる。通訳は直ぐに立ち上がりコーラを持って戻って来た。
「それで、我々はもう帰って良いのか?」
昇はイライラを隠そうともせず柳葉に尋ねる。柳葉申し訳ないがこの後から2人に撮影をして欲しいと告げ、ハンディーカムを渡した。カメラは昇とパトリックに渡される。
柳葉が操作方法を教えていると、突然ラウンジに空港の警備をしている警備員と空港関係者が飛び込んできた。
「キメラが出たんです!直ぐに来て下さい!」
その言葉に昇と仁は立ち上がって直ぐに変身をする。服はメイド服と甲冑に、手にはM1918“ブローニング・オートマチック・ライフル”自動小銃と刀が現れる。
2人の変身を見てパトリックも直ぐに変身、柳葉は携帯を取り出して何処かに連絡をし始めた。クアトロ・セブンとジェーン・ザ・リッパーは警備員の案内に従って道を掛けて行く。パトリックも左手にハンディーカムを握り、右手にM870を持って追いかけ始めた。
4人は周りの警備員達に寄って作られた道を掛けて行くとターミナル三階、国際線チェックアウトコーナーから奥の搭乗口付近に鎌を持った所謂一般タイプのキメラが居り、暴れているのが目に入る。
「道を開けて!」
「魔法少女が通ります!道を開けて下さい!」
チェックアウト開始の為に多くの搭乗客が居り、まだ避難が完了してない。空港警備の警備員達が必死にバリケード等を作ったり刺股を構えて威嚇している。キメラの周りには犠牲と成った一般人が数人倒れている。
此処から先には逃げる人々に押されて中々前に進めないし、ある者は恐怖にかられてクアトロ・セブン達に縋り付いてしまう。
必死に警備員や空港関係者が2人を現場に通そうとするが混乱した現場では余りに無力だった。
「クアトロ、踏み台に」
「ええ、行きますよ、ジェーン」
クアトロ・セブンはそう告げるとキメラに背を向け姿勢を落とす。両手を組むと、ジェーン・ザ・リッパーはその手に右足を掛けた。そして、クアトロ・セブンがいきます!と声を掛けると同時に思いっきりそれを後ろにぶん投げる。ジェーン・ザ・リッパーもそれに合わせて思いっきり足に力を込めて人垣を30メートル程飛び越えてからキメラに抱き着くようにして組み伏せる。床に倒れたキメラの両肩に刀を突き刺してフロアに縫い付けるとそのままバク転してキメラから間合いを取る。
「きゃあ!?」
そして、キメラの近くに居た逃げ遅れた1人の老婦人が声を上げる。老婦人の隣に腕から血を流している夫と思われる男も居た。
「ああ、さっきのおばあちゃんとおじいちゃん」
「あ、ああ、ジェーンさん……」
「ありがとうございます」
2人はジェーン・ザ・リッパーに頭を下げるが、ジェーン・ザ・リッパーはまだ終わってないから今の内に離れなさい人垣を割ってやって来るクアトロ・セブンとパトリックの方を指差した。
ジェーン・ザ・リッパーは夫の腕に彼の着ているシャツを破いてキツく縛り止血をする。
「腱も大事な血管も切れていないから、直ぐに医者に見せて縫って貰えば直ぐに治るわ」
「ありがとうございます」
ジェーン・ザ・リッパーは老夫婦を担いで安全地帯にまで運ぶ。その背後で.30-06弾の野太い銃声が2発聞こえた。
ジェーン・ザ・リッパーは2人にその光景を見せ無いように敢えて正面を向かせ、空港関係者に彼等を引き渡した。重傷者が2名と軽傷者が3名出て、幸いにも死者は出なかった。夕方のニュースと夕刊の一面はこれで決定した。
また、その日の内にアップされた動画にはパトリックの姿も映っており、その日の内にジェシカの憂鬱は日本で撮影が決まったと言う話がネットを騒がせたのは当然の結果であろう。




