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第四十話

 昇は今、仁とドライブをしていた。はっきり言って、昇は仁とのドライブはあまり好きではない。現在、昇は東名高速道路を時速300kmで疾走していくランボルギーニ・アヴェンタドールの助手席に座っている。最も、昇は都心環状線でNSXやらGT-Rやらに喧嘩を売られ、ぶっちぎっていくのをドライブとは言わないと断言したところで、なら、浜名湖辺りに言ってみようと言われたのだ。


 都心環状線のキツいカーブを時速210kmでドリフトしながら駆け抜けていくよりは幾分心臓に優しいと許可したのが間違いだった。




「お前の頭のなかにはアクセルはべた踏みか離す以外の選択肢はないのか?」




 時速100km制限の所を時速300kmで走っているのだ。アヴェンタドールは公称値で350km出せるそうだが時速120kmあたりですらハイウェイパトロールから追われるレベルの速度だ。時速300kmも出したらヘリが出てくる。


 深夜の11時を回って交通量が少ないとはいえ、それでも車の通りは有る。ハイウェイパトカーが途中で追ってきたので時速180kmまで減速して追いかけっこをしたりしていたが、昇が今直ぐ止めろと告げた所300kmで走り始めたのだ。


 止めろ=停めろと言う意味だったのが仁は「捕まるな」と解釈したらしくこの速度に成った。




「世界広しといえども高速でヘリに追われたのはお前が初めてだろうな」




 トンネルに入って一旦ヘリからの追撃を避けた瞬間に時速を80kmに落とした。きっと、入り口ではヘリが待っているだろう。仁は待避スペースに入れてアヴェンタドールの表面に張ってある擬装用の赤い塗装膜を剥がし始める。


 昇もそれを手伝って僅か10秒で真っ赤なランボギーニ・アヴェンタドールは真っ黒なランボルギーニ・アヴェンタドールに変わった。また、ゴテゴテに付けられている装飾ライトも青白い色から消灯した。


 そして、仁は大型トラックの後ろにピッタリとライトを消した状態で付いていく。警察のヘリは現在入り口で待機しているだろう。30秒ほど経って、今訝しんでいるだろう事は二人は容易に想像がついた。




「幾ら追跡者の気を引くためにとは言え毎晩毎晩アホのようなスピードでアホのように警察に喧嘩を売るのは止めてくれ。


 柳葉が担当官権限で捜査や違反切符をもみ消しているとはいえ事故ったら流石に柳葉もカバーしきれないんだぞ」




 トラックの影から出て時速120km程で高速を走るアヴァンタドールは闇夜に紛れて実に見辛い。しかし、装飾ライトとLEDのヘッドライトに後部ランプのお陰でどうにか其処に車がいるとわかる程度だ。トラック運転手は先程まで居なかったアヴェンタドールが急に現れて心底驚いた顔をしていた。


 昇も仁もそっちには気を配らずに周囲に気を配る。


 赤池曰く、少し前から宇山江を尾行している彼女を尾行する人間が現れたそうだ。しかし、連中は赤池に仕掛けてくる気配はなく、どうやら赤池のバック、つまり昇達の事を探し出そうとしていたらしい。そして、赤池がその事を報告するとある程度の情報を敵にバラし、襲撃させて捕虜を取ろうという作戦を柳葉が思い付く。


 そして、現在戦闘力に関しては申し分ない仁と昇が囮役に成ったのである。また、自宅を襲撃してもよい様に赤池は仁の家に帰り、仁の家には職業魔法少女である健が在中し昇も仁の家に寝泊まりしている。


 桜はそれに関してブチ切れていたが、関係のない祖父祖母に被害が出るのは最もやってはいけない失敗だと告げると渋々賛同した。また、桜も被害を受けてはいかんと昇は桜に仁の家を知らせていない。学校には毎朝仁の運転するスーパーカーで登下校しており、スーパーカーは学校近くのコインパーキングに停めてあるので、登下校時には車好きの学生達が携帯片手に写真を取っている。毎日のようにスーパーカーは変わるのでTwitterを中心としたネットでは少し騒がれている。


 また、スーパーカーの痛車モデルも一回あったが、昇が頼むから止めてくれと告げるのでやむなく1回だけで終ってしまった。因みに、その痛車は魔法少女をモデルにしたアニメに出てくるクアトロ・セブンが描かれており可愛い系というよりもカッコ良い系だった。




「……待て、何か来てるぞ」




 昇がそう言うと、アヴェンタドールの上空を一機のヘリが低く追い越していく。MD500Nノーターだ。MD500Nは後部にあるテイルローターが無くかわりに排気や周囲の空気を取り込み吹き出す仕組みを取り入れたヘリコプターで、通常のヘリよりも騒音が少ない。カラーはグレーだ。


 後方の扉は取り外されており、代わりに人が腰掛けている。数は4人。軍用のOH-6の様な改造だ。




「来たな」


「そうね」




 昇の言葉に仁が頷き、2人は変身をする。




「攻撃を仕掛けてくるでしょうか?」


「来るだろうねぇ。彼奴等、銃持ってるし」




 MD500Nの後部に座る4人の手にはアサルトライフルと思われる銃が握られている。昇は柳葉に魚が釣れたとメールを送信し、M1918“ブローニング・オートマチック・ライフル”自動小銃を取り出す。アヴェンタドールはその700馬力を誇るエンジンを唸らせてスピードを上げる。


 一気に120kmから350kmに速度を上げてMD500Nを追い抜く。ライトを消し、暗闇に溶け込んだ。


 その動揺がMD500Nにも伝わったらしくノーターは左右に少し機首を振る。




「どうします?」


「どうも出来んでしょうね。


 こっちは足が取り柄の雄牛ちゃん。あっちは重武装のなんちゃってガンシップ。きっと装甲板も貼り付けてるでしょうね。


 多分、NVGも持ってる筈だから直ぐにバレるわよ」


「攻撃を仕掛けてきたら、ある程度は撃ち返します。


 浜名湖で降りてそこで落としましょう」




 クアトロ・セブンの言葉にジェーン・ザ・リッパーは口笛を吹いて戯けた。




「それなら、私も運転を頑張らなくちゃいけないわね」




 ジェーン・ザ・リッパーはそう笑うとモードをサーキット用のコルサに変更した。このモードとはセンターコンソールにパフォーマンスセレクターと呼ばれる物があり、此処を弄ることで自動車の走りを替えられるのだ。そして、現在は一般道を走行するためのストラーダと呼ばれるモードであったがこれをサーキット用の凄まじい加速力を体感できるモードに変えたのである。


 その加速度は車に疎いクアトロ・セブンですらも不安になり、中々お目に掛かれないクアトロ・セブンの困惑したような表情を目にすることが出来るほどだ。




「ジェーン、貴女、何をしましたか?」


「フフッ、その評定堪らないわ。


 ヘリごときに私のアヴェンタドールは追い付かせないわよ?」




 午前2時。東名高速道路愛知県みよし市から静岡側に向けた上り車線を1台のアヴェンタドールとMD500N“ノーター”が凄まじい速度で駆け抜けている。


 最初に攻撃を仕掛けたのはMD500Nである。増設された外装式ベンチに座る兵士が銃撃を仕掛けてきたのだ。手にしているのはアサルトライフルだと思っていたが、実際は軽機関銃、QBB-95と呼ばれる人民解放軍が装備しているQBZ-95を分隊支援火器にモデルアップした物を持っている。


 ただし、ヘリコプター上で相手はライトを消しており輪郭すら見難い夜間での高速走行。自分もヘリコプターという非常に不安定な場所からの射撃で放たれた弾は道路のアスファルトを削るだけで何の手応えもなかった。


 それに対しての反撃は7.62mm×63弾と言う強力な弾丸だ。QBB-95の放つ5.8mm×42弾と違う高威力且つ高射程の弾丸だ。しかも射撃手は乙種魔法少女であるクアトロ・セブン。助手席の窓から身を乗り出すと言う不安定な体勢に凄まじい風圧を魔法少女の力でねじ伏せ、まるでコンクリートで固められた土台のように確りとした構えで弾丸を放つ。


 高速道路で落とす気は毛頭無いがある程度の弱体化を狙うためクアトロ・セブンは弾頭をM14A1鉄鋼焼夷弾と呼ばれる物に変えている。これは文字通り徹甲弾と焼夷弾を重ねあわせたもので、ハードスキンたるヘリに対して使用するに相応しい弾頭だ。勿論、通常のM2通常弾及び徹甲弾やM1焼夷弾やM1焼夷弾と言った弾頭でも良かったが、どうせなら攻撃力があり着弾時にもわかりやすい焼夷弾をと考えたのだ。


 そして、狙いはコクピットではなくその上のメインローター部分ヘリコプターの構造的欠陥であり永久に対処不可能な弱点がこのむき出しのローターだ。


 最近の戦闘用ヘリコプターは機関砲を数発食らっても容易には破壊されないようになっているがMD500Nは違う。30口径のしかもハードスキン用弾丸を何十発も耐えられるほどの強度は無い。ヘタをしたら数発受けただけでローターが壊れてしまうかもしれない。


 なので、クアトロ・セブンは落とす気はないので煙を吹き出したら射撃をやめる気でいた。




「反撃ペイバックタイム、でございます」




 クアトロ・セブンがトリガーを引くと野太い銃声が響く。ドガドガというQBBが出した銃声とは程遠い銃声が高速移動する両者の間に流れる。音速を超えて飛んで行く弾丸は寸分の狙いを違わずにローター基部に直撃した。先ずは5発。着弾と同時に徹甲弾が基部を貫き、焼夷弾が高熱を発してローターを留める金具やボルトを焼く。


 この程度では壊れない。が、確実に弱体化出来る。僅か5発だ。しかし、その5発は致命弾になる。その攻撃でローターから煙が吹き出てひょろひょろと失速し始める。コクピットは赤く点滅しており、緊急事態を示しているのだろう。




「……マジかよ」




 ハンドルを握っていたジェーン・ザ・リッパーが高速道路に不時着せんとしているMD500Nを追い抜かさせるように減速する。後方からは車がやって来ないのは柳葉がNEXCOに言って走行禁止命令を出しているからであろう。


 車が通っていないので高速道路に着陸したMD500Nは停車したアヴェンタドールから約300メートルほど離れた先に不時着する。


 ローター部分からバチバチと火花が漏れ、煙が上がっているので、多分もう飛べないだろう。これ以上ローターを回せば羽がちぎれ飛ぶのは素人の目にも明らかであった。




「あっさり落ちましたね」


「連中胴体狙ってくると思って機体を重装甲にしたっぽいな」




 ジェーン・ザ・リッパーは中に完全に引き篭もってしまった襲撃者達を見やる。MD500Nを盾に隙間から銃口を覗かせている様子は降伏の意思は微塵も感じられない。




「やれやれ、骨が折れますね」




 クアトロ・セブンはそう言うとアヴェンタドールから降りる。それに続いてジェーン・ザ・リッパーもハイビームに設定してから降りた。2人がアヴェンタドールの前に立つと2人の大きな影がMD500Nまで伸びる。それは奇しくもジェーン・ザ・リッパーとクアトロ・セブンが共闘いた話の時と同じ光景だった。


 先に攻撃を仕掛けたのは襲撃者達である。ヘリコプターの脇から銃口を出して一斉に光源元を絶つべく射撃を開始した。しかし、それはジェーン・ザ・リッパーによって遮られる。命中弾に当たる殆どがジェーン・ザ・リッパーが切り落とされたのだ。


 弾丸を刀で切り落とす事は可能なのか?と言う疑問があるだろうが、理論上可能だ。ちゃんと刀匠が鍛えた刀なら小太刀程度の大きさの刀ですら50口径のライフル弾を7発耐えられる。しかも、刃と直角に弾を打ち込む、言ってしまえば“押し切る”形になる刀本来の能力を発揮できない状況でも7発まで切れる。


 それを魔法少女の驚くべき身体能力と反射神経を持ってすればたかだか5.8mm程度の弾丸は造作も無い。


 そして、ジェーン・ザ・リッパーの後方からクアトロ・セブンが高速道路に伏せ、M1918“ブローニング・オートマチック・ライフル”自動小銃のバイポッドを展開し、狙いを定める。肩当てプレートを展開し、左手で銃床の根本をシッカリと掴む。


 そして、トリガーを引いた。毎分600発の速度で.30-06弾を吐き出す凶悪な機関銃は何の躊躇いもなくMD500N“ノーター”のエンジン及びガソリンタンクに穴を穿っていく。金属が拉げる音に敵側の銃撃を思わず止める程だ。


 アッと言う間、わずか3秒程で弾倉を撃ち切った所で敵方は銃撃を再開しようとする。が、MD500Nがそれを止める。小爆発したのだ。




ノーターの仕組みとアヴェンタドールの走行モードとかよく分からん





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