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第三十九話

「さぁ、諸君。大変だ」




 ある日、突然宇山江が硫黄島に居る慶太郎と真にそう告げる。表情は相変わらずニヤけており大変さが伝わってこない。




「今度は米軍が攻めてきたんですか?」




 宇山江の言葉に慶太郎は苦笑気味にそう告げた。




「微妙に違う。


 魔法少女だ。正確に言えば、クアトロ・セブンとジェーン・ザ・リッパーにその協力者達が私を付け始めた」




 クアトロ・セブン。その言葉を聞いて2人はピクンと反応する。


 2人にとってクアトロ・セブンとジェーン・ザ・リッパーとは因縁浅からぬ相手である。特に真がウィークエンドと成ったのもクアトロ・セブンが直接的に関係している。真は立ち上がって宇山江を見た。




「それで、どうするの?」


「別に、どうもしない。


 捜査事態は自衛隊のかなり上の方が非常に強い圧力を掛けて行くだろうから、捜査は直ぐにでも打ち切りだろう。これは国の最高機密に匹敵するからな。だが、私としてはあの2人“も”欲しいのだ。彼奴等は非常に良い実験体に成るだろう」




 宇山江の言葉に慶太郎は眉を顰めた。




「まだ、お前達はこんな非人道的な実験を繰り返すつもりなのか!?」


「当たり前だろう?


 科学の発展に犠牲は付き物だ。下らん倫理観は捨て給えよ。人間が科学技術的に発展するには戦争が最も良い道なんだ。冷戦は特にそうだ。日米と中は冷戦状態にあるべきだ。中国はモットモット侵略戦争の準備をして貰わねば、我々日本はロボット産業やジェット機開発に遅れが出てしまうのさ」




 宇山江がそう笑うとお前達との決着の場は近い内に作ってやる。宇山江はそう告げると、準備をしておけよ?と2人を指差し、部屋から出て行った。具体的に何を準備しろ?と慶太郎は苦笑する。真も慶太郎も何時でもあの2人と戦える。


 いや、真はと言えるだろう。慶太郎は、彼は真の邪魔をしないよう戦うだけだ。




「先輩。深見先輩と井上先輩を殺すので?」


「……分からないわ。


 それに、向こうがこっちを殺すかもしれないわよ?」


「それはないですよ」




 真の言葉に慶太郎は笑って答えた。そして、心の中だけで続ける。




「貴女は殺しはさせない。例え、目の前に誰が立ちはだかろうと、僕は貴女を守ってみせる。


 これが僕があの糞忌々しい雌狐に付き従っている理由ですから」




 心の中だけで続けてから、欺瞞を口にする。




「深見先輩と井上先輩はいい人ですからね」




 何を持って良い人と言うのだろうか?それは人の価値基準に依る。だが、慶太郎は深見昇と言う男はちっとも良い人とは思わない。普通の利己主義者だ。自分の置かれた現状を打破するために必死になって藻掻き苦しんでいた哀れな男であり、それ以上でもそれ以下でもない。


 故に、慶太郎は深見昇を良い人とは思わない。




「そう……そうよね……」


「ええ、そうです。そうですとも」




 では悪い人とは誰だろうか?井上仁である。慶太郎は断言出来る。


 ポッと出の雌豚が真が今の真を作ったのだ。仁さえ居なければ、真はウィークエンドなんて化け物には成らなくて済んだのだ。そう思うと、腸が煮えくり返る。




「先輩、少し出て来ます」


「うん?」




 慶太郎は部屋を出ると宇山江の部屋に行く。扉を開けると敬えがシャワーを浴びた直後らしく素っ裸で濡れた髪を拭いている。




「おい、ノックぐらいしろよ。


 出歯亀野郎」


「黙れ雌狐。


 深見先輩達は何時頃お前の尻尾を掴むか教えろ」




 宇山江はあぁん?と髪を拭く手を止めてから慶太郎に向き直った。




「何するつもりだ?」


「警告だ。


 ジェーン・ザ・リッパーを襲撃して戦闘不能リタイアさせれば、深く首を突っ込まなく成るだろう?」


「アーハン?


 確かに、それも良いな。だが、お前にジェーン・ザ・リッパーを殺せるのか?」




 宇山江がベッドに腰掛ける。ギシリとバネが軋んで音を立てた。




「殺せる殺せないじゃない。殺さなくちゃ、いけない。


 先輩がウィークエンドなんて化け物に成っちまった原因はあの糞ったれの雌豚のせいなんだから。先輩に片思いしてる俺としちゃあ、あの雌豚をぶっ殺してやらなくちゃ道理が立たない。そうだろう?」




 慶太郎の言葉に宇山江は笑う。ベッドから立ち上がり、部屋の隅に置かれた冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出してそれを飲む。


 そして、内線を取り1人の隊員を呼びつけた。




「お前を第666即応編成戦闘団の指揮官に任命する」


「何?」


「第666部隊は言っちまえば、重犯罪者共に訓練を施して駒として使う部隊だ。


 使い捨てが聞く部隊だな。元々は私が兼任してたけど、お前にやるよ。扱い難いんだ、彼奴等」


「……誰かが死んだりしたらどうする?」


「言ったろ、使・い・捨・て・が効くって。しかも、重罪犯やヤクザモンばかりだからな、死のうが何しようが問題ねぇんだ。痰壺から痰が無くなって誰が困る?」




 宇山江がそう笑うと扉がノックされる。宇山江が許可すると1人の男が入ってきた。年齢は50代だろう。左手の小指と薬指が無い男だ。スキンヘッドでメガネを掛けており失礼しますと下げた頭の後ろには首まで刺青が彫ってあった。


 腕も捲れば刺青があるだろう。




「おう、チンピラ。


 お前等の新しいボスだ。惚れた女のためにテメェ等死んでこい」


「……ウス」




 宇山江の言葉に禿頭の男は頭を下げる。そして、宇山江は部隊を案内したってと告げた。




「コチラです」




 禿頭の男は慶太郎の前を歩く。歩く姿はまさにヤクザだ。




「あの、貴方が?」


「ウス。自分は第666部隊の副隊長やっとります、竹内と言います。


 元ヤクザです」




 竹内と名乗ったヤクザは顔だけを慶太郎に向けつつ告げた。


 それから暫く歩き、エレベーターに乗る。業務用のエレベーターで機能性重視の分騒音等で非常に五月蝿い。




「俺は慶太郎。広江慶太郎。


 ウィークエンドの脇にいる黒い女だよ」




 慶太郎はそう言うと変身をして見せる。竹内は少し驚いた顔をし、それから目の前の魔法少女に頭を下げた。


 エレベーターが目的の階に着き、扉が開く。そして、竹内が先導をする。コチラです、と。


 お互いに会話はない。慶太郎は竹内の後に続いて歩いて行くだけだ。暫く歩くと1つの扉の前で竹内が止まった。大部屋で部隊のプレートだけが掛かっている。第666部隊とだけ掛かれていた。


 竹内が扉を開け、慶太郎が中に入る。中は娯楽室と会議室を備えているらしく畳敷きのフロアと長テーブルとパイプ椅子が置かれたフロアに別れており、それぞれに20名程のガラの悪そうな連中が屯っていた。


 宇山江が痰壺の痰と表現した理由がよく分かる。全員ヤクザか重犯罪者ばかりだ。




「使えるのか?」




 そして、思わず竹内に振り返って聞いてしまう。竹内が入ってくるとガラの悪そうな連中が竹内に慶太郎を指差して此奴は何ですか?と詰め掛かっていた。こう言うのは舐められたら終わりなのだ。


 慶太郎は小さく溜め息を吐いて変身を解き、常日頃から身に付けているQSZ-92を引き抜いて竹内に一番詰め寄っている男の膝を撃ち抜いた。


 慶太郎の行動に竹内は勿論、全員が驚き固まってしまう。




「竹内、此奴等は使えるのか?」




 膝を撃ち抜かれた男は膝を押さえ呻いている。




「ええ、少なくとも一般自衛官よりは強いです」


「そうか。


 おい、立て」




 慶太郎は膝を撃ち抜いた男に告げる。男は無理だと首を振った。




「そうか。なら、死ね」




 そして、慶太郎は男の頭を撃ち抜いた。




「お前等は痰壺の中の痰らしい。


 お前等の指揮官は現時点をもって宇山江神代二佐からこの広江慶太郎に変わった」




 慶太郎の言葉に全員が眼を見張るだけだったので、慶太郎は返事はどうした!と怒鳴り付ける。すると、全員が了解と声を上げた。


 そして、慶太郎はにっこり笑って脇のパイプ椅子に腰掛けた。




「じゃあ、そこのゴミを片付けて。


 竹内“さん”は作戦の説明するから全員居るか確認しておいて」


「ウス。


 聞いたな!掃除と点呼!」




 慶太郎は部屋から出てそのままトイレに直行する。廊下は走らず出来るだけ落ち着いて。トイレに入ったら個室に向かい、嘔吐した。自分の畜生具合に気分が悪くなった。


 人殺しはもう慣れた。しかし、今のは余りに“酷すぎ”だ。




「ふふ、立った二ヶ月ほどで僕は地球の裏まで行って、自衛隊の秘密部隊の隊長か……


 大出世だな。その内死にそうだな、ホント。悪の大幹部みたいに」




 慶太郎はそう呟き、顔を洗ってから一旦部屋に戻る。部屋には真の姿はなく、何処かに出かけているのだろう。パソコンとUSBメモリを手に取り、第666部隊の部屋に戻る。


 部屋には先程より若干人数が多くなって隊員達が並んでいた。彼等の前には竹内が立っていた。




「隊長、全員揃いました」


「ありがとう、竹内さん」




 慶太郎はそのまま竹内と場所を入れ替わるように立つ。


 そして、全員を睥睨した。




「さて、痰壺の痰共。


 君達には今から実に簡単で、実に単純な作戦を伝える」




 慶太郎はパソコンを立ち上げて、部屋のプロジェクターにそれを繋げる。竹内が空気を読んで部屋の電気を消した。


 慶太郎はありがとうと告げてから、プロジェクターに1人の魔法少女を映し出した。




「今から君達にはジェーン・ザ・リッパーを半殺しにして貰う」




 慶太郎の言葉に全員がどよめいた。




「あの、一つよろしいでしょうか隊長殿」




 1人の隊員が手を挙げる。慶太郎は良いよと頷くと、隊員が一歩前に出た。




「ジェーン・ザ・リッパーは魔法少女の中でもかなり強い部類と聞きます。


 俺達の様な人間では……その、傷一つも付けられないかと……」


「それがどうした?


 死ぬ気で行けば誰か怪我ぐらい負わせられるだろう?これだけ居るんだし」


「そ、そんじゃあ、俺達に死ねって言うことですか!?」




 隊員が更に口を開く。




「そうさ、死ねよ。


 お前等その為にこんな所にいるんだろ?お前等はその為に訓練したんだろ?」




 慶太郎の言葉に竹内が手を挙げる。




「隊長、ジェーン・ザ・リッパーを半殺しにする理由を教えてくれますか?」


「うん、良いよ。


 結論から言えば、俺が惚れた女の人生を滅茶苦茶にした奴に復讐するため。後は、宇山江神代とか言う雌狐の周りを嗅ぎ回ってる奴への警告だ」




 隊員の誰かがそんな事でと呟く。竹内がそれを叱責するも、慶太郎は止めた。そして、全員の前をゆったりと歩き出す。




「人が人を殺すのに理由は必要だ。


 この中で殺人罪を犯したものは?」




 慶太郎の言葉に数人の隊員が手を上げた。慶太郎はその内の1人に理由を問う。




「誰を殺した?」

「妻です」

「理由は?」

「妻は浮気をしててついカッとなって……」


 慶太郎はありがとうと告げて笑う。


「彼はたかが浮気が理由で人を殺した。

 それを理由に裁判に持っていけば、その女の金も名誉も地位も奪えたのに。彼はそうせず自分から金と名誉と地位を放り捨てた。割に合わない。合理的じゃない。

 そうは思わなかい?」


 慶太郎の言葉に全員黙ってしまった。

 実際、諍いごとの中心は基本的に男女の関係、金、思想のどれかが原因だ。国同士に至ってはサッカーの勝敗で戦争を起こしてしまうほどにバカバカしい理由で戦争を始められる。味噌と開戦理由は何でも付けれるとはよく言ったもので、後世の人々がバカバカしいと感じる理由で戦争は始められるし、人は人を殺せるのだ。


「しかし、その馬鹿馬鹿しい理由ですら人を殺すのに十分足りえる理由に成る。


 他人がどうかは関係無い。そうだろう?」

 慶太郎の言葉に殺人犯は頷いた。


「じゃあ、出動命令が有るまで全員相応の覚悟と研究をしておくように。

 資料はパソコンのUSBに入ってるから」


 慶太郎はそう告げて竹内に後は任せると告げて部屋を後にする。竹内は全員に号令を掛けてジェーン・ザ・リッパーを殺すとまでは行かずとも半殺しにする計画を練り始めた。


 慶太郎は部屋を出てから宇山江の部屋に向かう。今度は扉をノックして返事を待つ。入れと言う声とともに扉を開けると慶太郎は真とすれ違った。


「先輩!」

「あ、広江君……」


 真はまた後でと告げて去っていく。慶太郎は部屋の中でゲームをやっている宇山江に出撃に際しての話を詰めるために、本体電源をコンセントを抜くという荒業でオフにした。


「先生、ゲームなんかやってる場合じゃないよ」

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