第三十四話
第三十四話
魔法少女が運動会をやっている傍らで、真と慶太郎は硫黄島からアフリカ大陸に移動していた。2人は最早学校に顔を出すどころから、家にすら帰っていない。慶太郎に関しては家には魔法少女関連で訓練があるので泊まり込みの特訓があると嘘を吐いた。最もこれに関して言えば自衛隊側からもサポートが入っているので限りなく本当に近い嘘である。
問題は真である。真は家にも無事だからと言う写真と日付の入った時計を脇に置いたメールを送っているだけで、ロクスッポ家にも電話していない。
また、硫黄島での襲撃後、真は完全に変身時の姿を使いこなせるようになっていた。曰く、英霊のお陰だそうだ。武器も何処で拾ってきたのか、ボロい日本刀と最早撃つ云々と言うレベルでは無いほどに錆びてしまったBARを持っていた。
なので、宇山江がBARの近代化改修版であるHCARを入手してそれを渡した。最初はMG3を使えと言っていたが、真がどうしてもBARでなければダメだというので宇山江がこれを用意させたのだ。また、PWSのMk.107ピストルで使うストックと一体型でロフストランドクラッチの様な特殊なストックを付ける事で、片手での射撃を可能とした。
最も、そのせいで片腕が使えなくなるので、真はHCARを左手に付け、右手には刀身を研ぎ直して使えるようにした軍刀を使っている。外装も態々軍刀拵えにしてあるのだ。
「最初は日本各地を飛び回ってたのに気が付いたらアフリカだよ、広江君」
「ええ、そうですね。始めて来ましたよ、アフリカ」
アフリカ大陸の最北端、チュニジアに彼等は居る。チュニジアといえばスターウォーズでも舞台になったり、第二次大戦ではイギリスとアメリカ軍がドイツ軍とイタリア軍を相手に激突した部隊でもある。砂漠の狐ことロンメルが有名な場所であり、アフリカにはナチ派の人々も多い。
「やぁ、糞ったれの亡霊諸君。
今回はようやっとあの糞忌々しい糞ったれの共産主義の残りカスである中国人共に復讐が出来るわけだ」
2人が蜃気楼に浮かぶ都市を眺めていると、上機嫌の宇山江が部下を連れ立って現れた。何故上機嫌なのかは今しがた説明していた。
宇山江は右翼に傾倒しており、凄まじく厄介な国粋主義者なのだと2人は実感している。と、言うか硫黄島に駐屯していたネームレス部隊の連中はほぼ全員が国粋主義者に近い思想を持っており、中国軍と戦闘する際も凄まじく士気が高かった。
捕虜は皆一様に酷い拷問をされたらしい。情報を聞き出す云々ではなく国敵を惨たらしく殺すという為だけに殺したらしい。2人も参加するか?と言われたが勿論参加していない。真は英霊との会話に忙しかったし、慶太郎も正直、ファッション右翼故に彼等について行けなかった。
「目標は中国の企業役員共だ」
「何処に居るんですか?」
「高層ビルの上の方。最低10人程殺せ。正直、これは報復であり現地人達を焚き付ける役目でもある。
第二のアラブの春だよ。我々が民主主義の火種をばら撒くのさ。大東亜共栄圏inアフリカって訳だ。真は中国語喋ってるヤツを殺せ、中国人っぽいアジア人もだ。慶太郎はテルミット渡すからビルに投げまくれ。ビルを火災にすれば良い。配電盤とか見付けたらぶっ壊して良いから。能力ガンガン使ってけ」
宇山江は楽しくなるぞと笑いながら大量の武器が入ったガンケースを部屋に運び込む。慶太郎は中を開けると其処には大量の弾薬、銃身にテルミット手榴弾が入っていた。宇山江は慶太郎にバックパッカー用のデイバッグを投げつける。非常に浮かれており、まるで遠足を前にした幼稚園児のように鬱陶しい。
慶太郎はバッグに大量の武器弾薬を詰め込んで行く。
「俺の武器は?」
「能力ガンガンだ!銃なんか捨てて掛かっこて来い!」
宇山江はそう告げると、大きなガットフックが付いたブッチャーナイフを慶太郎に投げ渡す。刃渡りは60cm程もある大型の物で、柄にはパラコードが巻いてあり、スッポ抜けても何処かに行かないように手首に通すための紐まである。
どうやら、これで殺してこいとのことだ。
「最悪」
慶太郎は中国企業の警備兵は皆中国製の97式を装備しているのでそれを拝借しようと心に決める。多分、人民軍を退役か現役をコチラに回して警備をさせているのだ。此処最近数が増えたので、中国政府も報復を覚悟しているらしい。
慶太郎達が準備をしていると宇山江の部下が一人戻ってきた。外に居たらしく、砂っぽいガウンを払いながら報告してきた。
「二佐、連中戦車まで持ち出してきましたよ。
62式です。62式軽戦車」
「パネェ」
「戦車!?」
2人の会話を聞いた真が驚いた顔をした。慶太郎だって同じだ。人間を殺したりするのは何とか出来る。自分達の能力で押し切ってしまえば良いのだから。しかし、戦車となると話は別だ。先ず、弾丸が効かない。当たり前だ。戦車はもともと機関銃弾を避けつつ塹壕を突破するために開発されたのだから。
幾ら銃が新しくなろうと、そもそもの話戦車を倒すのは無理である。特に第二次大戦中期以降に開発された戦車は最早対戦車砲やロケットランチャー、ミサイルを使わないと倒せない程の強度を持っている。
「喚くな。
ファッキンシナの軽戦車は慶太郎の電撃で避けられる。それとお前。電気でシールド作れるだろうが。それを2枚重ねで展開すればHEAT弾は防げる。タンデム式の……団子が2つ付いたロケランなら3枚張れば防げる」
慶太郎はそう簡単に言うなと言うが、宇山江はそれに対してならば死ねと告げるだけだ。慶太郎は舌打ちしてから、戦車に電撃は効くのか?と尋ねた。
すると、効く効かぬで言えば効かないが、一瞬でも動きが止められるだろうとのこと。最新式の戦車だと正に動くコンピューターなので一時的にシステムダウンを引き起こしたり、再起動をしたりと大変であるが、62式軽戦車。最初が1962年に出来た戦車だ。コンピューターなんぞ精々射撃装置ぐらいであろうし、そもそも何時の射撃装置を使ってるのかもわからない。
なのでもし仮に出会ったとして稲妻は威嚇や視界を奪うための補助具でしかないと思った方が良いだろうとのことだ。戦車を倒せたら勲章やるよと宇山江が笑って告げ、脇に居た隊員が近くにRPG-7が落ちてたらそれを使え、落ちてなかったらまぁ、逃げるんだなと他人事のように告げた。
慶太郎は仕方なくパソコンを開いて62式軽戦車とやらを調べることにした。慶太郎が調べていると偵察をしてきたらしい隊員は笑いながら、いいことを教えてやると告げる。
「弁当箱は積んでなかったぞ」
「弁当箱?」
「T-72と弁当箱で調べるんだな」
慶太郎は弁当箱で更に調べる。弁当箱、爆発反応装甲の事だった。爆発反応装甲とは、簡単に言ってしまえば形成炸薬弾等の化学エネルギー弾が当たった瞬間に爆発し、指向性エネルギーの流体を分散あるいは反らせる特殊な装甲で、東側諸国の戦車には先ずこれが大量に張り付いている。そして、その外見から弁当箱とも呼ばれるのだ。現在は、タンデム式の対爆発反応装甲用化学エネルギー弾もあり二重三重に重ねて貼り付けてある場合もある。
「柵もなけりゃ、網もねぇ。
シュルツェン辺りを装備しとけばまだマシなんだろうが、奴さんも随分と急いで持ってきたらしくて、それすらままならねぇみたいだな」
隊員はそう笑うと、去っていった。
「やれやれ、僕は兵隊に成るつもりはないんだぞ?」
慶太郎はそう呟いてから変身し、衣服を着替える。真も既に変身しており、部屋の隅で軍刀を前に正座し、精神統一をしていた。
誰もそれを邪魔せず、慶太郎も荷物整理に追われる。宇山江から渡されたPDAでビルの構造と何処の階に何があるのかを確認する。商業フロアと居住フロアが混じっており、階段とエレベーターを潰せば閉じ込めることが可能らしい。
リュックサックにはC4も居れてあるので、これで階段を吹き飛ばしたり、よりスムーズに作戦を遂行出来るだろう。
また、対戦車戦闘も考えてC4を多めに持っていく。C4をエンジングリルに放り込んで爆破すれば先ず間違いなく壊せる筈だ。最悪、テルミットをエンジン付近に投げつけ、オーバーヒートさせれば良い。テルミットは一瞬で3千度位の炎が出るので、比較的装甲の薄いエンジングリルや吸入口辺りを焼き付かせることは出来る筈である。
上手く行けば燃料にも引火するだろうが、流石にこればかりはアテには出来ないので、オーバーヒート狙いでやるしか無い。
「スティッキーボムでも作るか?」
「ひっつき爆弾?」
「ああ、そうだ。
プライベート・ライアンを知らないか?靴下にC4を入れてタールを塗るんだ。そして、それを戦車の転輪や駆動輪に仕掛けてボン。爆発すると、戦車は足が止まる」
隣で支度をしていた隊員が笑う。慶太郎は何処にタールがあるんですかと告げると違いねぇと笑う。どうやら、冗談のようだ。
作戦の決行は夜、深夜の2時に始める事となった。昼間の内に自衛隊側の工作員が入り込み、ことを有利に運ぶための仕掛けをする。例えば、一部非常階段とそこに繋がる扉を溶接しておいたり、階段にC4を仕掛け、誰かがその階段を踏んだ瞬間に吹き飛ぶような所謂ブービートラップを仕掛けているのだ。消火栓は勿論、非常ベルも鳴らないので増援や警察等が駆け付けるのにはだいぶ送れるだろう。
作戦開始まで寝ておけと慶太郎達は言われたので、2人は準備を整えて眠ることにした。真に関してはズッと瞑想状態で話し掛けるのも躊躇われるほどだった。
◇◆◇
夜、気温は一気に下る。日中の暑さを考えると驚くほど寒いのだ。何故、日中は暑いのに、夜は寒いのか?と言うのは非常に簡単にいえば雲がないからだ。雲とは水蒸気の集まりだ。空気中が熱はこの水蒸気達によって地表にとどまるのだ。
しかし、砂漠は違う。雲が無いため、地表に太陽光が直接降り注ぎ、夜は雲が無いために放射冷却に寄って逃げた熱が消えてしまう。故に、昼間は暑く夜は寒いのである。
「寒いね」
「うん」
2人は中国政府が作ったビルの前にいる。ビルの前には1台の戦車が止まっており、周囲には銃を持った歩兵が何人もいる。全員人民軍の武装で固めていた。
慶太郎は取り敢えず、外縁部でたばこを吸っている歩哨の後ろから忍び寄り、首を落とす。人を殺すのに抵抗はないのか?と言われれば、慣れた、としか言い様がない。硫黄島で5人ほど殺した。最初の1週間ほどは酷く悩んだが、結局のところ彼等は正当防衛で死んだのだと納得し、今回は少し違うが結局のところ彼等は自衛隊に殺される。酷い拷問もされるかもしれない。だったら、慶太郎がスッパリ殺してやったほうがまだ“マシ”だろう。
勿論、それは単なるエゴであり、慶太郎が自分の心を壊さないようにするためのいいわけである。しかし、慶太郎はそれで良いと思っている。彼の格言は『人間の本質はエゴである』だ。故に、例え周囲の者が違うと言っても慶太郎はそれが最善なのである。
「じゃ、行きますか」
慶太郎は回収したQBZ-97の槓杆を引っ張る。銃口には慶太郎が持ってきたサプレッサーを取り付けた。拳銃もQSZ-92もあったのでそれを回収しておく。
QSZ-92は9mmパラベラムを使う拳銃である。中国製の最新式自動拳銃であるが、まだまだ海外に向けて販売数も少なく未知の部分が多い。慶太郎はQBZ-97を屯っていた兵士達に向ける。歩哨としては全くダメで、タバコを吸い、プラプラとしているだけだ。まるでやる気が無い。
宇山江も同様であるが、彼等と違って確りと緊張を持っているのだが彼等は全くない。トリガーを引くとシャカカカと年寄りの咳のような音がして5.56mm弾が吐出される。兵士達は一瞬で頭部が吹き飛ばされ、絶命した。
慶太郎は絶命を確認すると、影で隠れている真に合図した。真は足音を消して兵士達の死体に近付く。死体は脇の茂みに隠す。それから戦車の周りに立つ兵士達を一気に殺す。多少の騒音がしても、戦車のアイドリング音で消される。
戦車の上にも兵士が一人、車長がタバコを加えて上半身を晒している。遠方から銃撃で味方が殺されているが後方から順番に殺して行く事で前方しか向いていない戦車やその前に居る兵士達には気が付かれない。
慶太郎達は車長まで殺した所で、前に飛び出る。慶太郎が砲塔目掛けて100億ボルトもの電撃をぶつける。雷が数千から数億ボルトなのでその10倍以上の電撃である。しかも、指向性で一極集中させて放電させて、砲口にぶつける。中に装填されいた砲弾に誘爆、爆破。砲塔が空中高く舞ってからガシャンと車体に落っこちた。
それに合わせてビルの内部が爆発し、非常階段やエレベーター等が吹き飛んだ。
「先輩」
「うん」
慶太郎達は一階ロビーになだれ込んだ。




