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第三十三話

第三十三話


 何故こうなったのか、クアトロ・セブンは冷静に考える。眼前には狂ったように7.62mm弾をまるでホースで水を撒くかの様にトリガーを引いているベルサイユ。

 そして、そのベルサイユの正面にはアイアン・フィストとジェーン・ザ・リッパーが弾丸を叩き落とし、切り落としている。命中弾等と呼ばれる弾丸は一切でない。彼女達が一騎当千の魔法少女であり、日本国が世界に誇る魔法少女である彼女達にとって狙わずに放たれる牽制目的の弾幕なぞ、最早何の価値もないのである。

 クアトロ・セブンの隣にはテン・バーがその大剣を肩に担ぎ、どーしましょう?という顔でクアトロ・セブンを見ている。

 周囲には歓声と声援が轟き、大型のモニターには映像映えするベルサイユとアイアン・ジェーンのコンビが映しだされいた。


「この競技は来年から中止でございます」


 場所は静岡県が御殿場市、東富士演習場。

 通称魔法少女運動会の会場であり、現在新競技である甲乙丙魔法少女による三つ巴の戦いと言う長年各派閥間で議論になっていた『一体どの派閥が強いのか?』と言う純粋かつアホらしいほどに単純な理由で組み込まれた競技である。

 丙種魔法少女は甲種の圧倒的物量と乙種の遠距離からの射撃により等に全滅しており、乙種優位で甲種と激突。弾丸の嵐を元もせずに突っ込んでくる甲種魔法少女達に乙種が押され始めたのだ。上空には中継機代わりのカメラを積んだ自衛隊のヘリ。最新の偵察ヘリを魔法少女の戦いを撮るためだけに使うのは世界広しといえども日本ぐらいであろう。


「ですねぇ。怪我人多過ぎですよ。怪我人回収に戦車が出てくるって……」


 重武装の自衛隊員がシーツで作ったらしい赤十字の旗を側面にぶら下げている89式装甲戦闘車から出て来て、倒れている魔法少女を腕を大急ぎで中に入っていく。クアトロ・セブンとテン・バーはそんな様子を見ながら小さくため息を吐いた。

 一応、クアトロ・セブンとテン・バーも選手として登録されているがクアトロ・セブンはアホらしいの一言で開始早々救護班と掲げられたどう見ても装甲車置き場に走って行く。

 自力で歩ける魔法少女ならまだいい、だがサバイバルゲームをはじめ大抵の競技では人間なら先ず間違いなく死ぬだろうと言うレベルの怪我を負う者も居るので教導隊の89式装甲戦闘車を総動員しているのだ。


「そもそも、遺恨を残すという事で制限時間を決めないのがそもそもの間違いでしょう。

 競技が始まって1時間経ちましたし、そろそろ良いでしょう」

「あ、あの、何をするので?」


 クアトロ・セブンがM1918“ブローニング・オートマチック・ライフル”自動小銃を出現させる。二脚バイポッドを立て、二人して座っていた89式装甲戦闘車の上に寝そべる。

 その様子を機敏に察知した一人の文字通りの戦場カメラマンが後方に行こうとして、カメラに弾丸が叩き込まれる。


「流れ弾に注意して下さいまし」


 クアトロ・セブンは改めてBARを構える。肩当てプレートを展開し、銃床をシッカリと固定。そして、トリガーを絞った。ズガンガンガンと音速を超えて発射される弾丸はフランジブル弾頭である。指切りで発射された5発の弾丸はベルサイユの頭部と右腕に直撃し、続いてベルサイユと対峙している剣豪と拳士を襲う。

 剣豪ことジェーン・ザ・リッパーは咄嗟の弾丸を何とか受け切るも、数発受けてしまうし、拳士ことアイアン・フィストはモロに頭部に食らってノックアウトした。


「好い加減、この茶番に決着を付けます」

「仲間諸共撃つとは、中々どうして卑怯じゃないか」

「秘境で結構。

 アホのように弾丸をぶっ放し、バカのようにそれを叩き落とすサーカスはこれで終いです。私、好い加減飽きてきたのでさっさと決着を付けたいのでございます」


 クアトロ・セブンはそう告げると悠然と立ち上がり、そして、BARをバトン宜しく回しだす。重量8kg超の軽機関銃をこうも軽々と扱うのはひとえにクアトロ・セブンが魔法少女だからであり、BARの所有者だからである。

 真打ち登場と言わんばかりに観客は歓声を上げた。有名な魔法少女には野球選手同様テーマソングがある。専ら彼女達をモデルにしたアニメでそのモデルにしたテーマソングそのまま流用される。クアトロ・セブンの場合は格好そのまま『メイドのテーマ』。そして、演奏は自衛隊の音楽隊である。

 エンターテイメント性を重視したこの運動会では魔法少女もそれに合わせて少しパフォーマンスを要求される。クアトロ・セブンはその為にBARのバトンを魅せつけるようにして披露するのだ。そして、切りの良い所でBARを握り、ジェーン・ザ・リッパーに銃口を向ける。


「汝の敵を愛し、汝らを責むる者を守れ。

 さすれば汝、救われん」


 そして、クアトロ・セブンをモデルにしたキャラの言う決め台詞を告げる。クアトロ・セブンは内心、茶番だと鼻で笑うも、それが今、彼女に求められていることであり、こうする事が自分達の立場をより一層向上させると信じているからである。

 クアトロ・セブン個人としてもこの言葉は好きである。汝、つまり魔法少女の敵はキメラであり、キメラを愛し、魔法少女を責める者も守れという。そうする事で魔法少女は救われるのである。


「フフン、良いだろう。来なさい、メイド。

 私が相手をしてやろう。怯えろ、竦め!我が剣は我の前に立ちはだかりし者を一滴の情けもなく斬り捨てる!我が剣は我が誇り!

 こんにちは、そして、さようなら!!」


 ジェーン・ザ・リッパーの言葉を合図に2人の戦端は幕を開ける。ジェーン・ザ・リッパーは凄まじいスピードでクアトロ・セブンに向かうも、クアトロ・セブンの放つ正確無比にして冷静な射撃を前に中々どうして近付けない。

 フランジブル弾とはいえ当たればタダでは済まない。頭部に命中弾を受けた2人は自衛官達によって回収されているが気絶してだらしなくヨダレを垂らしていた。


「正直助かった。

 あのままじゃ何年も弾丸叩き落とす羽目に成ったよ」

「私はこの戦場の調停官も拝命しております故」


 弾丸の雨を掻い潜り、ジェーン・ザ・リッパーとクアトロ・セブンはお互いの刀と銃で鍔迫り合いをしながら、二人は会話をする。

 クアトロ・セブンはこの競技に出る直前に柳葉に頼まれたのだ。別に戦闘に参加しなくても良い。長引きそうなら割って入りさっさと終わらせろ、と。


「それで、どっちを勝って終わらせる?」

「ジェーン貴女はクアトロ私に負けるのと“仁”が“昇”に屈服されらるのではどちらがお好きで?」


 クアトロ・セブンの言葉にジェーン・ザ・リッパーはクアトロ・セブンを蹴飛ばして一旦離れる。

 そして、左手にもう一刀の刀を取り出し、躍り掛る。


「後者に決まっている!」


 その言葉にクアトロ・セブンは頷いた。振り下ろされた二振りの日本刀にBARを投げ付けると、BARは綺麗に輪切りにされた。クアトロ・セブンはそのままバク転をして間合いを取り、新しくBARを取り出そうとするも顔を上げた瞬間にはその眼前にはジェーン・ザ・リッパーの膝が来ており、顔に蹴りが入りふっ飛ばされる。勿論、衝撃を和らげるために自ら後方に飛んで居るので、鼻血が出ているものの実際にはそこまで大した怪我はしていない。


「これが経験の差よ、メイドさん!

 その可愛らしい顔がズタズタに裂かれる前に降伏したら?」

「可笑しいですね。まだ、午前中でございますよ?

 寝言を言うには、些か早過ぎるのでは?」


 クアトロ・セブンがBARを取り出し、小さく頷く。ジェーン・ザ・リッパーはそれに合わせて前方に走る。クアトロ・セブンはそれに合わせて銃撃を開始する。弾丸は的確にジェーン・ザ・リッパーの頭部を狙っているが、その全てはジェーン・ザ・リッパーの掲げた刀に阻まれて到達しない。

 何処を狙うか分かっているからこそ避けられる。正確で素直な射撃は避けやすいのである。


「遅いッ!!」


 ジェーン・ザ・リッパーはそう告げると同時に、クアトロ・セブンの腹部に柄を叩き込む。クアトロ・セブンは体をくの字に曲げてジェーン・ザ・リッパーに耳打ちした。


「あ、後で覚えとけよ……」


 最後の最後で、クアトロ・セブンは昇になったのである。ジェーン・ザ・リッパーはそれにゾクゾクと背筋を震わせつつ気絶したクアトロ・セブンを担いだ。そして、気を失っているクアトロ・セブンの頬を舐めて、カメラにアピールをした。

 戦場に立っているのはジェーン・ザ・リッパーとテン・バーだけである。つまり、勝者は甲種魔法少女だ。ネット上ではこれに関して当たり前だ、という指摘と場所が違えば逆転もあった、またクアトロ・セブンが影から射撃を徹底していれば勝てた、等の議論も持ち上がる。

 これに関してはこの後クアトロ・セブンとジェーン・ザ・リッパーが釈明会見を開かない限りは延々と続くであろうことは容易に予想されるだろう。

 現に、この最後の戦いは文字通り出来レースである。八百長である。茶番を早く終わらせるために2人が考えた物である。

 クアトロ・セブンはジェーン・ザ・リッパーに担がれたまま救護所のベッドに寝かされる。救護所は半ば野戦病院と化しており、あちこちに魔法少女が寝かせられている。手当するのは軍医たる尉官と魔法少女のみに有効な治癒系魔術が扱える丙種魔法少女達だ。

 丙種は攻撃魔法以外にも治癒や防御等の魔法が使える。防御魔法は木々を操ったり土を操ったりして壁を作ったりするが、周辺の土や木がなければ使えないし、使った後はその質量分だけ別の場所から取って来ているので、町並みが大いに変わる。例えば、公園で土系の魔法を使えば、地面が壁にした分だけ凹んだりする。

 故に、単純に火や水、電気を操る者よりも地形的ダメージは酷い。


「本気で殴らなくても気絶する振りぐらいは出来ましたが?」


 そして、ベッドに寝かされて気が付いたクアトロ・セブンは鈍痛のする腹に手を当てながら脇にいるジェーン・ザ・リッパーを見る。幾分、その無表情な視線には怒りというか抗議するような視線が含まれている。


「やるなら徹底的にした方が良いでしょう?」


 ジェーン・ザ・リッパーはクアトロ・セブンの頬に手を当てて嗜虐性に富んだ笑みを浮かべ、キスをせん程に顔を近付ける。対するクアトロ・セブンもジェーン・ザ・リッパーの顔を鷲掴み、そのまま押し退ける。周囲の魔法少女、つまりは2人の関係を知らない者達は一触即発の事態と思い、戦々恐々と事の成り行きを見守る。

 魔法少女ですら恐れ戦く2人に対し、自衛官達は当たり前のように傍観を決め込み怪獣とウルトラマンが戦うのを眺める一般人と化していた。


「おい、テメェ!

 不意打ちたぁ、やってくれるじゃねぇか!」


 其処に頭部に包帯を巻いたアイアン・フィストがやってくる。包帯で頭部に当てられたアイスパックを固定しているのである。フランジブル弾は幾ら殺傷性能が低いと言っても鉄粉の塊である。通常の人間に撃ちこめば、頭蓋骨骨折は確実であろう威力だ。

 それをたんこぶだけで済ませられるのが魔法少女の凄いところである。


「これはこれはアイアン・フィストさん。

 ご加減は宜しゅう御座いますか?」


 ジェーン・ザ・リッパーを押し退けたクアトロ・セブンがそう告げると、アイアン・フィストの拳が唸りを上げてクアトロ・セブンの眼前に迫る。しかし拳はクアトロ・セブンの顔面を捉える前にジェーン・ザ・リッパーによって阻まれた。


「怪我人同士で暴れるんじゃないわよ。

 此処は病院よ?」


 そして、ジェーン・ザ・リッパーはそのままアイアン・フィストの腕を捻り上げる。アームロックだ。アイアン・フィストはガァァ!と痛みに唸るもギブアップをしない。ジェーン・ザ・リッパーは更に締め付けを強くした所で、更にやって来たベルサイユに止められた。


「それ以上、いけない」

「ウルセェ!

 お前も此奴にやられただろうが!怒れよ!」

「だが、あのままクアトロ・セブンが乱入してこなかったら多分今もなお私はお前ら銃弾のシャワーを浴びせてたぜ?」


 ベルサイユはそう告げると、取り敢えず、次の競技まで確り休んでろと告げてアイアン・フィストを連れて行った。

 クアトロ・セブンは周囲の魔法少女や自衛官達にお気になさらずと告げると、ベッドに背中を預けた。シクシクと痛む腹に若干の違和感を感じつつテレビで放映されている他の競技を見守ることにした。


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