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第二十七話

第二十七話


 その日も街にはフルロードの30口径弾が吐出される音が響いていた。甲高い炸裂音の中に腹に響く心強い重音が響いている。指切りで発射される弾丸は規則正しく管理されている。弾丸はM1918“ブローニング・オートマチック・ライフル”自動小銃の銃口から発射され、マズルフラッシュが深夜の街に瞬いている。

 音速を超えた弾丸は瞬きする間もなく弾丸は目標に着弾する。

 発射するのは乙種魔法少女、クアトロ・セブンである。両足は肩幅に開き、左足を前に、右足を後ろに開く。基本的な立射での体勢である。木製ストックに右頬を押し付ける。ムニッとクアトロ・セブンの白く透き通った肌が木製ストックに乗っかていた。この時、首は右に傾けない。理由は三半規管が斜めになり、正しい照準が出来なくなるからである。よく首を傾けて狙うが、それは間違いなのだ。

 次に行うのは見出し。自衛隊で、照門と照星を合わせることを見出しと言う。正しい見出しを行いまっすぐと照準と銃口を的、この場合はキメラに向ける。そして、しっかりと銃を肩当てて引き金はユックリと絞るのだ。日本軍では霜が静かに降るようにと実に文学的な表現をしていたそうだ。

 また、射撃の際は目を閉じないように最初から最後まで目を開けて目標を見るということも忘れはいけない。

 それはライフルは勿論、拳銃を扱う魔法少女全てが実施しているのだが、クアトロ・セブンの場合、射撃のシーンを撮影された際に一切の瞬きをせずにキメラを撃ち殺すので、一部人形とか機械とか言われる始末である。


 クアトロ・セブンが5点バースト射撃を行う。フルオートで全弾撃つよりも確実に銃の操作が行い易く、尚且つ高い命中精度を保持できるからである。

 現に、逃げ出そうとしたキメラの右膝を吹き飛ばした。クアトロ・セブンはキメラを殺す際に、足、腕、頭部、胸の順に弾丸を叩き込む。

 足を吹き飛ばすのはキメラの逃走を防ぐためだ。キメラが逃げれば一般人の死傷者が跳ね上がる。そして、次に腕を撃つのは、足を失ったキメラは暴れだし、近くの警官や自衛官等を襲うようになるからである。そして、頭を吹き飛ばして絶命させた後に確認の為に胸部、つまりは心臓を撃つ。

 乙種魔法少女が任務時に死亡ランキングで堂々1位を取っているのが、この『死んだと思って近付いたら実は生きてて、バッサリやられた』という物だ。キメラは通常の人間よりも頑丈だ。頭部の3分の2以上をふっ飛ばさなければ、活動を止めない。特に小口径弾、例えば、5.56mm、22口径クラスのライフル弾を扱う銃を保有する魔法少女はこれに陥る。


 キメラの骨は人間の骨に比べ、数十倍以上の強度がある。魔法少女でなければ、22口径のライフル弾なんぞ貫通しない。故に、現場によく駆けつける警官は7.62mmの小銃を配備しようと言う計画があったが、自衛隊の主力小銃である89式小銃を現場間で弾薬の融通が効くように、という理由から却下された。

 と、言うのも、自衛隊が7.62mm口径弾を使用する銃は車載機関銃か対人狙撃銃、または陸自では教育隊ですら使用されていない64式小銃ぐらいで、自衛隊が戦車か装甲戦闘車にでも乗ってこない限り30口径ライフル弾を持って来る事はない。

 なので、現実的に考えて30口径ライフル弾を使用する銃の採用は見送られた。勿論、警察にも30口径ライフル弾は卸されているが、基本的にはSATに卸されるのであって、全国25万人の自衛官に卸される5.56mm弾の方が圧倒的に一般警察官にも卸しやすい。

 勿論、民間に流通している製品を買えばよかろうと言う声もあったが、其処は日本の軍需産業との癒着があり、企業側が無言の圧力を掛けた。市販で販売路が確立しているので、一般には出まわらないし、供給の少ない22口径ライフル弾を、即ち5.56mm×45NATO弾を使え、という思惑があった。


 同時に、戦前よりも体格は向上してきているとはいえ、やはり日本人の体格は外国人に食らえて小さい。なので、30口径のライフル弾を扱う銃を自衛官ならまだしも、一般的な小銃訓練も殆ど出来ていないような警官が扱うことは、果たして出来るのか?

 また、狭い日本の居住区で、外れたライフル弾が殺傷能力を持ったまま飛んで、人に当たったらどうなるのか?と言う事もあり、お流れになったのである。そして、そんな22口径ライフル弾。乙種魔法少女はミリオタでもない限りは基本的に映画に出てきたり漫画に出てくる事が多い、M16やM4、少数だがAUG当たりのライフルを持って現れる事が多い。

 統計でしか無いのだが、乙種魔法少女の銃についての知識は持っている銃によって偏ると結果が出ている。例えば、クアトロ・セブンがM1918“ブローニング・オートマチック・ライフル”自動小銃を手にした理由として『勇気が欲しい』と力を望む際に強く思った為に、それに関連したこのBARが現れたのである。

 ベルサイユは戦争映画プライベート・ライアンで冒頭のオマハ・ビーチに上陸するシーンでアメリカ兵が次々と機関銃になぎ倒されて行くシーンや歴史の授業で習った機関銃の恐ろしさ、映画二〇三高地におけるロシア軍による日本軍の一方的な攻撃から「キメラ何か機関銃で撃っちまえば一発じゃね?」と言う実に子供っぽい考えの元に生み出された。

 何故M1919だったのか?と言えば、ちょうど、ゲームでM1919を使っており、文字通りヒャッハーしていたので知識として知っていた。また、ドイツ軍とアメリカ軍じゃ大正義アメリカ軍だよな、という左翼思想全開の教師によって一部洗脳された頭脳で考えたために、MG42ではなくM1919になったのである。


 なので、それ以外の極普通の一般人であった者はテレビや映画での露出が多いM16系、悪役が扱うAUG等になる。因みに、自動拳銃部門ではベレッタ92F、グロック17、P230が多い。これは、それぞれ、映画で出てくる、アメリカの警官が持ってる、日本の刑事が持っていると言う理由である。

 リボルバーは少なく、SAA、パイソン、M29“.44マグナム”の3種類だけだ。30口径の突撃銃はダントツでAKが一番だし、ボルトアクション式小銃に至ってはレミントンのM700系等の銃が圧倒的に多い。ショットガン部門はレミントンのM870かソードオフの中折れ式が最も多くなっている。

 なので、日本においてマニアックな銃を持っている魔法少女は大なり小なりの“オタク”であると見て良い。

 話を戻そう。


 22口径ライフル弾を1発、頭部に受けたキメラは概ね6割の確率で即死する。つまり、10人の魔法少女の内4人が即死さられないのである。なので、魔法少女の3ヶ月講習では弾丸は頭部に2発以上撃ちこむと教え込まれる。拳銃ならもっと撃ちこむのだが、ライフル弾の場合大体2発撃ち込むと頭部は綺麗に吹っ飛んでしまうので最低でも2発撃ち込めと言われている。

 30口径の場合は8割から9割の確率で頭部が半分以上吹っ飛ぶので概ね1発しか撃ち込めなく成る。これは市街地での近接で30口径ライフル弾が如何に強力なのかを物語っている。2mmの差で此処まで威力に差が出るのかと驚いた魔法少女も多い。

 最も、外れた場合、威力そのままに周囲の有象無象を破壊するのでベルサイユはクラッシャーのあだ名が冠されているのだ。防弾設備もまともにない日本のパトカーはベルサイユが5秒ほどトリガーを引くだけであっと言う間に廃車になる。

 そんな威力の弾丸を1発頭部に受けても死なないのがキメラなのだ。故に、6ヶ月の見習い期間も終わり、漸く1人で魔法少女デビューという新人魔法少女はこの事を忘れて不用意に近づき、実はまだ生きていたキメラに殺されるという事案が発生するのだ。


 因みに、甲種魔法少女は戦闘中が圧倒的に多い。キメラとの間合いが必然的に近くなるので此処はもう個人の技量に頼るしか無いのである。

 関係ないが、日本で一番多い甲種魔法少女の武器は皆が大好き刀である。次いで、西洋のロングソード、槍、薙刀と続く。三国志好きの者は、三国志演義で関羽が使用していた青龍偃月刀、呂布が使用していた方天画戟、張飛が使用した蛇矛が多い。勿論、それらを使いこなせるかどうかはまた別問題であり、実際操作が難しすぎて、多くの者は魔法少女をあきらめている。

 また、世間で流行っている映画によっても左右されることが侭あり、パイレーツ・オブ・カビリアンが流行った時はカトラスを持った魔法少女が、スターウォーズが流行った時はライトセイバーのような不思議な剣を持った魔法少女が現れた。

 ライトセイバー型魔法少女は甲種か乙種かで協会が紛糾したようだが、その者は魔法少女として活動しないと宣言した上で、コスプレイヤーとしてスターウォーズコスをネット上に配信している。因みに、コスプレ等で魔法少女の武器を取り出したりする際の制限は決まっていない。と、言うのも魔法少女にならなかった者全てを見張ることが出来ないからである。

 テン・バーの様な馬鹿でかい剣を保有する魔法少女も中には居り、そう言う者には特別な事情がない限りは広い屋外以外では剣を出すなと別途地区担当官からお話があるそうだ。


「お疲れ。

 お前、あの車に着地しなくても良かったんじゃないのか?」


 死亡したキメラを前に佇んでいるクワトロ・セブンに声を掛けるのは柳葉である。手には缶コーヒーが握られている。時刻は8時を回ったところであった。キメラを戦闘中にクアトロ・セブンが一台のバンの上に着地して、天井を大きく凹ませたのだ。

 中に乗っていたのは如何にも、という連中で、バンはネオン管を張り巡らせた看板のようにピカピカ光っていた。ズボンを腰まで下げ、汚い金髪に髪を染めて、くちゃくちゃガムを噛んで夜だというにサングラスを掛けている連中が今も、警官に食って掛かっている。


「あの汚らしいバカ男達が頭とお尻の軽そうなアホ女2人を避難と称して連れ込もうとしていたので。

 これは私の勘ですが、あの車のダッシュボードか座席した。違法ドラッグが有るでしょう。脇で酩酊してる男がおります故に」


 クアトロ・セブンはそう告げると、柳葉が後頭部をポリポリ掻く。取り敢えず、脇に居た警官に車内洗っとけと告げると、クアトロ・セブンに何か食うか?と尋ねた。

 クアトロ・セブンはごちそうになりましょうと頷くと、柳葉が車を回す。ダッチの三代目チャレンジャーである。V型6気筒エンジンを搭載した大馬力のスポーツカーである。2人乗りで、クアトロ・セブンは変身を解かず乗り込んだ。

 今回、テン・バーこと礼威は病欠と言う事で家で寝ている。何でも消費期限が3日程過ぎた牛乳を飲んだら腹を壊してトイレとお友達とか。仁と健は東京で開かれるアニメの特別鑑賞会に出てしまっており、不在だ。


「何か要望は有るか?」

「特には」

「なら、あさくま行くぞ。

 彼処のステーキが食いたい」


 クアトロ・セブンは今し方、自分はキメラをステーキめいた物にしたのだが?言おうと思ったが、何でも良いと言ったのは自分であるからして、敢えて口には出さなかった。それより、頭のはじけ飛んだキメラを見た後で肉を食べようなんて思える柳葉の神経の図太さに感激を覚える。

 それから、柳葉とクアトロ・セブンは無言であさくまに向かった。

 ハンバーグやステーキを食べられる、言ってしまえばステーキ屋さんである。店内に入ると、店員がくたびれた刑事を思わせる柳葉とそんな柳葉とは180度方向の違う無表情メイドのクアトロ・セブンを目にして数度見比べていた。


「……2人だ」


 イラッシャイマセから何も言わない店員に柳葉はぶっきらぼうに告げると、店員は慌てて現実世界に意識を戻す。そして、慌てて二名様コチラにドウゾと奥に案内した。

 平日の夜。人はまばらで、何処かの大学生グループや会社帰りのサラリーマン達が肉を頬張っている。サラダ系、ご飯系は全てお替り無料の制度を導入しており、柳葉がポンドステーキを頼み、クアトロ・セブンはよく焼いたハンバーグを頼んだ。二人共ドリンクバーも付ける。

 ステーキが来るまでに2人はパンと米にサラダを山盛りに持って戻ってくる。正直、それだけで腹一杯になりそうな光景だった。


「それで?」


 席につき、食事を始めたクアトロ・セブンは柳葉に尋ねた。

 柳葉が食事に誘うのは何かしらの未確定ながら重要な事項がある時である。しかも、BARウィリアムズではない。つまり、タケさん、否、自衛隊の協力者には聞かせられないという事だ。


「ウィークエンドの後ろ盾はどうやら自衛隊らしい」


 クアトロ・セブンは柳葉の言葉にサラダを刺す手を止めずそれで?と続きを促す。


「昨日、1機のC-1輸送機が小牧から飛びだった」


 小牧には空自の基地があり、名古屋飛行場を使用している。ミリオタを少し齧ってる程度の者なら誰でも知っている。クアトロ・セブンこと昇も何度も上空を飛ぶC-130やU-125Aを見ているし、運がよいと訓練なのか、編隊飛行をしているC-130を見ることも出来る。


「それで?」

「空挺団所属のC-1だ。

 ソイツの着陸は随分と急だったらしく、強引にフライトプランをねじ込んだらしい。滞在時間は僅か1時間。着陸後早々に空自管轄のハンガーに入れられて、1時間後に飛び立った。飛び立つ直前に1台のバンがやって来てハンガーに入っていったのが確認されている」

「……それがどうしてウィークエンドにつながるので?」


 第1空挺団が小牧なんかにやって来ることはまず無い。


「ああ。C-1はそのまま東京に向かった。

 羽田に着陸、荷台から1台の車を下ろし、そのまま去っていったそうだ」

「その車にウィークエンドが乗っていたと?」

「いや、その確証はないが、その車が昨晩殺された中国人達現場で見かけられた。

 至近距離から機関銃でダーッと殺られていたそうだ。現場は血の海。床は薬莢だらけ。銃声を聞いた連中は魔法少女がまた戦ってる程度にしか思わなかったらしい」


 機関銃を装備している魔法少女は居る。しかし、トリガー引きっぱなしで戦うのは世界広しといえどもベルサイユだけだ。使用された弾丸は7.62mm×51弾。つまり、ベルサイユではない。

 ベルサイユの使用する弾丸は7.62mm×63弾と呼ばれる弾丸を使用する。一見どちらも同じように見えるが、薬莢の長さが違う。米国では.30-06弾とも呼ばれ、ベルサイユが使用する弾丸でも有り、これは戦前のアメリカ軍が正式に使用していたライフル弾である。

 現在も民間に出回っており、日本でも入手可能なライフル弾である。新型の発射薬のお陰で攻撃力は殆ど変わらないが、軍用と言うイメージが有り、狩猟やスポーツ等ではまだまだ.30-06弾が人気なのだ。


「日本人の平和ボケ具合にも呆れますが、日本国内にベルサイユと同等かそれ以上のトリガーハッピーが居るとは……」


 クアトロ・セブンが溜め息を吐き、サラダを口に運んだ。周囲の一般人はクアトロ・セブンだ、と口々に小さく告げ、盗撮まがいの撮影をしようとして、柳葉に睨み付けられ大声で怒鳴られていた。クアトロ・セブンが変身を解かないのは、仕事として呼び出されたからであり、彼女にとってはこの食事はその一環だ。


「ですが、ウィークエンドはサイガを切り詰めた物を使用していたはずですが?」

「其処までは知らん。

 だが、顔を例の覆面で隠した奴とガスマスクを被った女がビルや街頭の監視カメラに映ってたんだ」

「では、その中国人達は何者なので?」

「公安の同期から貰った情報だが、何でも解放軍の工作員らしい」


 柳葉の言葉にクアトロ・セブンはさもありなんと頷き、自衛隊が後ろ盾ですか、と小さく独り言ちた。


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