第二十六話
第二十六話
山口真の生活は激変した。
まず部活。片思いの相手である深見昇との会話は激減し、代わりに事情を知り、唯一の全ての事情を知っている後輩である広江健太郎との会話が増えた。本当は昇との会話をしたい。が、昇には彼女である仁がいる。そして、2人はどうやら真と健太郎が付き合っているらしいと“勘違い”をしているようだった。
勿論、それを勘違いだ、というのは簡単だ。だが、その言葉と2人の立ち位置は余りに正しくない。2人でコソコソとしているのにそれを“恋人では有りません”と言うのだから、事情を知らない他者から見ればそれは何の誤魔化しなのだ、と言う話になる。
最も、それは真が言ってから昇に指摘され、仁に苦笑されたのだ。件の事件から大体1か月後、道場で珍しく4人が揃って素振りをしていた時だった。
「わ、私と広江君はそんな関係じゃないって!」
「別に隠さなくていい」
「の、昇から聞いてるよ。
ふ、2人は何時も、れ、練習してるんでしょ?だ、だったら、そ、そう言う関係になってっもお、可笑しくないって」
2人の言葉に真は更に否定しようとして、健太郎が慌てて割って入る。
「せ、先輩!」
健太郎は昇と仁の2人を連れて真から少し離れた場所、具体的には道場の隅である。そして、健太郎は真に小さく任せろと頷きながら2人に何かを話す。話が終わって2人がやって来ると、昇が真に勘違いだと告げ、仁も勘違いだと頷き、健太郎に頑張れ少年と告げた。
帰り道、健太郎が2人に「僕が先輩の事を好きで、積極的にアタックしてるから頼むから邪魔をしないでくれ」と言う設定になったと告げた。真はその言葉になんだか申し訳なくなった。
「ごめん……」
「何謝ってるんですか、先輩。
僕が好きにやってることです」
慶太郎はそう快活に笑って告げた。
「ありがとう、広江君」
「おーおー、嬉しぃねぇ。
日本にもまだ、こんなに自己犠牲的精神を持ち合わせた青年が居るとは」
2人の前に1人の女が現れる。
「宇山江……」
そう、宇山江神代である。彼女は普段、高校の教師をしている。しかし、その本性は陸上自衛隊、中央即応集団隷下にある特別情報収集部隊二課課長。この特別情報収集部隊とはなにか?昇はそう思ってネットで検索した事がある。
勿論、検索結果には出てこない。中央即応集団を調べれると其処に所属する部隊等の情報は出てくるし、ウィキペディアで軽く検索をかけるだけで直ぐに出てくる。しかし、其処に特別情報収集部隊の名前はない。
そのことを宇山江に告げると当たり前だと笑われた。そして、存在をバラすとぶっ殺すと脅されている。
「へいへい、呼び捨てすんなよ。
お前等の先生だし、上司だし、年上だぞ」
「何のようだ」
「何のようだ、じゃねーよ。
無視か?お前、私の話し無視か?」
宇山江はまぁ、良いと告げる。
「お前等、出張な」
「何?」
「しゅっちょーでーす。
さぁ、今から小牧行くぞ~」
宇山江は右手の人差し指をあげ、クルクルと回す。すると、一台のワゴン車がやって来る。そして、宇山江は乗れと告げ、慶太郎と真を半ば強制的に乗せる。
そして、宇山江は2人に書類を渡す。左上に大きく機密と赤い印が押してあり、表紙には『第455出動に関する指令書』と書かれている。左側を紐で留めてある。
2ページ目には『中国人民解放軍総参謀部第二部の工作員、彭金?パン・ジンチャンの排除』と書かれている。
「ちゅうごくじんみんかいほーぐんそうさんぼーぶ?」
真が2ページ目に書かれていた一文を読み上げる。聞いたことのない単語である。
「簡単にいえば、中国軍のスパイ機関だ。で、そこのパンって奴は中国のスパイだ」
「排除と言うのは?」
「殺すんだよ。
ソイツは我等が愛する日本国の機密情報をすっぱ抜いてクソッタレのシナに漏らしてやがるんだ」
宇山江の言葉に真は何で私が!?と叫ぶ。しかし、慶太郎は薄々予感していた為に、真程は驚かなかった。
「決まってんだろ。何のためにテメェを化けもんにしたと思ってんだ。
テメェの復讐のためじゃねぇよ馬鹿」
宇山江はそう告げると、慶太郎の手から命令書を取り上げ、3ページ目を開く。其処にはパン・ジンチャンと呼ばれる工作員の写真が乗っている。解放軍の制服を着たパンと洋服を着たパンの写真が載っていた。
「解放軍のダミーカンパニーである中国新生社って言う小さな貿易会社やってるんだ。
場所は東京の足立区。ブッタとキリストが住んでる場所だな」
宇山江が告げると、真が聖お兄さんは漫画の話ですと告げる。宇山江はそれを笑い、服を脱ぎ始めた。慶太郎は慌てて顔を逸らす。そして、ゴソゴソとジャージから地味目のジーパンやパーカーに着替える。季節は雨季。足立区では雨が降っているらしく、気温も少し肌寒いらしく少々厚着であるが、その下には銃が隠してある。
厚着はそれを隠すのに持ってこいの格好である。
そして、真と慶太郎にも着替えろと告げる。慶太郎は変身をし、服を着替える。何時もの黒い戦闘服とガスマスクだ。座席の下にあるガンケースから銃を取り出す。QBZ-97と言う中国製のブルパップ式アサルトライフルだ。原型はQBZ-95と言うアサルトライフルであるが、95は中国が開発した5.8mm×42弾を使用するが、97は5.56mm×45弾を使用できるバージョンだ。更にM16系で使用するSTANGマガジンを使用できる様に改装し、輸出用として販売していりる。
「ソイツはQBZ-97だ。
ブルパップ式だ。セレクターは銃床の根本にあるだろう。パクリ大国クソ支那にしちゃ、センス良い外見してるだろ?」
宇山江が貶してるのか褒めてるのか分からない賛辞を告げる。
慶太郎はそんな宇山江の話を半分聞き流しながら、動作を確認する。銃口の先、鳥籠型マズルブレーキを取り外し、サプレッサーが取り付けられる様に改造されていた。ガンケースの中にはサプレッサーが入っているので、それを取り付ける。
マガジンは4つ。30発の弾倉で、MAGPUL社の作った軽量マガジンだ。QBZ-97はキャリーハンドル式で、その上にドットサイトが付いている。かなり不格好であるが、慣れない銃、狙いを素早く付ける為には多少の不格好さも我慢しなければならない。
勿論、普通は幾らか好みの銃を見付けるかして愛用させるべきなのだが、宇山江や自衛隊に取って重要なのは真であり、慶太郎は二の次である。その為、真の為なら銃だろうが鉈だろうが様々なものを取り揃えて調整をするが、慶太郎の要望は基本的に聞かれない。
この前持たされたG3A3がデカすぎるし、反動の制御が難しいと言ったらこのQBZ-97だ。それまで使っていた銃は何処に行くのか?と言うと基本的に自衛隊が装備研究の為に購入した銃である。その為、研究用として、銃を分解したり、実験部隊によって運用されるので、運用されない銃が慶太郎に回ってくるのである。
因みに、今まで使った銃で、慶太郎が使いやすいと思ったのはHK社のMG36KとM416だ。が、どちらも自衛隊が次期新型小銃としての研究に重用しているのか、殆ど回って来ない。
「私の銃は?」
真が座席の下を覗く。慶太郎は後ろを見ると馬鹿でかいガンケースが置いてあった。
「そうそう、アンタに新しい銃を渡すわ」
慶太郎がガンケースを取ると、かなり重かった。何とか前に持ってきて真に渡す。真はその重さに思わず落としてしまう程だ。慶太郎は慌ててそれを持ち、蓋をあける。中にはデカく長い銃が入っていた。
「マシンガン?」
「これ、知ってますよ。
ドイツ軍の銃ですよ」
前に慶太郎が持ってきた漫画であるキャラが使っており、昇に尋ねたのだ。
「確か名前は、MG45だったかな?」
「違う。
ソイツはMG42だ。正確にいえはその近代改良版のMG3、またはMG1A3だ。まぁ、MG1A3ってのは初期の名称だからMG3で良い」
宇山江が笑う。
変身をしていない真に変わって慶太郎がMG3を取り出す。1219mmの全長を誇る機関銃である。長すぎて車内で構えるのは難しい。現に前に向けようとして、前の席に座る宇山江の後頭部をその銃口で殴り付けてしまった。
「あ、ごめんなさい」
「て、テメェ……」
慶太郎がワザとじゃ無いですよと告げ、そのまま宇山江の顔の横シートの肩部分に銃口を置いて、機関部を開ける。
「弾は?」
「飛行機。
どうせ、変身するとリロード出来んだろうから、テメェが取り扱いを覚えろ。何、装填するだけで良い。弾帯は1千発の弾帯を取り付ける。狙う際は肩付けなんかしんで良いぞ。散弾ですら当てられねぇんだ。馬鹿でかい反動の機関銃MG3でなんか、命中弾は気にしてねぇ」
宇山江が笑うと慶太郎にPDAを渡す。PDAにはYouTubeの動画。外国人がMG3をレビューしてるだけだ。銃の取り扱いは基本的にYouTubeで学ぶ。整備とかは別に彼がするわけではないので、装填方法とジャムった時の対処法さえ分かれば良いのだ。
慶太郎は英語がわからぬが、何やってるのかさえ分かれば問題ないのである。
飛行場に着くまで、慶太郎は動画を見て装填の仕方を勉強した。
◇◆◇
愛知県民に取って名古屋空港と言うより、小牧空港と言った方が理解しやすい。愛知県小牧市にある為に小牧空港と呼ばれ、名古屋空港になる前は帝国陸軍が保有してた小牧飛行場が元と成っている。現在では県営名古屋空港として活動しており、滑走路を隣接する小牧基地と共用している。
特に愛知県の名古屋市や隣の春日井市に住んでいると上空をC-130やC-1、救難隊所属のブラックホークが飛んでいるのを見ることが出来る。
「小牧空港って潰れたんじゃないんですか?」
「潰れてねーよ、お前失礼な事言うんじゃねぇ。
路線が何個か潰れただけで、小牧自体は普通に使ってるよ。それに、小牧は愛知県警と消防が使ってるし、端っこに三菱の工場もある。県営舐めんなよ?国内線は幾つか絶対確保して、自衛隊と警察消防のために残すに決まってんだろ」
小牧基地側から入り、そのままC-130の格納庫に。格納庫には迷彩色のC-1が駐機している。C-1の周りには89式小銃を持った陸上自衛隊の自衛官が立っている。全員、覆面をしており、小銃も屈曲式銃床と言う空挺部隊や戦車を扱う隊員に配備されている銃を持っていた。
「第一気違い団の皆さんだ」
宇山江がそう紹介すると、全員が真達に視線を送る。その目には「何だこの小娘たちは?」と言う疑問がアリアリと浮かんでいた。
「宇山江ぇぇ!貴様ぁ、俺の空挺団に何の用だ!」
其処にがっしりとした体格の男が肩を怒らせてやって来る。非常に声が大きく、C-1が一機入ってしまう様な大きなハンガーでもその声量に思わず耳が痛くなる。
小さなクマのようだと、真は印象を受ける。
「おいおい、小熊ちゃん。ダメだよ、そんな事言っちゃ。
我々自衛隊は国民皆さんの物。お前の物じゃねぇよ、小熊ちゃん」
「貴様のその言葉、そっくりそのまま貴様に返してやる!
それで、そのガキ共は?」
小熊と呼ばれた男はどちらかと言えば大熊だ。慶太郎はそんな事を思いながら、何て説明しようか迷って、宇山江に任せることにした。宇山江は件のウィークエンドだと笑って告げる。小熊は慶太郎と真を見た後、真の方を見て、そっちがウィークエンドだなと鼻を鳴らす。
「ほら乗れ」
そして、小熊が背後のC-1を見遣る。C-1はエンジンに火は入って居ない。現在準備をしているのだ。
「じゃ、後はそこの小熊に従え」
「えぇ!?
先生は!」
「私?
この後7時から職員で飲み会」
「巫山戯るな!
アンタは俺達の上司だろ!」
「お前達の上司であり、教師である。
そして、何よりも、お前等より酒の方が大事だ。つーわけで、小熊ちゃんの指示に従うよーに」
宇山江はそう言うと去っていった。真と慶太郎は目の前の小熊に視線を移す。
小熊はさっさと乗れと告げるとC-1に乗り込んでいった。
「取り敢えず、乗りましょう」
「そうですね」
2人は小熊の乗り込んだハッチを使って中に入る。それに続くように周囲に立っていた自衛官達は乗り込んでいった。慶太郎と真の人生初めての自衛隊機はC-1輸送機だった。しかも、第一空挺団所属の輸送機である。




