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第二十四話

Chapter:2 I've got a crush on you.


第二十四話


 高橋礼威、テン・バーにクアトロ・セブンの教育係が付いて早1ヶ月が過ぎた。この1ヶ月、色々なことがあった。テン・バーも戦闘に慣れ、クアトロ・セブンの指示の下に的確に行動できるようになった。

 大剣を振り回して戦うテン・バーではどうしても周囲に気を配らないと周囲の建物等を破壊してしまう。また、包囲してる警官達にも当たってしまう可能性もあるので、クアトロ・セブンにはキメラを動きまわらせないよう、周囲に指示を配れと耳にタコが出来るほど言われた。周囲の状況を把握し、キメラの位置、味方の位置、建物の位置。それらを念頭に置いて持っている大剣を振り回せ、と。

 その日もテン・バーはクアトロ・セブンと共にキメラを倒すために出動した。キメラは人間の多い都市部に多く出現する。魔法少女も同様だ。極端な話、北海道や沖縄等の極地ではキメラは殆どでないので、魔法少女も殆ど居ない。

 魔法少女とキメラの出現割合で言えば、3:7でキメラの方が圧倒的に多い。

 テン・バーはどうしてキメラが出現するのかは知らない。が、魔法少女に関しては彼女の先輩に当たる、ジェーン・ザ・リッパーやベルサイユが「そいつが超絶ハッピーだったり、凄い力を欲した時に発現する」と言っていた。

 礼威は寝ている時に発現した。そのことを告げると、夢で凄い幸せな夢を見たか凄い力を欲した夢を見たんだろうと笑われた。


 逆にキメラはどうして出るのか?と聞くと、彼女等は一様にして知らないと告げた。その際、全員が「この話題に関してだけはもう突っ込むな」と言う目と威圧をしていた。よく考えれば、魔法少女になる研究は進んでいるそうだが、キメラになる研究は遅々として進まない。

 礼威はインターネットで軽く検索してみたが、細胞の突然変異から宇宙人の侵略説等信憑性に大きく欠く物ばかりが上がっていた。礼威はアホらしくなってそこで検索を止めてしまった。担当官である織田にも質問してみたが、知らないと言われ、柳葉に聞いてみたらどうか?と言われたので、会議の時にクアトロ・セブンの担当官もしている柳葉に尋ねてみる。

 柳葉は一瞬、織田を睨み付けた後、それから原因は不明であるが、と前置きをして有力視されている説を2,3上げた。ウイルス、遺伝、DNA。だが、どれも決定打に欠けるし、学者にも分からん物を一介の公務員である俺はさっぱり分からんと言われた。

 原因は不明である。世の中、そういう病気は幾つもある。お前もテレビでそういう特集で難病に苦しむ少女だの少年だのを見たことがあるだろう。そう言われた。礼威はそれで納得してしまったのだ。キメラを研究しようにも、非常に凶暴であるが故に、完全体で取り押さえるのはまず不可能である。

 それは礼威も此処1ヶ月で十分に理解した。彼等、或いは彼女等に拘束なんてものは不可能なのである。物理的に手足を失わせて、行動を不可能にするしか無い。

 正直、あれが人間だと言われても信じられない程の変容を見せる。礼威としては身内がこうなったら真っ先に、出来る限り苦しみのない方法で殺してやろうと決意している。自分がキメラに成ったとして、無関係の人を襲い、殺したりするのは真っ平ゴメンである。


「さて、今日でちょうど1ヶ月になります。

 新しい段階に入りましょう」


 クアトロ・セブンはテン・バーに変身した礼威の目の前に居る。

 場所は本州で最も大きな自衛隊が管轄する演習場、東富士演習場だ。自衛隊の他にもアメリカ海兵隊も使用する演習場で、一年に一度、夏に行われる総合火力演習の海上にも成る場所だ。


「は、はぁ……

 あの、なんでまたこんな場所に?」

「理由は2つ。1つ目は貴女の交友の和を広げるため。

 本日は初年度講習会が行われます。魔法少女に成った者は初年度、つまり1年目と3年目に講習を行うのを知っていますね?」


 クアトロ・セブンの言葉に礼威はそう言えば座学で教わったなと思い出す。

 講習といってもやるのは精神鑑定とその能力を見るだけだ。前者は犯罪に使用されないように、後者は大規模なキメラ発生等の有事に際して、招集をかける際のランク付けをするためである。ぶっちゃけて言えばキメラが大量に発生した事は無いが、一度に3人、4人とキメラが発生して民間人や警察、自衛隊に被害が出る事件が数年に1度起こるので、その際にも厳戒態勢を敷く際に使用される。

 そして、この場には初年度講習を受けに来た魔法少女が多数集まっている。日本全国から集まっているらしく、その数は100や200は居るだろう。


「2つ目は、私が何故か呼ばれたからです。

 多分、係りの一人として呼ばれたのでしょう」


 礼威はどうやら完全に巻き添えを食ったらしいと昨晩急遽電話が掛かって来たのを思い出した。織田から。明日、9時にクアトロ・セブンと共に南御殿場駅に来て欲しいと言われたのだ。織田の電話が終わって直ぐに、クアトロ・セブンこと昇から明日朝5時、駅前に車で集合と言われた。

 その日、礼威は大学の親友たちと街に出かけると言う予定だったのだが、織田には申し訳無いが断ってくれと言われ、昇には済まないがキャンセルしろと言われた。その為に、友人には「お爺ちゃんが何か倒れたから明日いけなくなった」と電話をし、今に至る。

 朝の5時。車で駅前に行くと昇とジェーン・ザ・リッパーである井上仁、ベルサイユである野上健が居た。野上と仁も自動車とバイクを持っているらしく、健はヤマハのXS650を改造して、ギリギリ日本の道路で走れる物に乗り、仁はシボレーのコルベットZ06と言う最新型のスポーツカーに乗っている。

 何方も4桁の金額をかけたのは間違いない。其処に並ぶ、例のコンパクトカーの何と地味なことか。


 最初、昇は仁の運転するシボレーに乗ったのだが、仁の運転は凄まじく危ない。平然と高速で時速180kmだし、走り屋よろしく、むちゃくちゃな運転をする。高速に入って直ぐパーキングに入り、昇と仁で運転を変わったのはまず間違いない。

 昇は慣れない左ハンドルだったが、10分ほどで慣れてしまい、時速90kmで礼威に配慮した運転をしてくれた。健は一人大爆笑をしていたが、礼威は正直、笑うに笑えなかったので青い顔をした昇に飲み物を差し出す事しか出来なかった。


「あらぁ?

 クアトロ様じゃ無くて?」

「あらぁ?

 クアトロ様でしてよ」


 そこに2人組の魔法少女が現れた。ゴスロリ風のドレスを身に纏っており、テン・バーからみて右に立つ魔法少女は右側だけが装飾過多で、左に立つ魔法少女は左側が装飾過多である。まるで、鏡写しのような格好で、その顔も同様に全く同じだった。

 二人共、それぞれウィンチェスターライフルを握っている。


「ティンクル・ティンクル・ウィッチーズのお二人ですね。

 貴方達も講習ですか?」


 2人はクアトロ・セブンの両手に抱き着くとそうですわと笑う。その動作も全て鏡写しのように動く。


「あ、あの、お知り合いですか?」


 テン・バーが尋ねるとクアトロ・セブンはええと頷いた。


「彼女達は、今年度よりアイドルとしてデビューするティンクル・ティンクル・ウィッチーズのお二人です」

「アイドル?」


 クアトロ・セブンの言葉にテン・バーは首を傾げた。


「テン・バー。貴女は欧米での魔法少女、特にアメリカでの魔法少女がどういう立ち位置か知っていますか?」


 クアトロ・セブンの言葉にテン・バーは頷く。キメラを殺すヒーローとして密着取材は勿論、彼女達の活躍をお茶の間に届ける為にテレビで放映している。また、表立ってポイントを付け、キメラを殺した数だけ特典があり、特典に応じた報酬が用意されている。

 また、彼女達を題材にした映画やドラマも作られ、ハリウッドスター張りに人気なのだ。


「も、もしかして……」

「そのもしかして、です。

 貴女は矢島重工を知っていますね?」


 矢島重工。日本に数ある重工の中で最も新しく、そして最も世界で悪名高いと言われる重工でも有る。理由としては、日本の技術と日本人工員を使って古今東西、あらゆる銃火器、装甲車から戦闘機に至るものを製造販売しているからだ。

 パテント切れの古い小銃、今では販売していない大日本帝国時代の小銃、拳銃、それらの弾薬を販売しており、品質も良い。安かろう良かろうを目指して製造しており、AKもアメリカ市場で中国産、ロシア産に並んで徐々に売上を伸ばしているのだ。

 特に注目株は日本の銃シリーズで三八式歩兵銃、九九式小銃は勿論、十一年式軽機関銃や九六式軽機関銃など製造販売している。また、ネット上でも自社の製品をバンバン流し、映画用にも機材を貸し出していたりする。


「彼女達は矢島重工の会長、矢島宗左衛門が孫です。

 一卵性双生児だそうです」


 クアトロ・セブンの言葉に2人はよろしくねぇとねっとりとした挨拶をした。


「お二人とも乙種魔法少女で、そちらのウィンチェスターM1895を持っている方が、ティンクル・レヒツ。ウィンチェスターM1887を持っている方が、ティンクル・リンクスです」


 テン・バーはどっちがM1895でM1887か分からなかったが、取り敢えず、ドイツ語で右と左で、服装を見れば一目瞭然だと納得する。右が装飾過多がティンクル・レヒツ、左が装飾過多がティンクル・リンクスだ。

 単純な命名だ、と言ってはいけないのだろうが、実に単純な命名だ。


「そろそろ講習が始まります。教室に行きなさい」


 教室、と言っても自衛隊の兵舎である。

 彼女達は一旦彼処で今日の予定と、座学の復習めいた事をやり、その後能力診断の説明をする。甲種は実際に先輩魔法少女と戦ってその力量を測り、乙種と丙種は銃の命中率や魔法の発現などを見るのである。


「あの2人が、その、キメラを殺すのを撮るので?」

「まさか。流石にアメリカのようなことをやれば日本の人権団体が黙っていませんよ。

 あの2人は日本で最初の“魔法少女アイドル”としてデビューするのです」

「と、言うと?」

「あの2人はキメラの討伐経験もありますし、防衛省からもしっかりと魔法少女としての認可も出ています。現在、魔法少女として活躍しているアイドル達は皆、防衛省に登録をしていない言ってしまえば唯の人です。魔法少女に変身出来る一般人、と言う立ち位置です。

 ですが、あの2人は正式に防衛省が認可した“魔法少女”であっていわば、国のお墨付きです。そういう魔法少女は今まで業界には出ていないのです」


 テン・バーは何故?とは聞かなかった。決まっているリスクのほうがデカいからだ。特に日本ではリスクしか無い。ハイリスク・ローリターンな商売に成るのは必須だろう。

 では、何故、態々そんなリスクを犯してまで、あの2人はデビューをするのか?テン・バーはきっと矢島の名売りなのだろうと結論付ける。


「と、言うか、あの2人、本名もバレちゃうんじゃ……」

「ええ。ですが、天下の矢島。広域指定暴力団との噂もある矢島重工の孫にさて、一体誰が噛み付くのでしょうか?

 少なくとも芸能界では矢島重工に逆らえる人間は極小数でしょう。マスコミだって重工が裏から手を回せばあっと言う間に黙ってしまいますよ」


 クアトロ・セブンは仮設テントを組み上げていく自衛隊の隊員達に射撃場の位置や大きさを確認しながら話を続ける。テン・バーも自衛隊員の作り上げた土嚢を運ぶのを手伝う。さすが本職、目にも留まらぬ早さで土嚢が作り上げられ、射撃陣地の整備が行われている。

 一応、自衛隊から貸与された88式鉄帽、通称テッパチを被っているが基本男性用に作られており、Sサイズでもテン・バーには些か大きいので、タオルを併用してズレを防止してるが、それでもやっぱりズレる。クアトロ・セブンは自前の“テッパチ”があるので被っていない。

 正直、被らずとも良いのだろうし、ベルサイユとジェーン・ザ・リッパーは被っていないのだが、真面目なテン・バーは被っているのである。と、言うよりかクアトロ・セブンに被りなさいと渡されたものを被らないで居るという選択肢は新人のテン・バーにはない。


「土嚢持ってきましたよ」

「ああ、ありがとう。其処に積んでくれ。

 半円に成るよう積めよ」


 二曹が指示を出し、二等陸士がその通りに積んでいく。テン・バーはその脇に積んでいく。10往復する頃には射撃スペースが出来上がっていた。


「こんなもんですわ」


 1時間程で射撃場完成し、二曹はクアトロ・セブンに告げる。クアトロ・セブンは射撃レーンに立ち、M1918“ブローニング・オートマッチク・ライフル”自動小銃を構える。テン・バーもレーンに入って立ってみる。1m毎に吹き流し代わりの紐が付いた棒が刺して有る。

 脇に居た二曹に、あれはなにか?と尋ねる。


「あれは風を見るんだよ。アンタは甲種だから銃の扱いは受けてないだろうが、乙種は銃の基本的な事をやるんだよ。

 弾丸は風で流される。だから、大方の風の速度を読み銃弾の着弾点をある程度考えるのさ。例えば、89式小銃」


 二曹は警備で立っている歩哨が方に担いでいる89式小銃を指さす。弾倉は挿さっていない。


「あれは100メートルゼロイン、つまり、100メートル先の目標を狙って撃った場合、狙った通りに当たるよう調節してある。

 だから、右から風が吹いていれば、着弾点は的の左側に移る。まぁ、100メートル先の的なんか殆ど狙うことはないから、15メートルの標的だな」


 二曹が顎で15m先の的を指す。


「拳銃もライフルもショットガンも同じレーンでやるから、拳銃には不利になる。だから、拳銃を使う者は5メートルの距離に立つ。土嚢が有るだろう?」


 テン・バーの立っている場所から10m先、的から5メートルの場所に土嚢で作られた場所を見遣った。


「その、私達って何で呼ばれたんでしょうか?」

「さぁ?

 正直、本年度より結構対キメラ戦闘や出動要項が変わってるんで、これもその一環だと思うぞ。自分達自衛官もクワトロ・セブンのお陰で色々と戦闘の想定が立て易くなったんだ」


 そう言う意味じゃ、感謝してるよと二曹は笑った。


新シリーズ的な?


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