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第二十一話

第二十一話


 襲撃者事件から2週間。あれから一度も襲撃者はやって来ていない。

 クアトロ・セブンこと昇は、仁が“買った”高級マンションの一室に居た。1部屋数億円するであろう最近話題のマンションだ。仁はそれを一括支払いで購入し、家具家電もこの家のために新調した。リビングルームには50インチの巨大なプラズマテレビが置いてあり、壁にも様々なモニターが並んでいる。それぞれにPCやらゲーム機やらが繋がっており、“理想のオタク部屋”を体現したらこんな感じに成るのだろうと言う感じだ。

 どうやって入れたのか回転ベッドが部屋の中央に置かれており、寝転がりながら、ゲームをする際にベッドを回転させて体ごとそちらに向けれると言う無精な発想の元に置かれたそうだが、ベッドの回転は今のところ何の活躍もしていない。


「凄いな」


 昇は思わずそう漏らすと、右手に包帯を巻いた仁は照れたようにそれほどでもと笑う。相変わらず、目がちかちかするような派手なジャージを着ている。今日は黄緑色だった。何処でそんなジャージを買ってくるのか?と聞いたら、ネット通販サイトに24色セットジャージと言うのがあったのでポチったそうだ。何処のクレヨンだ?と昇は口に出しそうに成ったが、突っ込んだら負けなような気がして止めた。

 部屋の7LDKで、風呂トイレ付きであり、近くにコンビニもある。仁の場合、買い物は全てネットを使うので、コンビニさえあればほぼ問題ない。


「と、取り敢えず、どぞ」


 ソワソワと落ち着かない仁が封の開いていない、よく冷えた500mlのペットボトルごと差し出す。この家には来客用の食器は無い。仁の食事はコンビニの弁当かデリバリーの物である。掃除は床をルンバが縦横無尽に駆け回り、部屋の隅に彼等の為の充電設備が5機置いてある。ルンバの上にはフィギュアやプラモデルが置いてある。部屋はかなり片付いており、仁は意外に綺麗好きなのかと感心した。

 リビングルームの機能を果たしていないリビングの他に、可動式本棚が大量に置かれた6畳間の部屋。ホンダはラノベが作者ごとに並べられている。同じように、漫画とDVD、ゲームの部屋もある。リビングが仁の活動拠点であるらしく、物置となっている部屋達には日用品など一切ない。

 風呂場は昇の家よりも広い。バスタブが足を伸ばして入れるのだ。マンションにしてはかなりデカい。風呂場の横に洗濯機置き場があり、ドラム式洗濯機が置いてある。中には仁の下着が何枚も放り込まれていた。

 服はジャージ、高校の制服に下着だけらしい。


「あ、あの、あんまり見ないで貰えると、嬉しいんだけど……」


 昇が洗濯機の中身を注視ししていると仁が恥ずかしそうに告げた。頬は赤い。どうやら勘違いをされたらしい、昇はそう思いつつ目を逸らす。

 また、別の部屋。今度は学校用品も置かれた部屋だった。本棚には教科書や参考書が入っており、壁には制服とカバン、クリーニング店の透明のビニールが駆けられたコート等が並んでいる。衣装部屋も兼ねているのだろう。

 因みに、下駄箱には学校指定のローファーとスニーカーに予備のスニーカー、コンビニ用のサンダルの4つしか無い。高校に通って居ない時は3足しか無かったのだろう。


「怠惰極まるな」


 仁の家を一周りし、昇は回転式ベッドに腰掛けてそう告げた。リビングにソファーはない。座る場所はこのベッドしか無いのだ。仁もその隣に座っている。


「効率を追求した結果だよ」


 仁がそう反論するも、昇は怠惰の効率か?と告げる。それから、キッチンに向かい、冷蔵庫を開ける。モノの見事に飲み物とコンビニで買ったらしいデザートしか入って居ない。戸棚を開けるとカップ麺やら菓子が詰まっている。

 唯一見付けた食材は、冷凍うどんとスパゲティー用のパスタにベーコンやハム、ウィンナーと言った肉類だ。野菜や魚は無い。


「料理は出来るのか?」


 調味料を手に取りながらドラクエのキャラのように昇の後ろを付いてくる仁に尋ねる。仁はちょっとは頷いた。生鮮食品が一切ない事を指摘すると、生物は必要な時、必要な分だけ注文すると告げた。

 昇が何処に?と尋ねると、ノートパソコンを立ち上げて、イトーヨーカドーのネットスーパーを表示してみせる。そこはかとなくドヤ顔の仁に昇は三度、怠惰極まるなと告げる。


「それで、新しい家に引っ越したから来てくれとのことだけど。

 引越の手伝いはする必要がなさそうだ。ボクは何をすれば?」


 昇はリビングに戻り、仁を見た。仁は少しモジモジすると特に用はないけど、一緒にいたい。そう告げる。昇はそれに少し戸惑った。仁の好意は嬉しいし、自分が好きなのも十分に分かっている。

 だからこそ、このままの関係では不味いとも痛いほど理解している。最近、仁と一緒にいる時間が多く、そのせいで桜が少しパニックになる事が多くなってきている。今日も、仁の家に行く前に桜が昇を行かせまいと駄々をこねた。祖父と祖母がそれを何とか宥めすかして、昇を送り出してくれたのだ。

 祖父祖母としては昇と仁の関係を快く思っており、支援してくれている。が、昇としては桜がこれ以上二人に迷惑を掛けるのは二人の年齢を考えても余りに酷であると考えている。

 事実、二人共足腰に痛みを覚え、桜を連れて遠出するのが大変になってきている。


「仁」


 昇は心を決めねばならんと覚悟した。


「何?」

「もう、こんな関係は止めよう」


 昇の言葉に仁は震える。仁は無言で昇に抱き着いて、ベッドに押し倒す。昇のズボンに左手を伸ばし、ベルトとファスナーを片手で器用に脱がしていく。昇はそんな仁の左手を押さえると、マウントを取る。


「真面目な話なんだ!

 もう、こんな関係は止めよう。ボクにも、仁にも、得に成らない」

「嫌よ!絶対に嫌!」


 昇の言葉に、仁は顔をクシャクシャに歪め叫び返す。


「現実の男の人をこんなにも好きになったのは初めてなの!

 お願い!体だけの関係でもいいの!貴方が好きなのよ!愛してるのよ!お願いよ!」


 仁は何でもするわ!と叫び再度、昇のマウントを取る。体術に関しては甲種魔法少女としての経験値の差がある仁に利がある。仁はそのまま昇のズボンを下着ごと脱がし、ペニスを露出させた。


「頼む……もう、こんな関係は「五月蝿い!」


 昇の言葉を遮るように仁は叫んだ。


「何で貴方がそうまでして桜ちゃんに尽くすのよ!?

 そんなの可笑しいわよ!貴方にも幸せになる権利は有るはずよ!」

「……頼む、止めてくれ」


 昇の言葉に、仁は魔法少女に変身をする。刀を取り出した。そして、昇の上から退く。

 昇は何処に行く?と聞くと、仁は、ジェーン・ザ・リッパーは、涙を流しながら一言告げる。


「桜を殺しに行くのよ」


 昇はその言葉を聞いた瞬間、クアトロ・セブンに変身をした。そして、凄まじい速さでジェーン・ザ・リッパーの顔面を殴りに向かった。


「巫山戯るんじゃァ!ねぇぞ!!」


 何時もの無表情で冷徹なクアトロ・セブンは鬼のような形相で、慇懃な口調も消え失せる。白い絹の手袋を固く握り締めて繰り出される右ストレートはジェーン・ザ・リッパーの顔は捉えられない。繰り出される左腕は左手で払われ、カウンターの右フックがクアトロ・セブンの顎を的確に捉える。


「私は、お前より長く魔法少女やってんだ!舐めんじゃねぇ!」


 装甲車の装甲すら凹むパンチだ。クアトロ・セブンは思わずふっ飛ばされる。

 ベッドを飛び越え、パソコンのモニターが掛かる壁に激突して何台かのパソコンとそのモニターをダメにした。ジェーン・ザ・リッパーはそのままクアトロ・セブンの上に馬乗りに成ると、拳を振り上げる。


「何で!お前が!お前の人生を!我慢しなくちゃいけねぇんだよ!」


 ジェーン・ザ・リッパーは両眼から大粒の涙を零しながら、両の拳を打ち下ろす。室内には生肉を殴るような陰鬱な音が響き渡る。


「お前が桜に縛られるなら!私は桜を殺す!」

「止めてくれ」


 クアトロ・セブンは腫れ上がった顔でそう告げた。ジェーン・ザ・リッパーは何故だ!そう叫んだ。

 クアトロ・セブン、昇は変身を解く。昇の顔も腫れ上がっている。魔法少女の時に受けた傷は、軽いものなら変身を解けば治るが、重傷は変身を解いた後でも継続して残る。


「桜は、ボクの、たった一人の、い、妹なんだよ……

 もう、家族は失いたくないんだ……」


 昇はだから、と告げ、小さく、止めてくれ。そう告げると気絶した。仁は気絶した昇の胸にしがみつくようにして大泣きした。

 そして、仁は心に固く決める。このままではいけない。自分は昇に助けられた、と。だから、今度は自分が昇を助けねばならない。そう心に決めた。実際、昇が仁に何をした訳でもない。だが、昇と出会い、今日に至るまで仁はそれまでの人生のどんな時よりも楽しかったのだ。

 モニター越しのキャラクターとは違い、あらゆる感情を曝け出し、話しかければ答えてくれた。そして、何よりも温かった。優しかったのだ。仁は携帯を取り出し、担当官ではなくベルサイユ、健を呼んだ。健は10分ほどで来てくれた。態々、ベルサイユの格好でビルを飛び越え、窓から直接やって来たのだ。


「なんだよ、緊急事態って?」

「私は、昇を救いたい」


 仁は中央のベッドに寝かされている昇を見る。モニターやPCが壊れた周りをルンバが忙しそうに走っており、何があった?と健が告げる。仁はことの成り行きを包み隠さず告げると、健は腕を組み、それからベッドに寝かされている昇を見た。


「俺はお前に言う事は2つ有る」


 健はそう告げると、深々と頭を下げた。


「すまん。今からお前をぶん殴る」


 健はそう言うと、拳を固めた。仁は何時ものオドオドは無く、真剣な表情で頷き、歯を食いしばって足を開く。健はいくぞ、そう告げてから懇親の右ストレートを仁の左頬に打込んだ。仁の軽い体はふっ飛ばされ、壁際に吹っ飛ぶ。

 健は仁を慌てて抱き起こし、冷蔵庫からロックアイスの袋を持ってきて頬に当てた。


「昇にとって桜は世界でただ一人になっちまった家族なんだよ。

 親を目の前で殺された昇が桜を必死になって守ろうとしてきた理由は其処に有る。そんな奴に桜を殺すなんて言ったらどうなるか分かってるだろうが!馬鹿野郎が!」


 健はそう怒鳴りつけると、仁はごめんなさいと告げる。仁もそれは薄々わかっていた。だが、それを配慮するほど、当時の彼女は冷静ではなかったのだ。健もそれについては想像が付いているので、責め立てる事はしない。


「だが」


 健は其処で言葉を区切る。


「俺も、昇の桜に対しての言動は少々行き過ぎだと思ってる。

 オバさんやオジさんからも相談された。この際だ。昇には悪いが、俺はお前の手伝いをするぜ」


 健は笑顔で右親指を立ててみせる。


「それで、助けるって一体どうするつもりなんだ?」

「……どうしましょ?」


 仁の言葉に健は眉間を押さえるのに誰が想像できなかっただろうか?

 二人は暫くあれやこれやと話し合い、桜に一番近い存在である昇の祖父母に付いて話しを聞くのが一番だろうと結論付けた。しかし、昇を一人にしておくのはなんだと言う事で、テン・バーこと礼威を呼び出した。礼威は健とは違って普通に自動車でやって来たので30分ほど掛かった。昇は寝息を立てているので、眠ってしまったらしい。

 顔は酷く腫れているのでロックアイスと濡れタオルで冷やしている。


「と、言う訳でお前は此奴の傍に居てやってくれ」


 健はやって来た礼威に詳しくは話さず、とにかく昇の看病してやってくれ。この家にあるものは何を使っても良い。出来るだけ、昇を家に留めておいて欲しいと言われた。礼威は行き成り呼び出され、ボコボコになった昇を見て驚いていたが、仁と健の真剣な表情に思わず頷いてしまう。

 礼威が頷いたのを見た2人はそのまま家を出て行ってしまった。残された礼威は壁際で壊れているモニターやPCを取り敢えず、片付けようと思い、掃除機やゴミ袋を探し始めた。

 仁の家にある掃除機はダイソンのハンディークリーナーで、ゴミ箱はキッチンの棚に入れてあった。しかし、モニターやPCは大きさが指定の大きさを超えており、粗大ごみとして扱われる。いや、PCの場合、市では引き取らず、メーカーのリサイクルに出せと回覧板で回って来たのを思い出す。

 取り敢えず、壊れたモニターとPCは壁際に固めておこうと礼威は決め、ベッド周りを動くルンバに気が付き、仁らしいと苦笑した。取り敢えず、他人の家。余り勝手はしないでおこうと思い、昇が寝るベッドの脇に座って、小音でテレビでも見て時間を潰そうと思った。


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