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第二十話

第二十話


 魔法少女を襲う、通称襲撃者が現れて2週間が経った。

 慶太郎は久し振りに部活に顔を出してみると、何時も明るく笑っていた真が静かに剣道場の隅、壁にある姿見の前に恐ろしい顔で立っていた。何か凄まじく追い詰められている様子で顔は青いし、ファンデーションで隠しているが、目の下には隈がある。

 慶太郎は一礼して道場に入る。


「先輩、どうしたんですか?」


 慶太郎はそう声を掛けると、真はビクンと声を掛けた慶太郎が逆に驚く程体を震わせて驚いた。


「い、入江君!

 な、なんでもないわ、何でも……」


 真はそう言うと足早に道場を立ち去ろうとした。まるで慶太郎から逃げるように。真の様子が可笑しい。余計なお節介であるとはわかっているが、知り合いが一人で問題を抱えているのだ。力を貸してやれるならば貸してやるし、それが無理でも味方が居るということを知って欲しい。

 エゴであることは十分に分かっているし、そう言われて否定出来る程、慶太郎に弁論力はない。だがしかし、人間、大なり小なりエゴイストであり、エゴイズムを根底に動いている筈だ。他人の為、と言う言葉自体本当にそうなのだろうか?他人の為に働く自分を求めているのでは無いだろうか?

 慶太郎は人間の根底はエゴイストであると思っている。


「先輩。俺に何が出来るか分からないし、何も出来ないかも知れない。

 でも、話を聞くぐらいは出来ます。先輩、どうしたんですか?」


 慶太郎の言葉に真は震え、その場に崩れて鳴き始めてしまった。慶太郎はある程度の反応は予想出来たが、行き成り泣かれるとは思っていなかった。そして、慶太郎は目の前で女に泣かれ、それをどうにか出来るほどのスキルは持ち合わせていない。

 良くも悪くも彼は高校生なのだ。

 慶太郎は困ったと思いつつ、取り敢えず、カバンから部活用のタオルを取り出して差し出した。


「まだ、使ってないんで綺麗ですよ」


 何のフォローかしらんが、スポーツタオルを差し出しておく。それから、此処では何だから、と真を男子部員の部室に案内した。部室には冷蔵庫が有り、中にはスポーツドリンクが用意されている。また、コーラなどのジュースも有る。宇山江が男子女子共の冷蔵庫に菓子と飲み物を常備しているのだ。また、DVDデッキとテレビもある。

 どう考えても職権乱用だが、昇と真と言う部活動としの実績を残している生徒がいるので部費は実績を残さない部活よりも多く貰えるのである。元々は学校の応接室においてあったソファーが古く成ったので変えると言う事で貰って来たソファーに真を座らせる。

 取り敢えず、落ち着くまで待っておこう。慶太郎はそう心に決めて、真の正面に椅子を持って来て座る。


「……ごめん」


 そして、真が漸く落ち着いてからそう静かに告げた。何時もの溌剌とした元気の良さは影を潜め、夏場、10日ほど水をやらなかった朝顔のように萎れた声だった。


「それで、一体どうしたんですか?」


 慶太郎はスポーツドリンクを差し出しながら尋ねる。真は無言でそれを受け取ると、蓋を開けて一口飲んだ。蓋をあける手は震え、何かに怯えているようだった。慶太郎は辛抱強く待つ。そもそも、慶太郎に話してくれるかどうかすら分からない事だ。

 もし、話して貰えなかったとしてもそれは仕方のない事である。


「とても……とても、強力な力を手に入れて、それを扱うと、自分の汚い部分に素直に成っちゃうの。

 そして、それの、その力のせいで人に怪我をさせたの……」


 真は何かを隠しながら、そう告げた。その力が何で、一体どんな力なのかは不明であるが、少なくとも真の様子がおかしくなったのは此処1週間程だ。

 つまり、ここ最近でとてつもなく強力な力を手に入れ、結果、その力のせいで誰かを怪我させてしまった、そういう事だろう。慶太郎が真っ先に思い当たったのは自分の力、つまり、魔法少女とその能力だ。丙種の力は制御するのも容易ではない。最初、慶太郎は能力を制御しきれずに部屋中の家電製品を滅茶苦茶にしてしまった。

 つまり、真が魔法少女の能力を手に入れ、その力のせいで親類か近くに居た人間を傷つけてしまったのだろう。


「その……

 なんて言って良いのか分かりませんが、その力を制御する事は出来ないんですか?」

「分からないわ、そんなの……

 あれから一度も使って無いんだもの」


 真が自分の肩を抱き締めて言う。

 暴走がトラウマに成ってしまったのだろうか?魔法少女なら防衛省のホームページに行けば直ぐに解決する。しかし、自分が魔法少女であることを親類以外に知られるのは出来る限り防がねばならない。真は慶太郎が魔法少女であることは知らないし、慶太郎も出来れば他人に教えるのは控えたい。


「……誰も居ない、例えば港区の工業地帯とか、山の奥とかでその力?を開放して、制御してみるのはどうですか?

 気を確り持てば、制御も出来るんじゃ無いでしょうか?」


 実際、慶太郎も自分の能力を制御する為に、頑張っている。魔法少女なら変身しなければその力は発動しないが、寝てる時に変身してしまって、寝ぼけて魔法発動なんて事は洒落にならない。慶太郎も自分の力をある程度制御する為に、成った頃は自衛隊の駐屯地で訓練をしていた。

 今はより高精度の制御を獲得する為に能力を使っている。因みに、母親はキメラを殺すのは反対していたが、犯罪者を捕まえることに関しては渋々承知した。と、言うのも柳葉が滾々と2時間に渡る警察組織の現状と犯罪者の現状とそれらが今後の日本の治安とそれに関連する様々な事象に付いて説明をしたからである。

 一言で言えってしまえば、このまま行けば、間違いなく、日本の安全神話は無くなる。ただでさえキメラの発生率が世界でもトップなのに、それに加えて犯罪者が多くなると資源の少ない日本には観光客は来なく成るし、世の中が荒廃していく。そんな感じだ。これを学者の発表した論文やら政府の出す防衛白書、警察白書等の引用を持って2時間ぶっ続けて説明をした。

 そして、何より慶太郎の強い意志もあり、折れたのであった。因みに父親はかなりどうでも良い様子でただ一言「そういえば、お前も魔法少女だったな」なんて言っていた。


「……それでまた誰かを怪我させてしまったら?」

「だから、誰も居ない場所でやるんですよ」


 慶太郎は少し迷う。それから、意を決して告げる。


「先輩、これは誰にも言わないで下さい」


 慶太郎は部室の鍵を閉める。真は少し不安そうに慶太郎を見る。部屋は密室。中には男女。そして、男が扉の鍵を締めたのだ。これが恋人同士ならまだしも、そうではない。警戒されて当たり前だ。信用されてないなぁなんて事を慶太郎は思うも、正直、自分が逆の立場なら警戒するだろうと納得する。

 それから、見てて下さい、そう慶太郎は告げて変身をした。慶太郎が魔法少女に成った際の名前は決まっていない、服装は大鎧を西洋風にアレンジしつつ、十二単風に仕上げた感じだ。胴の辺りに雷神の顔を模した飾りがあり、背中には太鼓のマークが有る。


「なっ!?」

「実は俺、魔法少女なんです。

 と、言ってもキメラ退治とかやってるわけじゃないんで、この地域にいるクアトロ・セブンとかベルサイユみたいな凄いのは期待しないで下さい。でも、一般人よりは超強いです」


 慶太郎はそう告げると、真は少し戸惑ったような顔をし、それから分かったと頷いた。直後、ノブがガチャガチャと動かし、あれ?と言う声が聞こえる。宇山江だ。時計を見ると4時を少し過ぎた時刻だった。


「あれぇ?

 部室の電気付いてたからぜってー居る筈だろうに。おい、開けろ!何やってんだよ!」


 宇山江が扉を蹴破らん勢いで蹴飛ばしている。慶太郎は大慌てで変身を解き、そして、扉を開けた。宇山江は何やってんだコラー!と部室に押し入ってくる。部室の中では制服に変にシワが寄ってクシャクシャになり、泣いた様子の真と、やけに息を切らした慶太郎。

 宇山江は一瞬、目を瞑り、それから、慶太郎の顎に右フックを叩き込む。


「何しとんじゃテメェ!!」


 慶太郎はその一撃で見事意識を刈り取られ、気が付いた時には保健室のベッドの上だった。そして、宇山江は全く悪びれた様子もなく、スマンと告げ、以後、勘違いされるようなことをしないことと告げ去っていった。

 真は慶太郎の傍についており、御免と謝る。どうやら、彼女が誤解を解いたのであろう。


「いえ、俺の方こそ……

 それより、話してませんよね?」

「当たり前よ。

 宇山江先生に言ったら多分、今頃広江君の事学校中に広まってるわよ」


 宇山江神代、何故彼女が教員免許を取得出来、尚且つ公立高校の教師をやれているのか、それは誰も理解出来ないし、知りたいとも思わない学校7不思議の内の1つである。



◇◆◇



 週末、慶太郎と真は東北地方に少し遠出する。中部地方には岐阜県や長崎県といった海が無く山が多い。二人は岐阜県の郡上に来た。郡上おどりで有名な場所である。旅行をしに来たカップルにも見えるが、二人の顔色は何処と無く厳しい。

 長良川鉄道の駅の一つで1929年の12月8日に開設されたのが郡上八幡駅である。駅は開設当時よりその建物を残しており、実に趣きのある木製駅舎である。


「古い駅ね」

「昭和4年に開設してるみたいですよ」


 二人は駅を見上げ、気分を紛らわせる。取り敢えず、タクシーで長良川沿いにそって上流に向かおう。そういう算段だ。

 二人は駅前のロータリーで客待ちをしている1台のタクシーに乗り込む。


「何処まで行きましょう?」

「そうですね、長良川沿いのやなに行って貰えますか?」


 慶太郎が事前に調べておいた川沿いの観光できそうな場所を指示する。


「別にいいけど、やなは8月以降にしか開かないよ?」

「ええ、知ってます。

 今度、夏に部活動で旅行をするんですけど、その下見できたんです」


 慶太郎がにっこりと笑って告げると、タクシー運転手はナルホドと笑い、タクシーを発信させた。車内は他愛無い運転手との会話。慶太郎が主に受け答えをし、慶太郎達は剣道部員で、真が女子部員代表と説明する。

 嘘を上手く吐くコツはその嘘にほんの一欠片真実を混ぜれば良い。スーパーの店屋物エビフライの様に桜えびのように小さな真実に大量の衣という嘘で固めれば良い。


「此処からは歩いてくれ。車じゃこれ以上は入れないからね。

 まぁ、中歩いてて何か言われた適当に謝っておくと良いよ。あっちに行けば車の通りが多いけど、タクシーは通ってないから、電話で呼んでくれればまた来るよ」


 タクシー運転手は名刺を渡し、二人は金を払って礼を言う。そして、タクシーが十分に去ってから、二人は鎖を越えて川の方に。シーズンオフということで管理者すら居ない。対岸は大体20メートル程あり、二人が渡るのは無理だ。

 慶太郎は周囲を見回した後、変身をした。


「此処はどうでしょうか、先輩」

「そ、そうね……」


 真は拳を握り、そのままキッと決意を固めた視線を慶太郎に向ける。すると、真の体から黒々とした炎が湧き上がり、真の体を包む。慶太郎はその禍々しさに思わずたじろいでしまう。そして、真が炎を振り払うように悶えると、そのまま猛獣の様な咆哮を上げて炎から現れる。まるでサメやイルカと言うようなゴムみたいな肌、目は白目が黒く、黒目が真っ赤に成っているし、顎はキメラのように縦に割れ、悍ましい牙を剥いている。

 真はそのまま慶太郎に殴りかかった。猫背気味の背、腕は真の腕よりも更に長い。マトモに格闘訓練を積んでいなければ、モロに顔面に入っていただろう凄まじいパンチだ。


「先輩!」


 慶太郎はそう叫びつつ、そのパンチをいなした。掠った左頬に赤い筋。爪が変形し鋭くなっているのだ。慶太郎は真から間合いを取る。真は追撃を加えようとするも、突然、その場で叫びながら止まってしまった。


「先輩……」


 慶太郎は真が抗っているのだと直ぐに気が付いた。月並みであるが、漫画でもアニメでもゲームでも、こういうシーンはあった。ただし、それを現実で見るとは思いもしなかっただけである。

 真は左腕で右腕を掴み、慶太郎を睨み付けるも、首を振る。大きく裂ける口元からは白い息が漏れ、粘度の高い唾液が涎となって滴り落ちていた。

 アメリカのスーパーヒーロー系漫画に出てくるヴィランがまさに今の真だ。自分の能力に苦悩する心優しきヴィラン。そんなフレーズが慶太郎の脳裏を駆けた。真はそのまま片膝を突くと、そのまま炎を纏って倒れてしまった。炎は直ぐに消え、其処から酷く疲弊し、脂汗を流した真が現れる。


「先輩!」

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