第十九話
第十九話
クアトロ・セブンが襲撃者の咆哮で怯むが、ジェーン・ザ・リッパーはそう成らない。ジェーン・ザ・リッパーはSかMかで言えばドSだろう。威勢がよく、反抗的な相手が許しを請いながら靴を舐めさせるのが好きなほどにドSである。
つまり、相手の咆哮にジェーン・ザ・リッパーはより燃え上がった。ジェーン・ザ・リッパーのキメラ殺害方法は褒められたモノではない。しかし、戦闘技術と能力は凄まじい。強い者は大なり小なり気が狂ってる。魔法少女界では専らそう決まってる。
レジェンドだって和製英国紳士をやっている。ベルサイユだって人さえ死ななければ嵐のような弾幕を張る。クアトロ・セブンだって一切感情を出さなければ、ニコリともしない。逆に言えば気違いか、そうでないかが強いか弱いかを決定する線引なのかもしれない。
「ッシァ!」
裂帛の気合を込め、凄まじい速さで振り下ろされる刀。戦車の装甲ですら引き裂いてしまう魔法少女の武器だ。相手のブッシュナイフが魔法少女のものか、それとも普通の物か分からない以上は、魔法少女の武器を切り捨てる程の力で振り下ろす必要がある。
襲撃者はジェーン・ザ・リッパーの攻撃を受けることはせず、そのまま体を撚るようにして避けた。その動きは素早い。ある程度の訓練を積んだ者の動きだ。戦いでの駆け引きを知っている。初撃を避けられたジェーン・ザ・リッパーは刀を振り下ろしながらその勢いのままで前転をする。
その際、ホテルの屋上、つまり自分の足元に大きな切れ込みを入れてしまったが、問題ない。あまりの切れ味に天井は再びピッタリと吸い付くようにして何事もなかったように保っている。
「離れて下さいまし」
ジェーン・ザ・リッパーに追撃を加えようと右手のブッシュナイフを振り上げる襲撃者に咆哮から立ち直ったクアトロ・セブンが銃撃を加え牽制する。襲撃者はガーッと邪魔をするなと言わんばかりに唸り、左手のショットガンをジェーン・ザ・リッパーに向かって発砲する。
ジェーン・ザ・リッパーは体の中央線を庇うように刀を立てる。人間の弱点は概ね体の中心を通っている。股間、鳩尾、喉元、鼻、眉間。此処のどれかに一撃を喰らえば死なずとも先ず無事では済まない。故に、ジェーン・ザ・リッパーは避ける事の出来ない散弾を受ける事にしたのだ。
ソードオフショットガンはアメリカですら持つことは憚れる。場所によっては製造及び所持しただけで捕まる。隠匿性と攻撃性が高い為だ。欠点は射程がない。ショットガンは遠距離の目標に対しては余り打撃力はない。と、言うのも発射する弾丸がBB玉かそれより少し大きいぐらいの弾だからである。バードショットになると米粒程の大きさの鉛球である。
そんな物をソードオフで、10メートルも離れれば魔法少女に対しては何の威力もない。嫌がらせに等しい攻撃だ。
「ジェーン!」
「問題ない!」
発砲の衝撃後ろに吹っ飛んだジェーン・ザ・リッパーを心配してクアトロ・セブンが声を掛けるが、ジェーン・ザ・リッパーはそのままバク転をして距離を取った。顔や腕から血が流れているが致命傷には至らない。
襲撃者は再度ショットガンを向けて、トリガーを絞る。だが、弾は出ない。二連装のショットガンの最大の特徴は、銃身が2本に並んで配置されていることだ。
北斗の拳に出て来るジャギやマッドマックスに出て来る物を水平二連銃と呼び、銃身が縦に並んでいる物を上下二連銃と呼ぶ。両者とも縦か横かの違いである。何方も装弾数は2発。水平の場合は照準器が二本に並ぶ銃身の真ん中にあるので、左右何方かに散らばりやすい欠点があるが、トリガーが独立して2つ付いているパターンがあるので、そちらは素早い発砲が可能になる。いざという時は両方いっぺんに引けば凄まじい反動の大小に凄まじい力を取れるだろう。
襲撃者の使用している上下二連はどういった利点があるのか?と言えば、一言で言えば、狙った場所に素直に飛んで行く、この点だろう。照準器の下に銃口が来ているので撃てば多少の上下はするが、目標に当たる。
ただし、こちらはトリガーが1つしか無い。その為もう一発撃つのにトリガーをもう一度引く必要がある。何方も装弾数は2発。リロードをする際には少々時間がかかる。中折れ式は文字どおり、銃口の根本がぱっくりと開き排莢と装填をする銃だ。
大抵の中折れ式は右手で持った際に親指と人差し指の水かき辺りに付いている左右か上下に動くレバーを押す。襲撃者の持つショットガンは既に弾が切れている。襲撃者はそれに気が付いていないのか?一度、ショットガンを見た後、再度ジェーン・ザ・リッパーに銃口を向け、トリガーを引く。スカスカとトリガーは動くが弾は出ない。
「ッッッ!!」
襲撃者は何かを叫ぶと、手にしていたショットガンをジェーン・ザ・リッパーに投げ付ける。ジェーン・ザ・リッパーはそれを弾くと、右手に持ったブッシュナイフで突撃を仕掛けて来た襲撃者をと切り結ぶ。凄まじい腕力と的確な切り込みに、ジェーン・ザ・リッパーは楽しさが込み上げてくる。
キメラ相手にはこうは行かない。やたらめったら力任せの斬撃だ。上から下に鎌を振るだけの単純な動作。そこに“術”と呼ばれるものはない。最も、自らの腕が鎌になってそれを使って戦う剣術、否、鎌術なんてものはこの世界にないのだから、しょうがないといえばしょうがないのだろう。
「ハッハ!
手を出さないでくれ、クアトロ・セブン!」
ジェーン・ザ・リッパーは視界の端でBARを構えて援護射撃をしようとしたクアトロ・セブンに告げる。襲撃者の目標は完全にジェーン・ザ・リッパーであるのは既に2人はわかっていた。遠くでパトカーのサイレンがなっている。
誰かが通報したのだろう。クアトロ・セブンも携帯を取り出して、担当官に電話を掛ける。電話はワンコールで柳葉に繋がった。現在の状況を素早く柳葉に伝える。謎の襲撃者に襲われた、かなり手強い。相手はジェーン・ザ・リッパーが狙いである。見たことのないタイプのキメラである。
柳葉はにわかに信じられんと言うが、信じてもらわねば話は進まない。そして、何はともあれ、とっとと増援を寄越せと告げて、携帯を切る。
珍しく、ジェーン・ザ・リッパーが押されている。
相手と自分との間合いが近すぎるのだ。ジェーン・ザ・リッパーの持つ刀は打刀。刃渡りは7、80cmはある。対する襲撃者は刃渡り50cm程のブッシュナイフだ。必然的に襲撃者は攻めていくので間合いは防戦を敷くジェーン・ザ・リッパーに近くなる。
ジェーン・ザ・リッパーの間合いは何方かがあと一歩下がるだけで確保出来るが、ジェーン・ザ・リッパーが一歩間合いを開けると相手は2歩間合いを詰めてくる。襲撃者は1対1での戦闘ならかなり強いであろう。
「中々にやる!」
ジェーン・ザ・リッパーは堪らなくなってそう告げる。襲撃者は体重を載せてブッシュナイフを叩き付ける。鍔迫り合いだ。ギチギチとブッシュナイフに刀が食い込んでいくのを見えた。
パトカーのサイレンも近くなっている。ジェーン・ザ・リッパーはニタリと笑うと、襲撃者は笑うなと言わんばかりに吠えた。
「息が臭いわよ!」
まるで動物だ。襲撃者は突然鍔迫り合いの力を弱める。虚を突かれたジェーン・ザ・リッパーは思わず体制を崩してしまった。その瞬間である。襲撃者は自ら胸で体当たりをしつつ、ブッシュナイフでジェーン・ザ・リッパーの右腕を切り裂き、後方に下がった。
「!」
「エェィッ!」
空かさずクアトロ・セブンは襲撃者に銃撃を加えるが、逃走を図る襲撃者には当たらない。襲撃者はジッとクアトロ・セブンを睨むかのような視線を送りそのまま魔法少女にも匹敵する跳躍力で逃げていった。クアトロ・セブンは後を追い掛けようとして、右腕を切られたジェーン・ザ・リッパーに駆け寄る。
「ご無事で?」
「ええ、やってくれるわね……」
右腕を抑えたジェーン・ザ・リッパーにクアトロ・セブンは傷を見せるよう告げる。深く切られている。ブッシュナイフは少々鋸のような刃も付いており、太めの草木も薙げるようになっているのだ。クアトロ・セブンはエプロンを切り裂くと、ジェーン・ザ・リッパーの腕にキツく巻き始めた。
「今日はトンだ日ね」
「そうで御座いますね」
暫くすると増援のテン・バーとベルサイユに近隣の魔法少女がやって来た。
ジェーン・ザ・リッパーは腕を4針縫う大怪我を負い、魔法少女達は大いに戦慄する。謎の襲撃者だ。キメラと同等以上の力を持ち、魔法少女と同等の知能を有している。そして、何よりも、不慣れのようだが、銃を扱い、格闘戦も出来る。
不幸中の幸いは銃に関しては一般の銃の様で、ある程度の武器までなら耐えられる事だろう。
「しかし、弱ったな。
ジェーン・ザ・リッパーを手負いにさせられる程の力があるんじゃ、そう安々と魔法少女を出せんぞ」
柳葉達はBARウィリアムズに居た。
ジェーン・ザ・リッパーこと仁は右腕に包帯を巻いて吊っている。全員の表情は暗い。ベルサイユこと健は黙り込んで腕を組んでいるし、昇は仁を見詰めている。
「狙いはジェーン・ザ・リッパーなのだろう?」
「ええ、ボク達の前に現れた時にも最初から彼女を狙って居ました。何故、彼女を狙っているのかは不明ですが、相当に恨んでいるようです」
昇の言葉に仁もコクコクと首を縦に振っている。
「じゃあ、何か?
犯人はジェーン・ザ・リッパーを訴えてる集団の中にいるってことか?」
ベルサイユがそう口に出すと、その場に居た全員がそれだろうな、と賛同する。柳葉は別の担当官にジェーン・ザ・リッパーを訴えている集団の全員の住所や経歴、日頃の活動を洗い出すように指示を飛ばす。それと同時に、携帯を取り出してどこかに連絡をし始めた。
「取り敢えず、相手はジェーン・ザ・リッパーの正体を、つまり仁の事やボクの事を知っているようだ」
「何!?」
「ボク等が変身前から執拗に付け狙うような殺気を漏らしていたんだ」
昇の言葉に、健と礼威が驚いた顔をする。不味い事に成った、と。魔法少女だとバレれば少なくとも家にマスコミが押し掛ける。昇の場合は更に過去の経歴まで穿り返されて、ろくな事にはならない。そうなると、桜にも少なからず影響が出るだろう。
その場に居た全員がそれだけは阻止せねばならない、と胸に固く誓う。
店長のタケさんが料理の乗った盆を片手に奥からやってくる。
「取り敢えず、お前等、腹拵えしておけ。
腹が減っては何とやら。相手はジェーン・ザ・リッパーが生きてる限りは狙って来るだろう。仁ちゃん、だったか?君も怪我が治る迄は常に誰かと一緒に居ろ。今、柳葉が本部に連絡付けて、増援を要請している筈だ」
店の隅で電話を掛けている柳葉を見遣った。タケさんがテーブルにナポリタンを並べる。出来立てほやほやで、鉄板はまだジュウジュウと言っているし、卵も少し焦げ目がついて実に美味しそうだ。
激しい戦闘を粉した仁の腹がグーと鳴り、序に晩御飯を食べ損ねた健と礼威の腹も鳴る。取り敢えず、食べよう。昇の言葉に全員が賛同し、フォークを片手にナポリタンを食べ始めた。
甘酸っぱいケチャップをベースとしたソースに絡まるナポリタン。店によってはイタリアンとも呼ぶが、BARウィリアムズではナポリタンとして此奴が出て来る。一応、メニューにはナポリタンの後ろに(イタリアン)とも書かれている。
「食べ難い……」
左手で不器用にスパゲティーを巻いている仁がそう漏らしつつ隣に座る昇を見る。昇は暫く考えてから、無言でスパゲティーを食べさせたことで、健と礼威がさもありなんと言う表情を向け、事情を知らない担当官達が驚いた表情をしていた。




