第十三話
第十三話
翌朝、礼威が起きると、見知らぬ天井であった。寝ぼけた頭で状況を整理する。部屋はテレビ、格好はテン・バーである。しばらく考えて、自分が今千葉県の習志野駐屯地近くのホテルに居る事、昨日、急に呼び出された事を思い出す。
取り敢えず、変身を解いてシャワーをあびることにした。慣れない長時間、長距離の運転をしたうえにビッグ・ネームばかりの会議に出席し疲労困憊で会議中にもウトウトしていたのを見かねたザ・オールド・ワンに退席を許されて部屋を出たのである。
服を脱ぎ、汗を流す。下着はバスルームにおいてあった簡素な下着を着ることにした。多分、その為に用意されたのだろう。バスト等何故わかったのか少し不安になったが、とりあえずそれを着て置く。
シャワーから出た後に髪の毛を乾かしていると、扉をノックされた。扉を開けると相変わらず無表情で無感情の昇と健に見知らぬ2人が立っていた。
「此奴がテン・バーの中身か?」
いかにもヤンキーと言う少女が開口一番健に聞く。健はそうだぜと笑い、久し振りだなと笑う。それから、後ろに立つジャージ姿のオタクっぽい少女が一緒に朝食どうですか?と尋ねる。
時間を見ると朝の8時を少し過ぎていたのと知ってる顔が2人居たので頷いた。髪は大方乾いている。
5人は揃ってホテルの食堂に向う。途中のエレベーターホールには黒服を着たSPみたいな人間が居り、5人に頭を下げた。公安の人間だろう。左の脇腹が妙に膨らんでいるのは4人は目敏く見る。礼威を除く4人はエレベーターに乗り込むと変身をした。
きな臭い、いや、それの一歩手前の空気を感じ取ったのだ。
「あ、あの、何で変身を?」
「変身しておきなさい。内密で来ているはずなのにああも堂々とSPが立っているとは、それは我々がここに居るという事がバレているということです」
クアトロ・セブンの言葉にアイアン・フィストは拳を打ち鳴らし、ジェーン・ザ・リッパーは刀の鯉口を切る。あのヤンキーがアイアン・フィストだと言うのは納得がいくが、オタク少女がジェーン・ザ・リッパーだと言う事には納得がいかない。そう言う表情で変身をすると、ベルサイユが私もびっくりしたと笑っていた。
エレベーターの大きさの関係上、ベルサイユのM1919とテン・バーの大剣は出せない。クアトロ・セブンはBARを取り出すと、弾倉を引き抜き、弾頭を変えた。M22フランジブル弾と言う弾頭を装備する弾丸に変える。フランジブル弾とは弾頭を金属の粉で固めた物で、固い目標や装甲に当たると弾頭が崩れるため、跳弾の心配がないのである。
一応、ホテルということもあり、クアトロ・セブンは周囲への損害も考えたのである。最も、人間に当たるとホローポイント弾の様に凄まじい傷を負わせる弾頭でもあるため賛否は分かれている。
エレベーターが食堂のある1階に着く。扉が開くと、先に出るのはジェーン・ザ・リッパーとアイアン・フィストである。戦闘可能な様に臨戦態勢でエレベーターホールに出ると、凄まじい数のフラッシュが浴びせられる。
それと同時にリポーターや記者からの凄まじい質問攻めだ。それを黙らせるのは銃を持つクアトロ・セブンとベルサイユである。
天井に向かってトリガーを一回。照明が一つ壊れたが、二人は気にしない。
「お静かに。此処は貴方方マスコミの記者会見場では有りません。
そう言うのは記者クラブでおやり下さいまし」
クアトロ・セブンがこれみよがしにBARの槓杆を引っ張り、ホールに響かせるように装填音をさせた。マスコミ達は全員黙る。否、一部の魔法少女否定派が果敢にも前に出て取材を続けようとした。
「魔法少女が警察権の一部を習得、犯人逮捕と捜査へ参加するということですが!」
記者の質問にベルサイユは素早く視線を回す。ロビーには担当官が立っており、頭の横で指を回した。頭がパー、つまりはぐらかせの合図である。
「マジか。遂に私等も刑事に成れるのか!」
ベルサイユが惚けたのを皮切りにアイアン・フィストが指で拳銃を作り、ベルサイユにバンと撃つ。すると、ベルサイユはそのまま膝から崩れ落ちた。
「な、ナンジャコリャァ!?!」
「太陽にほえろ!とはまた古い物を。
ですが、我々に逮捕権ですか……取り敢えず、我々の戦ってるそばであーだこーだと五月蝿い連中を片っ端から逮捕してもよいという事でしょうか?罪状は公務執行妨害で」
クアトロ・セブンが不敵に薄く笑うと、ジェーン・ザ・リッパーがいっその事、アメリカを見習って斬り捨て御免はどうだろうか?と物騒な発言をしてみせる。狂ったような笑みを浮かべ、鯉口を切るジェーン・ザ・リッパーの発言に流石の反魔法少女の記者達も物怖じする。
「そんな根も葉もない噂で金を貰えるマスコミは随分と楽な仕事なのですね。
私、将来は記者になりましょうか?」
そして、クアトロ・セブンの痛烈な皮肉に担当官達が現れて解散!と叫びマスコミを帰らせる。4人は小さくため息を吐き、そのまま食堂に。食堂には一般客も居り、4人の登場に目を見張っていた。周囲の視線にアイアン・フィストは何だ?と尋ねると全員が視線を食事に戻す。
食事はバイキング形式であり、各々が皿に食事を取って席に向う。変身してやってきた以上、此処で変身を解くわけに行かない。テーブル席に4人が座ると、どーして情報がリークした?と言う会話になった。一応、アイアン・フィストとクアトロ・セブンがテーブルまわりの盗聴器を調べたが、それらしいものは無かった。しかし、出来る限り声量を落としての会話だ。
「お早う諸君」
其処にモノクルをかけ、カウガールが1人現れる。ザ・オールド・ワンである。4人は伝説の登場に起立してそれを迎える。ザ・オールド・ワンはそんな4人に手を上げてそのままの姿勢で構わないと告げ相席を許可願った。
ザ・オールド・ワンに同席を求められて断れる魔法少女は居るだろうか?いや、居ない。ある意味、彼女は総理大臣より偉い。彼女を置いて対キメラ戦闘において右に出るものは居ないし、彼女が居たからこそ日本におけるキメラの脅威と魔法少女の統制が成ったのだ。
「今朝の話は聞いたよ」
食事を更に盛ったザ・オールド・ワンは席に着くなり告げる。彼女の中身は品の良い中年だ。それでも彼女がこうして変身して現れたということは、つまり、それほどまでに警戒を要するということだ。
「君達はどう思うかな?」
ザ・オールド・ワンがそう尋ねると、開口一番にクアトロ・セブンが告げる。
「少なくとも私共の中では先ず無いでしょう。
我々が情報をリークして何の得になるのか、という点を考えましてもほぼ無いです。マスコミからの金を考えても我々が出動しキメラを駆除するだけで120万は堅い訳でありまして、週に2日、余程の僻地に住んでいな限りは出動があると考え、駆除できなかったとしても一回の出動20万とはかなりの儲けです。
これ以上金を望む人間は居るでしょうが、少なくとも我々の中にはいません。
そう考えると、次に疑わしいのは警察関係者か自衛隊関係者でしょう。自衛隊としては警察との業務が重複しないので彼等を叩く必要はないと考えます。この二点を鑑みて、情報をリークしたのは警察関係者の中におり、理由としては「魔法少女の存在を疎ましく思っている」
クアトロ・セブンの言葉にテン・バーが目を見開いた。
全員がクアトロ・セブンの推理に説得力があると頷く。ヘタな推理小説よりも簡単な理由である。
「最も、この問題に関しては我々が口を挟める位置に居ない。
何故なら、現段階は構想状態であり、その下準備の準備段階にも満たないんだからね」
ザ・オールド・ワンの言葉に全員が確かにと頷いた。然しながら、国民の魔法少女を疎んでいる国民にとっては自衛隊が警察権を持つという意味以上に厄介な事になるわけだ。魔法少女の何が許せないのか?と言えば、別段魔法少女が悪いわけではない。
魔法少女の存在は世界中で認められている。
では、何故日本でこうも反対されるのか?と言えば、簡単にいえば“日本の”魔法少女だからである。嘗ての歴史に縛られ嘗ての虚構に囚われ、そこを責めるしか能のない単細胞生物の集まりが魔法少女を叩いているのである。
そして、それらが外的身体変形及び反社会性人格障害者遺族の会や魔法少女排斥に傾倒しているのである。その存在が厄介なことは日本の深部まで侵食しており、除くことの出来ないガンと化していることであろう。
「さて、今日の予定だが、自衛隊と警察官の現場での動きのマニュアル化と訓練内容の考案だ。
私一人では骨が折れるからね。君達にもああして欲しい、こうして欲しいと言う要望を言ってもらいたいんだ。それを取捨選択するのは私と警察、自衛隊の方でやる」
ザ・オールド・ワンの言葉に5人は異存はないと頷きながら会食を進めていく。
それぞれの食事は大盛りだ。自衛隊で3ヶ月みっちり訓練をするといつの間にか大食いに成るのである。基礎体力を作るというだけで下手をすると1日で20km走らされたり、300回腕立て伏せをさせられる。基礎体力が上昇しているためにそれは可能であるが、それでも最初の方は翌日には筋肉痛で動けなくなる。
基礎体力向上のために午前中に座学を行い、午後は夜眠るまでを全て運動に当てられるのである。なので、卒業する頃には男ならそれ相応の筋力が付くし、女でもスリム体型に成る。勿論最初は、筋肉が付くという女性魔法少女も居るが、自衛隊員がただ一言「3ヶ月クリアーしたらどんなデブでもスリムに成って3倍以上モテるし、モデルに成った者も入る」と耳打ちする。このこのお陰で8割の女が騙され、男は10割、つまり全員がやる気に成る。
「さて、話し合いは昨日と同じ場所で行う。10時に開議するから、遅れないように」
ザ・オールド・ワンの言葉に5人は了解と告げ、一足先に去って行く。
ザ・オールド・ワンが出て行った後、ベルサイユは周囲を再度見遣ってから体を前のめり気味にして小声を出す。
「で、実際の所どーよ?」
「ザ・オールド・ワンでしょうね」
そう言うのはクアトロ・セブンだ。
「前々から、魔法少女の立場向上を言ってたしなあのオッサン」
「でしょうね。私としては、切れれば何でも良いわ……
生きてる人間を切ると思ったらそれだけで!!」
アイアン・フィストがアホらしいと背凭れに背中を預け興味なさげに告げる。ジェーン・ザ・リッパーも一人で恍惚な表情を浮かべて体をブルブルと震わせていた。そんな4人にただ一人付いて行けないのがテン・バーである。
何故だ?と言う質問を口にする前に、クアトロ・セブンがテン・バーを見た。
「理由としては2つ考えられます。
1つ目は、魔法少女の地位向上を狙っているために、警察権の一部を獲得する。しかし、いきなりそんなことをすれば大揉めして、計画倒れをするので、噂の段階で一旦世間様に公表するわけです。時節的にも私が貴女や警察官、自衛官の方々のためにやった講座から絡めて、マスコミは「現状での警察官の不足」、「対キメラ戦闘への本格化」この2点を取り上げて、警察の判断は妥当かどうかを考えるわけです。
つまり、国民の関心を向けさせる訳です。
2つ目は、政敵の排除ですね。魔法少女に批判的な警察内部の者を陥れるための罠で、警察権の一部を獲得した暁には先ずその存在が目の上の瘤になりかねませんし。なので、今回の事で失脚してくれれば御の字、まぁ、容疑を掛けさせておけば、攻撃材料になりますし」
「それに、魔法少女が自分からバラすなんて、誰も思わないだろうよ」
クアトロ・セブンとベルサイユの言葉にテン・バーはそんな!と反論をあげようとする。
「勿論、これは我々の想像での話ですので、本当に警察内部の関係者がバラした事も考えられますが……
テン・バー、私は性悪説を信じています。人間は生まれながらにして悪であり、常識の獲得と共に罪悪感や常識というものを覚えて行く動物であると思っています。人類みな兄弟と思うのは勝手ですが、少なくともこの世界魔法少女には人を見たら敵と思えと言う心構えで居た方が建設的ですよ」
「違いねぇ。
これは私等先輩魔法少女からの総意だな。それに、言っちまえば、私等は今こうやって仲良しこよしで話してるが、言っちまえば商売敵よ。スタープレイヤーよ。
年収億は超えてるぜ、私等?」
「違いないな!
ま、私は魔法少女でお友達ってのも悪く無いと思ってる。共同撃破しても100万貰えるし」
アイアン・フィストの言葉にベルサイユが賛同しつつ、時計を見る。まだ9時には至っていない。もう少し、此処で駄弁っていても良いだろう。




