第十二話
第十二話
魔法少女用に駐屯地近くのビジネスホテルが取ってあった。1人1部屋という部屋割りでクアトロ・セブンは部屋に着くなり、変身も解かずにベッドに倒れ込んだ。魔法少女の変身はたとえ気を失っても解けない。しかし、夢の中で変身したりすると変身をしてしまったり、解けてしまったりする。
理由は不明である。そもそも、魔法少女として覚醒する人間も小学生から老人まで、弁護士から犯罪者までと多種多様に分かれている。一応、魔法少女であることはバラしてはいけないし、バラした場合のリスクも考えるとほぼ全員の人間は黙っている。
勿論、未成年の場合はポロッと言ってしまう場合もあるが、そうなると転校と知ってしまった人間の家に公安がやって来るという物である。
余り締めすぎて暴走されても困るということで、魔法少女は独自で協会を作り半官半民で希望者によるポスターや写真集等を作って販売している。因みにクアトロ・セブンは少数生産で妹の為に作っただけで、再販も重版もしていないので非常にレア度が高くマニアの間では高値で取引されている。
無論、これは日本だけであり、アメリカでは自分が魔法少女であるとオープンに公開し一部の魔法少女は自分の映画まで作られている程である。
「……ハァ」
クアトロ・セブンは携帯に大量の着信とメールを見て思わず溜息が出た。着信の8割が真で残りが慶太郎である。出歯亀に程がある。携帯を脇に投げようとして、その携帯が震えたので、思わず取り落としそうになった。ディスプレイには『自宅』と書いてある。
慌てて電話にでると、奥から泣き腫らした桜の声が聞こえてきた。
「もしもし?桜ですか?」
「お゛に゛い゛ぢゃん?」
「ええ、私です。
こんな遅くにどうしたのですか桜?」
きっと怖い夢を見たのだろう。キメラに襲われる夢である。
そういう時、決まって桜は昇の部屋にやって来るのだ。大泣きして、祖母に付き添われて。しかし、今は家に昇は居ない。故に、こうやって電話を掛けてきたのだろう。桜は一人では電話はかけられないので、祖母か祖父が掛けたのだろう。
「こわいのみた……」
「大丈夫です。私は今、桜のそばに居ませんが、桜がピンチの時は直ぐに駆け付けます。
此処には沢山の魔法少女が居ます。きっと皆さん駆け付けてくれます」
「ほんと?」
「ええ、勿論です。
桜の好きなベルサイユも居ますよ」
「ほんと!」
桜の声に嬉しそうな声が混ざった。クアトロ・セブンはそのまま部屋を出て隣に割り当てられたベルサイユこと健の部屋を訪ねた。健は変身を解いて、今まさに風呂に入ろかと言う腰にタオル巻いた格好だった。
「おう、前か。どうした?」
「桜が怖い夢を見たそうです。
少し、話をしてやって下さい」
「お、おう」
クアトロ・セブンが健に携帯を押し付けると健はベルサイユに変身をして携帯に出る。二人は一旦部屋の中に入ると、チャイムが鳴った。健は電話中なので代わりにクアトロ・セブンが対応する。扉を開けるとヤンキーみたいな女が立っていた。
「あれ?此処って野上の部屋じゃねーのか?」
「そうでございますが、貴女は何方様でしょうか?」
クアトロ・セブンの言葉に、女は、ああと頷くと変身する。両手にデカい鉄拳を付けたアイアン・フィストになった。クアトロ・セブンはアイアン・フィストの中の人とは会ったことがないのである。
「成る程。
それで、どういったご用件でしょうか?」
「そう言うテメェは何でアイツの部屋にいるんだよ!
まさかテメェ「ボクは生憎ノーマルです」
クアトロ・セブンは変身を解いて本来の姿になってみせる。胸ぐらを掴みかからんとしていたアイアン・フィストは驚いた顔をして動作が止まった。奥からは電話を片手に健ことベルサイユがやって来る。誰が来のか?と。
そして、アイアン・フィストを見るとお前かと言う顔で奥には入れと顎で示す。二人が扉を閉めようとして更に声がかかった。
「今度は誰だ?」
見るとオレンジ色のジャージに猫背、顔を隠すように下がった前髪と根暗系オタク女子の様な女が一人立っているではないか。アイアン・フィストが飛び上がらんばかりに驚き、昇も思わず構えをとってしまう。そんな二人にジャージ女子は極度に怯えつつ謝罪を始め、そんなカオスな玄関先で一人電話向こうの年下女子を慰めるベルサイユは色々と困惑していた。
◇◆◇
ジャージ女子があのジェーン・ザ・リッパーと知ってその場に居た全員が驚いたのはしょうがないことだろう。アイアン・フィストこと紫村空もそう納得した。何かと息の合う野上健と久し振りに会い、酒でも飲みながら話そうと、彼の泊る部屋に向かったのつい5分ほど前だ。
健の部屋にはクアトロ・セブンが居た。彼女と彼の関係は、言ってしまえば教育係と新人の関係だ。クアトロ・セブンの中の人までは知らなかったが、まさか現役高校生だとは思わなかった。
空は今年で19歳、去年高校を卒業し、父親が関東一体を取り仕切る紫村組と言う暴力団の若頭で、祖父が現組長である。表向きは土木作業とコンクリート工場を経営しており、裏では銃器の密売に白い薬、ネット犯罪から売春、風俗店とありとあらゆる物をやっている。
警察や公安とも裏で手を結び、紫村組を挙げない代わりに、紫村組以外の組を取り締まっている。また、空自身も魔法少女と言う事で警察どころか自衛隊共話が付き、一部の借金まみれでどうにも首が回らない自衛官をヤクザの組員として受け入れる事もやっている。
空はそんな暴力団一家に生まれた長女である。弟が一人、現在中学生をやっており、将来的にはこの弟が組を取り仕切るらしい。しかし、祖父も父親も愛娘、初孫とあり何かと可愛がった。また、彼女のバックは関東を取り仕切る暴力団が付いており、文字どおり彼女に敵は居なかったのだ。
が、そんな彼女にも勝てない存在が3人いた。一人はザ・オールド・ワンと呼ばれる乙種魔法少女第0001。彼女の目にも留まらぬ速さで繰り出される弾丸は凄まじい物で、怖いもの知らずで喧嘩を売った途端に意識を刈り取られていた。
次に今では共に酒を飲む中になった健である。勿論、未成年の飲酒であるために最初は健も止めろと言っていたが、今では注意することを諦めたらしい。
此方も此方で最初から喧嘩を売った。乙種だから勝てるだろうと喧嘩を売ったが最後、最終的に10万発の30口径ライフル弾を叩き込まれて負けた。アイアン・フィスト自身弱いわけではない。ただし、その性質上接近しなければならない。つまり、相手から2メートルも離れれば銃の間合いなのだ。
相手が一般人であれば問題ないが、相手は魔法少女である。此方が時速90kmでジャンプ出来るのなら向こうも出来る。勿論甲種は乙種よりも速いが、2メートルのハンデはキツかった。
結果的に廃ビルが1棟倒壊し、ザ・オールド・ワンに説教を食らって終わった。健自身、喧嘩を売られた事は然程気にしておらず、ジャンプの友情漫画のように一戦やって気の置けない親友めいた存在になった。もっとも、親友めいた存在と思っているのは健だけで空はそんな健に惚れている。
自分をヤクザの娘だと知っても物怖じせず、また利権目当ての様な男ではなく純粋に親友として接してくる初めての相手だったからだ。
次に、新人として彼が教育係をしていたクアトロ・セブンである。
健がクアトロ・セブンの教育をしていた頃、話の内容が殆どクアトロ・セブンの話しかしていなかったので、嫉妬したのである。女の嫉妬は恐ろしいと言うが、空の場合、実戦訓練と言う事でザ・オールド・ワンや健、また担当官達にも許可を貰ってやった。多少は学習するのである。
そして、海上は富士の裾野に広がる東富士演習場、市街地戦用の地区である。クアトロ・セブンには健、ベルサイユから話が通っていた。
クアトロ・セブンの身長は190近い長身で、オタクが好きそうなメイド服みたいな格好にナチスのヘルメットをかぶっている。手にはライフルめいた銃を持っていた。
所作は全て慇懃で、喋りかたもイラッと来る。空にとっては1から10の全てに至るまで気に入らなかった。結果から言えば、アイアン・フィストの大敗だ。ザ・オールド・ワンの時のように瞬殺とは行かなかったが、アイアン・フィストが有利に回ったシーンは一度もなかった。
ベルサイユですら、あと一歩で勝てた、と言うシーンは幾つか会ったのだが、クアトロ・セブンはそんなシーンを作ることも出来ず負けたのだ。離れれば銃撃、近付けば軍隊格闘。現代建築の壁の薄さを利用しての壁抜き、コンクリートの壁も銃弾の嵐で撃ち砕く。
乙種魔法少女の一部はワンマンアーミーと呼ばれるが、まさにそれだった。
「で、何でお前は私と離れて座ってんだコラ?」
現在、健の部屋で4人は酒とジュースを飲んでいる。クアトロ・セブンこと深見真が電話を終えて帰ろうとした所を健が引き止めたのだ。
また、ジェーン・ザ・リッパーこと井上仁めぐみは先程の会議でせっかく知り合ったのだからと挨拶に来たそうだ。そんな席、空の隣に仁が座って居るのだが、その間隔がやけに広い。仁はベッドの角、壁にベッタリと張り付いている。
「ご、ごめんなさい、私、こ、此方の方が好きです。
あ、あと、貴女怖いです……」
仁の正直な告白に健は大爆笑し、昇は無表情で先ほど出されたおにぎりを齧っている。シーチキンマヨネーズと鮭だった。
「ンだそれ?
いみわかんネェ。あと、テメェは何で魔法少女の時と性格が変わってんだよ」
空の言葉にその場に居た全員が興味深そうに仁を見た。仁はその視線に少し怯えつつ、自分が変身すると気が大きくなること、そして、戦闘時にはとてつもない高揚感が襲ってくることを謝りながら告げた。どうにも、中の人は気が弱く何かを話すとごめんなさいと言わねば済まぬ性分らしい。
空は難儀な奴だと思いつつ、よくそんなんで生活出来るな、と思う。
「よくそんなのでまともな生活が出来ますね」
そして、空の思った事を平然と口に出したのが昇である。クアトロ・セブン、別名鉄仮面のメイドは中の人も同様に一切の笑みも浮かべず、告げた。
「あ、えっと、はい……すみません」
「別に貴女がボクの生活を害しているわけでもないですし構いません。
それで、どうやって生活をしているので?」
「ひ、必要な物は、ネットで購入します……
こ、光熱費や水道代等も、ネット、です。そ、外に出るのは、あ、アキバに行く時と、ま、魔法少女の時に、さ、裁判の時ぐらい、です……」
日本で最も裁判所に出頭命令を出されている魔法少女である彼女である。
その場に居た全員が不健康な生活をしているな、と思うも他人の生活に口出しできる程生活が正しい訳でもないので口に出さない。
「あ、あの、テレビを付けても良いでしょうか?」
そして、何の脈絡もなく、そして断りを入れつつ同時にテレビのスイッチを入れ、操作を始めた。昇が時間を見て、小さくアニメかと呟いた。仁はチャンネルを弄ると、そのままベッドのセンターをキープしたまま部屋に備えられたパソコンを開く。
ネット掲示板の実況版に繋ぎ、専ブラ無いからちょっと面倒ですね、と告げると動かなくなってしまった。そんな様子を空は不可思議なものを見るかのような顔で見詰める。
「何やってんだ此奴?」
「重度のオタクはこうやって放映されるアニメを掲示板を通して話し合うんですよ。
ボクは中部に住んでないので、参加してませんからよく分かりませんがね」
昇が空の疑問に答えると、よく分かんねぇと率直な感想を告げ、更に何が面白いんだ?と告げる。昇はそれに答えず、眠いので失礼しますと告げて去っていった。空はこの少年は好かない存在だ、と素直に思った。
空の嫌いな人種によく似てる。何を考えているのかよく分からん。全てのモノを全部知っているという澄まし顔で全てを鼻先で笑っているような態度の人間である。
「アイツは嫌いだ」
「そうか?
まぁ、初対面じゃ確かに愛想はよくねーが良く知ればアイツは良い奴だぞ?ああ見てかなりのシスコンだし」
健はそう笑うと、露出過多な格好をした魔法少女モノアニメに目を向けた。内容は空達魔法少女をモチーフとして作られた物で、それぞれアイアン・フィストやジェーン・ザ・リッパーみたいな魔法少女が世界征服を企む敵と敵が作るモンスターと戦っていた。
アホらしい、そう思いつつも、中々に深く描写されている自分達の姿に少し気になってしまった。因みに、アイアン・フィストは熱血漢で突撃バカと描写され、そんなアイアン・フィストの相棒はベルサイユだった。
取り敢えず、組の連中にこのアニメのDVDを全部買えと命令したのは内緒だったりする。




