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第十一話

第十一話


 昇と礼威は千葉県船橋市薬円台にある習志野駐屯地に来ていた。陸上自衛隊唯一の空挺部隊、第一空挺団や特殊部隊、中央即応集団隷下特殊作戦群が本籍を置くこの駐屯地には航空自衛隊の習志野分屯基地と言う基地もありPAC-3が配備されている。

 隣国北朝鮮のミサイル発射事件では此処に置かれたPAC-3が有名になった。


「き、緊張しますね」


 礼威はハンドルを握りながら、駐屯地入り口に徐行で近付いて行く。時間は午後11時過ぎ、入り口には数人の自衛官が立っており、手には弾倉の嵌っていない89式自動小銃。入り口を封鎖するように針のついた車止めが置かれている。


「こんばんわ、どうしました?」


 警備の自衛官は人の良さそうな笑みを浮かべてやって来る。右手は銃のグリップに伸びており、後ろの警備員もいつでも銃を構えられるようにしていた。こんな時間にやって来るコンパクトカー程怪しい物はない。


「乙種魔法少女第7777と甲種魔法少女第101918です」


 昇が変身をしてみせ、礼威もそれに次いで変身をする。すると、警備として立っていた自衛官が慌てて敬礼をし、ガードを退けろと脇に居た自衛官達に告げる。ゲートが開き、礼威は魔法少女のまま自動車を運転する。コンパクトカーは広い座席と言っても普通乗用車や大型車には劣る。鎧姿で操縦するには窮屈だし、何よりも違和感が凄まじい。

 来客用の駐車場に車を停めると、二人は魔法少女の格好で各部隊の司令部が集まる建物へ向かった。


 道中、何人もの自衛官とすれ違うが、全員が否応なく昇ことクアトロ・セブンに敬礼をするのだ。昨日の一件で彼等はクアトロ・セブンに対して凄まじい敬意を持っている。それまで、政府から与えられた情報を元に各部隊ごとに対処もマチマチであり、弱点らしい弱点等もイマイチ不明だった対キメラ戦闘に的確かつ、現実的な指示や対処を残してくれたのだ。

 魔法少女ですら簡単に殺せるのがキメラであり、そんなキメラと対峙する自衛官や警察官からすれば裸で戦車と戦う並に無謀な状況だった。


「す、凄いですね……

 皆敬礼していきますよ」

「それだけ、キメラ戦闘に不安があったということです」


 テン・バーの言葉にクアトロ・セブンがピシャリと答えると入り口に到達する。入り口には柳葉と織田が立っており、2人を見るや否や走ってやって来た。


「済まんな、こんなところまで」


 大体1800時頃に礼威が昇を広い、そのまま延々と5時間程、高速を飛ばしてここまで来たのだ。途中、昇と運転を変わりもしたが、正直、二人共疲労が溜まっている。


「そう思うのなら、今後呼ばないで下さいまし」


 クアトロ・セブンの刺のある言葉に柳葉はスマンと告げ、歩き出す。二人はその後ろに続く。


「先日の一件、良くも悪くも上の連中は漸く重い腰を上げた。

 対キメラ戦闘に際して、現場警官に向けた本格的マニュアルの制作と訓練内容の検討だ。で、今日はそれに関してお前達魔法少女側への要請の話し合いだ」

「要請?」

「ああ、お前等に凶悪犯の逮捕を手伝って欲しいってことだよ。

 前々から、魔法少女の力を軍事面や警察面へ使えないかってのはあった。アメリカじゃ、大統領と議会が結託して魔法少女を戦場へ派遣するなんて事もやってる。表向きは「慰問と基地警備」って事でな」


 事実、アメリカ軍が中東へ展開している部隊には魔法少女を含んだ部隊が戦果を上げている。特に丙種と乙種の戦果は目覚ましく、一騎当千の実力を発揮している。

 勿論、これに関しては世間から様々な問題も上がっているが、現状、アメリカ軍に所属する魔法少女は建前として「アメリカ軍兵士であり、その兵士が偶々魔法少女であった」という言い訳を押している。また、戦闘を強制しているわけではなく、派遣した先で偶々戦闘があった、と言う体で戦闘をしている。更に言えば、魔法少女を“女性”ととるか“男性”と取るか、また“少女”ととるか“成年”と取るかでまた揉めているが、コレに関しては魔法少女に成れる男性兵士側が魔法少女は女性であるとした団体を人権侵害で訴えるとかなりゴチャゴチャとした有り様になっており、米国の魔法少女体制は中々に根が深いものに成っている。


「私は別に構いませんが、そうなると世論と他の魔法少女が問題でしょう。

 私共は、キメラを相手に戦います。大なり小なり、心の奥底に「相手は人間ではない」と言う思いがあるのです。私は別に、犯罪者を殺しても良ければ喜んで戦って差し上げますよ?勿論、貰うものはきっちり貰いますが」


 クアトロ・セブンはM1918“ブローニング・オートマチック・ライフル”自動小銃を取り出して構えてみせる。


「そんなモンで人間を撃ったら、バラバラになるんじゃないか?

 始末書が本当の始末書になっちまうのは勘弁願いたい」

「さぁ?実際にやってみれば分かるでしょう」


 クアトロ・セブンとテン・バーは第一会議室と書かれた会議室に案内される。二人が中に入ると、既に複数の魔法少女達が揃っている。その中には健ことベルサイユやジェーン・ザ・リッパーも揃っていた。また、彼女達の向かいには自衛隊と警察のお偉いさんが座っている。


「お!お前等来たな。

 おせーぞ!」


 ベルサイユが入って来た二人を見ながらそう告げる。


「文句があるであれば、私共ではなく事前連絡もなく呼び出しをした担当官達を責めるべきでしょう」


 クアトロ・セブンがそう告げてから議長席側に座っている魔法少女、ザ・オールド・ワンに一礼をすると末席に座る。役者は全員揃ったと言う様子でザ・オールド・ワンが頷くと、司会進行役も担っているらしい柳葉がマイクのスイッチを入れる。織田は二人の前にペットボトルのお茶とおにぎりを二つ置いた。


「今回は自衛隊及び警察の対外的身体変形及び反社会性人格障害者との戦闘のマニュアル及び訓練内容を決める為の話し合い、また、魔法少女に警察の要請を持って犯人逮捕の協力に関する協議をしたいと思います」

「へいへいへーい!

 今、私の聞き間違いか?私等がポリ公の為に犯罪者を捕まえるって聞こえたんだが?」


 柳葉の言葉に一人の魔法少女が手を挙げる。甲種魔法少女19953“アイアン・フィスト”である。武器は名前の通り、腕部の巨大なナックルダスターだ。そのパンチは戦車の正面装甲を打ち抜くほどの威力があり、キメラの鎌も一撃で砕いてしまう。

 正確は非常に攻撃的で、言動も粗野が目立つ。マスコミ相手に暴言暴力で何かと問題児扱いされているが、その討伐数は日本で五指に入る。


「訓練は甲種よりも乙種と丙種が良いんじゃないの?

 銃扱うんだし」


 そう言うのは甲種魔法少女第1530“ジェーン・ザ・リッパー”である。甲種魔法少女の上位陣は全員頭のネジが何本か抜け落ちているらしく、非常に攻撃的な性格な者が多い。このジェーン・ザ・リッパーは特にその代表格で、外的身体変形及び反社会性人格障害者遺族の会で最も多く訴えられている魔法少女でも有り、魔法少女肯定派でもジェーン・ザ・リッパーに批判的な人間も多い。

 理由は唯一つ、キメラを甚振るようにしてジワジワ殺していくからだ。まるで猫が瀕死のネズミで遊ぶかのように殺す様は現場の警官達が嘔吐した程である。


「訓練内容やマニュアル整備に関しては乙種魔法少女を中心としてザ・オールド・ワン、つまり私が選別した物を中心として行って貰う」


 ザ・オールド・ワンは西部の保安官めいた服装をした魔法少女だ。武器はコルトのシングル・アクション・アーミーを両の腰に下げており、目にも留まらぬ抜き撃ちでキメラの頭部を弾き飛ばすのだ。モノクルを掛け、大きめのカウボーイハット、紳士めいた立ち振舞から男女共に人気が高い。

 またオールド・ワンの名を関する唯一にして無二の魔法少女である。

 彼女こそが魔法少女の頂点であり至高なのだ。彼女の言葉にはジェーン・ザ・リッパーもアイアン・フィストも黙って従う程である。


「取り敢えず、マニュアルと訓練内容は乙種魔法少女の第1919“ベルサイユ”と第7777“クアトロ・セブン”の両名が私の補佐に付いて貰いたい」


 名前を呼ばれた両名はハイと返事をする。


「また、特別顧問として甲種魔法少女、第101918“テン・バー”も指名します」

「ふぇ!?」


 半分寝ていたテン・バーが慌てて立ち上がる。その際、勢い余って椅子を倒してしまい、クアトロ・セブンは嘆息し、ベルサイユは大笑いした。織田は眉間を抑えて小さくため息を吐いていた。


「疲れているようだね。

 君はもう休んで良い。正直、後の話は君には余り関係がないからね」


 ザ・オールド・ワンが慈悲深い笑みを浮かべて柳葉を見遣った。柳葉はハイと頷いて織田にホテルに連れて行くよう告げる。織田はテン・バーと共に深く一礼して会議室を後にした。


「大変申し訳ありません、教官。

 彼女は此処に来るまでの3時間、なれない高速を運転してきたので疲労困憊なのです」


 そして、テン・バーの教育係であるクアトロ・セブンが空かさず立ち上がり謝罪をした。ザ・オールド・ワンは分かっていると頷き会議を続けるよう柳葉を見た。

 柳葉は訓練内容の詳しい話し合いはまたザ・オールド・ワンと指名された魔法少女、警察と自衛隊の方で話し合いをして欲しいと告げ、次の話を勧める。

 魔法少女による犯罪者の逮捕だ。柳葉がその事を口に出すと、会議室に独特の緊張感が流れた。


「私は金さえ貰えれば、犯罪者だろうがキメラだろうが殺したり捕まえたりするよ?

 まぁ、手足の1つは無く成るだろうけどね」


 ザ・オールド・ワンがそれぞれの考えは?と言われ、ジェーン・ザ・リッパーはそう答える。対するアイアン・フィストは全く別の意見だった。


「私は御免被るね。

 何が悲しくてこそ泥やら何やらを捕まえにゃ行かんのだ。私等は何でも屋じゃねーっツーの」


 アイアン・フィストはファック!と警察官僚に向けて中指を立て、後ろに控えていた彼女の担当官にゲンコツを貰っていた。


「よろしいでしょうか?」


 そこで手を挙げるのはクアトロ・セブンだ。


「構わないよ。

 正直、この会議も君の例の講座のお陰で開かれたようなものだからな」


 ザ・オールド・ワンの言葉にクアトロ・セブンは一礼をして立ち上がる。全員が、彼女の意見を集中して聞こうと身を乗り出した。


「私個人としましては、犯罪者を捕まえるのは些かの問題もありません。

 正し、私共が動くとなると、それ相応の犠牲を覚悟して貰わねばなりません。アイアン・フィストさんやジェーン・ザ・リッパーさんが動けば犯人は良くて重傷、基本は死亡でしょうし、ベルサイユの場合は犯人死亡の上に街の損害が凄まじいものとなるのは確実でしょう。

 これが第一として、次に魔法少女のスタンスです。我々は大なり小なり、外的身体変形及び反社会性人格障害者、つまりキメラを「人間ではない」と何処か心の底で思っているために殺害出来るのです。それに幸いにも外見もモンスターでありますし。

 しかし、犯罪者、となるとそういきません。彼等は人間です。人語を解し、我々と同じ様に感情を持っています。もし仮に、犯人の殺害も認められていたとして、犯罪者を殺せる魔法少女が果たしてどれ程いるのか?其処が問題です。

 因みに、私は撃てますし、殺せと言われれば殺します。警察に追われるような犯罪者は痛い目を見なければ分からないでしょうし、我々が本格的に取り締まりをすれば、犯罪の減少も考えられるでしょうから」


 クアトロ・セブンは以上ですと告げると、一礼後に着席する。全員が、クアトロ・セブンの言葉に頭を悩ませた。

 特に警察官僚達は、魔法少女が犯人に対して自分の力を使うのを躊躇ってしまうという発想が無かったらしく、些かショックを受けた様子だった。

 ザ・オールド・ワンは自分が言いたいことをクアトロ・セブンが言ってくれたという表情で頷くと言葉を引き受ける。


「我々魔法少女は、キメラと言うどうしようもない存在を始末する為に魔法少女になった。魔法少女が引退する理由の最も大きな理由として、「キメラは本当にバケモノなのだろうか?自分は人を殺しているのではないか?」という考えにとらわれてしまうことに有る。

 私が新人の魔法少女に教えているのは『もし、仮にキメラが人間であるとしても、彼等はもはや、我々の社会では生きられない。そして、誠に勝手ながら我々は我々の社会を守るために彼等を殺している。仮にもし、彼等の存在が正しいとして、では何故、我々という存在が出来たのか?それは、我々の方が正しいからであり、我々は社会全体を護るために魔法少女としてその守る権利を与えられたのだ』と。

 勿論、私の言葉が正しいとは限らない、私自身も正しいとは思っていない。だが、私のこの言葉で魔法少女を続けている者も居ることは確かだ。我々の活動は犯罪者の取り締まりの延長線上にあると言う事ではないのを警察関係者には理解しておいて貰いたい」


 ザ・オールド・ワンの言葉に自衛隊の官僚から拍手が上がった。

 魔法少女のはどちらかと言えば自衛隊側の存在だ。外的暴力装置。矛先は人民統制ではなく人民保護のために外に向いている。そして、魔法少女はその強力過ぎる槍を果たして人間に向けられるのだろうか?其処が焦点になるのである。


「魔法少女側の言い分はわかります。

 しかし、現状、警察官志願者の数が年々減ってきている為に、これ以上下回ると増加する犯罪や凶悪事件に対処が出来無くなってしまうのです。恥ずかしい話でありますが、現在、凶悪犯を軽犯罪で処罰する見返りに重大な事件の情報を貰うという、略式、即決裁判手続で済ませる事が多いのです。

 昔では懲役5年や10年が当たり前であった事件でも、です。警察官、刑事の人手が足りない以上、我々ではこれ以上犯人を取りまる事が不可能なのですよ」

「自衛官側でもやればいいだろーが。

 警察と自衛隊合わせて40万超えるだろ?」


 アイアン・フィストの言葉にベルサイユが確かにと頷いた。そんな二人に対して、哀れみを込めた溜め息を吐いたのはクアトロ・セブンとジェーン・ザ・リッパーの二人である。


「ンだよコラァ!」

「その哀れみが篭った溜息止めろ」

「失敬、この世界にこれ程迄に頭の悪い人間が居るとは思いもしなかったのよ」

「申し訳有りません、私も今回ばかりはジェーン・ザ・リッパーさんと同意権です」


 二人の言葉に苦笑しつつ自衛隊官僚が解説をする。


「我々自衛隊は正直に申しまして、憲法違反に抵触する部分もあるんですよ。

 ですから、これ以上自衛隊が権限を持つと特亜や一部市民団体に触発された国民が反対しますし、現状の硬性憲法では我々自衛隊に例え警察側からの要請があっての逮捕、捜査という物でも難しいでしょう」

「つまり、憲法にも法律にも殆ど当てはまらない我々魔法少女が警察の一部権限を請け負う、と言う事?」


 ジェーン・ザ・リッパーの言葉に警察官僚達は頷いた。


「なら、こうしたら?

 希望魔法少女のみが警察に協力する。また、犯罪者の生命や傷の有無に関しては一切の責任を問わない。つまり、デッド・オア・アライブって事」

「私も、その条件であればよいかと思います。

 全国で5万人ほど居ると言う魔法少女でありますが、彼等の内4分の1が参加しても1万人。そこそこの実戦経験が有る人間であれば、余程の相手でない限りはキメラを相手にするよりは楽でしょう。それに、キメラと戦うのは嫌だからという魔法少女も命の危険が少ない、人を殺さなくて済む、この2つの条件を聞けば警察の為に戦えるのでは?」


 クアトロ・セブンの発言に、ザ・オールド・ワンがウムと頷き、立ち上がる。


「我々としても警察に協力することは吝かではない。

 然しながら、それを提案するに当たり、私個人やここに居るだけの魔法少女で決定はできない。

 また後日、全国の魔法少女から話を聞き、会議をしたいと思う。今日はもう遅い。解散としよう」


 ザ・オールド・ワンの言葉に全員が頷き、立ち上がった。柳葉は以上で閉会しますと告げる。クアトロ・セブンは大きく溜息を吐いて背凭れに凭れ掛かった。

 流石のクアトロ・セブンも疲労を隠せない様子だ。何せ2時間も運転をした後に1時間にも渡る会議だ。これで疲れない方が可笑しい。その場に居る全員がそんな様子だった。


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