追撃者はイケメンなり
「少し待ってくれないか」
らしくない上ずっているような声と肩へ乗せられた温度に3年は寿命が縮まった。
まさか一瞬目が合ったと思ったのは勘違いでは無かったのか。確かに先程たくさんのギャラリーを従えて登場した会長様を一瞥したのはした。更にはその後顔の表情を一切無くした美形から首が取れる勢いで目を逸らした、のは逸らしたけど!
まさか追いかけてくるとは思わないじゃんか!!!!
至近距離で会長様を見てしまったユミちゃんは今にも泡を吹いて倒れそうだ。しかし私は今この天上人と絶賛気まずい期間なわけで「なんでどうして」ばかりが頭を駆け巡りユミちゃんに構ってはいられない。
ゆっくりと振り返った先には素晴らしいイケメンがそこにいて、いや、イケメンで括るのは大変にまずい。まつ毛1本から靴の先まで美しい容姿のこの人を私の少ない語彙では表すことが出来ない。久しぶりに近い距離で見たこの男はそれほど凄まじい破壊力だった。
しかも何故だか安心したように、へにゃりと笑うもんだから私だって泡を吹きたい。
「な、なんでしょうか·····」
正直、ここで立ち話はしたくない。空気を読んだギャラリーの方々が私たちから一定の距離を開けてこちらを観察しているのがわかるからだ。
その中には必ず私に対する敵意剥き出しの物もあるはずだ。勘弁して欲しい。
しかし私はこんなに人の視線を集めるのは初めてで上手い切り返しなぞ思い浮かばないただの女子高生。いたいけな、そう·····!いたいけな女子高生なのである!!!!!
現実逃避しかけていた脳みそを一度頭を振って戻し、会長へ視線を戻す。会長はらしくもなく少し緊張しているようだった。あー、だとか、うーだとか言いながらチラチラこちらを見る。こちらもつられて緊張してきた。
「君に、謝りたいんだ」
意を決したように吐き出された言葉と表情に一瞬、空気中の酸素が無くなったかと思った。あわててヒュッと息を吸い込んでしまうほど、その切ない表情と声色は破壊的でついに隣のユミちゃんが私の身体を支えに体重を預けてきた。
「酷いことを言ってしまってすまなかった。」
会長はそう続けて軽く頭を下げた。
私はなんだか呆然として、はぁ、という何とも気の抜けた返事しか出来なかった。
周りがどういう状況になっているかも瞬時に忘れてしまうほどこの光景がおかしなものであると認識し、脳内が冷静にパニックを起こす。
「も、ももももう気にしてません!!気にしてないので!!!あ、あ、あ、頭をあげてくださぃぃ」
それでもなんとかそう告げると、ゆっくりとした動作で顔を上げた会長は、何か吹っ切れたような表情でいつもの数倍爽やかだった。
目、目に毒過ぎる·····
私もなんとか鼻で深呼吸をして落ち着きを取り戻し、とりあえず今のこの注目されまくっている状況が最低最悪であることは認識した。
明日からどうすんだ·····と途方に暮れていると、あろう事か会長様はずんずんと私に近づきグイ、と顔を近づけてきた。
「俺は、どうやら君には嫌われたくないらしい」
お互いの間が数センチ程の距離で小声でそれだけ言うと、いつもの不敵な笑みを一瞬浮かべ、サッと私から離れていった。
あ、あ、謝るだけで、なんでそんな意味深にするんだバカヤローーーーーー!!!!!!




