(30)
明北高校と金橋高校の試合が始まった。
明にとって初めての試合だ。
もちろん明は前の世界ではレギュラーで、試合に出たこともいくらかあるのだが、これは本来はなかった試合だ。
相手の実力もわからないし、川崎がどんな球を投げるのかもわからない。
まさに手探り状態だ。
俺に守れるかな。
明が不安になっているとスタンドにいた長瀬が、
「明、力を抜け!リラックスだ!」
と声をかけてきた。
その隣にいた美穂も、
「明くん、頑張って!」
と励ました。
あいつらのためにも頑張らないとな。
明は長瀬たちに向かって手を上げて答え、守備についた。
「プレイ!」
審判が高らかに試合開始を告げた。サイレンが鳴る。
岩崎は第一球を投げる。
内角のストレート。大村のミットに吸い込まれる。
「ストライク!」
審判が手を上げる。
あっという間に二人を三振に打ち取った。
次はキャッチャーの田口が打席に立つ。
田口修。明はなんとなく聞いたことがあった。
確か高校時代は、屈指のスラッガーだったと聞いた。
プロにスカウトされ、活躍しているという噂を聞いたことがある。
岩崎が第一球を投げる。外角低めのストレート。
それを田口がバットで叩いた。
打球はレフト方向へ伸びる。小宮が追いついて取ろうとするが、打球はフェンスに直撃した。
鮮やかなツーベースヒットだった。
あんなに飛ぶのか。
明は肝を冷やした。さすがは屈指のスラッガーだ。
これは厄介だ。
次は速水。
「あぁ、こんな球なら打ちごろやなぁ。簡単にホームランになりそうやわぁ」
速水はバッターボックスにつくなり、挑発めいた独り言を口にした。
「ほう。じゃあやってもらおうか」
速水の言葉にカチンときたのか、岩崎は速水に向かって言った。
「おもろいやないか。その言葉、忘れんなや」
「忘れるか」
速水と岩崎は早くも火花を散らしている。
やれやれ、プロレスかよ。
明は退屈そうに、二人のやり取りを見ていた。
岩崎は速水に第一球を投げた。
外角低めのストレート。
「ストライク!」
審判が手を上げる。
「ほう、なかなか早いやないか。コントロールもええしな」
「これでも、ローテーションの一角なんでね」
速水の言葉に岩崎がニヤリとして答える。
「でも、ただそれだけや」
速水はポツリと言った。
「強がってられるのも今のうちだ。お前は絶対に俺の球は打てないからな!」
岩崎も負けじと返す。
あの二人は結構気が合うな。
明はそう思った。
「打てるもんなら、打ってみやがれ!」
岩崎は第二球を投げた。
内角に食い込むストレートは、直角に曲がった。
シュートだ。
これはイケる。明は確信した。
「じゃあ、打とうかな」
速水はそう言うと、バットを振った。
そのバットと外に曲がった球がぶつかった。
キィン!
ボールは一気にスタンドに吸い込まれていった。
ホームラン。
先制されてしまった。
あまりの展開に、岩崎は呆然としていた。
「色んな変化球投げられるだけじゃ、俺は押さえられないで」
速水はベースを回りながら言った。
マズイ。
明は冷や汗をかいていた。




