(28)
次の日、明はサードとして練習に臨む。
守備練習に入る。
「セカンド!送球遅れてるぞ!」
森先生が注意する。
「すいません」
セカンドの臼田は、帽子を取って礼をした。
スゴい。明は改めて周りを見渡す。
ファーストの藤田。
セカンドの臼田。
ショートの北野。
ライトの沢田。
センターの井川。
レフトの小宮。
このレギュラーの中に1年生に自分がいる。
ここに自分がいてもいいのだろうか。
他の選手に比べたら圧倒的に経験が少ない。正直まだキャッチも満足にできない。そんな僕がスタメンで出るなんて…。
「サードォ!」
北野の叫び声が聞こえる。
明はハッと気づき、前を見る。ボールがこっちに来ていた。
しまった。
明はグローブを構えるが、ボールはグローブに当たり、後ろに反れる。
「サード何やってんだ!集中しろぉ!」
北野が叫ぶ。
「すいません!」
明は大声で謝ると、ボールを取りに行った。
練習終了後、明がスパイクから靴に履き替えている時に、
「おい、明」
と北野が話しかけてきた。
「えっ?な、なんですか?」
靴紐を結んでいる最中なので、明は反応が少し遅れた。
「お前、今日守備練習の時によそ見してたよな」
それか。結構しつこいんだな、この人は。
そんな気持ちを噛み殺して、明は、
「いやぁ、まだ慣れなくて…」
と頭をかいた。
「でも、頼れるのは明しかいないから、頑張ってくれよ」
北野は他人事のように言った。
「は、はい…。頑張ります…」
明は返事を返すので精一杯だった。
やれやれ、未来が変わってもこれじゃ報われないな。
明はベンチを後にした。
その頃、金橋高校でも練習は行われていた。
これからノックの時間だ。
「よし!いくぞ!まずはファースト!」
監督がノックを開始した。
が、野手はボールを捕球するばかりか、グローブで弾いたり、トンネルをしたり、あろうことか避けようとする者までいる。
毎年好成績をおさめている金橋高校にしては、あまりにも現実とかけ離れている光景だった。
物事には必ず「例外」というものが存在する。
大多数の人の中に「そうではない」人が必ずいる。
そう、エリートが集まる金橋高校にも、例外が存在するのだ。
今の金橋高校野球部にはその例外ばかりが集まってしまったのだ。
だが、ここで言う「例外」は「落ちこぼれ」という意味ではない。
いわゆる「普通の人」ということだ。
「普通の人」が金橋高校流のハードな練習についていけないだけなのだ。
その「普通の人」を尻目に、速水が投球練習をしていた。
速く、キレのいい球はキャッチャーのミットにおさまる。
野球部からしてみたら、速水の方が「例外」なのかもしれない。
「速水、今日も絶好調だな」
キャッチャーが速水に話しかける。
「あぁ、田口。今日はすこぶる調子エエわ」
速水は田口に笑いかける。
この田口修も、またエリートだった。
小さい頃はリトルリーグで4番を務めていた。
「それは頼もしいな。うちはお前に頑張ってもらわないとオシマイだからな」
田口は速水に期待を寄せた。
「心配せんでも、うちは俺がバッサバッサと打ち取れば負けないんや。俺一人の力で優勝したるわ!」
速水はセットポジションに構える。
そして、田口のミットにボールを叩き込む。
第2試合は明日である。




