第10話 必中の五射
第1部 過去への贖罪
「第一課題は、精密命中制御力。まずは一つの的を正確に撃ち抜けるか。そのあと、複数の的を時間内に、間隔を空けずに連続で撃ち抜いてもらう。使う術式は自由だ。君たちが最も扱い慣れているもので撃て」
壁面を走っていた光のラインが明るさを増す。
次の瞬間、演習場の奥――およそ五十メートル先に、円形の標的が一斉に浮かび上がった。
白い円の中心に、さらに小さな赤い円。その中心を抜けと言わんばかりの配置だ。
「見るのは命中したかどうかだけじゃない。狙いの精度、軌道のぶれ、出力の無駄、術式の安定性――全部だ。外しても終わりじゃない。当てても、それで評価が決まるわけでもない」
副隊長の視線が一列ずつ流れる。
「位置につけ」
床に細い光の線が走り、立ち位置が示された。
本多、蓮次、俺は自然と同じ列に並ぶ。
本多が口元を歪める。
「おい、鐵。俺と勝負だ」
「いいよ。俺も全力で相手になる」
「じゃあ、俺も乗ろうかな」
蓮次が肩の力を抜いたまま言った。
「どうせやるなら、その方が面白い」
本多は鼻を鳴らした。
「後で泣き言言うなよ」
如月副隊長が右腕を軽く上げる。
「始めろ」
腕を振り下ろし終わったすぐに、開始のブザーが鳴った。
一射目。
最初に動いたのは本多だった。
「見てろよ……!」
本多は掌に魔力を集める。
赤みを帯びた光が渦を巻き、拳大の球へと圧縮された。
初期魔術――魔魂丸。
完成した瞬間、本多はそれを大きく振りかぶった。
まるで槍でも投げるみたいな、荒々しく力の乗ったフォーム。
「らぁっ!!」
投げ込まれた魔魂丸は一直線に標的へ飛び、外周寄りではあったが、確かに白円を砕いた。
「どうだ!」
吠えるように言う。
次に動いたのは蓮次だった。
右腕を真っ直ぐ前へ突き出す。
指を揃え、親指だけを畳む。突きの構えに近い、無駄のないフォーム。
右腕には軽く左手が添えられている。
その指先の延長線上に、淡い光が一点へ集束する。
蓮次の魔魂丸は、本多のものよりも一回り小さい。けれど、密度が違った。
「――行け」
放たれた魔魂丸はぶれない。
空気を裂くように真っ直ぐ伸び、赤い中心円のすぐ外を撃ち抜いた。
綺麗だ。
力任せじゃない。
最初から“当てるための形”になっている。
最後に、俺が掌を上げた。
身体の内側を流れる力を集める。
青白い球体が、静かに掌の上へ浮かび上がった。
熱はない。
ただ、狙いだけが研ぎ澄まされる。
呼吸を整え、撃つ。
青白い球体は音もなく飛び、標的の中心付近を穿った。
一射目を終えた時点で、三人とも命中。
けれど、周囲はそう甘くなかった。
隣の列では、術式が標的まで届く前に拡散した者がいる。
逆に出力を乗せすぎて、狙いがぶれて大きく外した者もいた。
五十メートル。
言葉にすればそれだけだが、術式を正確に通すには十分すぎる距離だった。
二射目。
本多は再び大きく振りかぶる。
今度の魔魂丸は、一射目よりもわずかに早い。
「まだまだぁ!」
放たれた赤い光弾が、二枚目の標的を撃ち抜く。
蓮次は変わらない。
右腕を突き出し、最小限の動きで魔魂丸を射出する。
二射目も命中。
俺も青白い球体を放ち、難なく二枚目を撃ち抜いた。
三射目。
ここで、本多の肩に力が入りすぎた。
魔魂丸は強く、速かった。
けれど、わずかに右へ流れ、標的の横をかすめて飛んでいく。
「――チッ!」
舌打ちが響く。
焦りが出た。
その一瞬で、軌道が死んだ。
俺は視線だけを標的に固定する。
掌の上に青白い球体を作り、呼吸をひとつ。
「……よし」
三射目も命中。
蓮次は隣で、何事もなかったみたいに三射目を通した。
四射目も、同じフォーム、同じ軌道、同じ精度。
綺麗すぎて、逆に怖い。
本多は悔しさを顔に浮かべながら四射目の魔魂丸を作り出す。
次は外さない。
そう言わんばかりに、今度はほんの少しだけ振りかぶりを抑えた。
「っ……どうだ!」
四射目、命中。
乱れても立て直してくるあたり、本多もちゃんと実力者だった。
五射目。
蓮次が小さく息を吐く。
「ここまで来たら、外したくないな」
右腕を突き出し、最後の魔魂丸を撃つ。
五発目も、ぶれない。
標的の中心近くへ吸い込まれるように命中した。
「よし」
小さく呟く。
派手さはない分、安定性に長けている。
本多は最後の一発に全てを込めるみたいに、魔魂丸を大きく振りかぶった。
「っ、負けてられっかよ!!」
放たれた赤い光弾は、一直線に飛ぶ。
――が、最後の最後でわずかに右へ逸れた。
外れた。
「クッソォォォ!!」
悔しさを剥き出しにした叫びが演習場に響く。
その隣で、俺は最後の一射を放つ。
青白い球体は、ぶれずに飛んだ。
五枚目の標的が砕ける。
「瑛志もパーフェクトか。やるな」
蓮次が素直に言う。
「蓮次もね」
「俺を無視するな!」
本多が噛みつくように叫んだ。
「まだ始まったばかりだ! 次は絶対に勝つ!」
悔しさも、焦りも、プライドも隠さない。
そういうところは、むしろ嫌いじゃなかった。
周囲を見れば、五十メートル先の標的に届かない者が半数以上いた。
その中で、大山香恋は二回、藤井まいは一回、的を捉えていた。
大山が本多に次ぐ結果で、藤井がそれに続く形だ。
如月副隊長は、そのすべてを黙って見ていた。
ただ見ているだけなのに、誰一人として気を抜けない。
当てたか外したか以上の何かを、見透かされている気がした。




