第1話 入学式
第1部 過去への贖罪
「な…んで…」
辺り一面どこを見渡しても炎で国が燃えている。
「守れなかった…誰も守れなかった…! あいつらを…倒せるくらいの…力が欲しい…!」
――力を欲しているのはお前か?
「誰だ…」
そこには青い龍のような化け物がいた。そいつが何なのかは分からない。考えている余裕がない。
――お前に俺の力を授けてやろう。この力を使いこなしてみせろ。
そう言われた瞬間、辺り一面が白い光に包まれて何も見えなくなった――。
――――――――――――
耳元で目覚ましが鳴って目が覚めた。
「…またこの夢か」
俺は寝ぼけながらベッドから起きて学校に行く準備をした。
今日は入学式当日。俺は天翔市にある世界平和機関防衛局、通称A.R.C.S.の管轄である国際機関高等学校に入学する。
A.R.C.S.とは、外敵から国民や市民を守る機関のことで日本の象徴的な政府の機関である。
そして国際機関高等学校とは、魔力の才能がある御曹司、御令嬢、名家の次期当主などが入学する名高い高校である。
もちろん、俺は御曹司でもなければ次期当主でもない。いたって平凡な人間である。
「はぁ、あんまり気が乗らないな」
学校に行く準備をして朝ご飯を食べた後、家を出た。
家から学校までは歩いて15分程の位置にあるため比較的に時間には余裕が持てる。でも今日は入学式だから少し早めに家を出た。
学校に着き校門をくぐったら、玄関近くに貼り出されているボードのクラス分けを確認した。
「俺は…Cクラスか」
クラスは全部でA〜Eの五クラスある。1クラス30人と考えると1学年だけで150人いる。多いのか少ないのか俺には基準が分からない。
クラス分けを確認して教室へ向かう途中、周りからの視線と小言に気がついた。
「あいつらしいぞ、鐵瑛志っていう魔力を持っていないやつは」
「この学校は魔術を学ぶ学校だぞ。なんで魔力が無いやつが入学できたんだ?」
「魔力を持っていないんですって? やだわ、穢らわしい」
ヒソヒソと多分俺のことを話している。なんで俺のことを知っているのかは心当たりも検討もつく。
きっと入学前試験のことが広まったのだろう。たった1週間前のことなのに情報が広まるのは一瞬だな。
周りからの視線と小言で背中が刺される感覚に嫌気をさしながらも何も感じていない、気づいていないといった素振りで平静を装った。
これは先が思いやられる……そう思いながら教室に入った。
「席は、左から2番目の前から3番目の席か」
自分の席を確認して席に座った。それから少しするとチャイムがなり、教室に先生が入ってきた。
「ホームルーム始めるぞー。みんな座れー」
みんなが席に座るのを確認してから簡単に自己紹介を始めた。
「今日からお前らの担任になった浦邊謙治だ。
お前らの家柄とか出自は関係なく平等に接していくからそのつもりで。決して贔屓はしない。以上だ。
じゃあスケジュールを配っていくぞ」
この数日間のスケジュールが書かれたプリントが配られた。
「このプリントにも書かれている通り入学式はこの後すぐにある。
入学式が終わったら1度教室に戻って警帝十守隊の配属部隊を発表する。
それが終わったら今日は帰れるぞ。授業は明後日からだ」
この国には警帝十守隊というものが存在する。それはこの国を守り、支える存在。
警帝十守隊はここにいる誰もが憧れるエリートコースであるが、とても危険でもある。なぜなら常に命の危険と隣り合わせだからである。
誰よりも常に戦いの最前線に立ち、敵を排除し安全を確保しなければならない。
それを維持し続けているため国民からの信頼が厚く、誰もが憧れを持っている存在である。
「どこの部隊に配属されるか楽しみだなぁ!」
「私、弐番隊がいい!」
「ほら、喋ってないで入学式に行くぞ、場所は講堂だ。それと席は自由だから好きに座れ」
講堂に着き、俺は1番後ろの席の端に座った。
それから少しして1人の少女が俺の隣に座った。
入学式が始まるのを待っていると隣の少女が話しかけてきた。
「あなた、なにか不思議な感じがしますね」
声をかけられた方を振り向くと、そこには女神の生まれ変わりだと言われても信じてしまうほど美しく、優しさと温かさを一目見ただけで併せ持っていると分かるくらいの少女が座っていた。
「は、はぁ」
容姿の衝撃と突然何を言い出すんだ? との2度の衝撃で返す言葉が思いつかず固まってしまった。
「いいえ、何でもありません。これも何かの縁ということでよろしくお願いします」
少女はそう言って微笑んだ。
入学式が始まり、入学許可宣言が終わった後に学校長式辞が始まった。
「新入生の皆様、ご入学おめでとうございます。そしてこの学校に入学する事を決意してくださりありがとうございます。
今日は良い天気、過ごしやすい気温に恵まれ、良い日になりました。この大空も祝福してくれています。
これからの学校生活は充実した毎日になると思います。大いに楽しんでください。
さて、ここからが本題です。皆様もご存知かとは思いますが、この学校はただの学校ではありません。勉学に加え、戦闘訓練、魔術強化、魔力の扱い方などが加わり大変忙しいでしょう。
新入生は式が終わった後に部隊の配属先が知らされ、明日から各部隊長の指揮の元、訓練が始まります」
校長先生が本題に入るや否や、さっきまで肌で感じていた空気とはまるで違う。希望や不安と言った感情が引き締まった。
ここにいるほとんどは金持ちでボンボンだと思っていたけど、意外と覚悟して入学している人の方が多いんだな。認識を改めないと。
「では皆様、良い学校生活を送ってください。
ここでの経験はきっと将来に役立つものばかりでしょう。大いに励んでください。私からは以上です」
「有馬校長先生、ありがとうございました。
次は新入生代表挨拶です。新入生代表八神燈哉さんお願いします」
校長先生の式辞が終わると、次は新入生代表挨拶に入った。
その代表挨拶として八神燈哉という人が選ばれている。
なんだかあの人が出てきた瞬間から少し周りがざわついている。
まぁ、イケメンで身長が高くて性格も良さそうで勉強もスポーツも出来そうなイメージではあるが。
非の打ち所がなさそうで「いや、完璧じゃね?」と心の中で思った。
「春の麗かさがあざやかに映る季節となるなか、私たちは今日、この国際機関高等学校の門をくぐりました。
真新しい制服を身に纏い、これからの高校生活への期待や希望に胸を膨らませております。本日は、私たち新入生の為に式を挙げて頂き誠にありがとうございます。
これからの3年間国際機関高等学校で過ごす日々の中で新たな経験を通し多くの事を得たいと思います。
私たち新入生一同は、国際機関高等学校の生徒としての自覚と誇りを持ち、家族や先生方、そして今日まで国際機関高等学校の歴史と伝統を築き、守ってこられた先輩方に恥じることのないよう、一つひとつの行動に責任を持ち、自立した高校生活を送れるよう心がけていきたいと思います。
どうぞよろしくお願い申し上げます。本日は誠にありがとうございました。新入生代表八神燈哉」
「ありがとうございました。続きまして在校生代表挨拶です」
式は順調に進み、入学式が終わった。
――――――――――――
俺たちは教室に戻り担任の元、いよいよ配属先が言い渡される。
「まず、配属先を発表する前に警帝十守隊のことを少し説明しておこう」
「先生、俺らそんな事くらい知ってますよ!」
「まぁいいから聞け」
そして再確認のために警帝十守隊の事を説明し始めた。
「警帝十守隊は10の部隊からなる国の守護隊だ。市民を守り、国を守る。
それは他国から守るのではなく、未知の生命体からの守護を意味する。
この組織が創設されてからは少なくとも3000年以上は経っていると聞く。
当初はどんな目的があって具体的にどんな生命体から守るために創設されたのかは誰も知らない。
だが、この組織の意味する守護は現代まで引き継がれている。簡単に言えばこんな感じだ」
「そこまでは知りませんでした」
3000年前からある組織なのか。それは知らなかった。
歴史上では全然出てこない様子を見ると水面下で動いていたのかもしれない。
それが近年では表舞台に出てきたということか。
でもなんで、表舞台に出てきたんだ?
疑問に思っていたことを一人の生徒が聞いてくれた。
「先生、3000年も前からある組織が歴史的に見てなぜ最近になって知られるようになったんですか?」
「それは魔物が出たからだ。この近代から現代ではもう絶滅していると言われている魔物が江戸中期に出現した。
最初は小規模だったそうだが、やがて中規模、大規模にまで広がり刀と銃を持って戦うだけじゃ倒せなくなった。
この事態を対処できるのはA.R.C.S.しかいなかった。だから表舞台に出ざるを得なくなった。
こう言った経緯から人々に存在を認知されている方が誰もが安心して暮らせるようになると思い、大々的に存在を示したんだ」
なるほどな。だから歴史では語られることはなかったってわけだ。
「では次に各部隊について紹介をしていく。
まず1番目は、壱番隊、部隊名イェスペル。隊長は仙道遼司。
2番目は、弐番隊、部隊名ニルヴァーナ。隊長は渡邊愛。
3番目は、参番隊、部隊名サンイーター。隊長は日野健。
4番目は、肆番隊、部隊名シンクェーサー。隊長はアダム・アイラ。
5番目は、伍番隊、部隊名ゴーア。隊長は五十嵐天也。
6番目は、陸番隊、部隊名シックスセンス。隊長はエドワード・サンダー。
7番目は、漆番隊、部隊名ナーヴェラルスター。隊長はエイミー・ターナー。
8番目は、捌番隊、部隊名ハーミストレイン。隊長は柊木空。
9番目は、玖番隊、部隊名クサントス。隊長は榎本泰雅。
そして最後は、拾番隊、部隊名ジュアガルタ。隊長は久保葵。
各部隊にはそれぞれ大きな違いはないが、どの部隊が誰を欲しがるかは隊長次第だ。これまでの成績、魔力、人間性などその他諸々、適性を総合的に判断して振り分けられる」
警帝十守隊は日本が世界に誇る最強の部隊だと聞く。どの部隊でもいいけど、厄介な所だけは避けたいかな。
「説明は以上だ。では最後に部隊配属を発表していく」
「いよいよだな!」
「やっとだぜ!」
それぞれが配属先を言い渡されていった。喜ぶ者、希望の配属にならずに落ち込む者、納得している者など反応はさまざまではある。
そして俺の名前は一向に出てこない。
「最後に鐵瑛志、お前は壱番隊に配属だ。以上がそれぞれの配属先だ。みんな明日から頑張れよ」
「はぁーー!? なんであいつが壱番隊なんだよ!」
「そうだぜ! 魔力のないこいつがなんで1番の戦闘力を誇る部隊に配属なんですか!」
みんな俺が壱番隊なのが気に入らないらしく、俺の気持ちを無視して好き放題言っている。まぁ、それはいいとして、実際俺も驚いている。
まさか壱番隊が1番の戦闘力を誇る部隊だったとは。それほどみんなにとっては憧れの部隊なのか。
「俺たちは魔力適正試験で上位だったじゃないですか!」
「そうだぜ! なんでなんだよ!」
この学校には入学前試験で行われる魔力適性試験というものがある。
それは魔力が高い低いや素質でクラスが決まり、壱番隊から拾番隊のどこに配属されるかも決まる。
その中で俺は魔力が無く落ちこぼれ中の落ちこぼれだと判断された。だが、配属された隊は壱番隊という結果だった。
ドンッ!と、机を強く叩く音が教室中に響いた。
「お前ら静かにしろ! うるせぇんだよ!」
先生のその一言で、さっきまで騒がしかった教室が一瞬にして静かになった。
今まで少し気の抜けたような感じを出しながら喋っていた先生が突然大声で怒鳴ったからだ。
そのギャップの差で一瞬何が起こったのか分からずクラス中が固まっている。
「鐡が壱番隊になったのはその部隊での適性が合ったからだ! 職員会議、幹部会議を通して決定したことだ!
さっきも言ったが、どの部隊が誰を欲しがるかはその隊の隊長次第だ! そのことでまだ文句のある奴はA.R.C.S.の局長である神城局長に直接言え!」
そう言われると誰も何も言えなくなった。
「今日はもうホームルームも終わりだ。お疲れ様。明日は各隊で訓練が始まるから励めよ」
先生はこの場から立ち去り、俺たちも帰路についた。明日からは訓練が始まる。少し厄介なことにはなったけど気を引き締めていかないとな。
仕事の合間に書いているので不定期連載です。
文章を書くのは得意な方ではないので、もしかしたら伝わりづらいこともあるかもしれません!
趣味の範囲で書いているのでご容赦を、、、
少しでも分かりやすく頭の中にある物語をお届けできたらなと思っております!