事件2の1 プロローグ
「今日から、2年A組のクラスを担当する神原紗夜です。
数学を教えるので、A組、B組の理系特進クラスの数学の授業も私が担当します。
それでは、出欠を取るので、呼ばれたら手を挙げて、返事をしてね。…相田さん、井上さん…………」
「なあ、なあ、鈴原。担任は噂通り美人だな。」
前の席の斉藤が、後ろを振り向きながら、こそっと話しかけてきた。
「キレイとか可愛いというよりは、お美しいって感じ?」
「あー、はいはい、わかったから、前向け、前」
1年の時から同じクラスで、弓道部でも一緒の斉藤は、担任を横目で見ながら、嬉しそうに、ニヤニヤしている。
こいつは昨年、孝弘が転校した後、何かと俺を気にかけてくれた。おちゃらけてるけど、意外にいい奴だ。
鬼族らしく、ガタイがよく、筋肉質でぶっとい腕を見ると、同じ弓道部で腕を鍛えているはずなのに、筋肉がモリモリつかない俺としては、羨ましい限りだ。
「そういえば」
あの担任の先生…と言いかけてやめる。
「え、何?」
斎藤が聞いてきたが、なんでもない、前向けシッシと、話を打ち切った。
あの先生が、あの時、道に迷ってた女性なんじゃないか、道を教えたら、夜は気をつけろと言ってきた人なんじゃないか…
そう思いながら、じっと壇上に立つ神原先生を見る。
だが、出欠の時にちらりと見られたきり、特に何か変わった様子はなかった。
まるで、初対面の先生と生徒のように…
いや、まるでじゃなくて、その通りじゃないか。
独りごちて、苦笑する。
何かを期待していたのか、がっかりしているのか、俺は。
ただ、あの言葉をかけられた後、まさに夜に、鮎川のあの事件があったため、もし同一人物なら、あの言葉の意味を教えてほしかった。
こんな美人なのだから、一目見たら忘れられないと思うが、あの時の女性と本当に同じ人物か、曖昧でよく思い出せない。
似ている
と、先生を初めて見た時に思ったはずなのに、見れば見るほど、自信がなくなってくる。
まあ、俺はそんなに記憶力いい方じゃないからな。
母さんが死んだ時のことも、今ではよく覚えていないくらい。
放課後「斉藤、部活一緒に行こうぜ。」
カバンを持って、立ち上がった斉藤に声をかける。
「わりい、今日法事で早く帰ってこいって、親から言われてるから、部活は休む。
部長には、昨日の部活の時に言ってる。」
「そうか、じゃあ、また明日な。」
「おう、じゃあな。」
手を振って、斉藤が教室を出ていった。
そしてそれが、斉藤を学校で見た最後の姿だった。




